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第58話 そんな…私オペラグラスで至近距離から視姦しただけです……

 POPプロダクションが借りたスタジオは都内某所、ケバブが熱い場所にあったもんだから、土曜日の初レッスンに向かう道中、天鬼りあはケバブ屋台に向かってた。


「オマチドウ。トクモリ、ケバブラップ」

「ありがとうございます」

「……ワァ」


 そこで思わぬ二人組と再会することになる。


「……あれ?はーちゃんと琴ちゃん」


 多分スタジオに向かう途中なんだろう。そこには二人連れ立ったはーちゃんと、某運び屋したりサメと戦ったりする世界一かっこいいハゲ俳優の顔を模したマスクを被った琴音ちゃんの姿があった。

 二人は朝ごはんとお昼ご飯の中間の時間帯に特大ケバブラップを抱えながら、あろう事か手まで繋いでスタジオの方へ歩いてく。


 ……声をかけようかとも思った。

 けどやめた。

 パパがヴェネツィアで買ってきてくれたオペラグラス(視姦用)を構えて、距離を置きながら後を追う。



「おっきいね。琴音ちゃん全部食べれそう?」

「タベレルヨ」

「待って待って。そのままじゃ食べれないよ?ス〇イサム外して?」

「……ソトダトハズカシインダヨネ」

「……そのマスクつけて歩いてる方が恥ずかしいよね?」

「オチツイテタベレルトコ、イコ?」

「そだね。まだ時間あるしね」



 腰を落ち着けて特大ケバブと格闘するらしい。

 二人は偶々通りかかった人気のない公園の隅っこに腰を下ろした。


「……はること…てぇてぇの予感…でゅふっ!」

「ママー、へんなひといるー」

「見ちゃいけませんっ」


 公衆便所の影からてぇてぇをむしゃぶり尽くすべく観察を始める私の目に、早速百合の花園が飛び込んでくる。


「モグモグ……」

「琴音ちゃん口小さいね。あはは…ほら、口の周り拭いて…」


 世界一のハゲマスクを口元だけ外した琴音ちゃんがケバブソースまみれの小さな口を必死にモグつかせてるのを、微笑みながら見守るはーちゃんがハンカチで口元を拭ってやる。


「コドモジャナインダカラ」

「今の琴ちゃんはどー見てもお子ちゃまですよ」

「フザケンナ」


 てぇてぇ……


「ハーチャン、ソレナニアジ?」

「これ?ペッパー・Xサルサソースだって。琴ちゃんのは何味だっけ?」

「デナトニウムアオジルソース」


 なんか不味そう。あのケバブ屋には行くまい……


「ソッチノガオイシソウ…」

「一口食べる?」

「ジャアハーチャンモ…ワタシノヒトクチアゲル」


 間接キッス……


「でゅふっ!!」


 紗良ちゃんとせいちゃんの絡みが肉欲にまみれたアダルティな百合園ならば、この二人の絡みは純粋で静謐な、それでいて危うさを感じさせる…例えるならそう、精巧なガラス細工で作られた美しい百合の花咲き乱れる百合の園。

 控えめだけれど、その中に女同士という確かな危うさが同居する……これは芸術。


 さらせいカップリングが味覚にダイレクトに直撃してくる野性味溢れるレアステーキだとするならば、はることカップリングは繊細で奥行の深い上品なフレンチ……!!


「でゅふふふふっ!!」


「……ココノアンマリオイシクナイ」

「そだね。ビミョーだね。次は向かいのケバブ屋さん行ってみようか?」

「ウン」


「でゅふふふふふふふふふふっ!!」



 その時二人の前を老夫婦が通り過ぎる。品のいい優しげな微笑みを浮かべた夫婦は午前中の散歩を楽しんでる風だった。

 そんな二人が楽しそうに並んで座るはーちゃんと琴音ちゃんに会釈する。

 はーちゃんもそれに小さく会釈と微笑みを返した。


 ……ただ琴音ちゃんはその瞬間、口元だけ露出してたス〇イサムマスクを引っ張り下げて、完全に顔を隠しちゃった。


 てぇてぇにでゅふでゅふ笑ってた私はその何気ない光景をオペラグラスで目にした瞬間、あるひとつの懸念を胸に抱える事になる。


 *********************


「……あのー…」


 てぇてぇ観察(義務)に精を出してた私に声がかかる。

 見るとそこには、残暑というにはまだまだ暑すぎる気温を維持したこの時期に全身真っ黒で長袖、足首まで隠したロングスカートのワンピースを着込んだお上品なお嬢様が立ってた。


 服と同じく髪の毛は漆黒。陽光を吸い込んでそのままどこかへ消し去ってしまうような、底なしの黒。

 薄ら開かれた目元から覗く瞳も黒。

 全身真っ黒けなその姿は、光の侵入を許さない絶対的な黒で、まるでその場に一枚の人物画が立っているみたいに現実と比較してアンバランス。


 真っ直ぐ伸びた漆黒のロングヘアに私は以前出会った双子の探偵を想起した。


 困った様子でこっちを見つめる、お淑やかが具現化したみたいな女性は遠慮がちに口を開く。


「お手洗い使いたいんですけど……」


 あんまりはることがてぇてぇもんだから気づいたらトイレの影から出て女子トイレの入口を占領してたみたい。


「あっ、ごめんなさい…」


 綺麗な人だなぁ……って思った。


「お手洗い見つかりました?」


 丁寧な会釈を返してくれるお姉さんの後ろから新たに二人、女性が現れた。


 黒いお姉さんに負けないくらいこの二人も綺麗な人だ。


 声をかけた人は黒いお姉さんとは対称的に全身真っ白なワンピースに身を包んでる、肩甲骨くらいの長さの黒髪をハーフアップでまとめたお姉さん。

 頭の角度に合わせてサラリと流れる黒髪が美しい。白と黒のコントラストがはっきりした、清楚な正統派美女。

 少し下がった目尻が優しげな雰囲気を醸してる。


 その後に続いてるのは日傘を差したお姉さん。

 糸目でショートカット。服装は二人と同じようなシンプルな意匠のワンピース。白地に所々に花柄があしらってある。

 全体的には飾り気がなくて華やかさはないけど、気品のある整い方をした、シンプルイズベストを体現したような美しさ。



 …………三人…か。

 3Pも……ありだな。

 黒いお姉さんはまず間違いなく攻めだ。白いお姉さんが受けで……日傘のお姉さんは絡み合う二人を茶化すように間に入っていく遊び人タイプで…



『ここ……気持ちいいの?ここがいいの?』

『あんっ///はぁ……はぁ……だめっ///』

『私ここ舐めてあげるねー♡』



「……でゅふふふふっ」


 気づいたらめくるめく妄想の波に飲まれて、私はオペラグラスで三人を視姦してた。

 至近距離から。


「……(汗)」「……(汗)」「……(汗)」

「……いやぁー…近くで見ても……お肌がすべすべだなぁ……」

「……あの……(汗)」


 白ワンピのお姉さんに声をかけられてようやく我に返った。危ない危ない。街中でもなかなか見かけない美女達だったからつい…この場でパンツ下ろしちゃうところだったよ。


「あっ……失礼しました……お姉さん達があまりにも美しいものだからつい……」

「……はぁ…どうも(汗)」


 ヤバいな引かれたな。

 しかも気づいたらはーちゃんと琴音ちゃん居なくなってるし……


 これ以上ここに居たら通報されるかもだから退散しよう。

 じゃあこれでって後頭部かきながら愛想笑いを添えつつ、善良な一般市民である事を強調しながら退散しようとした時「ちょっと」って声をかけられた。


 呼び止めた白ワンピさんの片手にはスマホが…

 やばいよやばいよ……通報されちゃう。


「そんな…私オペラグラスで至近距離から視姦しただけです……」

「「「しかん?」」」

「なんでもないです……」

「すみません。ちょっとお尋ねしたいんですけど…」


 白ワンピさんが寄ってきた。柔軟剤の仄かな香りと僅かな汗の匂い。鼻腔が幸せ。


「ここに行きたいんですけど…どう行けばいいかご存知ありません?」


 淑女のお手本みたいな丁寧さで尋ねられたその場所。

 スマホに表示された住所と建物名を見た時私はびっくりしたよ。


 ここ、私が今から行くスタジオだ…

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