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百合や尊死  作者: 白米おしょう
アイドル合宿編
8/9

第7話 ごめんごめん。大丈夫だよ。大好物です

 天鬼りあ16歳、高校最初の夏休み。

 華の女子高生…学友達の眩しい私服姿や水着姿にてぇてぇがてぇてぇする為の予定を考えていのもほんのひと月前まで……


 私は今、長野の山中にある保養所の前に立ってる。


 テンテテン♪テーテテレッテ♪


 POPプロダクションなるアイドル事務所からのスカウトを受けた私(と桜太夫)はその残念な実力に憐憫の眼差しを向けられ、この1ヶ月、デビューに向けての特訓に費やす事になるのだっ!!

 題してアイドル強化合宿っ!!

 大丈夫か悟空ぅ〜っ!!

 頑張れ悟空ぅ〜っ!!



 …てな訳で。


「…今日は重要な日になる」


 乾いた風が枯葉を運び天鬼りあの髪の毛を揺らす…凛々しく吊り上がった少女の眉は決意と覚悟を表してるんだな、これが。


 …私はまだ、私とユニットを組むアイドル達と会ってない。

 今日から始まるアイドル強化合宿で初めて、私は仲間達と顔を合わせる。

 つまり、私にてぇてぇをプレゼントしてくれる女の子達に。


 私には目的がある。

 それは女の子だけの世界…このアイドル業界で美女、美少女達のてぇてぇ百合に囲まれて尊死する事!!


 …この門を潜れば……私のてぇてぇ人生が始まる。


 緊張するなぁ…

 どんな子なのかなぁ…

 アイドルになるくらいだからきっと可愛いに違いない。おっぱいは…でかい方がありがたいなぁ。

 色んなタイプの子を楽しみたいから、個性豊かな面子だと嬉しいなぁ。


「でゅふっ!!でゅふふっ!!でゅふっ!!」


 ゼロから始まる百合百合生活に笑いが止まらない私の背後で、薄ピンク色のスズキ アルトがゆっくり停車した。

 可愛いの代表格みたいな丸っこい車体が揺れて運転席が開く。

 タイヤが地面を擦る音に振り向いた私の目の前に品のいい感じのおば様が降り立った。50代くらいかな?

 事務所の人かな?


「あら?もしかして合宿に参加される方?」

「え?あ、はい…天鬼りあと言います」


 ママが言ってた。知らない人に名前を教えちゃいけませんと。でもママこうも言ってた。人の名前を訊く前に自分から名乗れと。


「やっぱり。私もなの」

「……え?」


 見た目50代のおば様はうふふと皺の刻まれたお顔でお笑いになられてるけど……

 え?

 そんなバカな!?

 この人が!?


「えっ……と……失礼ですが……おいくつですか?(汗)」


 私が求めるのは瑞々しい乙女達の百合園なんですけど!?


「……ああごめんなさいね?私もじゃなくて…私の娘もなの」


 切り替えの早い女、天鬼りあは直ぐにおば様を観察する。

 綺麗な人だ……この人の娘ならばきっと美少女に違いない。間違いなく……

 カワイイ系だな。小動物みたいなコロコロふわふわした子だと予想する。お姉さん系美女にセクハラじみたスキンシップされながら「ひゃんっ///やめてくださいよぉ///」とか言っててほしい。いや、言わせる。


「でゅふふふふっ///」

「……(汗)娘の事よろしくお願いしますね」

「まかせぇてくだちゃい。美味しく頂くんで」

「……ゾクッ」


 いけね。つい欲望がダダ漏れに……

 己を律するんだ、天鬼りあ。忘れたの?高校入学二日目、幼稚園からの幼なじみだというのにそんなに仲良くない二人を無理矢理くっ付けようとして体育倉庫に閉じ込めて先生に怒られたあの日を…


 まずは信頼関係を築かなくては…百合関係にんげんかんけいを構築する為の潤滑油になる為には全員の信頼を勝ち取る必要がある。


 私は百合をしたいんじゃなくて、見たいんだ。


 その時可愛いらしい軽自動車の後部ドアが開いて、ジャージを履いた足が地面に降りた。


 緊張の一瞬……


 吉原新喜劇では可愛い子しか居ないって騙されておでぶの付き人にされたけど……


 いや大丈夫!アイドル事務所だからっ!!それに遺伝子は嘘をつかない!このおば様の娘ならきっと美少女に…………



 車から降りてきたのは虎だった。

 身長140センチくらいの小柄な体躯を無地の白ジャージで包んだその人は、体に不釣り合いなくらいデカいタイガー頭で私の前に現れた。

 小さな身体から滲み出る、予想通りの小動物系の愛らしさ…母性本能くすぐるフェロモン。

 ……そしてそれを全て破壊する勇ましすぎる虎のマスク。


「……(汗)」

「一緒にアイドルやる人よ。天鬼りあさん、ほら、ご挨拶なさい?」

「……」

「ごめんなさいこの子ったら人見知りで…鏑木琴音かぶらぎことねって言うの。仲良くしてあげてね?」

「……あ、はい(汗)」


 この人あれかな?桜太夫の地元の人なのかな?


「……もしかして関西の方…?(汗)」

「埼玉だけど?」


 *********************


 保養所の中は無人みたい。


「まだ誰も来てないのかな?」

「……」


 あの後20分ほど中に入るのを躊躇い続けたタイガーマスクを、無理矢理手を引いて中に引っ張り込んだんだけど…


「早すぎたのかな?でも玄関開いてたしな…」

「……イ」

「ん?」

「……カエリタイ」


 なんという事だ。

 タイガーマスクこと鏑木琴音はネガティブ系女子だった。


 …いやでも。

 繋いだ手から伝わってくるこの健気な握力…この庇護欲をそそられる小さき存在。


「でゅふっ」

「ビクッ」

「ごめんごめん。大丈夫だよ。大好物です」

「……(震)」


 …やっぱりこの子との百合はお姉さん系だな。

 頼む!包容力のあるお姉さん系来いっ!!


 まだ見ぬ理想の百合の為天に向かって手を合わせていたら……


 エントランスから2階に続く大階段、その上の方から足音が響いてきた。


「ひぃっ」


 明かりのついてない暗がりから響く足音に琴音ちゃんがびくっと体を震わせた。


「大丈夫だよ、きっとお姉さん系だから」

「……サッキカラナニイッテルノ?」


 先客が居たらしい。それか事務所の人かな?


 暗い階段からその人は一人で降りてきた。

 その人は燃えるような赤毛と、それをそのまま瞳に移したような勝気な紅の瞳を持ってた。

 肩口をくすぐるように、歩く振動に従って揺れるミドルツインテールが印象を若く見せるけど、多分私らよりは歳上だと思う。


 ……てか、タイガーマスクちゃんはいくつなんだろ?


 凛々しい、なんて表現が似合うスレンダーで長身な美少女さんがご降臨だ。シンプルな白Tとジーンズがよく似合ってる。


 …しかし、お姉さん系ではないか。この感じは…プライド高い系の勝気なプロフェッショナル系だ。

 しかも、高いのはプライドだけで実績は伴ってないと見たよ。


「…あなた達合宿の参加者?」


 プライド系さんが問いかけてきた。階段の上から見下ろす形で。

 その目は隣で小さくなる琴音ちゃんよりよっぽどタイガーです。闘争心…と表現してもいいくらいの鋭い眼差しだ。


「そうです…えっと、あなたも?」

夏祭万理華かさいまりか


 プライド系さんの名前は夏祭万理華と言うらしい。ママの教えに反して先に名乗れちゃったよ。


「天鬼りあです。こっちは…鏑木琴音ちゃんです。よろしくお願いします」

「……オネシャス」


 声ちっさ…それでアイドルになれるの?

 今だに素顔を見せない琴音ちゃんの真意は如何に…


 ……が、俯くタイガーマスクは万理華さんの逆鱗に触れたらしい。


「その横の子はなに?ふざけてるのかな?なにそのマスクは?」

「……」

「いや、私もよく分かんないですけど…」

「この合宿は歌もダンスも未経験のあなた達の為に開かれる合宿だよ?ふざけてるのかな?」


 1階には降りてこないまま万理華さんは不機嫌そうな眼光を下に投げつける。

 琴音ちゃんは完全に萎縮しちゃって私の影から出てこない。これじゃ私が睨まれてるような構図に……


 おば様言ってたな。人見知りだって…


 ここはフォローしてやるべきだよね?


「この子人見知りらしくて…」

「世の中の人見知りさんはみんな頭にマスク被って生活するんですか?」


 なんか刺々しい人だなぁっ。


「まぁ……世の中色んな人が居ますから…」

「てか、あなたと話してるんじゃないんだけど?聞いてるのかな?タイガーマスクちゃん」


 命名されちゃった。そして私と万理華さんのネーミングセンスは同じ感じらしいね。


 うーん……この人苦手かもなぁ…


 もはや敵意とも呼べるような圧力をかけられた琴音ちゃんには反撃の気力はなくて、終いには私の手を握って震えだす始末。


「君はアイドルなりに来たんだよねー?お客さんの前でもタイガーマスクなのかなぁ?顔見せてくれる?」

「……メンナサイ」

「え?聞こえないよ?」

「あの……だからこの子人見知りなんですってば…」

「それは聞いたよ」


 矛先が私に向いた。

 挑むような眼差しを向ける私に見下ろす眼光が突き刺さる。

 どうしてこうなった?私はみんなといい関係を築かなければいけないのに…


 これが主人公の性……?


「バカにしてるでしょ?その子」

「この子にはこの子の事情があるかもしれないでしょ?」

「あのねぇ……これから一緒にユニット組んでやっていくかもしれないのに…顔も見せられませんってのはどういう事よって話なんだけど?」

「まだ出会って3分も経ってない、高圧的な人にいきなり心を開けというのも無理な話では?」

「……は?」


 やばいぞ……どうする?

 なぜか売り言葉に買い言葉で喧嘩腰になっちゃってるんだけど…

 このままでは始まる前に関係に亀裂が入ってしまうのでは?

 私はあなた達の百合が見たいんですよ?


 この状況をどうやって穏便に纏めようかと…

 あまり出来の良くない脳が回転するその時…



「……あ、よかった…人居た」


 玄関を潜りエントランスに現れた新しい人物。

 ハスキーボイスを響かせ、今まさに女のジメジメした戦場と化しかけてたエントランスに颯爽と現れた美少女は、この真夏に上下ともに黒いスーツ姿という目を引く姿で笑いかけてくる。


 顔を包むような柔らかいショートヘアの、優しそうな雰囲気の美少女でした。


「…誰も人居なくて時間間違えたかと思っちゃいました。えっと…合宿の人ですよね?」

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