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第65話 そんな簡単に曲作れるわけねーだろーがよぉ!!!!(怒)

 万理華さんが叩きつけたスマホ画面にはあるページが表示されてる。なにかの告知サイトみたいだ。

 見てみよう。


「あぎゃっ!!」


 あと机に足乗っけてたちびっ子親分は机が傾いてバランスを崩してそのまま転倒。


「…秋葉原新人アイドルサーキットフェス?」


 はーちゃんがそのイベント名を読み上げる傍らで…私はちびっ子親分を見つめてた。

 ひっくり返った社長のブカブカスーツ…その背中側は生地が皆無だったから。なんてこった。完全びんぼっちゃまスタイル。リモート会議でしか通用しないスーツじゃないか。


「…2ヶ月後に行われるサーキットフェスですね。なんか…秋葉原で毎年やってる…」


 星熊さん、今以上の情報がないよ…


「サーキットフェスってなんですか?」

「なんか…サーキット場でレーシングカーに乗りながらやるアレです」

「そんなライブあるんですか!?レーシングカーに乗りながら!?」

「選挙カーみたいなものです」

「嘘でしょ!?乗れるか!?」

「…高速で走るレーシングカーの上から振り落とされないアイドルの体幹と、車体に人が乗っかってる状態でも正確な走りを実現するレーサーの高度な技術力を求められる…数あるライブ形態の中でも最高級のものになります」

「星熊、嘘教えんな。さては知らないなお前」


 びんぼっちゃまスタイルを隠すべく立ち上がって正面に立つちびっ子親分が解説してくれるサーキットフェスとは…


「…AIの回答によればサーキットフェスとは、特定エリア内のいくつかのライブハウスで共同で行われるライブで、客は自分の観たいアイドルが居る各会場を行き来して楽しむんだって」


 社長も知らなかったらしい…


「でも夏祭さん。今から申し込んでも参加できませんよ?…知らんけど…」


 任せてくださいの一言くらい言うのがマネージャーな気がするけど、星熊さんにその気はない。

 前言ってたけど数ヶ月分の給料が未払い状態な星熊さんだ。きっとそんな情熱はないんだな…


「実は参加予定だったグループのメンバーがエナジードリンク中毒で逮捕されたから、欠場するのよ」

「えぇ…大変だなぁ…」


 エナジードリンクは用法用量をきちんと守らないとね。エナジードリンクは飲み物であって、間違えても吸っちゃいけないんだ。


「このイベントの実行委員とは、ちょっと知り合いなのよ」

「すごいよ万理華ちゃん。マネージャーよりもマネージャーみたいだ!」


 無邪気なるはーちゃんの賞賛に星熊さんが少し傷ついてたけど…


「…ライブは11月。2ヶ月後だよ?」


 ちびっ子親分の鋭い指摘が飛ぶ。はしゃいでたはーちゃんもその一言に現実に戻される。


「今から準備して間に合うとでも?」


 それは正論だと思う。

 元アイドルの万理華さんや天才肌のせいちゃんはまだしも…私含めて残りのメンバーは…


 まだ足りないんじゃないだろうか?


 そう思うのが現実だ。

 急に2ヶ月後デビューですなんて言われても正直現実味が無さすぎるよ。

 というかどうしてこんな話に…?

 琴音ちゃんの自信獲得のための路上ライブの話だったはず……


 ……2ヶ月後……


「…あっ」


 もしかして万理華さん……『ママと撫子』の事も……?


 社長と対峙する万理華さんの眼差しは真剣そのものだ。ギャグ漫画でしか実在し得ないような格好の社長とは迫力が違った。


「新人ばかりが集まるイベントなら、客もそこまでのクオリティは求めないし、他の参加グループのレベルも知れてるわ。今からでも間に合う」

「それ本気で言ってるのか?」


 ちびっ子親分の声に怒気が孕む。


「不完全な状態でお客様の前に出るって?曲がりなりにもこの世界で飯食ってるお前が、他ならぬ夏祭万理華がそれを言うのか?お前プロのプライドどうした!!」

「このイベントでデビュー出来たら話題性も大きい!チャンスなの!!」

「何をそんなに焦るんだ…」

「お願い社長…」


 …なんかそんなゲームがあったような…いや今はそれどころじゃない。


「私達にチャンスちょうだい」

「……」

「出演交渉から準備まで全部私がやるから…絶対出演出来るから…星熊なんかに頼らないから…」

「なんか?」


 また星熊さんがシュンとしてる。


「……このままじゃ倒産でしょ?」


 万理華さんの一言に薄暗くて埃っぽくて狭い資料室という現実が一気にのしかかった…

 火の付いてない差し押さえ札付き葉巻を咥えたちびっ子親分が難しい顔で黙りこくってる。その顔は…ピーマンを出された子供にしか見えなかったけど……


「……もしこれでコケたら…………」


 ちびっ子親分がようやく口を開いた。


「うちは終わりだ…」

「もう9割終わってますけどね、社長」


 給料未払いされてる星熊さんからの痛烈な一言だった。

 でも私はそれを責める気にはなれない。

 ちびっ子親分の背中を見ちゃったから…

 あの人まともなスーツを買う余裕もないんだ…その同情心が私の心を穏やかに……


「じゃあ2ヶ月後デビューって事で…で、その準備の為に路上ライブするから」


 なんかサラッとデビューが決まっちゃった!?


 ……てか!!『TRY AGAIN』のライブどうしよう!?


 *********************


 翌日の夕方、スマホを開いた天鬼りあの目に映る『FOOLS』のグループLINE内にこんな文字が踊ってた。


 2ヶ月後の秋葉原新人アイドルサーキットフェスでデビューが決まりました。条件として三曲必要です。練習の為に路上ライブやります!!


 …こんな簡単に決まるものなのか……


 愕然としながらスマホを眺める私の目の前に湯気の立つけんちん汁が出されたから、食う。

 ぽややんとしたママに「デビューが決まったよ」って言ったら「あらよかったねぇ、パパにも報告しないとねぇ」って言ってくれた。


 けんちん汁があるけど私はこの報告を受けて気になる事があった。

 だからママに断って一旦けんちん汁を中断して、電話をかける…


 長いコール音の末に待ちわびた声が聞こえてきた。


『…もしもし?(怒)』

「あ、せいちゃん?私私、元気?」

『元気だよぉ?(怒)』


 我らが天才、錦野星羅ちゃん。

 いつも飄々とした明るい彼女からは想像できないくらい不機嫌そうな声が返ってきて困惑。

 合宿以来の再会時の目の下の隈が気になった。


「もしかして同僚の方?お母さんも挨拶したいな」ってぽやぽやしてるママから一旦離れて…


「LINE見た?」

『……うん(怒)で?なに?(怒)』

「2ヶ月後にライブだって」

『うん(怒)』

「…なんか三曲必要…らしいんだけど……」

『そんな簡単に曲作れるわけねーだろーがよぉ!!!!(怒)』


 …………切れた。ふたつの意味で…


 呆然と立ち尽くすしかない私の耳元に残るせいちゃんの怒号と、朋花ちゃんの言葉。



 せやから天鬼……これから星羅の事、よう見たっとってや!!あいつが潰れてしまわんように…!!





 なんか…このままじゃいけない気がした。

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