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第60話 三十路系人妻子持ちアイドル!

「困るんですよねぇ……」

「すみません……」

「次やったらもう貸せませんからねぇ」

「すみません……」


 紗良ちゃんのせいで星熊さんが怒られてる。

 ビルの管理人さんからみっちりしごかれた後戻ってきた星熊さんは不機嫌そうな顔つきで私達の前に立って「何かしらやらかさないと気が済まないんですか?」って怒ってた。



 ……さて。


「皆さんお久しぶりです。よく集まってくださいました」

「なんか知らん人達も集まってるけど…」


 せいちゃんが向ける視線の先に淑女と呼ぶのに相応しいお姉様が三人。万理華さんとは知り合いみたいだけど…

 そう、彼女らは何者なのか……?


「……もしかして…新メンバー?」

「「「「え!?」」」」

「朋花ちゃんが抜けて今のメンバーは6人…でもアイドルグループで偶数って色々難しいって聞くし……」

「違います、天鬼さん」


 何故か指パッチンする星熊さんの合図に合わせて三人のお姉様が前へ……

 そんでもって満を持して三人の正体が明かされるのだ。


「ご紹介します。この人達はPOPプロダクションと契約してる、うちのアイドルグループ…『ママと撫子』さんです」

「『ママと撫子』!?」


 ……そういえば!前に事務所のホームページ調べた時にそんな名前のユニットを見た事があったような……なかったような……っ!!


「……ジャア、センパイ?」


 突然現れた事務所の先輩アイドルを前にポカンとするス〇イサムマスクの琴音ちゃんに万理華さんが「そうよ」って頷く。

 そっか……POPプロにずっと居る万理華さんは知ってたんだ。


「……あ、万理華さん。もしかしてこの前私と部屋でえっちな事した時言ってた…先輩とのコラボ動画ってもしかしてこの人達…?」

「ちょっと待って?えっちな事したの?」


 えっちな事に興味津々なはーちゃんが抜け目なく私の発言を拾って、私のASMRでえっちな事になってた万理華さんが「違うわよっ!!」って否定して……


「ずるいっ!!私ともえっちな事しろよ!!」


 紗良ちゃんが私に抱きついてきて……

 琴音ちゃんがス〇イサムマスクの奥でなんとも言えない目しながら私の方を見てて……えっ?もしかして嫉妬?


「りあちゃぁん。今度の休み私の部屋に来てよ♡」

「いや、お前が今住んでんの私の部屋ですけど?」


 家出した紗良ちゃんは今せいちゃんの部屋に転がり込んでるんだ。


「でも家賃全部私持ちだし。実質私の家」

「私は今忙しい。部屋に人を入れないでっ!」

「私でもダメなの?せいちゃん」

「りあでもダメ」


 やっぱりせいちゃんちょっとカリカリしてる?

 あと二、三曲作るって話らしいしな……


「…………私達にはあまり興味無い感じ、ですかね…」

「お邪魔だったのかしら」

「……不遜な後輩」


 ここで存在感を発揮してきた『ママと撫子』さん達が悲しげな眼差しを向けてるのに気づいたはーちゃんがすかさずフォローを入れてくれる。

 ぺちんってかわいい音させながら手を叩いてこっちに振り返った。


 ……ただ横目で万理華さんをチラチラ見てて、えっちな事が気になってるんだね。

 そうだよね?先輩どころじゃないよね?気になるよね?えっちな事。


「えっと!そうだ!自己紹介!先輩方に自己紹介しよ?ね!?」

「ごほん……っ…そうね……そうだけど…そういえば私達、グループ挨拶とかってないのよね」


 えっちな話題から逃げたい万理華さんがそう言及した。

 まぁ『FOOLS』はまだ活動開始前だしね…


「……ナンカハズカシイナ、ソウイウノ…」

「でもあった方がよくない?チーム感あって僕は良いと思うよ」

「やってないグループもあるよね。あー言うのって、も〇クロとかが今のアイドル文化として定着させたんだよねー」

「紗良ちゃん詳しいね」

「いやぁ……アイドルの端くれとして勉強してんだよね。はーちゃんはなんかこー言うのがいいってのある?私?私はねー」

「聞いてないよ紗良ちゃん」

「『こんにちは!鏑木琴音とその保護者の〜…』」

「オマエモウダマレサラ!バカタレガ!!」


 また無視されてる先輩方が可哀想だからちょっと話を振ってあげようかな…


「じゃあすみません……自己紹介お願いしていいですか?」

「先輩からやるんだ……」

「なんか凄く気を使われてる気がします」

「……不遜な後輩」


 まぁ先輩のお手本という事で……これぞ日本のアイドルってお手本のグループ挨拶を見せてくれそうだ。

 三人は円陣を組むみたいに輪になって……


「はじめましてー」

「私達」

「三十路系人妻子持ちアイドル!」

「「「『ママと撫子』でーす!!」」」


 ………………


「……いえーいっ」

「ぱちぱちぱちっ」

「……どんどんぱふぱふー」


 お淑やかな、深窓の令嬢みたいな御三方の口上は…なんて言うか……色々突っ込みたくなるものだったけど……

 私もお笑い芸人時代の過酷な下積み経験者。先輩は立てなきゃいけないのは分かってる。

 分かってるんだけど……


「『ママと撫子』はリアル子持ち人妻三十路系アイドルユニットとして5年の活動実績があるベテラングループです」


 なんて言ったらいいのか分からない空気感の中で星熊さんが淡々と説明してくれた。


「主にライブハウスとかでライブしてます。あとはY〇uTubeチャンネルも……」


 …………


「……マイナーな理由が分かりました」

「「「マイナー?」」」

「いやっ!万理華さんが言ってたから!!」

「りあ!?何言ってんのふざけんな!!」


 アイドルって……ファンの幻想、理想の女の子ってイメージがあったけど……


「……人妻で子持ちって、それでファン付くんすか?」


 せいちゃんから素朴な疑問だった。こいつらが私達の先輩なんて認めないと言わんばかりの冷めた眼差しなのは、ご機嫌斜めである事以外にも色々ありそうだ。

 アンサーに回答したのは星熊さん。


「風俗とかでも人妻風俗とかあるでしょ?同じです」

「「「星熊さん!?」」」

「需要があるんですよそういうのも…他人のものだからいい、的な……」

「「「私達アイドルですよ!?」」」


 おぉ。流石活動歴5年……三人のツッコミの息はピッタリだよ。


「……デモミソジハ…」

「おっと琴音ちゃん?その辺にしよ?」


 余計な事を口走りかける琴音ちゃんにストップをかけたその時、隣で紗良ちゃんが震えてた。

 なんで震えてんだろって思ったら泣いてたよ。

 なんで?


「……この人達は私の希望だ」

「なんで?(汗)」

「三十路でもアイドルはやれる……」

「……あぁ、なるほど…」


 うちには20歳が二人も居ますからね。


「あの……本当に人妻なんですか?」


 はーちゃんは信じられないという顔で質問してたけど、その答えは三人の左手の薬指に光る指輪が物語ってる。

 ……いや、キャラ付けで付けてるだけ、かも…


「そうですよ」

「私達みんな、結婚して5年になります」

「初めは『新婚アイドル』で売り出してたんですが…結婚生活が進展していくにつれて『マタニティアイドル』から…今は『三十路人妻子持ち系』になりました」

「けっ…結婚と同時にアイドルデビュー…」


 色んな感情に打ち震えながら振り返るはーちゃんが万理華さんを見た。


「……なに?」

「この事務所って独創的なタレントさんばっかりだね」

「私達もだいぶ……いや、そんな事ないわ」

「万理華ちゃんの『THREEPIECE』ももしかして…?」

「私達は普通のアイドルだったわよ!『FOOLS』も正統派アイドル路線でいくから!!」

「……メンバー全員恋人系アイドルとか、どう?」


 っ!?せいちゃん!?やっぱりせいちゃんはそっち系なのね!?!?


「なによその修羅場アイドル!!」

「……いいじゃん」

「りあ!?」


『FOOLS』の方向性が定まりかけたその時、星熊さんが「そこまでですバカヤロウ達」って失礼な事言って場を纏める。


「今後は『ママと撫子』もこのスタジオを使いますので…ちなみに事務所に金はないのでスタジオ代はこの場のみなさんで折半になります」


 うんさっき聞いた。


「……まぁ折角こうして集まったので、今日は先輩アイドルと親睦を深めつつ……初コラボ動画を撮る、という事でどうでしょうか?」

「いいけど……レッスンは?しないのかしら」

「残念ですが万理華さん…ケツアナさんとハナアナさん今日ご友人のオカマとオナベの結婚式らしくて……」

「要するに男の人と女の人が結婚するのね?」

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