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第56話 『TRY AGAIN』のワンマンライブのチケットだよ

 天鬼りあ。高校一年生。

 百合を見る為に生きて百合に死ぬ、誰よりも百合を愛しそして愛されたい16歳の夏は、人生のネクストステージへのスタートラインに立って終わった。


 美女、美少女だけの世界、アイドル業界。

 その只中で至高の百合をてぇてぇして尊死する為にこの世に生を受けた私はこの夏、POPプロダクション新生アイドルユニット『FOOLS』のメンバーとして強化合宿に参加。

 仲間との絆を深め、身体のホクロの位置を把握し、仲間との別れもあり、お風呂でどこから洗うのかを把握し、初めて触れるアイドルの世界の一端に刺激を受け、仲間がキスする時の大体の癖みたいなものを把握し……


 そして合宿所が取り壊されて強制的に終わった。




 ああなんて

 斬新なインスピレーション

 これが

「死」か



 上記のこれは取り壊された保養所の瓦礫に生き埋めにされながら昼寝してた『FOOLS』のメンバー、作詞作曲担当、錦野星羅さんからのLINEである。(原文ママ)


 入院する必要すらなかった鋼の女は合宿終了後、紗良ちゃんとどこかへ消えた……

 この1ヶ月の合宿がよほど心地よかったのか紗良ちゃんは折り合いの悪い親戚の家への帰宅を拒絶。

 家賃を肩代わりする事を条件にせいちゃんの家で同居する運びとなった…


 ……いい。


『はいもしもし?あ?りあちゃーん』

「おはよう紗良ちゃん。どう?あれから…」

『どう?とは?』

「せいちゃんの家で」

『狭いし傾いてるし埃臭いし昨日信じられねぇサイズのゴキが天井に張り付いてた。がはは!』

「そんな事はいいの。それで?…一緒にお風呂とか……」

『お風呂は毎日一緒だけど?風呂ねーのこのアパート、がはは!!二人で銭湯!!がははっ!!』


 ……いいっ。


「どう?同じ布団とかで寝てる?」

『布団一枚しかねーんだよねー、がはは!!』

「……えっちな事、ちゃんとした?」

『ちゃんとってなんだよ、がはは!!』

「したんだね……?」

『ちゅーは毎日してる』


 いいッッッ!!ディ・モールト ベネ!!


「……動画撮ってくれた?」

『撮らねーよ』



 紗良ちゃん。

 琴音ちゃんとのカップリングに加えてせいちゃんとも……これは捗る。

 そして琴音ちゃんは紗良ちゃん、そしてはーちゃん。

 せいちゃんはあの性格だから誰とでも相性良ベネ

 朋花ちゃんは脱退してしまった…が、可能性は全然あるので。

 あとは万理華さんか……


 この1ヶ月でみんなの特性が分かってきた。あとはどうカップリングを組むか、だね。


「でゅふふふふふっ!!」

「りあちゃんまた気持ち悪い笑い方してるぅ」


 日課になりつつあるせいさらの確認を終えて妄想が止まらない私は、友人の女子(Aさん)が頭の悪そうな喋り方で笑い方を指摘される。


「その笑い方、アイドルしてどうなんよ」


 もう一人の友人(Hさん)も若干引いてる。


 ……そんな二人は非常階段の踊り場で、互いの腰をさりげなく抱き合いながら私の前に居た。

 私ら三人の溜まり場となってる非常階段の踊り場。簡素で殺風景な景色に二輪の花が添えられる。麗しい乙女達により彩られる景色はモノクロの背景に色彩を与えてくれるようだ。


 つまりてぇてぇ。


 獲物(百合カップル候補)として育ててた二人…夏休み中に仕込んでおいた仕掛けが上手くハマったらしく、もうこれは完全に……デキてる。

 ここで「なんか二人近くなーい?」ってバカみたいに茶化すのはタブーだ。

 私は壁…百合の花園に立ち入ってはいけない。私はただそれを眺めるのみ。

 神聖なる二人のてぇてぇをただ享受するのみ。


「でゅっ!!でゅふっ!!でゅふふふふふふふふふふふふふふふっ!!」

「……(え?ヤバない?)」

「……(りあちゃん壊れちゃったぁー)」


 ……さて。


「……おっと私職員室に呼ばれてるんだった。あとは二人でごゆっくり」


 視姦……じゃなくて観察用オペラグラス片手に二人だけの蜜月を提供しようと立ち上がる私。あ、この人の来ない非常階段の踊り場が溜まり場になってるのはもちろん私の策略。

 こうして私が席を外せばそのまま二人でしっぽりしけ込めるからね。


「待って天鬼」


 Hさんに呼び止められて振り返る私の視界になんかスマホの画面が…

 私のASMRチャンネルでも表示されてんのかと思ってびくついたけど、見てみるとそれはどっかの入場券代わりのQRコードだ。


「なにこれ?」

「『TRY AGAIN』のワンマンライブのチケットだよ」

「…トライアゲイン?」


 やっぱり知らないかーってAさんと顔を見合わせるHさんが説明してくれた。

 でも説明されるまでもなくその情報は手に入った。同時にスマホで検索をかけた私の目には『TRY AGAIN』の名前と共に、三人の美少女の写真が飛び込んできたから。

 そしてその三人の顔を見た時この名前が何を意味するのかを思い出す。


「大人気のアイドルだよぉ。今度武道館でワンマンライブなんだぁ」

「チケット取れたからさ、三人で行こうよ」


『TRY AGAIN』は今話題沸騰中(なのかは知らないけど)の三人組女性アイドルユニット。去年の紅白なんかにも確か出場してて、メンバーの顔だけなら私も見覚えがあった。

 昨今アイドルなんてみんな同じ顔してるなんて言われる事もあるけど、個性の立ったこの三人組に関してはそれはない。


 以前Y〇uTubeかなんかでサムネに釣られてMVを観た記憶が蘇る。細部は思い出せないけど、キレッキレのダンスパフォーマンスがかっこよかった…ような気がする。


 …メンバーは15歳と16歳と18歳。

 20歳越え二名を抱える我がユニットと比べてその瑞々しさに眩しさを覚えちゃったよ。


 …この子なんて私より歳下なのに…全然そんな風に見えないや。


 私は最年少メンバーの顔を凝視しながら思った。惹き付けられる引力がある。


「天鬼、アイドルになるとか言ってるけど全然詳しくないっしょ?」


 Hさんの鋭い指摘にぐうの音も出なかった。


「同業者について知っとくのも悪くないっしょ?」

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