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第88話 なんかこれ……私がりあの事…………

 星羅のおかげで大成功を収めた路上ライブの反響は上々で、SNSには『FOOLS』の名前が上がるようになって、そして話題の中心は琴音から星羅に移った…

 秋葉原サーキットフェスの告知もした。

 あとは曲が間に合えば……



 そんな私達の大きな一歩になった路上ライブだったけど……


 私、夏祭万理華の中には色んなモヤモヤが蓄積したまま…というより、モヤモヤが増えたライブでもあった。





「……愛してる、よぉ…」

「〜〜~っ!!(ゾクゾクゾク)」


 ……この日は週に一度のりあのASMRの日。

 徐々に暗くなるのが早くなってきた空は名残惜しそうに夏の余韻を引きずりつつも、次の季節への移ろいを見せてる。

 陽の落ちた世界は今宵の乙女達の密会を覆い隠すように闇の帳を下ろしてく……


 じゃなくて。


「ま・り・か・ちゃ・ん…フゥ…」

「…………さんだから。万理華“さん”」

「……先輩に体育倉庫で押し倒されるシチュを注文したのは万理華さんだよ?ちゃんと没入してくれなきゃ……てか、なんか今日感度悪い?」

「感度言うな…はぁ、もういいわ今日は」


 集中力を欠いたこの状態じゃ至高のASMRも勿体ない事になる。私は若干痙攣する体を起こして立ち上がった。


「……えぇ。わざわざこの為だけに電車乗り継いで来たのに3分で終了!?」

「そろそろ星羅の家に行くわよ」

「……」


 オリジナル曲の制作もそろそろ本気でヤバい。

 歌詞もできてなければ曲もできてない。ここから振り付けをつけてもらって練習……


 路上ライブやSNSで告知してる以上、ライブの出場はもう取り消せない。

 星羅による注目は私達を後戻り出来ない状況へ押し込んだ。


 ライブの運営事務局にそろそろ楽曲を提出しないといけないのに……


 やっぱりオリ曲二つは無理か…?

 無難に『THREEPIECE』のカバーを……

 いや、でも……星羅の気持ちも汲みたい。

 それにデビューのライブでオリ曲がひとつっていうのもな…本来なら三曲全て私達の曲を使いたいところなんだし……


「んべろぉっ」

「あひゃ!?///」


 耳に湿った感触と吐息がっ!!

 腰が砕けてビクンビクンしながらベッドに倒れる私。上から襲いかかってきたのは変態だった。


「ぐへへ。そんな簡単に終わるわけないでしょ〜?」

「ぐっ!!///ふざけてないで早く出るわよ!!りあ!!退きなさい!!」

「ふざけてるのはどっちさぁ。人にこんな変態プレイを要求しといて……」

「……ぐっ」

「観念しろ〜」


 こいつ……ほんとにいつの間にこんな変態に…



 ……あの路上ライブの時。

 星羅が宇宙きらりのカバーを歌って、二曲目。

 りあの様子がおかしかった。

 パフォーマンスに身が入ってなかった。その視線はどこか遠くを見てるようで……


 りあがどこを見てるのかはすぐに分かったわ。

 それは観客に埋もれるように佇む一つの人影。

 マスクと帽子で顔を隠してたけど、私には誰だか分かった。


 そこに居たのは荻窪はぁと。


 今人気絶頂のアイドルグループ『TRY AGAIN』のメンバーが私達の路上ライブを観てた。

 偶然?


 りあが最近ご執心な荻窪はぁと。


 ライブ中、りあはずっと荻窪はぁとを見てた。

 そしてライブが終わるまで荻窪はぁとはずっとそこに居た。


 ……まぁ、荻窪はぁとがそこに居たのはたまたまなのかもしれない。本当に。

 でも、彼女の事をりあが見つめてたのはたまたまじゃないはずだ。




 それを人は恋と呼ぶ


 ガチ恋




 ……まさか。


 だってこの子、アイドルの事なんて全然詳しくないのに……

『TRY AGAIN』だって友達に誘われてライブに行くだけ……




 ファンみたいですね


 先輩の引退ライブを蹴る程の




 天鬼りあ……こいつは…百合女子。

 かわいい女の子が大好きな女の子……

 あくまでかわいい女の子同士の絡みを愛でたいんであって、当事者になりたいわけじゃない…らしい。つまり壁になりたい。

 カラオケでの互いのカミングアウトの後日、しつこい程説明された。


 でも……


「でゅふふふふっ///万理華さぁん。今日もいっぱい、あんあん♡してるとこ見せてねぇ///」


 ……説得力ないのよね。

 こいつの恋愛対象もやっぱり、いや……確実に女なのでは?


 荻窪はぁとにガチ恋……

 いや、別に……だからなんだって話だけどさ…


「んん〜れろれろれろ……」

「ねぇ……」

「ふぅ〜ふぅ〜……ん?」

「あんたって荻窪はぁと推しなの?」

「……万理華さんまでそんな事を…」


 怪しい。別に否定する必要なんてないのに誤魔化すような言い方するの、怪しい。

 誤魔化すならこの、人に見せられない顔をしてるこの状況を誤魔化す努力をすべきだ。推しのアイドルが居るくらいの事、誤魔化す必要なんてない。


 ……やはりガチ恋?


 というか…もしかして二人の間には既に関係が…?

 飛躍しすぎか?いや。考えてみれば荻窪はぁとが私達の路上ライブをたまたま観てるなんてのもおかしい。

 りあがはぁとはぁと言い出したのもおかしい。

 琴音にブロックさせようとしてるのもおかしい。


 もしかしたら二人は既に…………


 だとしたら………………


「りあ」

「ん~~~~///…ん?」

「…あんたちょっとスマホ見せなさいよ」

「……え?」

「見せなさいよ」

「…なんで?(汗)」

「りあ」

「……(汗)」

「あんた真剣にアイドル、目指してるんだよね?」

「……うん(汗)」

「アイドルにとっての禁忌、分かる?」

「え?……ワカンナイ……」

「恋愛」

「……(汗)」

「つまり、今あんたがやってる事」

「今って…これ?(汗)」

「とぼけてもダメよ。あんた……」

「……(汗)」

「荻窪はぁとと付き合ってるんでしょ!?」

「!?」


 *********************


 ……どうかしてたわ。


「分かってくれた?」

「どうかしてたわ」

「この人、ちょっと怖いんだよ。今日も琴音ちゃんの事めっちゃ呟いてるし…またアンチコメントに恐い事返信してるし…」

「どうかしてたわ」

「この人、ストーカー化とかしないよね?」

「どうかしてたわ」

「万理華さん聞いてよ」


 普通に考えて、荻窪はぁとと今はまだ一般人なりあがどこで関わりなんて持つのよ。


 荻窪はぁとが路上ライブに来たのは琴音目当てだったのね…

 琴音にブロックさせようとしてたのは言動がヤバかったからなのね…


 冷静に考えれば“そんな可能性”ないのに…


 てか、私のここ最近のモヤモヤって……


「万理華さん、この人大丈夫かな?」

「……ただのファンでしょ」


 アホくさ。


「真剣に考えてよ!!これこそガチ恋ファンだよぉ!!琴音ちゃん刺されたらどーすんの!!」

「琴音が彼氏でも作らない限りは大丈夫よ…こういうファンはこれから一定数出てくるんだから……」

「琴音ちゃんが……彼氏っっ!!」

「なんでショック受けてんのよ……」


 やたら琴音の事気に掛けるじゃん。

 …もしかしてこいつ琴音の事……



 スパァンッッ!!


「うわぁ!?びっくりした…急に自分の頬っぺ叩いてなに?」

「別に……」


 やっぱりどうかしてるわね…

 なんでこんなりあの恋愛事情を邪推ばっかりしてるんだろう…


「やっぱり心配だなぁ。万理華さん、琴音ちゃん「会いたいです」とか言われてノコノコ会いに行かないかな?」

「あのね、あの子は元インフルエンサーよ?ちゃんとファンとの付き合い方弁えてるに決まってるじゃない。それより…私はあんた達の方が心配」

「私も万理華さんチョロいから心配」

「(怒)りあ…あんた彼氏とか居ないでしょうね?」

「居ないよ」

「好きな人は?」

「えぇ?…恋愛的に好きな人は居ないけど…」


 ……なに?この質問。

 モヤモヤがイライラに変貌してるんだけど。


 なんかこれ……私がりあの事…………



 スパァァァンッッ!!



「なんで!?なんで叩いたの!?暴力系ヒロインかっ!?」

「誰がヒロインよっっ!!」


 正体不明の感覚に変な答えを導き出しかけて、頭を激しく振る。脳みそ揺らしてアホな考えをデリート。


 ……ホント、どうかしてるわ。



「…とにかく、うちは恋愛禁止という事で…あんたも気を付けるように…」

「それなんだけど、私はそのルール、反対」

「え!?」

「だって……それじゃみんなの百合カップリングがっっっ!!」

「黙りなさい?」

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