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第102話 てか、髪生えてる!?

 秋葉原新人アイドルサーキットフェス。

 その会場のひとつに選ばれてるここ『アキバStation』はキャパ250人のライブハウス。

 まぁよくあるライブハウスとしては平均的なサイズ感の箱なのかな…


 ただ中に入ると私はその雰囲気に圧倒される。


 薄暗い店内、天井にむき出しのパイプ。妖しいネオンを光らせるカウンター、そしてたくさんの人に囲まれるステージ…


 私達『TRY AGAIN』は大手事務所『ヤッテ・ランネー・プロダクション』所属。その中でもデビュー時点から力を入れて売り出してもらったから、こういうライブハウスみたいな箱でパフォーマンスをした記憶が、ほぼない。


 ……いきなりメジャーデビューだったからな。


 興奮で内側から胸が破裂しそうになってるはぁとちゃんの隣で私もまた、この新鮮な空気を堪能してた。


 観客とステージの近さ。ファンの熱量。独特の世界観。

 小規模だからこそ感じる……濃密な空気感がある。

 数千、数万人という単位のお客さんの前で歌って踊るのが常になってしまった明石ミライにとってここは、ある意味大舞台よりも肌がヒリつくステージだ。

 自分がここでパフォーマンスをする姿、ちょっと想像できない。


「ちきしょう……物販会場行ったのにCD出てなかったぜ……ぐふっ!!ふぬぁぅぅっ!!」

「はぁと、バカ、声抑えな。バレるでしょ?」


『FOOLS』はまだシングルは出さないみたいだ…

 悔しがってサイリウムを割れんばかりに握ってるはぁとちゃんをレオちゃんが窘めてる。


 確かに……こんな場所で私達の正体がバレたら大変かも。


 アイドルのライブに来てるお客さん達だし、私達の事知ってる人も……まぁ多いんだろうから。


「ふぅふぅふぅ…………ふぅーーーっ…もうすぐ琴音様が……あのステージにっ!!」

「落ち着きなってば」

「……でも…髪全剃りなんだよなぁ……」

「あの子達何を目指してるんだろ。はぁともよくあんなグループ推すよね」

「人の推しをバカにするなレオォッ!!」

「っ!?バカっ!!ノータリンっ!!大声出すなってばっ!!」

「ふぅぅ…口を慎め。あんなのとか言いながらも……なんだかんだ一緒に来るんだもん。二人だって気になってんでしょ?強がりはよせ、思春期か!?ガキがよぉ!!」


 はぁとちゃんが変装用のマスクの下でニヤニヤしながら私達を煽ってくる。絵に描いたようなクソガキ……じゃなくて、かわいいね。


「……まぁあんな配信観ちゃったらね。ね?ミライ」


 レオちゃんが同意を求めてくる。確かにあの配信は凄かった。多分今会場を埋めてるお客さんもあれに引き寄せられて来たんだと思う。


 応援してる人が半分、好奇心が半分ってとこか……


 前のステージを堪能して熱気に包まれてる観客をざっと見回して思う。


 ……私はどうして来たんだろ。


 武道館ライブが終わったばかりだけど、全国ツアーも近い。3月にも大型ライブがある。私達のスケジュールはカツカツ。

 そんな中ではぁとちゃんに付き合って今日、ここに来た。


 ……まぁ、あの子だよね。


 天鬼りあちゃん…

 私達のライブに来てくれた女の子。彼女が今日歌う。

 どんなライブになるんだろう。


 ……でも丸刈りなんだよね。


「星羅って子が個人的に楽しみなんだけどさ…」

「しょーがねーな。ほれ、やるよ、青のサイリウム。その代わりレオ、しっっっかり声出してけよ!?」

「……全員分持ってるんだね…別にいいよ(箱推しなのか単推しなのかどっちなんだ…)」

「……まぁ、メンバーカラーよく分からんけど」

「分からないんだ……」

「ミライは?誰推しよ?サイリウムあげるから」

「……私は…」



 その時、私の声を塗りつぶすようにライブハウス全体の証明が落ちた。


 一瞬の暗闇。


「来たァ!!ミライ黙れ!!」


 理不尽なはぁとちゃん。


 暗転した視界が一気に眩い光に照らされる。

 純白のライトがこの空間に相応しい無骨な骨組みのステージを照らした。


 そこに6人のシルエットが躍り出る。



 どよめき、そして歓声…


 すごいな……デビューライブでこんなに沢山の歓声が……

 …………てか、髪生えてる!?


 まず、それだった。


 ステージライトの色が白から赤、青へ……明滅する光の中で6人の少女が手を振ってた。


 計算されてない、拙い、そして初々しい、素敵な笑顔で。

 ステージに咲く6輪の花…

 私は目当ての彼女を探す…


 居た。

 あの子だ。間違いない。


 白髪で、真っ白い肌の、青い瞳の、子猫みたいな女の子。


『皆さんはじめましてぇっ!!』


 赤髪の少女がツインテールを跳ねさせながらよく伸びる声で観客に呼びかけた。

 少し固いな……緊張してる。


『私達は〜』

『『『『『『FOOLSですっ!!』』』』』』


 ……うん、固い。あと、微妙にズレてる。

 ステージと観客が近い…この近さで見られてるのを意識すれば、どうしても体も固くなるか。

 それでも一つ前のステージで歌ってた子達に比べれば、遥かに洗練されてるようには見えるな。路上ライブで場数は踏んでるからかな?


 となればパフォーマンスが始まってからどこまで吹っ切れるか……


 純粋に楽しみに来たはずなのにまるで批評家が新作映画の粗を必死に探してるみたいになっちゃってる…私。



『まずは最初の曲…うちのメンバーが創りました!!』


 明るい曲が流れ出す。耳心地のいいリズム感の曲に観客のシルエットも楽しげに揺れはじめた。

 合わせて『FOOLS』の6人も動き出す。


 ……まず動き出しがズレてる。


 また粗を見つけつつも、デビューライブだからと頭《かぶり》を振って、いやらしい思考回路を頭から弾き出そう。

 楽しもう。


 ステージ衣装は全身黒のスーツっぽいもので統一されてて、メンバーカラーとかを意識したものじゃないそれは、ダンスのキレと相まってスタイリッシュ。K-POPを彷彿とさせるな。


 ……こういう感じなんだ。


 日本のアイドル文化の王道とは違う路線。それに曲調とも合ってない気がするなぁ…

 曲のクオリティ高いだけに少し残念…


 ……ダメだ。

 同業者だと思うとどうしてもクオリティを評価しちゃう。嫌な奴。


 はぁとちゃんを見習わないと……はぁとちゃんなんて私の隣で失神してる。いや、それでいいのか?ちゃんと観ないともったいないよ?


 私の目は自然と天鬼りあちゃんを追いかける。

 他のメンバーにも言える事だけど、星羅ってセンターの子とのレベルの差が激しい。

 路上ライブでもあった格差が如実に表れてる。そのせいかりあちゃんの印象はステージ全体で見て薄めだ。


 かわいいのに……もったいない。


 ……だからっ!!

 どうしてもこういう見方になっちゃうなぁ…

 観客はみんな楽しんでる。この子達は新人としてはすごい。

 ……多分、私の中のハードルが上がりすぎてたんだと思う。

『FOOLS』の前の子達の時は純粋にステージを楽しめたのに……



 なんて思って自分の嫌味ったらしい性根に辟易した瞬間。


 曲調が変わってたのに気づく。


 急に心臓にズシンって重く響いてくるような重低音。そして急速にアップテンポに変化する。

 爽やかな青葉と青空のセットみたいな印象を与えてくれてたさっきまでの曲が気づいたら、夜闇の中で荒れる海みたいな不吉で尖ってて挑戦的な物に変容する。

 不自然さを感じさせなかった。でも急激に思える変化をした。


「……おぉ」


 レオちゃんも感嘆の声を出した。

 私の気持ちも一気に惹き込まれる。


 全く違う二曲を同時に聴いてるような不思議な体験。

 曲が変化した事によって『FOOLS』のスタイリッシュなパフォーマンスが急に映える。


 さっきまで気になってた部分が気にならなくなってきた……どうして?


 ダンスと曲が噛み合った事でセンターの子の実力がステージの上でより一層輝き出したんだ。

 センター二人を際立たせるフォーメーションもそれを手助けする。

 星羅って子の持つ引力が……会場の視線という視線を釘付けにしていく。


 凄く考えられてるし……斬新。


 観客のボルテージも上がってく。


 曲は二つの異なる色合いを交互に見せてくれて、私達を更に不思議な気分に落としてく。最初気になった明るい曲調も、この曲の仕掛けに気付かされた後だと不思議とちぐはぐ感もなく感じる。


 この曲……メンバーのオリジナル…?


 鳥肌が立ってた……


 気づけばサイリウムを小さく振りながら、私の目は輝いてた。


 すごいグループなのかもしれないぞって。

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