第66話 ……チクビーム…撃てる?
こんにちは、天鬼りあです。
この日はお休みなので、ちょっと仲間に会いに行こうかなと…
話に聞いてたメンバー、錦野星羅の自宅住所にはそよ風で空まで飛んできそうなボロアパートが佇んでる。
「建物の名前は『又々荘』…ここで間違いないか……」
どれくらいの築年数だろう。二階建ての木造に外付けの階段が付いてる。階段のステップはなんでか一段づつ消えてた。
強制一段飛ばしで階段を登って二階に上がったら部屋の前で洗濯板を擦ってる現地住人に遭遇。
「あ、こんにちは…」
「……」
「……すみません通ります」
通路を占領してアナログお洗濯中の現地住民さんは虚ろな目で私の事を見上げながら、無精髭だらけの口元をニチャア…って歪めて、なんか笑ってる。
「……(汗)」
「……チクビーム…撃てる?」
さて!
現地住民の顔面を踏み越えて!なんでか凹んでる扉の前に立つ。チャイムも付いてなければ鍵もかかってない(てか、そもそもちゃんと閉まってない)扉を開ける……
「ああああああっ!!!!」
「落ち着け星羅!!」
「やめてください錦野さん!そのキーボードは高いんです!!」
「がぁぁぁあああああああっ!!!!」
「いやぁーーっ!!」
「錦野さぁん!!!!」
……開けた扉をそっと閉めた。
せいちゃん…………
引き返して帰ろうかなって思ったけど、朋花ちゃんとの約束が頭の中に過ぎって、薄情な私の足を辛うじて引き止めた。
もう一度扉を開ける……
「あああああああっ!!ああああああっ!!」
「せいちゃ……ぶっ!!」
飛んできたキーボードが私の顔面に直撃して、後ろに倒れ込んだ私の後頭部が廊下の床に叩きつけられて、床が耐えきれなくてそのまま貫通して、崩壊した床板は私とチクビームの人を巻き込みながらそのまま大崩落。
建築基準法ガン無視の豆腐耐久設定だった。
……気を取り直して。
「せいちゃん…ここ引っ越そう?」
「ぐるるるるる……」
「アイドルがこんな所に住んでたらヤバいよぉ。隣の人もおかしかったよ?」
私は錦野宅におじゃましてた。
小汚くて狭くて……とても衛生的とは言えない部屋に今、私と家主のせいちゃん、あと同棲中の紗良ちゃんと…何故か星熊さんが居た。
四人も集まるとこの部屋は狭くて、四方の壁と天井が迫ってくるような圧迫感。
「隣の麻呂乃小路さんの事悪く言わないでよりあちゃん。毎日ご飯お裾分けしてくれるんだぞ?」
「紗良ちゃんそれ……なんか入れられてないよね?ダメだよ不用意に受け取ったら」
「なんかネバネバしてんだらかな」
「食べてないよねそれ!?」
なんて漫才してる暇じゃなくて……
「ぐるるる……ぐるるるる……っ」
目が完全にイッちゃってるせいちゃんが錯乱状態だった。部屋に不釣り合いなデスクトップPCのモニターを齧ってる。
そこには合宿で一緒だった愉快なお姉さんの面影が……ちょっとあるかも。
「ううぅぅぅっ!!」
「天鬼さん、今日はどうしたんですか?」
何故か居る星熊さんが問いかけてきた。
「あなた達は路上ライブやるんでしょう?」
「そういう星熊さんはどうしてここに?」
「星熊マネは最近ずっとここに入り浸ってるよー?」
「入り浸るって言い方やめてください黒沢さん…仕事です。錦野さんの楽曲制作にあたってのサポートしてます」
ああ……なるほど……
「りあちゃん知ってる?アイドルの楽曲ってなんか、れーべる?ってのを通して?ウンタラカンタラなんだって?ちょーめんどいの。星羅、自主れーべる?ってのを作ったんだよ」
「正確には『FOOLS』が、ですが…楽曲を自主制作するとの事だったので」
「なんか大変そうですね」
「大変なんだよこれが。なんかしちめんどくさくてさ?その上に星羅、あと二曲作るって話じゃん?」
「うぅぅぅぅぅぅっ!!」
「2ヶ月後にライブ?なんだって?」
「あぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
「で、これよ」
せいちゃんは完全にイッちゃってる。
スタジオで会った時から様子はおかしかった。でも、今のせいちゃんはその……完全にクスリキメてる人のそれだった。
「大丈夫なの?捗ってる?」
「捗ってたらこんな事にはなりません」
「……てかこれ、大丈夫なの?ヤバいクスリとか使ってない?」
「集中力が持たないとか言って、エナジードリンク熱して気化したやつは吸ってるけど」
「それは違法だから!!」
エナジードリンクを気化させて吸入させるのは犯罪だから!!エナジードリンク中毒になっちゃうから!!※
「クルシイ……クルシイ……っ!!」
一曲目はサラッと作っちゃったせいちゃんだけど、なかなか苦戦してるらしくうんうんって唸ってる。
体を丸めたりねじったりブリッジしたり……大変だ。
「……間に合いそう、ですか?」
「無茶でしょう」
星熊さんは冷静にそう判断する。
「そもそも曲ができてもそこから振り付けをお願いして練習して……とても2ヶ月では間に合いません」
万理華さんが決めた私達のデビューは2ヶ月後『秋葉原新人アイドルサーキットフェス』だけど…参加には三曲必要らしい。
私達の持ち歌は現状、せいちゃんの作った未知なる一曲のみ……
「天鬼さん、夏祭さんがなぜこんな無茶を言い出したのか、心当たリングあります?」
「当たリングですかぁ……」
「おかしいんですよね。元アイドルの夏祭さんならこんなの非現実的スケジュールだって理解できてるはずなんですが……」
うーん、言っていいのかなぁ……?
「錦野さんはスランプからの禁断症状で限界です」
「うーーーーうーーー……」
……
「……ここだけの話って事で…」
「分かりました」
「分かってないじゃないですか、録音しないでください」
「はよ話せ」
なんだかチクリ屋みたいで嫌だけど…
「え?チクビ屋?」
「黙って紗良ちゃん。心読まないで」
不承不承、私はマネージャーに助けを求める気持ちで事の次第をご説明。
「……実は『ママと撫子』が引退するんです」
「えっ……」
事務所唯一のタレントの引退の意思に星熊さんも流石にショック受けてたよ。
「ただ事務所唯一のタレントの自分達の引退に社長さんが納得するとは思えないと…でも私達がその前にデビューできれば話は変わってくるんじゃないかと…………」
「がはは、いや、変わらんやろ」
まぁたしかに……
「……じゃあ夏祭さんは『ママと撫子』の為に?」
「はい……」
なんか釈然としない顔で首を捻って……
「あーーっ!!」
ボキッ!!
……せいちゃんに首を捻られながら星熊さんは考える人になってた。
首大丈夫かな?
「……夏祭さんと『ママと撫子』…彼女らには……」
「……特別な関係、なんですか?」
ここまでの無茶をするんだから……
「いや別に……特には……多分…会うのすらこの前のスタジオコラボで三回目とか……」
なんじゃそりゃ。
「建前の可能性が高いな〜」
紗良ちゃんが巨大なおっぱいを抱くように腕を組んで頷いてる。なるほど……
「無茶なスケジュールを押してでもデビューしたいのは万理華ちゃんの意思…理由はその秋葉原なんちゃらライブに出たいからか…2ヶ月後の11月になんか意味があんのか……とにかく急いでデビューしたいのかだな」
紗良ちゃんの分析はストンと私の胸に落ちた。
万理華さんは焦ってる。
自分で運営と交渉して出演を決めてくるくらいに。
ううん……それ以前から……
合宿中から万理華さんには余裕がなくて、合宿期間中に私達の実力を上げる事に執心した。
その理由として語られたのはアイドルの活動期間の短さ……紗良ちゃんとせいちゃんは20歳。日本のアイドルのデビュー年齢としては高齢だから。
でも……
今の紗良ちゃんの考察を聞くと……なんかそれすら建前に聞こえてくるなぁ。
万理華さんのスパルタレッスン。
強引すぎるスケジュール決定。
それはまるで錯乱した小動物のような忙しなさで、経験豊富なリーダーとしての冷静さを欠いてるように感じられる。
何かある……そう思った。
同時に……今私達に不穏な影が忍び寄ってる。
内側から滲みだしてるそれはこのまま放っておくと、深刻に『FOOLS』を侵食していく気がする…
このままじゃいけない気がした。
※ギャグです。そんな事実はありません




