第76話 洗わぬ膀胱に乳首?
『FOOLS』デビューに向けて天鬼りあの日常は忙しなく回っていく…
万理華さんとのカラオケから一晩。
いつも通り学校行って、放課後にスタジオでレッスン。
「みんなぁ。星羅ちゃんが作ってくれた曲の振り付けが完成したわよぉ」
ダンス講師の青ブロッコリーことハナアナさんがせいちゃんのオリジナル曲の振り付けを完成させたらしい。
「すごいスピード感です。仕事の速さと後の請求にこの星熊、震えが止まりません」
……で、その作者さんだけど…
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……っっ!!」
「星羅?星羅どした!?」
「琴音近づくなっ!!星羅は今寝不足で類人猿まで退化してんだっ!!」
「……つまり紗良と同レベルにまで…?」
「おぉう…言うようになったじゃん琴音……」
みんなせいちゃんから距離置いてる。それくらい今のせいちゃんはヤバい状態だよ…
「……ベロチュー…………ベロチュー…………」
ベロンベロンッ
「よ…妖怪ベロチューおばけだ…(震)」
「近づいたらやられるぞはーちゃんっ」
流石の私も私も今のせいちゃんの異常性には冷や汗だよ。なんか…こんな妖怪いた気がする。あかなめ?
「楽曲制作の進捗は?」
万理華さんが(せいちゃんから距離を取りつつ)紗良ちゃんに問いかける。
「二曲目に関しては…な~んもできてない。毎夜毎夜私がベロチューされてるだけ」
「仕事しなさいよ…」
『FOOLS』のデビューはせいちゃんの才能にかかってる…万理華さんのアイドル人生も……
「はいみんな、ちゅーもく」
講師のケツアナさんの緑ブロッコリーが揺れる。
「デビューまで2ヶ月切ってるのよ。ここからは時間を無駄にしてる暇はないわよん」
……そうだ。時間がない。
「2ヶ月…このままのペースで間に合うのか…ですが…」
星熊さんが私を見た。「万理華さんに探り入れてくれましたか?」って視線が尋ねてる。
紗良ちゃんも。
……
万理華さんの出自は他人がペラペラしゃべる事じゃない。
でも、万理華さんの想いも本物だ。
「……みんながんばろうねぇっ」
ガッツポーズと一緒に呼びかける私に二人は諦めの眼差し。
私がこの無茶なスケジュールに関して、万理華さんを説得してくれたのを期待してたのかな。
「……それとねぇ」
緑ブロッコリーさんがねっとり呼びかけた。
「この楽曲のセンターなんだけど…」
……きた。
アイドルグループのセンター。その単語にみんな食いついた。
デビュー曲でのセンターはきっと特別だ。ここで選ばれた子はこの先、『FOOLS』をパフォーマンスで引っ張っていく事になる……んだと思う。
……私が選ばれちゃったりして……?
なんて考えてみるけど、もう答えは決まってる。
「うちは6人のユニットだから、Wセンターでいく事になるわん」
「待ってください。そーいうのってマネージャーの私とかから発表した方がよくないですか?というか、なんでダンスコーチが勝手に決めるんですか?」
……そっか。
朋花ちゃんが抜けてメンバーは6人。偶数ユニットだから中央に立つのは二人…
……もしや?
みんなの顔にドキドキって表情が浮かんでる。
もしかして自分が…って予感が…
「この一曲目のセンターは星羅ちゃんと、万理華ちゃんよ」
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レッスンが終わった。
クタクタだった。
私達はスタジオを後にしてその足で銭湯に向かう事になった。
……なぜなら、私達の一日はまだ終わらないからだ。
「星羅、今からみんなで楽曲制作手伝うわよ」
帰り際万理華さんからの純粋な善意から来たその提案。穴持たずの熊みたいになってるせいちゃんはその提案にまず首を90°傾げ
「えっ!?大丈夫折れてないそれ!?」
琴音ちゃんが戦慄し……
「私NO曲ハ私が作るン」
怪しい呂律で拒否した。
「ダメよ。あんた寝てないんでしょ?それに…進捗も芳しくないみたいだし。確かに私達に曲なんて作れないかもしれないけど…歌詞のアイディとかみんなで出し合いましょ?いいインスピレーションが降りてくるかもしれないじゃない。それに単純にあんたの世話の事も心配。風呂入ってる?」
天性の美女せいちゃんは今日ちょっと臭かった。
「うuーーーー」
なんとも形容しがたい声で唸るせいちゃん。私はそっと寄り添ってフラフラな体を支える。
寝不足とレッスンのダメージでせいちゃんの肉体は深刻な状態だ。この様子じゃほんとにろくに食べてない。紗良ちゃんの舌しゃぶってるだけの可能性が……
「……やんっ。りあちゃんったらそんな嫉妬に駆られた眼差しで見つめないで♡りあちゃんにもあげるから。ん〜べろべろっ」
「まじで、キモイ。黙れ、紗良」
「琴音、そんなSiriに話しかけるみたいにツッコむな」
無視して、せいちゃんだ。
「せいちゃん。この前言ったよね?みんなで手伝うよ」
「……」
「みんなで素敵な曲考えよう」
「…………利権ハ私のMONOダ」
お金に困ってるらしい。
まぁそんなわけで今日はせいちゃんの家で泊まり込みでの作業になる。
ただ、問題がある。
「紗良ちゃん、せいちゃんの家ってどんな場所?」
もはや自分の足で立つことも叶わない(自活的にではなく物理的に)せいちゃんを背負うはーちゃんが銭湯までの道すがら問いかける。
「狭い、臭い、汚い、傾いてる、風呂なし」
同棲中の紗良ちゃんの返答はこれだった。
「階段がね、抜けるんだよ」
私も補足しておくね。
「引っ越しなさい」
「今は無理っしょ万理華ちゃん。この人金ないもん。デビューしていっぱい仕事来たらタワマン住もうね?星羅?その時はこの紗良ちゃんも同棲してやるからなー?」
「……うーーー……ラピ〇タ住ム」
「人は大地から離れて生きてけないんだぞ?」
琴音ちゃんのありがたい教訓を胸に、私達はしっかり自分の足で(一名以外)歩いて銭湯に到着。
……ちなみに琴音ちゃん、今日はおかしなマスクをしてないっ!!代わりにサングラスとマスクを装着。
やっぱり素顔を晒すのにはまだ抵抗があるみたいだけど、これは洞窟暮らしから農業始めましたくらいの進歩では?
りあちゃん、思わずにっこりほっこりだよぉ。
そしてここではーちゃんがせいちゃんを背中から引きずり下ろした。
「じゃあ僕は着替えとか諸々取りに家に帰るから……」
「あぁん?んなもんビンコニで後で纏めて買えばいーじゃん」
そそくさと踵を返すはーちゃんを紗良ちゃんが捕まえた。首根っこを掴まれた猫みたいに持ち上げられるはーちゃんはジタバタと手足を振り回しての抵抗を試みる。
「やめなさい」
そんなはーちゃんを救ったのは万理華さんの手刀による一撃だ。鈍い音を立てて紗良ちゃんの手首が曲がる。かいしんのいちげきだ。
「おいっ!?……あらぬ方向に手首が…っ!」
「洗わぬ膀胱に乳首?琴音ったらいきなり往来でそんなド変態発言……」
「紗良は合宿所の伝言リレーの前科もあるし耳鼻科行ってこいよマジで」
フルフェイスマスク(多分ドン・キホ〇テ産)がない分口の悪さとツッコミが普段よりキレキレな琴音ちゃんでした。
そろりそろりと、これ以上何かを言われる前に立ち去ろうとするはーちゃん。
「……お風呂入ってからでもよくなーい?」
「わひっ!りあちゃん…急に囁かないで……」
「一緒に入ろーよぉ」
「あはは……今持ち合わせがなくて……」
「奢るよ銭湯代くらい」
「どumoありガト」
君じゃない。せいちゃんがお風呂に入ってないのは忙しさじゃなくて金欠のせい……?
「りあ、陽は忙しいのよ」
「万理華さん」
「一旦帰って、晩御飯の材料持ってきてくれるのよね?」
万理華さんのその一言にメンバーは色めき立つ。
はーちゃんは一瞬ポカンとした顔したけど……
「うん。何か作るよ。長くなりそうだしね」
「うわぁ……っ…はーちゃんご飯作れるの?」
琴音ちゃんの目が見た事ないくらいキラキラだよ。
私も少しワクワクしてる。
友達の手料理かぁ……
「ぐすん……温かいメシ……」
紗良ちゃん泣いちゃったよ……
「楽しみにしてて。色々準備しに帰るから。みんなは先にせいちゃんの家行っててね?ところでせいちゃんの家って台所ある?」
大体の家にはあるくない?
「台所?あぁ……ゴキの家の事か……アルヨー」
紗良ちゃんの一言によってはーちゃんの手料理ははーちゃん宅で作って持ってくる事が決定しました。




