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百合や尊死  作者: 白米おしょう
どうしてこうなった編
6/13

第5話 あなた可愛いですね。あなたもどうですか?

 天鬼りあ、スカウトされる。

 お笑い芸人生活、完ッ!!


「……え?私ですか…?」


 吉原劇場前で唐突に受けたスカウトに私は間抜けな顔で聞き返してた。

 無表情で私を見つめてくる芸能プロダクションの人はひとつ頷いてから「実は…」と衝撃の告白。


「先日あなたが出演されたタレント発掘のオーディション番組を拝見致しました」

「あれを観て私をアイドルに!?」

「そうです」


 なぜ!?

 私がやったの京浜東北線の車内アナウンスのモノマネとおっぱいの話だけだけど…

「シンデレラストーリーやっ!!」って、隣で桜太夫が喚いてる。


「あなたに可能性を感じました。当事務所では今新アイドルユニット立ち上げの為のメンバーを探しています」


 可能性しか感じられない女、天鬼りあ…

 ……こんな事言われちゃったら思っちゃうよ。もしかして私にはあるのか…?アイドルとして輝くスター性が…


「えっ……と……」


 一度は絶えた美少女百合の世界へのチャンスが…しかも向こうから手を差し伸べてきている。


 アイドル……

 美女、美少女達の世界…芸能界の花形……っ。


 この人は選んでくれたんだ。私に眠る可能性を嗅ぎつけて。しかも、オーディションでは落ちたこの私を。

 この手に応えなくては……


 怖い顔のお姉さんの向こうにキラキラ輝く百合の花園を見つつ……私は差し出された手を……


「……そういえばあなた」

「え?ウチ!?」

「あなた可愛いですね。あなたもどうですか?」

「え!?ウチも!?ウチ芸人なんやけど!?」

「さっきの話聞いちゃったんですけど…辞めるんですよね?」

「……いやぁ…!!」

「人居ないんです、今。良かったら移籍しません?」


 ……


「ウチなんかが…そないな…アイドルやなんて…!!」

「可愛いから出来ますよ」

「えぇ!?」

「アイドルって可愛ければなれるので。すぐですよ?すぐ」

「……ど、どないしょ……!!」


 ……この人、誰でもよかったんじゃ!?


 *********************


「は!?辞める!?」


 キャパ200人の小さなハコでのライブを終えた楽屋で……


「限界感じちゃったんだよね…私ら」


 メンバーから告げられた衝撃の一言に私は目眩がした。

 頭に血が登るのと同時に「ああ、来たか」って冷静に状況を俯瞰してるもう一人の自分も居る。


「待って?私“ら”?」


 もう一人にも視線を移したら内気なもう一人の仲間も視線を外したまま小さく頷いた。


 三人組ユニットの『THREEPIECE』

 三人しか居ないメンバーのうち二人が脱退を決意したというのか。それはつまり『THREEPIECE』の終わりを意味してる。

 支えを失ったようにふらつく私はそのまま背後の折りたたみ机に腰を預け、二人を見る。


「……ごめん」

「いや、ごめんじゃなくてさ…」


 どうやって引き留めようか……なんて考えを巡らせる。

 けれど、引き留めるのが正しい事なのかどうかも私には分からなかった。それは私のエゴでしかなくて、この子達にはこの子達の人生がある。ロクな収入もない現状をいつまでも続けていくには精神的にも肉体的にも負担が大きすぎる。そんな事は分かっていた。


「……理由は?」


 けれど私は何とか二人を引き留めようと口を開く。


「だから……バイトにアイドル活動に…もう限界なんだよね」

「どんなに苦しくっても三人で…いつかビッグになるまで頑張ろって言ったじゃん……」

「そのいつかの目処が立たないから、限界なんだよ。私達、もう4年だよ?」


 4年……その言葉が深く胸に沈む。


「……ま、万理華まりかちゃんなら…一人でもやっていけると…思うよ……」


 もう一人の仲間がそんな無責任な事を言う。

 頭がカッとなった。


「ふざけないでよっ!!今まで三人でやってきて今更一人でなんて……っ!!」

「おい、万理華」

「THREEPIECEがONEPIECEになっちゃうじゃんっ!!」

「そ、それは色々まずいんじゃないかな…?」

「万理華、落ち着いてよ……」

「二人とも勝手すぎるよ!!私はまだ…まだ諦めてないのにっ!!」

「もう決めた事なんだっ!!」


 楽屋に重たい沈黙が落ちる。

 いつまでも耳に響く言葉の数々に私は「ああ、もうダメなんだな」って……


「……わ、私ね?地元に戻って…就職するの……異臭判定士の資格取ったんだ」

「なんだよそのマイナーな資格。聞いたことないよ……」

「私もさ……ちゃんと働くよ…地元のノースカロライナに帰って……」

「えぇ!?地元ノースカロライナなの!?初耳なんだけど!?」

「高さ450メートルの電波塔の補修工事してくる」

「なにそのソリッド・シチュエーション・スリラーになりそうな仕事!?」


 万理華はさ……と、4年間苦楽を共にした仲間が微笑んだ。諦めとさよならの微笑みだ。


「私らの分まで頑張ってよ」

「……」

「……も、もう…事務所にも話してあるんだ…ごめんね?…万理華ちゃん……」

「……」

「解散ライブ、最後に盛り上げていこうね?万理華」


 ……どうやら二人は現実ってやつを歩き出したらしい。

 夢を捨てて現実という居場所に戻っていく二人の背中を私は見送る事しかできないらしい。


 私達の4年間は、語り合った夢の端すら掴むことなく終わった……


 奥歯が割れる程噛み締めた。


 *********************


 簡単なオーディションだった。

 オーディションってこんな感じなんだって拍子抜けしたのを覚えてる。

 歌もダンスも、問題なくこなせたと思う。

 自信はあった。

 というか、そもそもオーディションの参加者が僕を入れて8人しか居なかった。

 そもそもオーディションが公民館で行われる事にも驚いた。


 オーディションから三日後にスマホが鳴って、オーディションを主催した事務所から電話がかかってきた。

 落ちることは無いだろうなって思ってたけど実際に合格の連絡を受けた時には内心ホッとした。


 それは合否うんぬじゃなくて、吐いた嘘がバレてないかどうか、だった。


 お姉ちゃんには簡単に報告しておいた。無論、返事はない。


 とにかく一歩前進だ。


 ところでアイドルっていうのはどういう仕事なんだろうか……

 テレビやネットで観るばかりで全くイメージが湧かないけど……


 まぁ、何とかなるだろう。


 自室の姿見の前に立って自分の姿を見る。お姉ちゃんのお下がりの姿見は毎日の手入れの甲斐あってピカピカだ。


「……大丈夫、今日も可愛い」


 大丈夫だろう。

 僕は今日も可愛い。

 明日も明後日も……ずっと先も……


 僕ならアイドルだってやり切れるはずだ。

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