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第61話 ……なんというか、若いですね

「みなさーんこんにちは!マタニティブルー担当、里子さとこです」

「マリッジブルー担当の幸子さちこです」

「フィーリングブルー担当、貴美子きみこです」

「「「三人合わせてー三十路系人妻子持ちアイドル『ママと撫子』でーす」」」


 …………全員ブルーなんですね…


 カメラの前で完璧(?)なグループ挨拶を見せてくれたこちらの御三方こそが、POPプロダクション現在唯一のアイドルユニット(らしい)『ママと撫子』さん。

 私達の先輩で、人妻で三十路で子持ちなんだって。

 すごいな。


 ちなみに白ワンピのお姉さん(三十路)が里子さんで真っ黒ワンピのお姉さん(三十路)が幸子さんで日傘のお姉さん(三十路)が貴美子さんだって…


「今日も『ママと撫子』公式チャンネルにお越しくださりありがとうございます。さて、本日は素敵なゲストがおりますので、ご紹介しますね」

「こちらの方々です」

「どうぞ」


 先輩方の後ろで控えてた私達にいよいよ出番がやって来た。これ、とんでもないぶっつけ本番なんだけど……


「皆さんこんにちは!私達〜」

「「「「……」」」」

「POPプロダクション新生アイドルユニット『FOOLS』(仮)です」


 ノリの悪い私たちに代わって万理華さんがすかさず音頭を取ってくれたとお陰で華々しいネットデビューだ。


「がははっ!万理華ちゃん(仮)ってなに?」


 どうしたらいいのか分かんないその他のメンバーに代わって紗良ちゃんが引っ張ってくれる。弾けるポップコーンみたいなテンションで笑う紗良ちゃんに頼もしさを感じる。


 前から思ってたけど紗良ちゃんはどんな場面でも物怖じしないな。私達を明るくしっかり引っ張ってくれる。

 これでせいちゃんを生き埋めにした前科がなければ万理華さんに次ぐ頼れるリーダーだったかも…


「自己紹介は面倒臭いんでテロップ付けときまーす。がはは!!」

「あんたね…ごほんっ。『ママと撫子』公式チャンネルをご覧の皆さんはじめましてー」


 とりあえずしばらくは二人に任せておけばいいのかな……?


「……くかーー…」


 せいちゃん寝てるし……



 唐突に始まった『ママと撫子』公式Y〇uTubeチャンネルとのコラボ。「たまたま揃ったので」みたいな理由でヌルッと打ち合わせなしで始まったこのコラボ動画が私達のグループとしての初活動…という事になるのかな?


 世間に向けて『FOOLS』が始動した瞬間だ。



 …そんな大事な時間なんだけど、万理華さんと紗良ちゃん以外はほとんど喋らずに淡々と時間が過ぎていく。

 このコラボは『FOOLS』お披露目の……言うなれば宣伝目的なのにこれでいいのか…と。


「折角だから、お互いに質問とかしていきますか?」


 事態を憂いた里子さんからの提案によりようやく私達にも出番が回ってきたよ。


 途端に意識するカメラ……その向こうにあるだろう誰かの視線。

 無意識のうちに身体と表情が固くなる。

 そんな私の変化を見逃さなかった我らがリーダーがそっと横に寄り添って……


「大丈夫、大して登録者いないから」


 吐息のかかるゼロ距離から耳元で囁かれるそれはくすぐったさと万理華さんのイケボで……


「あんっ///」

「がははっ!!なにイチャイチャしてんのー!?」


 ……これか…万理華さんが私の声で感じてるカイカン…


「……(怒)じゃあまずりあからね!なんか先輩に質問!はいどうぞ!!」


 リラックスさせる為なのか肩までもみもみしてくれる万理華さんの献身に応えなきゃならない。

 質問……

 質問か……


「……えっと…」

「なんでもいいですよー」「先輩として色々アドバイスさせて頂きますね」「どうぞ」

「……私アイドル実は詳しくなくて…今度ライブに行くんですけど…『TRY AGAIN』ってグループ知ってます?」

「「「私達の事じゃないんだ!?」」」


 万理華さんが耳元で「バカかっ!!」ってツッコんできた。


「がはは!人気だよねー。それって武道館で今度やるライブ?」

「うん。紗良ちゃん詳しい?」

「あんだけ人気だもんねー。この前アレだ。なんかのイベントでなんかしてたぞ!!」


 ああ、そんなに詳しくなさそうだね…


 テンションが高いまま、緊張とか戸惑いを地球の裏側に置いてきちゃった紗良ちゃんがトンチキな私の質問をフォローしつつ先輩達に話題を繋げる。


「武道館といえばパイセン達は武道館とかでライブした事ありますかー?」

「……」「……」「……ない、です」

「普段どこでライブとかしてんですかー?」

「……こ、公民館…とか?」「老人ホーム…とか?」「この前はショッピングモールの屋上でワンマンライブしました」


 マジか……


 画面外の星熊マネージャーをチラ見したら、洋画に出てくる俳優さんみたいに肩をすくめてた。


 万理華さんの囁きを思い出す。大してチャンネル登録者いないって。

 多分相当マイナーなんだろうなぁ……


 まぁ事務所の経営状況を見れば何となく察しはつくけど…POPプロダクションに今、売れっ子と呼べるアイドルは居ないんだ。


 微妙な顔してる先輩達を前に全身が弛緩してくるのが分かった。

 失礼な言い方すれば「あ、別に緊張する程大した先輩でもないな」って……

 多分この動画もそんなに観られないんだなって……


 そこからいい意味(?)で肩の力が抜けた私達は凄く自然な感じでコラボ出来た……と思う。


 *********************


 結局コラボ動画を撮り終わったら今日のスケジュールは終了になったよ。

 こんなに早く終わるとは思わなかったからな…

 これなら推しのVTuberの配信に間に合う……?


「でゅっふっっ!!」

「天鬼…さん?」

「でゅふっ?」


 帰ろうかと思ったら肩を捕まえられて、振り返ったら里子さんが立ってた。後ろには幸子さんと貴美子さんも…

 なんだろう……?


「良かったら少しお話しませんか?」

「お時間ありますか?」

「是非。なにか奢りますよ」


 ……えっ。


 時計と先輩の顔を交互に見つめてから周囲を見回したら身支度を整えてる万理華さんの姿が目に入った。

 じーっと見つめてたら万理華さんもこっち見た。





 場所を移して近くの喫茶店。

 宣言通り奢りらしいから私と万理華さんは揃ってアイスコーヒーを注文した。


「私はこの…トロピカルロイヤルパフェ68センチにしようかしら」

「トッピングに抹茶アイスをお願いします」

「いいですね。私、チョコ」


 ……10代の向かいで68センチのパフェをキャッキャしながら注文する三十路とは…

 この若々しさがアイドルの秘訣……?


「……なんで私連れてこられたの?」

「いや…今日会ったばかりの先輩と一人きりで会うのはちょっと……」

「なんで私なの?」

「リーダーだし……こういう時頼りになるのはやっぱりリーダーしかいないよ」

「……そう///」


 たまたま視界に入っただけだけど……


「頼りにしてるんだからリーダー(ボソッ)」

「んふぅっ!!///」


 ……ちょろいな。


 トロピカルなんとかパフェは名前の通り68センチの高さがある特大パフェだった。それをキャッキャ言い合いながら分け合う三十路三人…


「……なんというか、若いですね」

「ありがとうございます」

「お二人もよければ……」

「美味しそうですよ?」

「いや、私達は結構です。それで?なんの話ですか?」


 推しの配信がある。

 時計の針の推移を気にしつつ切り込んだら三人が少し言いにくそうに唇を閉じる。

 唇を閉じつつもアイスは入っていく口元を見つめて待ってたら、里子さんがようやく本題を切り出す。


「……今日はコラボありがとうございます」

「いえ、こちらこそ…」


 万理華さんが丁寧にお辞儀する。


「別に大した話ではないんです。あなた達には直接関係ない話ではあります」

「ただ……今日こうしてコラボした直後なので、一応お話しようかと……」

「心して聞いてください」


 ……え?……なに…??


「……実は私達今度新宿でライブするんです」


 幸子さんがテーブルの上を滑らせるのはチケット。反射的に手に取っちゃったけど…


「よろしければ差し上げます」


 直後の里子さんの一言に突き返す事が出来なくなっちゃった……

 ただ……


 日程が『TRY AGAIN』のライブと被ってる…


「あ……りがとうございます……(汗)」


 よく見たら6枚……とりあえず万理華さんに残りを押し付けておいた。万理華さんもなんとも言えない顔でそれを受け取ってる。


 ライブに来いと言う話なのか……意外とせこいというか……


「ワンマン…ですか?」

「いいえ。対バンです」


 万理華さんの口から知らない単語が出た。


「対バンってなに?(ボソッ)」

「いちいち耳元でぇ……っ///」

「……ふぅぅぅぅう…」

「あぁんっ!!///」


 ……ホント敏感だな。風間くんかな?


「対バンってのは色んなグループが出てくるライブの事!!!!」

「……じゃあワンマンってのが…」

「ひとつのグループが独占でやるライブっ!!」


 へぇー……


 万理華さんの嬌声にドン引きしてた『ママと撫子』の三人が「よろしいですか?」って様子を伺ってくる。

 どうやらチケットを渡すのが本題じゃないみたい。


 聞く姿勢を示して先を待つ私達に…里子さんはこんな事を告げる。


「実はそのライブを最後に……引退しようかと思ってるんです」

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