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第82話 夫は常に狙われてますので……

「お忙しいなか、押しかけてしまって申し訳ありません……」

「……いえ……(震)」


 社長が囲まれてた。


 貸スタジオの、ガラスで区切られた偽オフィスの応接室の中で、小学生女児にしか見えない社長が震えてる。


 向かい側にはりあのご両親。

 優しそうで美人な、進研〇ミの漫画に出てきそうなお母様。

 そして大柄で、全身真っ黒のスーツで、シミひとつない光沢のある白いストールをかけた、白髪をオールバックにした、あとはもう葉巻があればアル・カポネって風貌のお父様。


 間に挟まれるりあ。


 ……で、なぜか取り囲む黒スーツの男達。



「……ニューヨークマフィアだ…」


 外から様子を伺う紗良が震えてた。


「まさかそんな……」


 そういいながら陽も決して応接室に近寄ろうとしないわ。


 かく言う私、夏祭万理華も……ちょっと近づきたくないわ。

 入口を見張るみたいに立ってる二人の男の視線がもう……裏の世界のそれなんだもん。


「ニューヨークを仕切っておられるお父様がいらっしゃるとは思わなかったな……てか、お父さん死んだって言わなかったっけ?」

「ばかっ!はーちゃん滅多な事言うもんじゃないよ!!聞こえたらコロサレルッツツ!!」


 滅多な事言っちゃった陽が琴音に窘められて口を手で塞いで、目を見合わせてコミカルに退散して行ったわ。


 遠巻きに眺めるメンバーから更に離れた場所に立ってる星熊に目配せする。


 あの社長一人きりにしていいの?


 …………相手はマフィアですよ?


 星熊から無言の返答。


 いや……まさか、ニューヨークを仕切ってるだけよ。


 ニューヨークを仕切ってるドン・カルチオーネですよ?


 …………



 ……いずれにしろよ。


 お盆を持って応接室に近寄っていくエキストラさんを呼び止めて私は勇気を振り絞る。


「あの、お茶私持っていきますんで」

「っ!?」「万理華ぁ!?」「相手はドン・カルチオーネだよ!?」「コロサレルゾッ!!」

「……ドンだかなんだか知らないけど、あの状態の社長一人に対応任せてたら、いつかボロ出すわよ?りあのご両親なんだから大丈夫よ」


 そうよ。現実的に考えてみなさい?ニューヨークマフィアがこんな所に来るもんですか。


「じゃ……お茶です。お願いします。ちなみに青トカゲのミミズ煎じ茶を用意しましたんで」

「私に死ねって言うの?」


 青トカゲの浮かんでるお盆を受け取ってぶん投げたわ。






 自販機で適当なお茶買ってきて持って入ろうとしたら入口でボディチェックされたんですけど……


 冷や汗タラタラしながら応接室へ…

 私の入室に真っ先に気づいたりあ……


 ……の前に気づいた黒づくめの男達が私の前に立ち塞がったんですけど。怖いんですけど。何故か、懐に手を入れてるんですけど。


「あ、万理華さん。お茶?ありがとう」

「え、えぇ……わ、わ、私も同席していいかしら…………?(震)」

「おおおおおおおおおおうっ!是非そーしなさいっっっ!!!!」


 泣き喚くトドみたいな社長に半ば引きづられて着席。

 ドンの前に置かれたお茶は黒づくめが先にちょっと舐めてた。毒味…………?

 やっぱりどう見てもドンなんだけど…ニューヨークマフィアのドンにしか見えないんですけど……


「パパ、ママ。こちらは同じグループの夏祭万理華さん。リーダーなんだ」


 りあの紹介にドンの鋭い眼光がこっちに……

 近くで見るとやっぱこえーよぉぉぉぉっ!!


「まぁ、いつも娘がお世話になっております」


 お母様がお約束のご挨拶。ドンは微かに口元を緩めただけだったわ…


 このままじゃいけない……

 私だって長年芸能界で生き抜いてきた女よ…ニューヨークマフィアのドンは初めてだけど…練習生時代テレビ局のプロデューサーのパトロンの暴力団の組長に枕営業持ちかけられても突っぱねた女よ。

 芸能界はそういう所……そして私はクールでタフな万理華さんじゃないっ!!


 相手はりあの……仲間のご両親なんだから……いつまでもビビり散らかしてていいわけないわ!!


「おおおおお父様は……その……外国の方なんですね…………(震)」


 質問間違えたか……?


「……ソウデス」


 ドンが少しだけ笑った。


「パパはフランス人なんだ。普段はアメリカで仕事してるんだけど……突然帰ってきたみたい。万理華さんごめんね?ママだけって聞いてたのに…」


 へぇ……フランス人でもニューヨークの暗黒街のドンになれるんだ……

 いや違うっ。


「べべべ別に…………そう……りりりりりあはハーフなのね……」

「そだよ」

「ちちちちちなみにお父様のお仕事って……」

「ニューヨークを仕切ってるドンだよ」


 だからニューヨークを仕切るドンってのはどんな仕事なのよ!!!!

 正体不明じゃいつまでも怖いままじゃないっ!!


「……ここ、こちらの方々は…?」


 さっきから私達を取り囲んで圧をかけてくる黒づくめ達を見回しながら訊いてみる。


「私ノ部下デス。イツモ連レテマス。大勢デ押シカケテスミマセン」


 ドンが頭下げた。


「全然全然前前前世!!!!(万理華!ドンに頭なんて下げさせたら後でどんな報復受けるか分かんねーだろバカ!!!!)」


 もう掘削機かってくらい震えてる社長が血走った目でこっちを睨んでくるわ。自分よりビビってる人見ると少し冷静になれるわね。


「夫は常に狙われてますので……」


 ……その冷静さも一瞬で、お母様の一言で弾け飛ぶわけだけど…


 ニューヨーク仕切ってて常に狙われてるドンってもうそれしかないわよ……


 いや…………そんな訳ないから。漫画じゃあるまいし!!グループの仲間のパパが偶々ニューヨークマフィアのドンな訳ないから!!


「パパ、急に日本来て仕事は大丈夫だったの?」

「「ワカガシラ」ニ任セテ来タカラ平気サ」


 若頭!?!?


「ガタガタガタガタ(おい万理華これもう確定だろ)」

「ガタガタガタガタ(聞き間違いに決まってんでしょ!?井之頭《いのがしら》かなんかと聞き間違えたのよ!!)」


 私にまで掘削機が伝染したんですけど?


「……サテ、今日突然オ邪魔シタノハ、娘ノ芸能活動ニツイテデシテ…」


 ドンが本題に移った。

 もう逃げられない。

 てか、ここがダミーの事務所だってバレたら私らどうなるの?殺されるの?


「妻ガドウシテモ一度オ世話ニナッテイル事務所ノ社長サントオ話シタイト言ウノデ…私モ、娘ノ誕生日ガ近イノモアッテ近々来日予定ダッタノデ、同行サセテイタダキマシタ」

「あはははは……」


 何笑ってんのよ社長。


「カルチオーネさんは娘さん思いなんですねぇっっっ」

「失礼」

「えっ?」

「「ドン」ヲ、付ケテクダサイ。「ドン・カルチオーネ」デス」


 後ろから黒づくめに注意された社長がもう失禁寸前だわ。

 てかなんなのその拘りは。キャプテン・ジャ〇ク・スパロウ的なあれなの?それともドンだから舐められるのは許せないの?


「……でも、こうしてお邪魔して安心しました。ちゃんとした事務所そうで…社長さんも可愛らしくて…ねぇ」


 どこまでもほわわんとした主婦にしか見えないお母様がもう、逆に怖かった。


「でも……ネットで検索して出てきた事務所の住所と違うので最初、あれ?って思ったんですけど……」


 やばいっ!!


「あ、ああ……ここ!第一営業所なんですよ!ねぇ!?社長!?!?」

「アアアアアアアアアアアア(震)」

「偶々社長がこっちでお仕事でして!!あはははははははは!!!!」

「まぁ、こんなに立派な建物なのに本社じゃないんですね……」


 りあ、りあ!その冷たい目やめて!!


 ……なんか、黒づくめがドンに耳打ちを……


「コノ場所ハ貸スタジオダト、ネットニハ出テルヨウデスガ……」

「ここここ!!この前買い取ったんですよ!!だからまだネットでは貸スタジオになってるんでしょうね!?!?ね!!??社長!!!!」

「アアアアアアアアアアアア(震)」

「あはははははははは!!!!」


 りあ!!あんたも協力しなさいよっ!!誰の為に骨折ってると思ってんのよ!!


 ……その時後ろで黒づくめ達が窓の外を見てた。

 ブラインドの隙間から外を覗いて何やらコソコソと話し合ってる。

 んで、ドンの所へ……


「Patron, la police est là」


 え?なんて?


 ドンの顔が一瞬険しくなったのも束の間…

 ビルの外から聞き慣れたような慣れてないような音が……



 ウゥゥーーーウゥーー……


「……」


 嫌な予感がしたから椅子ごと窓際に移動して、黒づくめ達と同じようにブラインドの隙間から窓の外を覗いたら……


「…………めっちゃ警察来てる…(汗)」


 なんか外に大量のパトカーが集まってたんですけど……


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