第80話 司馬久羽代?
「みなさん、おはようございます」
ケツの穴と鼻の穴と一緒にレッスン室にやって来た星熊マネージャーはなんだか…ちょっと疲れ気味に見えた。
対して床に座って向かい合う私達の方は…相変わらず臨界点なせいちゃん以外は…普通だ。
心配してた琴音ちゃんに関してもいつも通りな感じだったので、一安心。
……で、はーちゃんとせいちゃんは…離れて座ってる。あと、せいちゃんは堂々とタバコ吸ってた。
天鬼りあ、昨日からの怒涛の展開にヘロヘロですよ。
「……おはようございます」
「……」「……」「……」「……」「……」「……」
「おや?レスポンスがありませんね?アイドル足るもの愛想良くしないと。おはようございますっ」
「……」「……」「……」「……」「……」「……」
「……ケツアナ先生、ハナアナ先生、おはようございます」
「……」「……」
「……泣きますよ?」
もういいやって星熊さんは4世代くらい前のノートパソコンを腕に抱えたまま開いて続ける。パソコンに差押えって赤札付いてるけど、もう誰もツッコまない。
「さて……ご存知の方も多いかと思いますが……Y〇uTubeに動画あげました」
『えーーーっ!?!?』
私もえーーーっ!?!?って言っとこ。
「知らなかったんですか……」
「りあちゃんのえっちなASMRしか知らない」
「紗良ちゃん触れないでね?」
「まぁいいや……という事で、今日から皆さんにはSNSアカウントを運用してもらいます。こっちでアカウント作ったんで、今からパスワードとか配りますね」
スマホがピコンって鳴った。
誰も見なかった。
星熊さん悲しそうだった。
「……まぁ、本来は運用は事務所の管理なんですが……私もコンビニバイトで忙しいので勝手にやってください。お互いフォローして、有名人もどんどんフォローして、ついでに宣伝して、精々認知度を上げてくださいね」
SNSか……
「はい」
「はい天鬼さん」
「他の事務所のアイドルフォローしていいですか?」
「していいですよ」
「DMとか送っていいですか?」
「えっちなのじゃなければいいですよ」
「えっちなの送らないです」
「はぁい」
「はい錦野さん」
「バナナはおやつに入りますか?」
「バナナはお弁当のデザート扱いなので入りません」
「はい」
「はい一さん」
「家族はフォローしていいですか?」
「個人情報流出を恐れないのならどうぞ」
「へい」
「はい黒沢さん」
「恋人はフォローしていいですか?」
「うちは恋愛禁止です」
「はい」
「はい鏑木さん」
「エゴサしていいですか?」
「一日一時間までならOKです」
「はい」
「はい夏祭さん」
「『ほいずんちゃん』が騒ぎになってる件だけど……」
万理華さん……直球でいった!
「ごめんね琴音。でもちゃんと方針を決めといた方がいいと思うの」
「うん」
万理華さんの謝罪にも琴音ちゃんは平然と応じてた。あんまり堪えてない…?もしかしてまだエゴサしてないのかな?
「この前の路上ライブの写真とか動画がネットで出回ってて琴音の事が話題になってる…はっきり言って、好意的な内容ばかりとは言えない」
「そりゃてぇへんですね」
「星熊、事務所側としては何か対応するの?」
「いや別に……特には……なにも……」
この事務所大丈夫なのかなぁ?
「ふざけんじゃないわよ」
「鏑木さんの『ぽいずんちゃん』名義での活動に関してはうちの事務所としては一切関係ないので……前の事務所は契約解除済みですし、『FOOLS』の鏑木琴音として炎上してる訳でもないので」
「うちのタレントがネットで攻撃されてんですけど?」
「無責任だぞ」
万理華さんと紗良ちゃんから野次が飛ぶ。けど星熊さんはどこか遠くを見つめる顔してた。ぼんやりしてた。やっぱり疲れてるのだろうか?
「あの……」
そこで当事者が手を挙げた。
「はい鏑木さん」
「私、ちゃんとみんなに説明して謝りたい」
……あ、星熊さん今面倒臭いって顔したな。
「星熊さんちゃんと聞いてあげてください」
「聞いてますよ天鬼さん……具体的には?」
しばらく考える顔をして……視線を虚空に彷徨わせて……二人のブロッコリーコーチのアフロをじっと眺めて……
「……配信とかで……みんなと話したい」
「うちのチャンネルで?」
「……みんなに迷惑かかるから……私、自分のチャンネルを「うちの公式チャンネルでやりゃいいじゃん」
琴音ちゃんの言葉を遮って紗良ちゃんが元気よく言った。立ち上がって私達みんなを見回して「いいよね?」って確認する。
異存はない。
「私達も出たいしさー」
「は?なんで紗良達が出んの?」
「配信しながらみんなの前で土下座するんでしょ?面白そうじゃん」
「ふざけんな」
「反省の印に髪も剃ろう」
「デビュー前なんだよ!!」
紗良ちゃんのおかげで重たい空気が和んだ。見てよ、Wブロッコリーも微笑ましげな表情だよ。まるで大らかなる大森林の主……
「……でも、今の私達の知名度で配信して何人観てくれるのかしら…」
万理華さんが疑問を呈する。確かに……
「でも僕ら結構バズってるよ?」
それに答えるようにはーちゃんがスマホを出してみんなに見せる。画面には私達の路上ライブに関する記事がズラっと並んでる。
「えー……いいな……みんなだけずるい。私も…ライブヤリタイ」
「聖羅はその前に曲作らなきゃなー」
「……センターノワタシガイナイナンテアリエナイ…」
「紗良ちゃん意地悪言わないよ。今度はみんなでやろう。琴音ちゃんももっと自信つけないとね」
はーちゃんが愛おしそうに琴音ちゃんを撫でてる。てぇてぇがそこにあった。私の見たかったてぇてぇがここで輝いてた。てぇてぇなぁ。
そうだ。私の見たいてぇてぇはこういうてぇてぇなんだ。トイレでしっぽり下半身弄ばれるてぇてぇは…………いや、それもまた良し。
「どうしよう紗良ちゃん……私……脳が破壊されそうだよぉ…………」
「がはは!元々だ」
……なんてわちゃわちゃしてる横で万理華さんが「もう何度か路上ライブして動画投稿もして知名度上げてからの方がいいわね」って星熊さんに進言してる。
ぼんやり遠くに視線を置いた星熊さんも半分寝てんじゃないかってとぼけた顔してるけど「配信内容についてもこちらで考えた方がいいですね。変な事されて炎上されてもたまらないので」ってちゃんと考えてはくれてる。
「……問題はスケジュールですね…………」
星熊さんの半分魂抜けた呟きに万理華さんも難しい顔をした。
「……ま、とりあえずそういう事で。琴音はこっちがゴーサイン出すまで余計な事は喋らない事、ネットの書き込みにも反応しない事。いいわね?」
「…………うん」
「ちゃんと場は用意するからね」
「…………うん」
万理華さんも琴音ちゃんの頭をなでなで。てぇてぇなぁ……
二人のお姉さんになでなでされて琴音ちゃんも安心したように目を細めてる。
私もなでなで。
「やめろよぉ……」
「でゅふふふふっ!!きゃわいいねぇ///でゅっ!でゅふふふふっ!!!!」
「……りあはその笑い方、デビューまでに矯正なさい」
「万理華さん……こんな私嫌い?」
「うん嫌い」
「琴音ちゃぁん。私にも撫でさせろ」
「もぉぉ……聖羅……髪の毛乱れる」
「なでなで」
「琴音……いい?」
「触んな紗良」
「なんでだよ」
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レッスンが終わってボロボロの絞りカスになった後、今日もせいちゃんの家で楽曲制作だってなった。
みんなの着替えをじろじろ見ながら盗撮してたら星熊さんが話しかけてきた。
「天鬼さん」
「天鬼ですが?」
「ちょっと相談があるんですけど…」
……金か。
「お金は貸せません」
「高校生に借りるわけないでしょう」
「じゃあ今いくら持ってるんですか?」
「……721円」
「いい大人の所持金じゃないですよ?スタジオ代高校生から徴収しといて説得力ないです」
「デビュー前のアイドルが調子に乗らないでください…まぁ、あなたが当事務所に不信感を抱いてるのはよく分かりました」
「私だけじゃないと思うけど……」
「天鬼さんお母様に何か…事務所の事とか相談しました?」
え?
「……別に…ママが何か?」
「……実はお母様から連絡がありまして…」
星熊さんの顔には参ってるんですって言わんばかりの表情が……
嫌な予感がした。
「言葉は濁してましたが…娘をうちの事務所に預けるのが心配だ、的な内容でして…」
そのね?……言おうか迷ってたんだけど……あの事務所ちょっと…………おかしいのよね?なんか……本社の所在地も意味分からない場所になってるしね?
……あぁ。
ママがそんな事言ってたの思い出した。
「天鬼さんが家で事務所の事誹謗中傷してるのではないかと…」
「してないですし、事務所の実態話してたとしてもそれは誹謗中傷じゃないです。事実です」
「なんか事務所に伺いたいって……」
…え?
「えっ?あの(倉庫)事務所に!?」
「そうです。あの(倉庫)事務所に」
どうしてくれるんだといわんばかりの顔だよ星熊さん…
「……それは…まずいですね」
「まずいでしょ?」
「どうするんですか?」
「何とかしてください」
えぇ……
「話は聞かせてもらったわ」
その時呼んでもないのにリーダーがすっ飛んできたんだ。
「万理華さん…呼んでもないのに来るなんて…私の事大好きだね」
「司馬久羽代?」
「夏祭さん、シバくわよが誤変換ですごいことになってます」
「執筆環境が変わって慣れてないのよ。面白いからこのままいくわ。りあ、安心なさい?この頼りないマネージャーの代わりに私が何とかしてあげるから」
万理華さん…
「…やっぱり私の事大好きじゃん」
「コロ助わよ?」
「夏祭さんまた間違えてます。それはわざとですよね?」




