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第67話 デキルモン!!

「リーダーがご乱心だぜ」


 目の前でご乱心なせいちゃんを前に紗良ちゃんが呟いた。


「とにかく何とかしないと……星熊さん」

「うーん」


 考えるふりしてる星熊さんがせいちゃんに捻られた首を戻しながら…


「そもそも自主レーベルでは宣伝も難しいですし…私としては皆さんにはちゃんと稼いでもらいたいんですよねぇ……やっぱりもっと準備期間を設けてですね……」

「それはいいじゃないですか」

「なんでですか(怒)私の給料ずっと未払いなんですよ?」


 かわいそう……

 でもせいちゃんが曲を作りたいのは自分の意思だから。


「そう言えば……話変わりますけど天鬼さんASMR動画はどうしたんですか?」

「あれやめました」

「嘘でしょ……チャンネルどうするんですか…」

「星熊さんも反対だったじゃないですか」

「……」


 話を戻そう。


「ところてん、話は変わるけど星熊ちゃんはなんでそこまでしてこの事務所に居るわけ?お金もらってないんでしょ?」


 また紗良ちゃんが本題から脱線させた。

 あと、何故か脱ぎだした。


「なんで脱ぐの?」

「暑いんだよこの部屋。エアコンもないんだぜ?」


 ぶるんっ!!


「おっ……ふっ♡」

「服を着てください黒沢さん。その話は今はいいじゃないですか。それより今後の事です」

「万理華さんと一度話すべきかと」

「じゃあ任せます」


 任せますて……


「夏祭さんが一番信頼してるのは天鬼さん、あなたですから」

「えー?照れちゃうなぁ〜」

「私はあなたこそリーダーに相応しいと感じてます」

「えぇ〜?照れちゃうなぁ〜」

「よっ、リーダー」

「でへへへ」


 その時だった。

 発狂してたせいちゃんがスンッてなって…おもむろにキーボードに向かう。


「……作らなきゃ……」

「せいちゃん。少し休んだ方がいいよ?」

「今……インスピレーションが来た……」


 来たらしい。

 一心不乱にキーボードに向かうその横顔は一転して真剣な表情に変わる。目が輝いてた。

 ただその目の輝きがあまりにもギラギラしてて…


「ご飯食べた?私何か買ってくるよ」

「この曲に込めるのは……性欲と愛憎……」

「嫌だよそんなドロドロした曲は」


 せいちゃんは限界だ。朋花ちゃんの危惧した通りの事態に陥ってる。何とかしなきゃ……


「……あと二曲は無理じゃね?」


 紗良ちゃんが当たり前の事を言った。


「練習期間を含めればまず間に合いません」


 星熊さんも同意。しながらスマホで楽〇ポイント貯めてた。


「……ライブ、カバー曲じゃだめなんですかね?」


 今から二曲仕上げるのはどの道無理そうだし。


「使用許諾とかあんじゃね?」

「いえ、それは問題ありません」


 紗良ちゃんの疑問に星熊さんがキリッと返す。癇癪起こしたせいちゃんが投げつけたビール缶をものともせずに解説が入る。


「ライブハウス側が著作権団体と包括契約を結んでる場合が多いので…使用料等はライブの収益から支払われます。こちらとしてやるべき事は運営に使用する曲のリストを提出するのみ。ネットに乗せるとなると話は別になりますが、そちらもライブハウス側が同じく統括契約してるので大丈夫です」

「へぇー」


 伊達にマネージャーじゃないんだね。


「ただカバー曲にしろなんにしろ、レッスン期間が限られてますので……」


 なるほど……

 楽曲制作の時間とは別に私達がそれを歌って踊ってってやりきる為の練習期間の問題がある。時間がないって言う根本的解決にはならないか……


 でも……


「一から練習しなくていい曲なら?」

「え?」

「合宿で私達が練習に使ってた『THREEPIECE』の曲なら、私達出来るんじゃないですか?」


 紗良ちゃんを見る。紗良ちゃんは「デキル」って脊髄反射で返してくれてた。多分何も考えてない。


「一曲は今作ってる曲を使うとして……残りの二曲は『THREEPIECE』の曲を使えば……」

「ナルホド」


 星熊さんも頭悪そうな顔で手をポンって叩いてた。


「ライブ出場って方向で確定したらそうしましょ。じゃあ天鬼さん、それ、夏祭さんに言っといてください」

「……星熊さん仕事してくださいよ」

「無給なのに?」


 それはこっちの知った事じゃないんだよなぁ……


「ふざけんなぁ!!」


 話が決まった途端に横から怒号が聞こえてきた。そこではブチ切れたせいちゃんが駄々っ子みたいに転がり回ってる。


「せいちゃん……」

「私の作った曲じゃ不満だってのかっ!!」

「でも……とても間に合わないよ」

「やだやだやだやだ!!『FOOLS』の曲は私が作るんだい!!やだやだやだやだやだ!!」


 よ、幼児退行起こしてる……


「せいちゃん……」

「落ち着けよ星羅」


 地面に落ちた蝉みたいに転がり回るせいちゃんをそっと抱きしめたのは紗良ちゃんだった。


「私達だって星羅の曲を歌いたいんだ……だからこのライブだけ…このライブだけだよ」

「私が今作ってる曲はどーなんだい!!」

「できてねーじゃん」

「私の努力を無下にするつもりかっ!!」

「星羅だって練習しなきゃいけないんだぜ?それにハナアナが振り付け作る時間もある……」

「やだやだやだやだ!!!!」


 せいちゃん……


「んな事言ったって2ヶ月後のライブにはとても間に合わないでしょーが。かのベトベトーベンだってコンサートに間に合わなくてモッツァルトの曲を使ったって言うぜ?」

「ベートーヴェンとモーツァルトね?そうなんだ」

「知らんけど」


 嘘なんかい。


「やだやだやだやだやだやだ!!」



 音楽が好きやから自分の意思で曲作っとんねん



 また朋花ちゃんの言葉が蘇った……


「せいちゃん。二曲は無理だ。せいちゃんの身が持たないよ。ろくに寝てないんでしょ?」

「デキルモン!!」

「…………じゃあ、一曲だけなら作れる?」


 目がイッちゃってるせいちゃんが「イッキョク?」ってオウム返し。小さい子に言い聞かせるように語りかける。


「出来てる曲とこれから作る曲…二曲、オリジナル曲を使おう。でも三曲目は間に合わない。だからそれは『THREEPIECE』の曲を借りようよ。私達の練習時間も限られてる。それでどう?」

「りあちゃん……」

「紗良ちゃん……せいちゃんの気持ちも汲んであげようよ」


 大丈夫なのかって紗良ちゃんと星熊さんが無言で訴える。でも、私はせいちゃんの気持ちを大切にしたい。

 この人は多分……私達の中で一番音楽に真剣なんだから。


「……一曲ですら間に合う確証はありませんよ?」

「私達も手伝います」


 星熊さんにそう宣言する。せいちゃんの作曲を間近で目の当たりにしてた紗良ちゃんが「え?まじ?」って顔して青ざめてる。


「これは私達の曲だからさ……」


 星熊さんは考えるふりをしながら沈黙して……


「……猶予は1ヶ月です」


 あ、今度は考えてたみたい。


「それまでに出来なければカバー曲、もしくはライブ出演自体を辞退、という事で…」

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