第72話 これはモンゴドギアの民謡、ペ・ルカよ。弾ける者って意味なの
初路上ライブはただおしゃべりして終わってしまった……
危機的状況を脱した私達はそのまま解散になって、はーちゃんは琴音ちゃんの手を引いてお家に帰っていったよ。またピンヘ〇ドのマスクを被ってたけど…まぁ今日頑張ったからいいよね。
別れてすぐにはーちゃんからLINEが来た。
万理華ちゃんから路上ライブの場所確保頼まれてたけどよく分かんなくて…でもみんな無事で良かったです!
次からちゃんと許可取ります!!
……いや、万理華さん警備員さんに捕まったんだが?
スマホ片手に駅前で立ち尽くしてたらお腹の奥底からモヤモヤしたものが立ち込めてくるのを感じた。
例えるならそう……前日の晩御飯で食べたカルビ肉がまだ消化されてなくて胃に残ってるような…違うそれは胃もたれだ。
消化不良なんだ。
今日歌えなかったから。
「……私、歌いたかったんだな」
お腹に溜まったモヤモヤを分析してから自分の変化に気づく。
私は今日路上ライブを楽しみにしてたんだ。
通行人が足を止めて私達を見てきた時、私の声に視線が集まった時、ドキドキした。
胸の奥から体が熱くなって、その熱が全身を支配していくのを感じた。
……変わったな、私。
以前の私なら人の注目を浴びる場に立つのは苦手だった。嫌だなって思ったはずだ。
でも今はみんなに私の歌を聴いてほしいと思ってる。
君、歌うの嫌いじゃないでしょー?
せいちゃんに言われた事がまた蘇る。
この変化が何に起因するものか考えてみた。
私がアイドルを目指すのはてぇてぇ百合を見る為だ。アイドルは目的じゃなくて手段だ。
でも今はアイドル活動そのものに目的を見出してる…?
私はアイドルを楽しんでる?
いや、まだアイドルになった訳じゃない。正確にはアイドルになる事を楽しみにしてる?
その理由は……
『FOOLS』のみんなとだから、が、一番収まりのいい理由なら気がした。その結論が一番自然に胸にストンと落ちた。
私は『FOOLS』のみんなが好きなんだ…
胸の奥がじんわり暖かくなっていく気がする。
…もっとみんなの事を知りたいな。
みんなの事で私が知ってる事って少ない。
琴音ちゃんが元Y〇uTuberで頑張り屋さんで
紗良ちゃんは昔いじめられっ子でそれでも今は前を向いて歩いてる強い人で
はーちゃんは優しくてしっかり者だけどお姉さんが変な人で
せいちゃんは歌も踊りも上手くて音楽が大好きなダメなお姉さんで
万理華さんは厳しくも優しいみんなのリーダーだ。
でも、知ってる事はそれだけだ。
みんなが抱えてるものとかを私は知らない。琴音ちゃんや紗良ちゃんにも、もしかしたら他にも何かあるかもしれない。
…そして、みんなが知ってる私の事も少ない。
「……見つけたわよ」
…聞きなれた声に顔を上げたら、いつの間にか周りが少し薄暗くなってたのに気づいた。
いつの間にか座って考える人みたいになってたら周りに人集りが出来てる。
「待ったァ?」「今来たとこー」
「もしもし?遅いよ早く来て!駅前の考える少女の所だから!」
「……なに待ち合わせスポットやってんのよ」
「万理華さん」
肩に止まってた鳩が羽ばたいていく。立ち上がる私の前には不機嫌を絵に描いたような万理華さんが仁王立ちしてた。
「警備員に捕まったはずじゃ…」
「あんた達が逃げるから大変だったわよ(怒)」
「だってこういう時は仲間を置いて先に行くものじゃん?」
「そういうのは私が「私を置いて先に行け」って言った時だけなのよ(怒)」
呆れ顔の万理華さんは集まってる鳩ぽっぽを見ながら軽くドン引きしつつ「ここで何してんのよ?」って訊いてきた。
訊かれて何してんだろって私も思ったよ。
「…考え事してたんだ」
「何時間考えてんのよ。駅前に新しい待ち合わせスポット爆誕ってSNSに拡散されてたわよ?」
「私…物思いに耽るといつもこうなんだ……リーマン予想について考えてたら三日経ってた事もあるよ」
「絶対嘘じゃん」
万理華さんの顔を見てたらお腹の底のモヤモヤがまた浮上してきた。
それと、万理華さんに会えて嬉しい。
「万理華さん…無事でよかったよぉ」
「なに急に…ヤクザに捕まった訳じゃないんだから……」
「もう二度と会えないかと思ったよぉ」
「陽にはもう二度と会えないかもしれないわね。あの子があんなにいい加減な子だったなんて思わなかったわ。今度会ったらタダじゃおかないんだから」
「というわけでここで会ったのも何かの縁だし…歌おう」
「え?」
********************
ふと振り返ってみたら私の人生には今まで、純粋な意味での友人って居なかったような気がするんだよね。
もちろんAさんもHさんも友達だ。他にも仲のいい子は居るし、今までも居た。
ただ、天鬼りあの人生とは、その大半を百合をてぇてぇする事に費やされてきた。それは間違いない。
私が今まで交流を深めてきた人達って、かわいい女の子ばかりで…要するに私が百合カップルにしたい、引っつけたい女の子達と打算ありきの形でばかり付き合ってきた。
……まぁ万理華さんもそうなんだけど。
ただ、カラオケでこうして二人で居ると思うんだ。
私は万理華さんの、みんなの事をもっと知りたい。
それは純粋な意味で友達になりたいって事なんだろうなって……
『エヤ〜〜〜ソッ!ソッ!ソッ!ホペレーニャ!ホペレーニャ!!』
「……万理華さんそれなんて歌?」
「これはモンゴドギアの民謡、ペ・ルカよ。弾ける者って意味なの」
「万理華さんってどこ出身?」
やっぱり知らない事ばっかりだ。
『ソッ!ソッ!ソッ!!ポペレーニャッ!!』
……こんな歌まで入ってるなんてこのカラオケ屋すごいなぁ…もしかして、ララ・パクソン族の『ボボロレア』も入ってるかもしれない…
なんてぼんやり考えてた……
「りあ」
「ん?」
「どうして急に二人でカラオケなの?」
「嫌だった?」
「嫌じゃないけど……」
「……消化不良だったんだよね。今日、歌えなかったから」
……ないか。
「ふぅん……」
私の十八番は演歌界の重鎮、高松蓮太の初恋酒。
『好きでぇ呑んでる お酒じゃないわぁ♪』
「あんた…もっとティーンの女子に相応しい曲があるでしょ」
「万理華さんに言われたくないよぉ」
「宇宙きらりとかにしなさいよ。ほら『SPACEステーション』入れてあげるわ」
「宇宙きらりあんまり詳しくない。知らない」
カラオケはいいかもしれない…
なんて言うか…友達って感じだ。
万理華さんはモンゴドギアの民謡が好きで、私は高松蓮太の演歌を歌う。
お互いにカラオケで歌う曲が知れた。ひとつ、お互いに詳しくなった。
『星の波を縫って 君のところへ行くんだ 何光年 離れても 君の手を握りに♪』
「ねぇねぇ万理華さん」
「なによ。サビで話しかけないでっ」
「さっきの話の続きなんだけどさ?」
「え?さっきのって?」
「路上ライブ始まる前に話したじゃん」
万理華さんの記憶が巻き戻って、歌って解れてたその顔に固さが出た。
それにしても万理華さんは気持ちよさそうに歌う。やっぱり歌うのが好きなんだね。
なんて、考えながら……
「どうしてデビューを焦るの?」




