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第93話 都内23区で今日から即入居可、保証人不要、敷金礼金家賃無し、駅から徒歩5分以内、家具家電付きオール電化

「見てくれ……」

「せいちゃんその頭どうしたのさ……」


 レッスン室にて。

 髪の毛がアフロになっちゃったせいちゃんから私、天鬼りあに、焦げ焦げのノートを差し出された。

 手に取っただけで炭がボロボロこぼれるそれを貴重品のように扱いつつページをめくると、そこには歌詞のようなものが……


「なになにー?何書いてんのー?中学時代のポエム?」

「紗良ちゃん……これ見て……歌詞のようなものが……っ」

「ようなものじゃない。歌詞だ。そして私の頭は火事だ」


 要約すると……


「みんなー!星羅が作詞完了してついでに家が火事になったってー!!」

『えぇ!?』


 紗良ちゃんの呼び声にぽぽぽぽーんって集まって来たメンバーが驚きの声をあげる。それは暗闇の中で暗礁に乗り上げた難破船が、救助の船の灯りを見つけたような歓声に近い声だった。

 長く苦しい楽曲制作に光明が一筋見いだせたんだから!!


「せいちゃんっ……ぐすんっ!頑張ったねっ!!」


 抱きしめるせいちゃんの体は……焦げ臭かった。


「んん〜〜。りあちゃんちゅーして♡」


 横から滑り込んだ万理華さんの張り手がせいちゃんの顔を弾き飛ばし、暴力を振るったとは思えない笑顔でノートをめくってる。


「曲名は『私をアイドルにしてください』ね…いいじゃない。新人アイドルっぽくて…ん?歌詞……なにこれ」


 でもすぐにその顔が曇ったよ。


「『借金で家計は火の車』『アイドルになって一攫千金』……『ファンの財布で借金完済』」

「今私が…ファンに伝えたいメッセージ(懇願)をそのままぶつけたんだ」


 弾け飛んだ顔を首にはめ直しながらせいちゃんは清々しい顔をして、笑った。レゴブロックかな?


「……あんた、借金いくらあんのよ…」


 万理華さんの顔が険しい。


「18万とちょっと」

「安っ!それくらいバイトでもして返しなさいよっ!!」


 まぁまぁ……


「これ……私達が歌うの?星羅と紗良ならともかく…」

「おいおい琴音さんよ、随分な言い方じゃねーのよ。紗良姉さんはこー見えて金持ちなんだぞ?実家が太いから」

「太かったの間違いでしょ」

「こいつ…容赦なく傷口抉りやがって……元人気者は口も達者だね」

「うるせぇ家庭崩壊系独眼竜」

「黙れ炎上系ロリータコンプレックス」

「ロリコンは私じゃなくて私のファンの事だろ!誰がロリだっ!!」


 ベシベシ!!ぺちぺち!!


 まぁまぁ……


「それでせいちゃん、曲の方は?」


 はーちゃんがわくわくしながら尋ねる。はーちゃん的にはこの歌、アリらしい。

 まぁ万理華さんも不服そうだけど…時間のないこの状況で異議申し立てをする気はないらしい。


 つまり、私達のデビュー曲が決まった。


「曲はこれから創る。でもま、歌詞が出来ちまえばこんなもんチョチョイのチョイよ。もう私の中にはイメージが固まってるもんね」

「大丈夫なんでしょうね…」

「任せてよ万理華ちゅわん♡私…なんか覚醒したっぽいんだよね」

「楽曲は大丈夫でも…その焦げた頭はデビューまでに元に戻るんでしょうね?」

「任せてよ万理華ちゅわん♡美容院代くれたら今日にでも元に戻しとくぜ」

「これ以上借金増やすな。てめーで行きなさい」


 良かった……無事にデビューできそう。


「……あとは私達がその曲を…デビューまでにマスターできるか、だね」

「頑張ろうねりあちゃん」


 小さくガッツポーズして笑うはーちゃんが可愛いけど…はーちゃんの肩に腕を回して「ちゃんと気持ち込めて歌ってね」ってベタベタしてるせいちゃんとの距離感が……


 どうしても頭から離れないあの夜のトイレでの光景が……


「じーーーっっ……」

「りあちゃん…なに?その顔は……(汗)」


 *********************


 レッスン終わりにみんなでせいちゃんの家を探しに行く事になりました。


 ちなみにそーいう話になるまでに……



「家賃払えない。誰か住ませて」

「ここはリーダーとして、万理華ちゃんが責任持つべきじゃない?」

「紗良、あんた同棲してたんだからあんたが…ってか、あんた家どうするの?」


 紗良ちゃんは家庭環境が複雑で今は親戚の家に住んでるんだけど……あんまり家に居たくないみたいなんだよね。


「星羅を養う事になったら特典として私もついて来るから…」

「余計に要らないわよ。てか、自分の住む場所くらい自分で何とかしなさいよ!!」


 家賃がどーの言ってるけど話聞く限り火事はせいちゃんの過失だよね?もう借金だの家賃どうの言ってるレベルじゃないんじゃないのかな…?


「あとうちの事務所にもなります」


 星熊さんにはプライドってものがないのかな?


「ん〜。個人的には私、琴音の家に…」

「寄るなバカが、紗良菌《さらきん》が移る。うちには家族居るし無理」

「(サラ金…?)そんなっ!琴音…私ってもんがありながら……っ!!家庭があったのね!?」

「両親(怒)」

「はい!はい!錦野星羅が錦野星羅を住まわせるメリットをご紹介します!聞いてね琴ちゃん!まず、風呂に入らないので水道代がかかりません。次に、冷蔵庫の物を勝手に食うので食事を用意する手間がありません。酒だけ入れといてください。んで、トイレは週一でしか流しません」

「デメリットしかないんだけど…」

「んぁぁ!!りあちゃあん!!」


 せいちゃん……可哀想に……

 でも泣きつかれてもうちだってママ居るし……


「……りあの家に居候するって事はドン・カルチオーネとも同棲よ」

「……」


 なんか殺気立ってる万理華さんの脅しにせいちゃんはスッて私から離れてった…

 パパ、もうアメリカに帰っちゃって居ないんだけどな……


「……はーちゃんは一人暮らし?」

「え?……うん」


 うるうるしたせいちゃんの問いかけに困惑気味なはーちゃんは頷いた。

 そして絶賛家なき子な二人よりも琴音ちゃんがそれに目を輝かせて食いついたよ。


「はーちゃん、高校生なのに一人暮らしなの?」

「うん、僕地方から出てきたから」

「かっこいい……」


 琴音ちゃんには一人暮らし願望があるみたいだ。


「……部屋、余ってる?」


 せいちゃんがじっとりと迫ってくる。引き気味なはーちゃんが助けを求めるように万理華さんに目配せしてた。


 ……いいのか?

 あの夜のせいちゃんとはーちゃんの濃密な絡み…っ!


 ただ、私の中でまだせいはるカップリングに対して確信めいたものがない…


 もしあの夜の事件がはーちゃんの合意を得たものじゃなかったら……っ!!


「「いやダメでしょ」」


 私と万理華さんがハモった。












 ……てなわけで自分の家くらい自分で何とかしろって事で…


「へいらっしゃい!!」


 私達はレッスン終わりのその足で、寿司でも出てきそうな不動産屋さんの敷居を跨いだ。


「……あの、実は家が燃えまして」


 説得力しかないアフロ頭を指差しながらせいちゃんが不動産のおじさんと対峙した。


「そいつぁていへんだ!!」


 江戸っ子な不動産屋さんだなぁ…


「都内23区で今日から即入居可、保証人不要、敷金礼金家賃無し、駅から徒歩5分以内、家具家電付きオール電化の物件、ください」

「あるかそんなの」


 せいちゃんの顔に琴音ちゃんのツッコミ代わりのビンタが飛んだ。


「いーなぁー」


 紗良ちゃん……?なにが?


「お嬢さん、世の中そんなに都合よく出来て……るんだなこれが」

「「「「「「あるの!?」」」」」」

「都内23区で今日から即入居可、保証人不要、敷金礼金無し、駅から徒歩5分以内、家具家電付きオール電化の、お嬢さんの為のような物件……」

「家賃は?(怒)」

「1.5万円」

「いや、家賃無しの物件は?(怒)」


 その条件で1.5万って……相当ヤバいとこなんじゃ…?


「星羅、あんたに選り好みする余地ないわよ?今日寝泊まりする家もないんでしょ?……てか、待って?今日から入居可って審査とかないの?」

「ねぇでやす、へい。今日から、へい」

「星羅、怪しいわよ。やめときなさい」


 万理華さんが二転三転してるけど、せいちゃん凄く悩んでる。そしてその天秤はほぼ、そこに決める方に傾きつつあった。


「……1.5万か…」


 唯一、天秤を持ちこたえさせてるのは激安1.5万だった。

 1.5万で都内に住めて何が不満なんだろう…


「……せいちゃん、前のとこの家賃っていくらなの?」

「2.5万」

「こっちのが安いじゃん。悩んでるの?」

「でも……もう払いたくないんだよ、家賃……」

「……もうって、合宿以降は紗良ちゃんが払ってたんじゃなかったっけ?」


 せいちゃんが家賃で揺れてる間に万理華さんが詳細を尋ねてた。

 不動産屋さんが出してきたパンフレットには新築のタワーマンションが写ってた。信じられない事にこのマンションらしい。


「新築、3LDK、オール電化、オートロック式、ペット可、一階にコンビニ、前の入居者の家具家電がそのまま使用可、弾痕あり。お買い得物件でさぁ」

「……嘘でしょ……?ホントのホントに、ここが1.5万?」

「すぐに埋まっちゃいますよ?」


 すごい……すごいけど……すごく怪しい!!


「……弾痕ってなに?」


 万理華さんの質問に不動産屋さんの表情が初めて……強ばった。


「……」

「……ここ、事故物件?」


 答えない。

 もしそうなら不動産屋さんには告知義務があるはず……


「……そうなのね?」

「それは違います、お嬢さん」

「じゃあなんなのよ、この弾痕って。ねぇ。なんでタワマンに弾痕?」


 詰め寄る万理華さんの圧が嘘は許さないって言ってる。

 どう考えても事故物件だよこれ。

 流石我らがリーダー。これ、せいちゃん一人で来てたら何も考えずにとんでもない事故物件に決めちゃってたかもしれない。


「……1.5…1.5……」


 せいちゃんまだ悩んでる……


「お嬢さん、誓って嘘はついてません。ただ…」

「……ただ、なによ?」

「実際に見てもらうのが早いかと…へぇ」

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