第83話 私らなんかーーーいっ!?!?
もう確定じゃん。
「……なんか、パトカーが来てますね……あはは……」
やけっぱちになって笑ってみたけど、目の前のドンには表情がなかったわ。
りあの方は「?」って顔をしてくぐもったパトカーのサイレン音を聞いてるだけだったわ。
どこかからマフィアが来てるって情報が漏れて警察が捕まえに来たのよ…このままじゃ突入されて……銃撃戦!?!?
「ガタガタガタガタ(社長まずいわ!このままじゃここで警察とマフィアの殺し合いが始まるわ!!)」
「ガタガタガタガタ(ああああああああああ)」
「ガタガタガタガタ(失禁してる場合じゃないから!銃撃戦になったら……スタジオ壊れちゃう!弁償しなきゃいけなくなるのよ!?)」
「ガタガタガタガタ(ふわぁぁぁぁぁぁぁぁ)」
何とかしなくては……
ガラス張りの応接室の外からこっちを恐る恐る見守ってる『FOOLS』と星熊に私は熱い視線で語りかけ……いえ、懇願する。
「(警察が突入するのを防いで!!)」
伝われ!!
「万理華さん出てこないね…」
「なんか震えてるね」
「なぁなぁ星羅ぁ。生と死のインスピレーションで一曲目できたんだったらさぁ…もっかい死にかけたら二曲目のアイディア降ってくんじゃね?」
「茹でたブロッコリー食べたいわ…」
「社長と夏祭さん、随分震えてますがおしっこ我慢してるんでしょうか?」
全然伝わらないわ……
「万理華さんさっきから震えてるけど寒いの?」
「震えてないわよ(震)」
「エアコンの温度上げようか?」
「大丈夫って言ってるでしょ?りあ(震)」
「でも社長が……」
「ガタガタガタガタ(あばばばばばばば)」
その時だったわ……
エキストラが恐れ知らずにも「失礼します」って応接室に入室してきた。
絵面的にはマフィアの金に手をつけてこれからドン直々に処刑されるのを待つ、公開処刑秒読みな部屋の中にズカズカと入ってくるこの女…もしかしたら凄い図太いんじゃないのかしら。
「お客様がお見えです」
「え????」
私とりあが顔を見合せた。
お客様?
ここは偽事務所よ?りあのお母様を騙……安心させる為に借りたスタジオよ?ここにお客様なんて来るわけないじゃない。
「け、警察……?」
尋ねる私の声にマフィア達(もう私の中で確定)がピリついたんだけど……
「いえ、女性の方が三人……」
「ジョセイノカタガサンニン?」
何かまずい事が起きようとしてる気がするわ。りあと顔を見合せる。どこの誰か知らないけどこの状況どうしたらいいの?今日まで私の隣で『FOOLS』を支えてくれた無二の相棒に視線だけで問いかける。
「パパ、誕生日ケーキは『ポール・パパイヤん』がいいな」
「私ノ力ヲモッテシテモソレハ難シイ。開店前ニ売リ切レル伝説ノケーキダカラネ」
誕生日ケーキの相談してんじゃないわよ(怒)
とりあえずお引き取り願うしかないわ。不気味だから。
「…今、取り込み中だから後で…………」
遅かった。
エキストラに伝えようと顔を向けた瞬間、こっちに向かって迫ってくる三人組の姿が視界に入っちゃった…
そしてその姿にギョッとする。
「マ……『ママと撫子』!?」
止める間もなく彼女らは入ってきた…
入ってきちゃった……
このカオスな状況に……
「お客様がいらしてたんですね…申し訳ございません。ですが、事務所に行っても誰も居らず、ビルの管理人さんに訊いたらこちらだと言うことでしたので…」
あれ……?私そもそもなんでこんな事してるんだっけ??
「……社長さん、こちらは…?」
「あばばばばばば」
りあのお母様の質問にもう、社長は答えられなかった。壊れてしまったのね。そら豆くらいの肝っ玉しかないのね。
「ママ、この人達はうちの事務所所属のアイドル『ママと撫子』だよ」
「あらぁ…はじめまして、娘がお世話になっております」
「あ、こちらこそ」
「はじめまして、三十路系子持ち人妻アイドル『ママと撫子』と申します」
「以後お見知りおきを…」
お母様と『ママと撫子』は大人のお手本みたいな丁寧な挨拶を交わす。お母様は頭を下げて、三十路系?って小首を傾げてたわ。
……んで、ドンがじっとそれを見てたわ。
怖すぎたわ。
撃ち殺されるんじゃ……
「ご歓談の邪魔をして申し訳ございません」
マタニティーブルーの里子さんが改めて頭を下げるけど…どう見てもご歓談中じゃないのよ。マフィアに拉致られた民間人なのよ。
務めて冷静に…それでも感情の昂りが抑えられないって様子の里子さんは目の前で失禁して震えてる社長の目の前にバンッて手を置いた。
一体何事だろう……
「社長、どうしても緊急で話し合わないといけない事があります」
「私達の引退の件です」
「昨夜引退は認めないという旨のメッセージを星熊さんから頂きました」
里子さんに続いてマリッジブルーの幸子さんとフィーリングブルーの貴美子さんが捲し立てる。
……そういえばブルーしか居ないじゃない。
「確かに……事務所になんの相談もなしに決めたのは非常識な事と存じます…」
来客中……というかマフィアに囲まれ中なのに自分達の要件を切り出すあたりもう非常識な事に対する拒否反応は消えたらしいわね…
熱い口調で語る里子さんは周りが見えてないみたいで、殺気が服着て歩いてるみたいなドン・カルチオーネの眼光に気づかないらしい。
撃ち殺されないかしら……
「でも…私達のあげた引退表明動画を削除するのは違うんじゃないでしょうか?」
「この歳での夜更かしはお肌に響くというのに…それでも徹夜して作った動画なんです」
「社長はどうしても、私達の引退をお認めにならない?」
「あばばばばば(ジョロリン)」
……無駄よ。今の社長はもう…意識を遠い彼方へ手放してしまったのよ。
「理由は分かっています……私達がやめればPOPプロダクションはタレントが居なくなっ「あーー!喉乾きませんか!?ドン・カルチオーネさん!!」
やめて!うちの事務所が弱小事務所だってバレるじゃない!!そんな事言わないで!!
「…………結構デス」
あわわわわわわわわキレてる…?そりゃいきなり割り込まれてこんな騒ぎ立てられたら…しかも警察に囲まれてるし……
「認めてもらえないのが分かっていたから…独断で敢行したんです」
「あばばばばばばば」
「……夏祭さん?社長はどうしてしまったのですか?」
「里子さん、その話明日出直して来てからしてもらってもいいですか?」
「でも……POPプロダクションには『FOOLS』が居ますっ!!」
無視……
「私達、いつまでも業界に居座るんじゃなくて、この若い子達に今居る場所を譲って活躍してもらいたいんです」
メジャーデビューはおろか老人ホームでしかライブできないような弱小ユニットがよくほざくわね…
「私達が居なくなっても」
「『FOOLS』が居ます」
「私達の引退とほぼ同時に『FOOLS』がデビューしてがっぽり稼ぎます…ですよね?夏祭さん」
「…………ああ、はい……そうですね…」
一体何を見せられてんだ…って顔したドンがじーーーって私の事見てるんだけど…
客人の自分達を差し置いて身内同士でわちゃわちゃ始めるしそもそも社長終始失禁してるし…
これはもうアウトなのかもしれないわ…
これでまともな事務所ですってお母様安心されるのかしら?
そもそも生きて帰れるのかしら?
ニューヨークを仕切ってるドンの不興を買って私達無事で済むのかしら?
「…そもそも契約書には違約金を支払えば契約期間内でもこちらから契約解除できると書いてあります」
「そして正当な理由もなくそれを拒否する事は出来ないと」
「ごねるなら裁判しますよ?」
『ママと撫子』が社長に圧をかけてた。ドンとその部下達の圧に比べればそんなもの子猫の威嚇だけど、まともな事務所すらないうちの事務所に「裁判」の一言は強烈なはず…
「……(失禁)」
…悲しかな社長にはもうその言葉も届いてなかったけどね。
ここで応接室の扉をゆっくり開いて長身のシルエットが入室。
来客中に次から次へと…って非常識を疑いながら見たら星熊だったわ。
……入口に立ってるマフィア(私の中でもう確定)がじーーーって睨みつけてるけど。
「お話は分かりました」
なぜかパキラを抱えてその後ろに隠れてる。ふざけてるのかしら。
「……コチラハ?」
ドンの眼差しが鋭いっ!!
「マネージャーの星熊さんだよ。パパ」
ドン、何も言わない……(震)
「星熊さん」
「認めてください、私達の引退を」
「社長が何も言わないんですが……?」
パキラに擬態してるつもりらしい星熊は鉢植えを押しながらその後ろから出ようとせず、滑るように私の隣に……
「「「星熊さんっ」」」
「ああなんでもいいんで。分かりましたんで一旦帰ってもらっていいですか?」
訴える『ママと撫子』に対してあんまりな対応をする星熊の一存で、とりあえず…?『ママと撫子』の引退は決まった…?
もうどうでもいいわ。
お母様の疑念の眼差しは深い。大きな事務所に当初安心した様子だったその顔は、今目の間で巻き起こってるとんだ茶番を前に曇りが差してる。
そしてドンはずっと黙ったまま。
もうどうでもいいわ…
「夏祭さん夏祭さん」
「星熊あんたなにしてんの?何そのパキラ。ふざけてんの?擬態できてないから。あんたのそのふざけた登場のせいでトドメ刺されたわよ?」
「表に警察が…」
「知ってるわよ。このままじゃマフィアと警察の全面戦争……」
「いや…合宿中の違法賭博の件で…『FOOLS』に逮捕状が出てるらしくて……」
私らなんかーーーいっ!?!?




