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第94話 どんだけクリエイターだよ。もっと気にしなきゃいけない事があんだろーが、命とか

「はーちゃん、弾痕《だんこん》がある事故物件って何があったのかなぁ」

「え?男根《だんこん》?」


 なんか違うニュアンスに聞こえた気が…



 せいちゃん物件探しの旅。

 都内23区で今日から即入居可、保証人不要、敷金礼金無し、駅から徒歩5分以内、家具家電付きオール電化のタワマンに向かう私達『FOOLS』一向は…


「こちらでございます」


 本物のタワマンの前に案内されたっ!!


 天鬼りあ、絶句…

 新築、3LDK、オール電化、オートロック式、ペット可、一階にコンビニ、前の入居者の家具家電がそのまま使用可、弾痕ありの訳あり物件。

 家賃1.5万円!!


「見てせいちゃん!凄くお金持ちそうなマダムが入っていくよ!!」

「ここに決めた」

「見てせいちゃん!凄く高そうな車が入っていくよ!!」

「ここに決めた!」

「見てせいちゃん!凄く怖そうな黒スーツのおじさん達が出てきたよ!!」

「ここに決めた!!」


 私が住みたいよこんなの…


「お部屋は最上階。東京湾を一望できるオーシャンビューでかつ、夜景も見事なお部屋になっておりやす。へぇ!」

「で、事故物件なんでしょ?」

「事故物件ではございやせん。へぇ!」

「でも弾痕があるんでしょ?」

「まぁお部屋を見てくだせぇ!」


 万理華さんの警戒心はマックスだ。ここに来るまでに何度も「やめときなさい」って言ってたし…



 エレベーターで最上階へ…

 廊下がまるでホテルみたいだった。

 もう部屋を見る前にせいちゃん「ここに決めたっっ!!」って鼻息荒く決意してた。

 さっきまで1.5万円の家賃であんなに悩んでたのに…


「紗良ちゃん、家賃は紗良ちゃん持ちね?星羅、家事やる」

「え?私も住んでいいの!?やったー!!」

「家事じゃなくて火事になるのでは?」


 せいちゃんは1.5万円すら払いたくないらしい。無邪気に喜ぶ紗良ちゃんはせいちゃんの腹の底の下心に気づいてなかった。

 あのボロアパートの壊滅的な不衛生さを見たらせいちゃんに家事をこなせるレベルの生活力がないのは明白。

 せいちゃんに辛辣なブラックツッコみを飛ばす琴音ちゃんの目は白かった。


「こちらの部屋でやす」


 そうこう言ってるうちに…


「ちょっと待った」


 問題の1.5万部屋の前に到着…

 したんだけど、万理華さんの声が飛ぶ。


「穴だらけだよ?ドアミラーかな?」

「どこがだよ。風穴空いてんぞ」


 ボケるはーちゃんにツッコむ琴音ちゃん。二人が凝視する先…

 オートロックな安心セキュリティの重厚な玄関ドアには、説明に違わぬ弾痕が……


 え?機銃掃射受けた?


「では中の方へ…」

「ちょっと待て」


 続いて万理華さんが目を向けたのは…


「両隣、なに?」


 風穴だらけの1.5万部屋を挟んだ両隣…

 同じく重厚な玄関ドアにはやっぱり弾痕やら刀傷やら焦げた跡やら…

 その理由は明白だった。


 まず右側のお隣さんだけど……


「三代目狂心会系《さんだいめきょうしんかいけい》渕殺組《ぶちころぐみ》…」


 はーちゃんが表札代わりに掲げられてる看板を読んだ。


 んで、左側のお隣さん。


「八代目伊香玲一家《はちだいめいかれいっか》…」


 だそうです…


「どゆこと?」

「事故物件ではありやせん、へぇ」


 万理華さんの冷たい眼差しに不動産屋さんが車に乗せられた首振り人形みたいにカクカク頷いてたけど…


「過去になんかあったとかじゃなくて、現在進行形でヤバい物件じゃない」

「でもこの部屋では何も無かったんで、えぇ」

「じゃあこの弾痕はなんなのよ(怒)」

「実はですね……両隣さんが指定暴力団の組長さん宅でして……ええ。んで、どーやら今抗争中らしくて」

「ヤクザって賃貸契約できるの!?家というより事務所だけど!?」

「事務所としての使用はオーナーが許可してないんで、家でやす」

「看板出てんだろーが!!」


 帰ろう。


「でも、この部屋自体では何も無いんで、えぇ。まぁちょっ…と。騒音?がね。へへ…それでちょっとお安くなってやす。どうですかね?今だけですよ?こんなお買い得物件」

「星羅帰るわよ」


 もうみんな踵を返してた。

 せいちゃん名残惜しそうにしてたけど…


「騒音はちょっとなー。曲創る時気が散りそうだし…」

「どんだけクリエイターだよ。もっと気にしなきゃいけない事があんだろーが、命とか」


 琴音ちゃんが命大事にしよーねって言った直後だった。


 ドドドドドドドッッッ!!


 渕殺組さんの前を横切ろうとしたせいちゃんと琴音ちゃんの鼻先を、玄関ドア貫通する弾丸の雨が通過。


「「あひぃぃいっ!?!?」」


 危うく蜂の巣…なんて二人が顔を青くしてたら…


 バキュンバキュンバキュンッッッ!!


 伊香玲一家さんの玄関ドアを鉛玉がぶち抜いて、危うくはーちゃんと紗良ちゃんのお尻が血だるまに…


「「ぎゃああああっ!?」」

「ここ!!賃貸!!穴だらけなんだけど!?恐れ知らずか!?」

「万理華さんもっとツッコむところあるよ!?」


 なんて私がツッコんでたら…

 両隣さんから血走った目したおじさん達が廊下に出てきちゃった…


「廊下でやかましいんじゃ!!また伊香玲のボケ共じゃろがい!!ぶち殺したろか!?」

「誰や今弾いたの!!こちとら今姐さんのピアノレッスン中なんじゃ!!渕殺のゲボ共が!!今日こそぶっ殺……」



 ……怒り狂ったヤクザに挟まれたアイドルの卵達。


「「なんじゃわれぇ!?」」

「「「「「「ガタガタガタ」」」」」」

「……あ、こちら、今日から引っ越して来られる予定の方でやす」


 私らが震えてる間に不動産屋さんがなんか勝手な事を……


「「なんやと!?」」

「「「「「「ヒィィゴメンナサイッ!!」」」」」」


 両手に銃《チャカ》に刀《ドス》で完全装備の極道集団から完全に挟み込まれながら…

 その極道集団の、顔面だけで人殺せそうな顔面凶器が物理的距離を詰めてきながら…


「どうもよろしくお願いしやす。分からん事あったらなんでも訊いてもろて」

「仲良ぅしましょうや。良かったらちょっくら上がってってくだせい」


 物理的にも精神的にも逃げ場がなかったよ。


「「「「「「ヨロシクオネガイシマス」」」」」」


 …まぁ住むのはせいちゃんだし、いっか。

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