第90話 同情するならサ〇ポロ一番塩ラーメン買ってきて作ってあーんして食わせろ
「うぅぅぅぅ…っ!!うぅぅぅぅうっ!!」
「さっさと作ってくれませんか?もう時間はありませんよ?」
「うぅぅぅぅぅぅぅうっ!!!!」
ギリギリギリ…
歯ぎしりが止まらない私、錦野星羅がなぜ今、こんな生カメムシを口の中ですり潰して味わってるみたいな苦悶の表情を浮かべてるのかは…真のクリエイターにしか分かり得ないだろう。
今私は一人の創作者として、激しく苦悩している。
何も…浮かばないっ!!
「とりあえずイッパツキメるわ」
「酒は曲が出来てからです」
勝手に押しかけてきたマネージャー、星熊ちゃんにより酒まで奪われ…栄養失調とアルコールとニコチン不足により私の脳の活動は著しく低下していく…
「壁紙が黄ばんでますねぇ…うちの事務所になるので、今日からここは禁煙で」
「ここ借りてるの私なんですけど?」
「家賃払ってるの黒沢さんでしょ?」
「うぅぅぅぅっ!!ミンナドコイッタノ…っ!!」
「天鬼さんと鏑木さんと一さんは学校で、夏祭さんは次の路地ライブの場所確保に…黒沢さんは近所の野良猫と集会があるそうです」
ギリギリギリ…キリキリ…ッッ!!
「呼ばれて飛び出てパンパカパーンっっ!!」
……誰よ、このクソ忙しい時に…
「久しぶりやな!!元気しとった!?」
……誰よ。
「なんやねんその顔は…!折角人がサプライズで遊びに来てやってんねん!!茶くらい出さんかい!!」
「どなたですか?」
「酷いやん!?星熊さん!ウチやウチ!桜朋花!!ちょっと前までひとつ屋根の下暮らしとった仲間やんけ!!」
「……すみませんがここはPOPプロダクションの事務所なので、部外者は勝手に入ってこないでください」
「ここが!?星羅ん家聞いてたんやけど!?」
……桜朋花。ああ、居たなそういえば。
私達を裏切って出て行ったクソ女。読者も完全に忘れ去ってたってのに今更何しに出てきたんだか…
「なんか今、酷い事考えてへんかった!?」
「田舎に帰れ」
「星熊さん、こいつどないしたん!?なんか様子が変やで!?」
「天才と変人は紙一重なのですよ」
小バエが浮いた湯呑みに一切手をつけない朋花ちゃんは今現在の『FOOLS』の近況を聞き終えて…
「…なぁ星羅、玄関には鍵かけとかんとアカンで!?物騒やからな最近!!」
「扉ごと外れるから無意味。それに物騒なのは最近始まった事じゃないから」
こんな事をしてる暇はないって分かってる。私の中の感情に問いかけながらギターの弦を弾く…
紡がれるのは乱雑に散らばった音の残骸だけ…
何も…湧いてこない……っ!
「苦労しとんのやな!!あ、でも、あんたらすごいバズってんで!?この前の路地ライブ、ウチ行かれへんかったけど動画観たわ!星羅凄かっ「うるさい話しかけないで」
「……いつからそんなツンケンしたキャラになってんあんた…悲しいわ!!」
「桜さん、錦野さんにはもう時間が残されてないんですよ…」
「なんや!?死ぬんか!?」
「話聞いてました?デビューまで時間がないのに曲が出来てないんです」
こんな奴らに構ってる暇はないんだ。
なんとかメロディーを弾き出そうとするけど、何も浮かんでこない。
何か一つでも取っ掛りが生まれれば…
「産まれそうな気がするんだけど…」
「赤ちゃんか!?」
「……何しに来たの?悪いけどさ、朋花ちゃんに今チューしてあげる暇ないんだよね」
「今まで一回でもチューしてなんて頼んだ事あったかいな!?」
もうダメだ。やっぱり歌詞が浮かばないとメロディーも作れない。
全てを諦めた私は畳の上に沈んだ…
みんなごめん…間に合わなかった……よ……
百合や尊死~百合を愛する私、尊死するために美少女アイドルグループのメンバーになる~ 完
「待たんかい!!諦めたら終わるで!?ウチらの存在そのものが!!」
そんな事言ったってさー……
あーあ。やっぱり私には才能がないのかもしれない。
どうしてこんな無謀な事を……
全てを投げ出したくなる思考に沈んでいく…ずぶずぶ。
酒が足りない。
タバコ吸いたい。
パチ行きたい。
もうやだ。
楽しくない。
音楽楽しくない。
何も創れない。
最初に出来た曲も満足いくものじゃないし。
分かってたんだ。私には創る才能はないってのが。
自分で分かってたはずなのに。
もう音楽嫌だ。
「ぶぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!」
「あ」
「泣いた!!」
「ぶぇぇぇんっ!!もうやだぁ!!創りたくないっ!!創れないっ!!お金ないっ!!」
「私がやってるコンビニバイト、時給いいですよ?紹介しましょうか?」
「はたらきたくなぁいっ!!」
「…救えませんね」
…全てを絶望の中に投げ捨てて泣いてたら、私の手にそっと暖かい何かが触れた。
朋花ちゃん…?
……かと思ったらネズミだった。
「自分を追い詰めたらあかんで!!」
仰向けになって涙を零す私に朋花ちゃんの優しい声が降ってきた。が、そんなものは腹の足しにならない。同情するならサ〇ポロ一番塩ラーメン買ってきて作ってあーんして食わせろ。フーフーして冷ますのも忘れんな。
「少し休んだ方がええで!!」
「何を言ってるんですか桜さん。時間がないんですよ」
「そんなん関係ないわ!!」
星熊ちゃんを一喝する朋花ちゃんが言った。
「別に諦めてもええんちゃうんか!?」
「…ぐすん?」
「ここで無理して音楽嫌いになるくらいなら、今は諦めてもええんちゃう!?」
……朋花ちゃん…………頭にハエの死骸が…
「…三曲ないとライブに出れないんですよ」
星熊ちゃんが悲しそうに言う。そう、私が完成させないと事務所存続の危機…つまり星熊ちゃんの生活の危機。
「……まぁ、別にカバー曲でもいいんですけどね」
奮い立ちかけた私のやる気を削ぐような一言が添えられた。なんか今までの頑張り全部無駄でしたって言われた気分。
「びぇぇぇんっ!!」
また泣いた。
「私みたいなポンコツ音楽家は必要ないんだァ!!」
「……そんな事あらへんよ!!」
語尾の勢いが強すぎて何喋っても語尾に!!が付くから、朋花ちゃん、しんみりした空気を出す事が不可能になってら…
あははは……
あはははは……
「みんなあんたの歌、歌いたい思っとんのとちゃう!?」
「……みんな」
みんな…
「みんな…?あぁ…『FOOLS』の奴らか?」
「そんな奴ら居たなみたいな言い方すんなや!!」
「錦野さん」
…?珍しく星熊ちゃんが真面目な顔してるぞ?なんだ?
「みんなが毎日毎日あなたの楽曲制作に付き合って寿命を縮めてるのは、あなたの願いを叶えたいという思いと…もうひとつ。あなたの作ったあの…最初の……曲名忘れましたけど」
「なんでやねん!!台無しなんよ!!」
「あの曲を聴いてみんな思ってるからですよ。あなたの創った歌を歌いたいと…」
星熊ちゃん……
「……せやからいつかまた創ればええんや!!」
「いや、今創ってください」
「あんたが音楽嫌いになってしもたら…もう二度とあの子らあんたの歌、歌われへんくなる!!」
……これは…
無理すんなって言われてんのかさっさと立ち直れって言われてんのか…どっちなんだ?
涙が引っ込むべきかまだ出てた方がいいのか戸惑って、間を取って鼻水出てきた。
…とりあえず、酒……
「大事な話しとる時に酒飲むなや!!」
ベチィンッ!!
「きゃっ!!痛いっ!!なんなのあんた!?何しに来たの!?嫌がらせ!?」
「激励やろどー見ても!!」
……なんか、今の張り手で鬱屈とした気持ちが吹き飛んだ気がする。
自信は相変わらず地の底だけどさ…
これが噂の気合一閃?スポコン漫画とかでやるあれか?
「……朋花ちゃん」
「……!?」「いや、無言の時にまで!付けなくていいですよ桜さん。勢いがすごいです」
「私やるよ」
そうだ…
私が投げ出したら付き合ってくれてる(戦力にはなってない)みんなの今までの努力まで無駄になる。
それに…
みんなに私の歌を歌ってほしい……
やる気が漲ってきたぞっ!!!!
「うっ…うぉぉぉおっ!!」
「なんですか?一滴も飲んでないのに酔ったんですか?」
「朋花ちゃん!あと誰だっけ!?」
「星熊です」
「私やるよ!!創りたい!!今っ!!」
「おぉ!?」
「是非お願いします」
…………でも、なーんも浮かばねぇ。
歌詞ノートにボールペンを突き立てたはいいものの、結局一フレーズも浮かんでくるものはなく…
気合いが入ろうが友情に燃えようが無いものは無いんで。
「やっぱり私には才能が……」
「盛り上がったり沈んだり忙しい奴やな!!」
「あなたは既に一曲創ったんです。自信を持ってください」
「……あれは…生き埋めにされて死にかけた時のトランス状態で降りてきたやつで…多分私の人生の中で一生に一度の覚醒で…それもどーせ大した出来じゃないし……」
「あかんわ。やっぱ一回休んだ方がええで自分!!」
もう今の私には…ノートに意味のないグリグリを描くことしかできない…
「なんも手ェ付かへん時やるよな?そのグリグリ…!!」
何かを考えてるようで考えてないんだろう星熊ちゃんが机につっ伏す私の顔を見下ろしながら尋ねた。
「……あの、どうして錦野さんは音楽を創るんですか?」
「どーしてって……?」
「アイドルとは創り手ではなく歌い手です。錦野さんは歌うのが好きだから私のスカウトを受けたのですよね?ですが…今のあなたは歌う事より創る事に執心してる」
「(それはお前らの事務所が金なくて楽曲発注できへんからやないんか!?)」
…………
「……私は…」
「……」「……(ごくり!!)」
「…………続きは次回の過去回想編で」




