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第68話 ああああっ……ああぁぁぁんっ!!///

『FOOLS』のグループLINEに万理華さんからのメッセージが来た。

 2ヶ月後のライブに向けての練習も兼ねて路上ライブやるので来れる人は来てください、との事だった。

 まぁ練習ってのは半分は建前で、実際には琴音ちゃんのマスク離れプロジェクトです。


 その証拠に(琴音は強制参加)って書かれてた…



 こんにちは。天鬼りあ16歳。中間考査を控えた多忙なる高校一年生にして、華のアイドル候補生。


「もぐもぐ……ママ」

「りあちゃん、ご飯中はスマホ置きなさい?」

「ママ、私デビュー決まったよ」


 ママと二人の食卓で私はこの事実を報告する。

 実際は先行き不透明の無茶なスケジュールなんだけど…

 とりあえずママを安心させたかった。


「あら良かったわね」

「2ヶ月後ライブなんだぁ。ママ来てね?」

「ママはいいよぉ……なんか恥ずかしいし」

「……もぐもぐ」

「りあちゃん、咀嚼しながらもぐもぐって言わなくていいのよ?」


 ママの反応はあっさりしてた。まるで晩御飯の冷やし中華に入ってたキュウリみたいに…


 そっか……ママにとってはデビューが決まろうが決まらなかろうが不安なものは不安なんだな。だってアイドルだし……


 最近ママがアイドルの誰それがストーカーに刺されたとか握手会でどーたらこーたらとか…そんなニュースばっかり調べてるのに気づいてた。

 我が子が素顔を世間に向けて晒すって行為は親なら不安になって当然なんだ。


「……もぐもぐ。それでね?ママ、デビューに向けて忙しくなるからもしかしたら外泊とかするかもしれないんだけど…」


 せいちゃんの楽曲制作があるから、泊まり込みで手伝う可能性もある。

 先に保険をかけておこう。ママは心配性だから。


「そうなの?ちなみにどこに泊まるの?もしかして事務所……?」

「……え?事務所だったらまずい?」

「…………」


 なんかママの言い方が不穏だ。隠しきれない不安が見え隠れ……


「…………同じグループの子の家だよ」

「そう……」

「うん」

「ねぇりあちゃん……」


 ママが箸まで置いて、真剣な顔で私を見つめてくる。こういう顔をする時は大抵、ママの過保護が爆発する時だけど……

 話の流れ的にアイドル活動に関する事だと思うけど……


 アイドルなりたいって言った時は反対なんてしなかったのに、急にどうした?


「ママね?りあちゃんの入ってる事務所についてちょっと調べたの……」


 ぎくっ。


「そのね?……言おうか迷ってたんだけど……あの事務所ちょっと…………おかしいのよね?なんか……本社の所在地も意味分からない場所になってるしね?」


 ちょっとじゃなくてすごくおかしいんだ、ママ。


「転職サイトにも名前が乗ってて元従業員の人の口コミで「給料未払い、日に30時間の残業という矛盾のみを条件に成立する業務」とか訳の分からない事書いててね?」


 ……


「りあちゃん……あの事務所じゃなきゃダメなの?」


 ママ…………


「ごめんね?でもママ不安で不安で……」

「……ダイジョウブダヨママ」


 ……いや大丈夫なのかなぁ?考えてみればあの事務所に私の人生任せていいのかなぁ?


 色々先行き不透明な現状も合わさって途端に目の前が不安という暗闇に陰っていく。


「イガイトチャトシテルンダヨ」


 それでも今の私には仲間達(百合素材)が居るから…

 ママに悲しみと裏切りの大丈夫をプレゼントしとくしかなかった。


「ダイジョウブダヨ」


 *********************


 東京には各所に路上ライブが出来るスポットがあるらしい。


 その日私は指定された渋谷の集合場所で一人メンバーが集まるのを待ってた。


 ここでやるのかぁ……


 大通りに面したちょっとした広場みたいな場所だ。背後には大きな商業施設がそそり立ってる。

 スペースは結構広くて、目の前の通りも広くて人通りが多い。

 沢山の人の目に留まりそうだなって思った。

 同時に、いきなりここに立たされる琴音ちゃんへの心配が勝る。


 ……いや、これは琴音ちゃんの為の特訓。


「待たせたわね」


 約束の時間より20分も早いのに、私がぼーっとしてる間を5分も与えずに万理華さんがやって来た。

 上下共に黒い襟付きシャツとスラックスだ。薄ら光沢のあるシャツには地の色と同じ色の蝶がプリントされてる。ツインテールとはアンバランスな大人な装いだけど、不思議と画になってる。


 よっこいしょって担いできたスポーツバッグをその場に下ろして早速設営を開始する万理華さんを手伝う。


 ……と言っても宣伝用の看板(ダンボール製)とBluetooth接続のスピーカーだけだけど……


「こんな所で歌うなんて緊張するね」

「慣れとかなきゃね…琴音だけじゃなくてあなた達も」


 流石に元プロ…なんなら既に注目を浴びてるにも関わらずその表情には緊張はない。


 ……話さなきゃな。


 集合時間より20分も早く着いたくせに3分もかからずに終わっちゃった設営の後、私は意を決して万理華さんに問いかける。


「万理華さん、ちょっと訊きたいんだけどさ…」

「え?なに?」


 スピーカーと自分のスマホを接続しながら万理華さんはこっちを見ずに応じる。


「……あ、いや…その前に昨日せいちゃんとこ行ってきて色々話してきたんだけどね」

「うん」

「ライブに必要な三曲目だけど…一曲は私達がレッスンで使ってる『THREEPIECE』の曲にしようってはなしになったんだ」


 怒るかな?リーダーを差し置いて勝手に話を進めて……

 でも万理華さんは「そう」って、ちょっと照れくさそうな顔をしながらそれだけで応じた。


 過去の自分の曲を使う事への了承は取れたって考えて……いいのかな?


「でもいいの?私の…私達の昔の曲で。星羅はそれで納得したの?それとも言い出したのは星羅?」

「せいちゃんは曲作りたいみたい。でも…スケジュールを考えたら1ヶ月以内に曲を作らないと間に合わないんだ」


 1ヶ月でも無茶な話なんだけど…


「今から二曲作ってる余裕はないんだ。私達の練習期間も必要だし……その点『THREEPIECE』の楽曲なら普段レッスンで使ってるから私達もある程度できるでしょ?」

「なるほど……スケジュール…ね」


 その場で膝を折った万理華さんに倣って私も隣で腰を下ろした。万理華さんのう〇こ座りは様になってた。


「……ねぇ万理華さん。訊きたい事ってのはここからなんだけどさ……」

「……」


 万理華さんはぷいって明後日の方向を向いて無言の拒絶を表明。あれ?今までこんな反応見せた事ないのに……


「どうしてそんなに焦るのかな?」


 それでも私は訊かなきゃいけない。

 このままじゃ…『FOOLS』に致命的な亀裂が入るような……気がするんだ。


 今の万理華さんから合宿所を飛び出した時の紗良ちゃんに似た空気を感じるんだ。


「前に言ったでしょ?」


 ぶっきらぼうに言いながら、通行人を眺める万理華さんが口を開く。


「紗良と星羅は20歳からのデビュー……アイドル

 の賞味期限は短いの…それに『ママと撫子』の件もある」

「『ママと撫子』の為にここまで骨を折る義理が万理華さんにはあるのかな?」

「先輩だからよ」


 ……伊達にひと月同じ保養所で生活したわけじゃないよ。

 万理華さんはまじめな話する時、ちゃんと相手の目を見て話すんだ。


「準備も出来てないのにいきなり2ヶ月後にデビューなんて急すぎると思う」

「……」

「合宿の時から思ってた……あの時は今の説明で納得したけどさ…万理華さん、何に焦ってる?」


 こっちを見ようとしない万理華さんの横顔に、私は距離を詰めていく……


「……っまた!!ASMRしようとしてるわね!?」

「いや違うよ。真面目な話してるんだよ今」

「そういのは家でやってよね!!///」

「一応真面目な話してるんだよなぁ」

「あんたは隙を見せたらすぐに私の耳を弄ぶ!!」


 やっとこっち見たね。


「何か事情があるの?」


 少し空気が和んだタイミングでやんわりと本題に路線を戻す。

 万理華さんはバツが悪そうに顔をしかめてまたそっぽを……


「……フリだよね?それ」

「違うっ!!」


 耳を守る為には向かい合うしかないんだよ?


「りあは…嫌なの?不満があるの?」

「不満と言うか……そんなに焦ってデビューする必要ないんじゃないのかなって思ってる。しっかり準備した方がいいよ。せいちゃんの負担もある」


 優しい万理華さんはせいちゃんの名前に申し訳なさそうに眉を下げた。

 俯いて、またしても私から逃げるように顔を通りの方に向けた。


 フリだね。


「責めてるわけじゃ…なぁいんだ(ボソッ)」

「あぁぁんっ!!///」


 吐息、多めに入れといたよ♡


 万理華さんの嬌声に通行人がギョッとして立ち止まった。


「攻めてるじゃない!!」

「責めてるないよぉぉ(フーーーッ)」

「ああああっ……ああぁぁぁんっ!!///」


「…………いや、何してるの?(汗)」

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