第78話 声出したら、みんな起きちゃうよ
せいちゃん宅にて初めての夜。六畳の単身者用アパートの一室にて健全な成長を遂げた乙女が6人…私達は互いの身体を寄せ合い、あるいは重ね合う事を余儀なくされながら夜を迎える。
まさかこんなボロアパートに美少女6人が身を寄せ合ってるとは誰も思うまい…
『そこにおるんかぁぁぁ…』
……隣から不気味な声が聴こえるけど…それ以外は私達の気配以外何もない。
『そこに愛はおるんかぁぁぁ…』
「…星羅うるさい」
「ちげーよ。万理華ちゃんにはあの声私に聴こえんの?」
「引っ越しなさい」
……さて。
天鬼りあ、百合の申し子…
この濃密なお泊りイベントで何もしないわけにはいかない。
…そろそろくっ付いてくれないと困っちゃう。
穴の開いたブランケットを蹴り飛ばして、みんなの身体に埋もれた床を前進。
その先に琴音ちゃんを抱きしめて眠る紗良ちゃんのシルエットが…
ことさらてぇてぇ……
「……?りあちゃん?何してんの?」
一人玄関で窮屈そうに体を丸めてたはーちゃんが私の接近に気づいて頭を起こした。
「しーーっ」
「?」
互いに自らの半身を抱きしめるように眠る二人の天使。
琴音ちゃんを包み込む紗良ちゃんに上から接近。
「……いや、ほんとに何してんの?」
「しーっ!はーちゃん静かにっ」
「むにゃむにゃ……ガパオライスの津波が…日本に迫ってる…」
「うぅん…みんな…逃げろ……」
琴音ちゃんが紗良ちゃんの寝言にうなされてる。
そんな様子をスマホで撮影した後……
「紗良、愛してる…」
まず紗良ちゃんの耳元に囁くでしょ?
「えっ!?りあちゃんっ!?」
「しっ!!はーちゃんもう寝なさいっ!!」
「…そうだったの……?」
「違うから」
で、そしたら紗良ちゃん…
「えぇ…?むにゃ…困っちゃうにゃ……」
「この琴音の……女になってくれ」
「ことにゃ……?」
「愛してるんだ」
「えぇぇぇぇ……?むにゃ…」
「返事を聞かせてくれ」
「むにゃむにゃ…ことにゃの女には……」
「300万あげるから…」
「なりましゅ…ことにゃの女にゃる…むにゃ……」
こうするでしょ?
「……りあちゃんほんとになにしてるの?」
「裏工作」
「……(ドン引き)」
でぇ、今度は琴音ちゃんにぃ。
「聞いたか琴音、これが私の気持ちだ」
「……んにゃ?」
「この黒沢紗良を……お前の女にしてくれ」
「…………やだ。むにゃ…」
「愛してるんだっ」
「キモイ……むにゃむにゃ…」
「じゃあ、私死ぬ」
「……落ち着け」
「琴音の女になれないなら死ぬね?」
「バカか。やめぇりょ…むにゃ……」
「じゃあ、紗良の事恋人にしてくれる?」
「わかったわかった…」
「約束ね?」
「うん…」
こうするでしょ?
「じゃあ、あとは二人で幸せに暮らしてね?」
「「うん…」」
こうなるの。
「…りあちゃん……」
「睡眠中強制洗脳だよ。朝になったら本物の恋人になってるからね」
「意味が分からないよ…」
……
「…はーちゃんもこうなるんだよ?」
「!?」
今まで二組のカップルをこの洗脳で完成させてきたんだ。これ、効きます。これ、ほんとの話。
「むにゃ……ことにゃ……」
「むにゃ……めし…」
「めしはことにゃの仕事でしょ?」
「私は疲れてんだ…むにゃ…」
「なにさっ……わたしだって……っ…むにゃ」
「……なんか喧嘩し始めたよ?」
「あれぇ?」
「なによっ」
「なんだよっ」
「離婚よっ!この……モラハラ幼稚園児っ!!」
「誰が幼稚園児だこの眼帯中二女っ!!」
「むきーーーっ!!」
「けーーーーっ!!」
……
「りあちゃんこれ…寝てるんだよね?」
「……シナリオがまずかったかなぁ…じゃあ次は学園ラブコメで……」
「あんた達いい加減寝なさい(怒)」
……万理華さんに怒られちゃった。
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そろそろ本格的に百合カップル製造に着手しないと、この作品の本筋を見失う気がする……
神なる視点からの懸念点をぼんやり考えながら床について、万理華さんから顔を蹴られ……ようやく瞼が重たくなってきた。
時計の針が2時を指してたのは覚えてる。
げ……明日も学校なのに……
友達の家でお泊まりなんて初めてだから興奮してるのかもしれない。
あんなに疲れてたのに……
「プチョヘンザッッッ!!!!」
……それでも疲労からか泥のように深い眠りに……
「プチョヘンザッッッ!!!!」
ついたと思ったらこれですよ。
ド深夜の暗闇に響き渡る絶叫。
何事かと跳ね起きて辺りを見回すけど、異常なし。
また隣の人が騒いでる……?
「プチョヘンザッッッ!!!!」
「……こ、琴音ちゃん…?」
「プチョヘンザッッッ!!!!」
違った。
琴音ちゃんだった。
紗良ちゃんに抱かれた琴音ちゃんが深い眠りの底でプチョヘンザ。衝撃的な声量の寝言に思わずドン引き。
「プチョヘンザッッッ!!!!」
「……もしかして、寝てる人に話しかけるとおかしくなるって……アレか?」
私のせいか?
「プチョヘンザッッッ!!!!」
鳴り止まないプチョヘンザ……
プチョヘンザの意味について考える。
たしか「盛り上がっていこーぜ」みたいな意味の言葉だった気がするけど…
もしくは百族の長…
「プチョヘンザッッッ!!!!」
「ふぐっ……うぅん……(涙)」
拳を振り回しながら叫びまくる琴音ちゃんの暴走に、紗良ちゃんが巻き込まれてた。これは確かに結婚できない。
琴音ちゃんの衝撃的な寝相の悪さに戦慄しつつ、私は何も見なかった事にして再び横になる。
「プチョヘンザッッッ!!!!」
一人で盛り上がっちゃってる琴音ちゃんの声を前にもう一度夢の世界に落ちていくのは…不可能だろうから、スマホを取り出す。
「プチョヘンザッッッ!!!!」
……あっ。『ママと撫子』のY〇uTubeチャンネルにコラボ動画あがってる。
この前スタジオで撮ったやつだ…
最新の動画のところに私達の顔がモザイクで隠されたサムネイルがあがってた。
今のところこれが最新の動画。
……次にあがる動画は引退発表か…
なんだか少しやるせない気持ちになるな。
これから飛び込んでいく私達と、去っていく人達。
万理華さんのお母さんも去っていった。
万理華さんの元のユニットの仲間も去っていった。
こうやって幾人も消えていくんだろうな…
私達はどこまでやれるんだろう……
考えても仕方ない事が頭を過ぎった。
意識を「プチョヘンザッッッ!!!!」切り替えて『FOOLS』でエゴサしてみたら、私達の公式チャンネルが立ち上がっ「プチョヘンザッッッ!!!!」てるのを発見。
「……いつの間に…星熊さん何も言わないんだなぁ…」
「プチョヘンザッッッ!!!!」
動画が一本上がってる。
サムネ的に合宿所の様子を録画したやつみたい。
「朋花ちゃんの映ってるところはカットされてるんだろうな……」
「プチョヘンザッッッ!!!!」
そう……朋花ちゃんも去っていった一人か…
なんかそう思ったら動画を再生する気にはなれなかった。
ただ、私達は確実に世間に向けて踏み出してる。
……動画の再生数は8だったけど。
アイドル事務所の公式チャンネルでこれか……
「プチョヘンザッッッ!!!!」
「……それに対して『りあちゃんのえっちなASMRチャンネル』の登録者が……15万人に……」
最初の投稿以来何もしてないのに…っ!!
「プチョヘンザッッッ!!!!」
「てかうるさいなぁ」
みんななんで起きないの!?
流石にやかましすぎるよって思って起き上がってみたけど、万理華さんも紗良ちゃんもぐっすり眠ってる。
……今後琴音ちゃんと寝る時は耳栓…
「ん?」
せいちゃんとはーちゃんが居ないな…
誰かの下敷きになってんのかなって思ったけど、やっぱり居ない。はーちゃんは一人玄関の方で、みんなから離れて寝てたはずだけど……
「プチョヘンザッッッ!!!!」
「……やかましすぎて出て行っ……あ、トイレ?」
はーちゃんを探して玄関の方に視線を向けたら、トイレの扉が薄ら開いて、廊下に橙色の光の線が一本伸びてるのに気がついた。
「……え?連れション?」
狭いアパートの一室。視線を巡らせれば死角はない。目の届く場所に二人の姿はない。二人が居るとしたらトイレだ…
ならば連れションだ。
覗かないわけには……いかない、か……
時計を見たらもう4時だった。
どうせもう寝れないからと開き直って、視姦用オペラグラスを手に私は立ち上がった。
みんなを起こさないように足音を殺して……
「プチョヘンザッッッ!!!!」
必要ないか。これで起きないんだもんな……
折り重なったみんなを跨いで堂々とトイレの方へ……
「……せいちゃ…やめて……」
トイレの方に行ったら、琴音ちゃんの寝言で聞こえてなかった声が中から聞こえてきたよ。
声ははーちゃんだ。
今せいちゃんって言ったね。
連れション確定か?
心臓の鼓動が早くなる……
息を殺して、薄らと開いたトイレの扉の隙間から中を覗いたら…………
扉に背を向けた二人の姿が目に入った。オペラグラスを使うまでもない至近距離。狭いトイレの中で二人は重なってる。
便器の方にはーちゃんが立ってた。
……え?立ちション??
はーちゃんの後ろからせいちゃんが覆い被さるみたいに抱きついて、手を回してた……
はーちゃんの下……
下腹部に……
「やめてよ……っ」
「やめてよ、じゃないでしょ?……全く……」
……え?
「あっ……ちょっ……そんな乱暴な……っ」
「声出したら、みんな起きちゃうよ」
「……っっっ」
…………えぇ?
「大丈夫大丈夫……これは……二人だけの秘密だからさ……」
「せいちゃ…………っっっ」
えぇぇぇぇっ!?!?!?
「ほら、私に隠してる事、まだあんじゃないの?全部見せ……」
そこで私は踵を返して、叫び続ける琴音ちゃんを踏みつけて、元の場所に戻ってきて寝っ転がった。
…………え?
………………え?
……………………え?
二人はトイレで何を?
はーちゃんの色っぽい声。
くねくねとうねる二人の身体。
はーちゃんの下腹部に伸びるせいちゃんの手。
これは……
これって……
「………………え?あ、まじ?」
それは私の求めてる『百合』のはずだった。
はずだったけど……
突然の事態に私はてぇてぇどころじゃなくなってた。




