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第70話 私はもう一度、みんなの前に帰るんだ

『さいたまシスターズ』は幼稚園の頃からの幼馴染4人で結成されたY〇uTuberグループだった。


 リーダーのまぁちゃん。

 しっかり者のさっちゃん。

 ムードメーカーのぺぇちゃん。

 で、『ぽいずんちゃん』こと私、鏑木琴音。


 みんな仲良しだった。

 幼稚園で同じクラスになって、家も近所で、自然と家族ぐるみの付き合いになって、私達4人は何をするにもいつも一緒。

 このままずっと4人は親友。

 そう思ってた。



 きっかけはぺぇちゃんがスマホを買ってもらったから。

 初めて見るハイテク機器に私達は大興奮で、好奇心から動画を撮った。当時からみんな好きだったY〇uTuberの真似をして動画を撮るのがその頃の私達のお決まりの遊びになった。


 チャンネルを作って投稿しようって言い出したのはまぁちゃん。

 まぁちゃんには歳の離れたお兄ちゃんが居て、そのお兄ちゃんの古いパソコンをまぁちゃんは時々弄ってた。

 まぁちゃんのお兄ちゃんから教わりながら私達は拙い編集技術で動画を作って、子供同士のごっこ遊びをY〇uTubeチャンネルに投稿した。


 チャンネルのアカウントはまぁちゃんのお母さんが作ってくれた。まぁちゃんの家は子供がやりたいって言えばなんでもしてくれる家だった。


 最初は誰も観てくれなかった。

 でも子供の出てる動画は需要があるらしい。

 3ヶ月、4ヶ月って定期的に投稿を続けてたら、次第にチャンネル登録してくれる人が増えるようになってきた。


 私達はY〇uTuberになった。



 ただ、お母さんには怒られた。お父さんも反対した。そんな遊びはやめなさいって。

 親に無断で素顔をインターネットに晒してY〇uTuberになった私の活動は最初、認められなかった。


 まぁちゃんとぺぇちゃんの家は寛容にも認めてくれてたみたいだけど、さっちゃんと私の家は認めてくれなかった。


 私達にとってY〇uTube活動は4人の絆を象徴するものになってた。だから私も、さっちゃんも、親の言うことなんか聞かないで動画を取り続けた。


 危ないからやめなさい。

 口をすっぱくして言う小言が鬱陶しくて憎らしかった。

 でも…この時お父さんとお母さんの言うことを聞いてれば良かったのかもしれない。


 とうとう堪忍袋の緒が切れたうちとさっちゃんの両親がまぁちゃんとぺぇちゃんの両親を交えて話し合いの場を設けたんだけど…その時には遅かった。


 編集技術が上がって動画のクオリティが上がるにつれてチャンネル登録者数が一気に伸びた私達のチャンネルは、事務所の目に留まってた。


 活動開始から一年経った頃の事だったと思う。

 人気急上昇してるチャンネルがあるってネットニュースにも取り上げられた頃、事務所からオファーが来た。


 そうなったらもう話は私達子供の手の届かない所で転がって、膨らんでいく。


 私の親は反対し続けたけど、事務所からオファーが来てるって言う事実がまぁちゃんとぺぇちゃん一家を後押しした。

 オファーの条件は4人組グループとしての所属…つまり私とさっちゃんが抜けたらこの話は無かったことになる。


 平行線のまま続いた話し合い。その間も構う事なく私達は動画を取り続けた。


 で、ある日ついにさっちゃんの親が折れた。


 子供達のやりたい事を自由にやらせてあげたい。さっちゃんも琴音ちゃんもやりたがってる。事務所がマネジメントしてくれるなら安心だ。


 そんな言葉に押し切られる形だった。

 そうなると私の家族も強く出られなくなってきた。

 元々同じ校区に通う子供の親同士。家も近所。

 私達の活動は近所の人も知るところで、どうやら私達の事を応援してくれてるらしかった。

 そうなると周りの目や当人達のやる気を押しのけて反対し続ける事は出来なくなってたみたい。


 その時の私達には分からなかったけど、多分お金の話とかも色々あったんだと思う。


 結局お父さんもお母さんもはっきりと賛成の意は示さなかった。黙認するって形で事実上、私の活動は認められた。




 動画を撮るのは楽しかった。

 私達はありのままの姿で戯れ、挑戦し、笑い合って、Y〇uTube活動に注力した。



 風向きが変わったのはいつだろう……

 よく覚えてない。けど、それは静かに、気づかないくらいじわじわと私達の仲に侵食してきた。


 元々この4人組の中で私はいじられキャラだった。

 三人に揶揄われて怒ったり…もちろんほんとに怒ったりした事はほとんどないけど…してそれが面白くてまたいじられる。そんな関係が心地よかったし、三人に構ってもらえるのも嬉しかった。

 動画の中でも私はいじられてキレるツッコミキャラ『ぽいずんちゃん』としての位置を確立してた。


 動画内での私へのいじりが酷くなった。


『さいたまシスターズ』のコンテンツの中で人気だったのはドッキリ企画だ。一番再生数が多かった。

 リアクション要因の私が一番ターゲットにされた。

 私達は遊びの延長線上でやってたし、ドッキリもやらせじゃなくて、毎回ほんとに仕掛けられてた。


 そのドッキリの内容がいつからか過激なものになっていった。


 最初は私も楽しんでた。

 遊び感覚とは言え事務所に所属して、プロ意識みたいなのを微かに覚えてた私としても、再生数って言う結果を意識し始めてて、数字の取れるドッキリ企画で派手なドッキリが増えていくのは好ましい傾向だと思ってた。


 でも、徐々に違和感を覚え始めた。


 4人で出かけて知らない所に置き去りにされたり、お弁当に異物を入れられたり、一日無視されたり…


 それまでにはなかった陰湿さが、綿に吸い込まれた汚水みたいにじわじわと侵食してきた。


 動画外での関係も変わった。


 今まではいつも4人一緒だったのに、気づいたら私達が会うのは動画を撮る時だけになってた。

 動画が絡まないところで遊びに出かけたりする事が無くなってた。

 4人の絆だったはずのY〇uTube活動が、気づいたらそれだけの関係に変わってしまってた。


 それでも私はみんなが好きだった。

 みんなと一緒に居たいし、前みたいな友達に戻りたかった。

 だから過激なドッキリとか、動画内でのいじりも我慢した。

 いつしか動画に出たくなくなってたけど、我慢した。

 またみんなで楽しく遊べるはずだって信じてたから、我慢した。


 お父さんとお母さんには相談できなかった。私は我儘を言ってこの活動を始めた。その負い目があったから。動画に出たくない、もうやめたいなんて言い出せなかった。


 我慢して……我慢して…………


 いつか昔みたいな4人に戻れるって信じて……



 でも、そんな日は来なかった。



 元々私がリアクション要因としてドッキリを仕掛けられる側だったのも、ついカッとなったりする気性の荒さがそのまま面白く見えるからだ。

 そんな気性の荒さを我慢で押し留め続けた日々…


 ついに我慢の限界が来た。




 動画内で激しく怒って暴れて、友達に手まで挙げた私のやらかしは致命的だった。

 しかも、その動画は公開された。


『ぽいずんちゃん』は鏑木琴音の素顔と共に瞬く間に薪木になって激しく炎上した。


 どうして動画が投稿されたのか。

 そもそもなんで私へのいじりが酷くなったのか。

 正直今も分からない。

 ただ後で聞いた話では『さいたまシスターズ』の収益の分配で、親同士の仲が少し、険悪になってた…らしい。

 それが遠因になったのかもしれない。子供にとって親の影響力は絶大だ。

 事実、『さいたまシスターズ』が解散してから私達の家族は交流が断絶した。

 自分の親がどう関わってたのかは知らない。けど、自分の親がお金の事で他の人と揉めてたかもしれないなんて話は考えたくなかったし、想像もできなかったから、考えないようにした。


 その後どうしたのかは事務所と大人達が話し合ったから詳しく知らない。

 ただ、まぁちゃんもさっちゃんもぺぇちゃんも、これからも動画投稿を続けたいって意思があるらしかった。

 だから無期限の活動休止って形になったらしい。

 それから二年音沙汰もないし、事務所との契約も切れた。『さいたまシスターズ』は事実上解散した。



 炎上の直接の原因になった私の所には当時、批判が殺到した。

 毎日のように、誰かも分からない人からの罵詈雑言の嵐。心に吹き荒れる猛風が私の心をボロボロに切り刻むのに時間はかからなかった。


 最初はどうしてこんな酷い事言われなきゃいけないんだろうって…悲しくて苦しくて…生きてるのが嫌になったけど……

 動画が投稿されてから時間が経っても炎上は収まらなくて、その時間の経過が私の頭を冷静にさせていくにつれ、気づいた事があった。



 みんなそれだけ失望したんだ…って。



 誹謗中傷してきた人達の中にはもしかしたら、ただの面白半分の人も居て、私達の動画なんてそもそも観てない人も居たかもしれない。

 もしかしたらそういう人ばっかりだったのかもしれない。


 でも中身のない誹謗中傷の中にある真剣味を帯びた批判を目にした時、私は、自分達のやっていた事の意味を理解した。


 私達にとっては『さいたまシスターズ』の活動は遊びの延長で、みんなとの絆で、楽しかったから続けてただけの…言ってしまえばそれだけだったけど、観てくれてる人達の立場に立って考えたらそんな軽い気持ちでやるべき活動じゃなかった。


 みんな応援してくれてたし、楽しんでくれてた。お金も絡んでた。私達のY〇uTuberごっこは、大きくなるにつれてごっこじゃなくなってたんだ。


 私はそんな事も……自分に課せられた責任とか期待とかを自覚する事もなく、ただお遊びの気持ちで続けてた。


 それに気づいた時には、炎上が悪化するからって、私は謝る事も許されない状況だった。


 私はみんなを裏切ったんだ……




 星熊さんがどうして私を『FOOLS』に誘ったのか分からない。

 分からないけど……


 星熊さんは私にチャンスをくれた。

 みんなの前に帰るチャンスをくれた。

 このまま…逃げたまま…後悔しながら暗闇で蹲ってるだけじゃダメだと思う。

 自分が何者だったのかを知ったから…その期待と責任と、裏切った気持ちの大きさを知ったから…


 こんな私を必要としてくれた星熊さんや、今隣に居るみんなの為に、私は今度は間違えちゃいけない。

 私は鏑木琴音。

『さいたまシスターズ』の『ぽいずんちゃん』であり、『FOOLS』の鏑木琴音だ。



 みんなの前に出ていくのは怖い。

 みんなは私を許してくれてないかもしれない。

 それでも……



 りあちゃんが繋いでくれる手の温度を感じながら……

 私はもう一度、みんなの前に帰るんだ。

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