第77話 やーらし!!やーらし!!幼稚園児のくせに!!コンプラ違反だ!!
オリジナル曲製作の為に立ち上がった天鬼りあとかわいい仲間達は楽曲制作スタジオであるせいちゃんの家に集まった!
そんな『FOOLS』一行の元に立ち塞がる試練とは……っ!!
「……あの、狭くね?」
六畳のワンルームの中で肩を寄せ合ってちゃぶ台に向かい合う6人は、はーちゃんが持って来てくれた晩御飯に舌鼓を打ちながら…愚痴ってた。
この狭いボロアパートに6人は無理があったか…
「いや、狭くね?」
紗良ちゃんが豆腐と春雨のサラダをむしゃむしゃしながら右目の眼帯のゴムをバチンバチン引っ張ったり伸ばしたりしてた。
「はーちゃんこれ美味しいっ」
「良かった。沢山食べてね琴音ちゃん。琴音ちゃんはちっちゃいからいっぱい食べないとダメだよ?」
「ちっちゃいってどういう意味?」
「他意はないよ?」
「ちっちゃっさで言ったらはーちゃんも変わんないでしょっ!?」
「だから誰も胸の事言ってないよ?」
「はーちゃんが胸言及したら言ってるようなもんじゃんっ!!」
「琴音ちゃんが深読みしすぎなんだよ」
……なんてわちゃわちゃやっておりますが、みんなの顔には隠しきれない疲労感が。
その原因は今日のレッスンだ。
「……疲れたわね」
いつもみんなを先頭で引っ張ってるタフな万理華さんも思わず弱音を吐くくらい、ハードだった。
「星羅のオリジナル曲の振り付け……相当難易度高いわよ、あれ…みんなついていけそう?」
そう。
せいちゃんが生と死からインスピレーションを得て領域展開したオリジナル曲の振り付け…ハナアナコーチが急ピッチで仕上げたダンスが想像以上の難易度なんだよね。
元プロの万理華さんがへばるくらいだ。
銭湯のお湯でも流しきれない疲労が、岩のように体にのしかかったままだよ。
「練習期間も2ヶ月切ってるしなー…しょーじき、体が持つ気がしないわ」
紗良ちゃんが唐揚げをしゃぶりながら琴音ちゃんのスウェットで指を拭く。
「脂つけんな!!」
メンバーからのリアルな意見に万理華さんの顔色も優れない。デビューまでのスケジュールは万理華さんが決定した。責任を感じてる。
そこに個人的な意思が大きく含まれてるとなれば尚更だ。
「……何とかなるよ」
でも、万理華さんの過去と想いと事情を知ってしまった私には、もうこのデビューまでの2ヶ月を放り出す気にはなれない。
その為には何としても二曲目を……
「……サーキットフェスに出場する為の条件として提示されたのは三曲。星羅のオリジナル曲と『THREEPIECE』のカバー。現実的には考えれば最後の一曲も『THREEPIECE』の曲を使った方がいい。『THREEPIECE』の曲は合宿で散々練習に使ったし、そうすれば実質的にレッスンはあのハード曲のみでいけるわけだしね…」
疲れた顔で頬杖をつく万理華さんはみんなを見回した後、せいちゃんを見る。
「……でも、星羅は作りたいのよね?」
「曲の著作権で……タワマン買うんだ……」
目が血走ってるせいちゃんの意思は固い。
「なぁ星羅?もう一曲作ってんだからさ、ここはさ?現実的な路線に切り替えようぜ?」
紗良ちゃんがきんぴらごぼうを琴音ちゃんの髪の毛に差し込んで遊んでる。
「やめろバカ!風呂入ったんだよっ!!」
「紗良ちゃん僕のご飯で遊ばないで……」
ボールペンを握る鬼気迫るせいちゃんの様子を伺う。こんな顔見た事ない。真剣だ。
初めは三曲作る予定だった。でも妥協して二曲。
音楽に誰よりも真剣なせいちゃんの想いはこれ以上の妥協を許さないんだろう。
もしかしたらこれが、芸能界でせいちゃんがやりたい事なのかもしれない…
せいちゃんが合宿に参加した日に語った音楽観。
朋花ちゃんが感じ取ったせいちゃんの意思。
この人の想いも万理華さんと同じくらい重い。
「……今回の事はみんなに謝らないといけないわね」
箸を置いた万理華さんがみんなに頭を下げた。
「こんなにデビューを急ぐのも、私個人の事情があっての事でもあるの。みんなにはそれを強要してしまってる。負担に感じてるだろうし、文句が出ても無理ない」
みんなが紗良ちゃんを見た。
「……いや、別に文句言ってんじゃなくて…え?私いっつもそういう感じ?」
「お前がロクデナシなのはみんな知ってる。だから大丈夫。今更嫌いになんてならないよ」
「黙れインターネットの嫌われモン」
6畳のボロアパートの中で紗良ちゃんと琴音ちゃんのプロレスが始まってしまった……
万理華さんは無視した。
「だから私も……星羅がやりたいって事に反対するつもりはない」
「……リーダー」
「星羅あんた…私の事リーダーって認めてくれるのね……」
「今日だけ……」
「ふざけんな」
うーん……まりせいもいいなぁ…てぇてぇ…
「まぁ……あの事務所に任せてたら正直、いつデビューできるか分かんないもんね」
はーちゃんが笑いながらそんなふうに締めてくれた。
みんな思うところはあると思う。
でもとりあえず、同じ方向は向いてる。
「さて!」
万理華さんの気合いの入った声が空気を引き締めた。両手を叩いて、眠気と疲労を吹き飛ばす。乾いた音に私の意識も切り替わった。
「……じゃ。ジャンジャンアイディア出して」
……そして突きつけられるのはこの無情なる現実なのである。
歌詞制作。
目の前には白紙のノート。
時刻は22時。
明日も学校とレッスン。
とほほ……
作曲はせいちゃんに委ねるしかない。私達に曲を作る能力はない。
私達に出来るのは……歌詞を捻り出す事だけだ!!
「やっぱりぃ…カワイイ系がいいと思うんだ。あとリズムだよね。思わず口ずさんじゃうようなフレーズ…「ナマコパスタ」とか?」
「紗良ちゃんの中ではそれがかわいいなんだね。覚えておくよ…僕はね…「お姉ちゃん」って単語は入れたいな」
「こわ」
「なんでさ万理華ちゃん。怖くないよ」
「「友情」「努力」「勝利」ここら辺は外せないわよ」
「つまんねー」
「じゃあ琴音なんか案出しなさい(怒)」
「「なんでやねん」とか」
「なんで歌詞でツッコんでんのよ……」
「ん〜……せいちゃん。曲のコンセプトとかあるのぉ?」
意味のない単語の羅列がノートを埋めていく。纏まりそうにないからせいちゃんに訊いてみた。
「インスピレーションが降りてこない……なんかふわふわしてんだよね……例えるなら……インスピレーションがリトル・ピープル」
「なんか詩的でかっこいいねそれ」
「インスピレーションがリトル・ピープル」ね。書いとこう。
「りあちゃん違う。それアイディア違う。私の頭の中は今混沌としたカオス状態って事だよ」
「最初の曲かっこいい系じゃん。カワイイ系でいこーぜ。「たらこパスタ」とか、どうよ?」
「なにがどうなんだよ」
「分かったよ紗良ちゃん。明日はパスタ作ってくるね」
「「なめこ汁」は?」
「こいつ腹減ってるだけだわ」
「おにぎり食べな?」
「「チョウチンアンコウ」とか」
「いやらしいっ!!」
「おい琴音!何がいやらしいんだ!!「チン」か?「チン」に反応したのか!?お前のがいやらしいぞ!!やーらし!!やーらし!!幼稚園児のくせに!!コンプラ違反だ!!」
「黙れ紗良」
「児童ポルノ!!」
「誰が児童ポルノだっ!!」
……てな感じで、何も進まない。
時計の針だけがチクタクチクタクって流れていく。23時を回った時点での成果は紗良ちゃんが明日パスタを食べたがってるっていう情報だけだった。
今まで歌詞なんて作った事ないからなぁ……
未知なる挑戦を前に私達は暗闇に立たされる。
実際、外も真っ暗だよ。
「星羅、あんた言ってたわよね。音楽には作り手のメッセージが込められてるって……あんたが今伝えたいメッセージってなに?」
万理華さんはずっとせいちゃんのインスピレーションに問いかけてる。
「それで言うと生と死のインスピレーションから誕生したあの曲は何を伝えたかったの?」
はーちゃんも問いかけてる。
「腹が……減った……」
そして今せいちゃんが伝えたいメッセージはこれだった。
「ごめんね。明日はもっと沢山作ってくるね」
「紗良ちゃんがほとんど食べちゃったもんな〜」
そう言って当事者を見ると……紗良ちゃんは琴音ちゃんを抱きしめて捕獲したまま、寝落ちしてた…
ことさらだぁ!!ことさらてぇてぇっ!!
「むにゃ……ア〇パンマンの皮脂付アンパン…むにゃむにゃ」
「うぅぅ……ア〇パンマン……この顔……なんか臭いよぉ……」
琴音ちゃんに悪夢を吹き込む紗良ちゃんの寝言を微笑ましく観察しながら、くたくたに煮込まれた玉ねぎみたいなブランケットを二人にかけてあげる。これで二人は朝まで夢の世界だよ。
「その距離でオペラグラス要るかなぁ…?」
「分かってないなはーちゃん。肌のツヤ、髪の毛のコシ、唇の輝き……溢れんばかりの乙女の美しさを堪能するには至近距離での視姦…じゃなかった観察が必要なんだよ」
「髪の毛のコシ……?」
気づけばもうすぐ日付も変わる。良い子が夢の世界に誘われる時間だ。酷使された脳は疲労を訴えてて、私の口からも欠伸が零れた。
「もうやめだ。今日はやめ」
せいちゃんが半分落ちた瞼でボールペンをぶん投げる。それを合図に私もはーちゃんも万理華さんもペンを置いた。
「続きは明日にしよう……こんな疲れた頭でいくら考えても何も浮かんでこないよ」
「そだね。おつかれせいちゃん。じゃあ……」
せいちゃんを労りつつ今日という日を終わらせよう……って部屋の中を見た。
「寝よっ……か……」
ゴミと家具の散乱した狭い室内を。
「……これみんな寝れるかな?」
「今外に出たら条例違反で捕まるぞ」
舌をチロチロ出し入れするせいちゃんがそんな事を言って脅かしてくるけど、この部屋で雑魚寝したら確実に体の厚みが減る気がする…
…………まぁいっか。どさくさに紛れて万理華さんの乳でも揉むか。




