↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/165

第92話 借金返さないとベーリング海…

「で、結局私はどうしたらいいわけ?」

「どうしたらってなんやねん!!」


 え?この流れ、なんかいい感じのヒント貰ってインスピレーション降りてきてチャチャッと楽曲完成する流れじゃないの?

 こいつら何しに来たの?


「音楽は創り手の気持ちを籠める…でしたよね?」

「星熊ちゃん。なんかこのどん詰まりを打破するアドバイスが?」

「あなたは今何を伝えたいんですか?」

「んなもん別にないけど……」

「ふざけてるんですか?」

「いや…普通に生きてて、他人にこれを伝えたいなんて事そうないでしょ」

「ウチはあるで!!」


 おっ。朋花ちゃん!ここでようやく挫折しかけてる友人を助けるポジションとして機能するか?

 なに?「ありがとう」?「ごめんね」?


「昨日公園散歩しとったら堂々歩きタバコしとる奴おってん!!」

「……」シュボッ

「しかも近くに子供おってんで!?」

「……」スパー

「あぁ…分かります。歩きタバコ、むかつきますよね?」

「不快なだけやなくて健康にまで害があるとか公害やで!?」

「……」スゥ

「非喫煙者に対しての迷惑を考えてほしいですね」

「……」スパー

「ウチが伝えたいんは「喫煙者は喫煙マナー守れ」やな!!」


 ……じゃあ新曲はそれで…


「待てや星羅。これは例えや!!」

「朋花ちゃん…」

「なんや!?」

「散歩してる暇があるんだったら芸人になる努力しよ?」

「散歩くらい誰でもするやろがい!!」


 んだよ参考になんねーなっ!!


「チッ使えねーな」

「あ!?(怒)」

「では僭越ながらこの星熊が…」


 !?流石ジャーマネ!!出るか!?初めてジャーマネらしいところっ!!


「昨日の深夜コンビニバイトしてた時、店の前に酔っぱらいのヤンキーが座り込みまして…」

「……」カシュッ

「うるさいし邪魔なので退いてくださいって注意したらうるせーって悪態吐かれました」

「……」グビッ

「居る居る!!迷惑なヤンキー!!しかもそーいう奴に限っていい歳した大人やんな!?」

「本気で殺意が湧きました」

「……」グビグビ

「「外で飲むなら迷惑にならないように気を付けろ」…これですかね。私は」

「マナーがなってない奴が多すぎるねん!!」


 ……


「聞いとんのか星羅!!」「あなたのために話してるんですけど?」

「私はアイドルの楽曲について話してんだけど?」


 んなもん…歌になるかぁっ!!


 ヤケ酒ヤケニコチンキメながら思う…

 こいつら早く帰らねーかなって。


「……そもそも思うねんけど!!」


 朋花ちゃんが何か思ったらしい。


「おどれの話はなんかふわふわしとんねん!!」

「アルコール入ってるからね」

「頭の話ちやうねん!!…あんたのパパはどーやって曲創っとったん?」

「だから……曲に籠めたい気持ちを…」

「あんたの言う通りやと思うわ、ウチ!!」


 ?


「普通に生きとってそない音楽の題材になるよーなメッセージなんてしょっちゅう浮かばんわ!!人生はドラマやない…当たり前の日常の繰り返しでなんも考えんで一日過ぎていく事の方が多いやろ!!星羅…あんたホンマにパパから教わった事理解しとんのか!?」


 ……!?


「…これからアイドルになろうというんですからドラマみたいな人生であってほしいんですが……」

「朋花ッ!!お父さんをバカにするなっ!!」

「バカにしとんのは星羅を、なんやけど……!!」

「かっちーん」

「そないなメッセージ性も、劇的なドラマも要らんはずや!!」


 音楽の素人がなんか言ってる…

 でも、わたしはその言葉を無視できなかった。

 お父さんの教え…私がそれを理解できてなかったなんて言われたら…


「日々の何気ない日常の中でふと感じたもん…これ旨いなとか綺麗やなとか…そんなんでええんとちゃうん!?」

「……っ」

「あんたのパパも毎回そないなドラマ求めとったら音楽で飯食っていけんやろ!?」


 ……そんな事。


「…分かってるわ、そんな事。分かってても…日常の中のものにインスピレーションなんて……」

「それは錦野さんの感受性が低いんでしょうね」


 星熊田ちゃんから容赦ない一言が…


「つまり才能がないとはそーいう事ですね」


 容赦ない一言がっ!!


「うわあぁぁぁぁんっ!!」

「こら!!なんのアドバイスにもなってへんやろ!!あともっとオブラートに包まんかいっ!!」

「錦野お前グループ降りろ」

「ここまでグループバズらせた立役者やぞ!?」


 そんなん……そんなん……


「分かってんだよぉぉぉぉ!!」

「あーあ。酒入って情緒不安定になっとる!!」

「泣いてる錦野さんもかわいいですよ?」

「サイコパスか!?」


 そんなんさっきの話で散々言ったじゃんっ!!


「ぴぎゃぁぁぁぁぁぁんっ!!」

「星羅!!」

「ぴぎゃ?」


 朋花ちゃんの優しい声が……


「難しく考えすぎなんや!!なんでもええんや!!あんたが日々の中で素敵やな思うた事…ファンに伝えたいようなそんな日常の一コマ、あるやろ!?」

「……ぐすん…見ず知らずのファンに伝えたい事なんてないって」

「……おどれアイドル向いてへんわ!!今すぐやめーや!!」

「ほぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」


 ……その時、玄関の扉が開い……いや、立て付け悪すぎて倒れた。


「大家に言って直してもらえや!!」


 朋花ちゃんがツッコむ。

 そんなツッコみを無視して厳つい風貌の男達が土足で踏み込んで来た。


 ……やべ。借金取りだ。


 二人組の厳つい借金取り。スキンヘッドでこめかめにコブラの入墨をした方が助さん、パンチパーマとちょびケビとワインレッドのワイシャツの方が角さんとしておこ……


「くらぁ!!おらぁ!!」

「ぎゅ!?」


 呑気な事言ってる場合じゃない。


 角さんに胸倉掴まれて捻り上げられて至近距離からの飛沫攻撃。朋花ちゃんも星熊ちゃんも助けるどころかネズミに擬態して知らん顔決め込んでやがる。

 畳に転がって染みになるビールに悲嘆の眼差しを向けてたら「無視してんじゃねぇ!!」ってビンタされた。

 タバコまで落ちた。


「くらぁおどれ錦野ぉ!!おどれいつになったら18万4500円返すんじゃこらぁ!!」

「ひぃっ!!」

「(安っ)」「(安っ!?)」

「期日はとっくに過ぎてんねんぞこらぁ!!」

「マグロ獲ってくるかおどれぇ!!ボケェ!!」


 殺されるっっ!!


「らっ!来月には…!!来月には耳揃えて返すからぁ!!」

「もう待てるかボケっ!!」

「返すあてあんのかワレェ!!」

「あるっ!!」


 私はもう無職じゃないんだ……っ!!


「来月ライブ出るから……っ!!お金入るから!!」

「ライブぅ?」

「こいつアイドルやねん!!」


 朋花ちゃんの簡潔な説明に助さんも角さんもにわかには信じられないって顔でお互い見つめ合ってた。

 この話を信じるに値するのか……仲間内でそんな協議をしてるみたいだ。


「嘘ついてんとちゃうぞこら!!」

「嘘じゃない!私の目を見て!!」

「……うーん…濁っとる」

「ふざけんな!!」


 こちとらたった今覚醒したてホヤホヤの歌って踊れて曲まで創れ……創りたいスーパーアイドルじゃいっ!!


「……もし来月返されへんなんて吐かしやがったらその時はおどれ…分かっとんのやろな?」

「……セイラワカンナイ」

「そん時ゃおどれ、マグロ獲りにベーリング海まで行ってもらうけぇのぉ!!」

「……マグロって暖かいとこに居るんとちゃうん!?」

「ベーリング海はカニですかね…」


 朋花ちゃん、星熊ちゃん、冷静なツッコミしてる暇あったら立て替えてよ(怒)


 本場のボケをカマされつつも命の危機を一旦脱した私はなんか焦げ臭い畳の上にへたり込みながら借金取りを退けた!


 出ていく助さん角さんの背中に中指を立てるのも忘れない。


 嵐のように……そう、ベーリング海の嵐のように去っていった二人組の姿が部屋から消えてから、朋花ちゃんと星熊ちゃんが冷たい…そう、ベーリング海のように冷たい眼差しを私に向けてくる。


「18万くらい返さんかい!!」

「それよりなんか……焦げ臭くないですか?」


 二人の戯言を右から左へ……ベーリング海の荒波のように流しながら、私の脳の奥はビリビリと痺れ始めてた。


 ……来た。


「来た来た来た来た来たっ!!」

「何がやねん!?」

「……私が今伝えたい事…歌に籠めたいメッセージ…っ!!ファンに伝えたいメッセージ!!」

「「え?」」


 借金返さないとベーリング海…

 借金返さないとベーリング海…


「……私、アイドルになって借金返すっ」

「何言うてんの自分!?」

「曲名は……『私をアイドルにしてください』」

「ええんかそれで!?デビューライブやで!?」


 頭の中にメッセージ(懇願)が浮かんでくるよ!

 これを忘れないうちに歌詞ノートに……っ!!




 ……畳の上に放り出されてた歌詞ノートに手を伸ばした私の体が硬直した。


 ノートまで10センチまでの距離に伸びた指先に、ヒリヒリとした熱を感じる。


 落ちたタバコの火種がノートを燃やしてた。

 いや、ノートごと畳を燃やしてた。


「かっ!!……火事だぁぁぁっ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。