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第55話 堂々たる犬神家スタイルだった

「すみませーん…」


 なんか入ってきた。

 私と万理華さんが同時に振り向いた先にはヘルメット被ったおじさん達がこちらの様子を伺うように立ってたんだ。

 誰?


「どなたですか?今大事な話してるんで、邪魔しないでもらえます?」


 ASMRを賭けて万理華さんが立ち塞がる。けどおじさん達も立ち塞がられてもって顔で困惑してる。


「今から解体作業に入るんですけど……」

「は?」

「は?」


 カイタイ?


「そもそもなんですかあなた達は。ここは私有地ですよ?」


 何言ってんだこいつらって顔で尋ねる万理華さんに先頭のおじさんも何言ってんだこいつって顔で名刺を差し出した。


「わたしく、ブチコワシ建設の室伏と申します」

「……ブ、ブチコワシ建設…?」


 どういう事ですか?って視線だけで訴えかける万理華さんに「参ったな」ってヘルメットの上から頭をかきながらおじさんが説明してくれた。


「ですので、今からここを取り壊すので、出て行ってもらえますか?そもそも、あなた方は一体……」

「は?取り壊す?」

「無人のはずなんだけどなぁ…?おかしいなぁ…」


 突然の事態に頭が追いつかない万理華さん代わって私が前に出る。


「えっと……ここ、取り壊すんですか?」

「そうですよ?」

「誰に断って?」

「誰にって所有者に……というか、ここは我が社の保養所なんですけど……失礼ですがあなた方は?」


 ぶったまげだ。










 ガガガガガガッドドドドドッ


「これはどういうこっちゃ!?!?」


 重機の駆動音に負けないくらいの怒声を張り上げるのは突然立ち退けと言われて外に放り出された朋花ちゃんだ。


 POPプロダクション新アイドルユニット『FOOLS』御一行。重機に蹂躙される私達のスタート地点を眺めながら突然の事態にフリーズ。


「どういう事ですか?」


 はーちゃんが問いかけるのは隣の星熊マネージャーだけど、星熊さんは「……えっとですね」って遠い目をしてる。


「取り壊すそうです」

「いやなんで急に?」

「急ではなく、元から決めてた事だそうです」

「でも、僕らが使ってましたよ?」

「社長がその辺を把握してなかったみたいです」


 この保養所はPOPプロダクションの社長…のお父さんの会社『ブチコワシ建設』の保養所らしいんだけど…

 お金のない我が事務所は合宿所として、その言うなれば人様の保養所を使ってた。

 ただ山奥にある不便な保養所の扱いにブチコワシ建設さんも困ってた、みたいな話は以前星熊さんから聞いた気がする。

 だからぶち壊す。

 そういう事らしい。


 星熊さんが見せてきたLINEのトーク画面には社長を名乗るアカウントから『めんご』の一言が…


「え?じゃあ合宿は…?」

「終了です」


 琴音ちゃんへの返答として無慈悲に告げられた合宿終了のお知らせ…

 こんな形で……?


「嘘やろ……ウチ、明日からどないして飯食っていけばええねん!!」

「あなた卒業したんだからいつまでも居座るのおかしいでしょ?」

「この合宿で出てくる飯あてにしとったんやけど!?ウチ、金あらへんねん!!」

「どーせあと数日で終わる予定だったんだし、別に良くないですか?」


 朋花ちゃんと星熊さんの漫才はいいとしてだ…


 急いで持ち出した私物の入ったキャリーケースを手に、無惨にも取り壊されていく思い出の地を眺めてて今気づいた。


「……せいちゃんは?」

「「「「「「え?」」」」」」


 我らが『FOOLS』の大スター、錦野星羅さんがいらっしゃいませんが?


「すぐに出てくるように言ったはずよ?」


 万理華さんの顔が青ざめる。まさかそんなという予感が全員の胸に…


「落ち着いて万理華さん。取り壊すって言われた時、万理華さんがマネージャーに連絡してる間に、私がまずはーちゃんの所に行ったよね?」

「うん」

「はーちゃんにみんなに取り壊されるから荷物もって出てきてって伝えてって頼んだよ?」


 私も自分の荷造りあったし…


「うん。僕はまず琴音ちゃんに伝えた。僕も自分の荷物の整理あったから後は琴音ちゃんに任せて……」

「はーちゃんからそれ聞いて私は紗良に……」

「私は朋花に……」

「ウチやって星羅に伝えたわ!!」


 え?じゃあ出てきてるの……か?


「「鍋だから食堂に集合」やて!!」


 は?


「朋花……今なんて?」


 ああ……万理華さんの顔が鬼に……


「いやだから……紗良から鍋やるから食堂に来いて言われたて……ウチも行こ思たらなんや皆慌ただしく外に出て行きよったから…!!」

「なんで……鍋って?」


 はーちゃんの至極真っ当な疑問に紗良ちゃんはあけっからんと…


「だって琴音から「鳥殺すからモツ持って来い」って」

「おい!言ってねぇよ!!「取り壊すから荷物持って来い」って言ったんだよ!!」

「いーや。鳥とモツって言った!!」

「ウチそれ聞いて鳥とモツやから……鍋かな思たんやけど……せやったら飯やん!?せやから食堂行けばええんやろ思て!!」


 おぉい!?

 伝言ゲームになってとんでもない誤解生まれてるぞ!?


「え!?じゃあせいちゃん食堂に居るの!?」


 はーちゃん絶句。万理華さんが真っ青な顔で駆け出した。


「ストーーップっ!!まだ人が中に…っ!!」

「よせ!危険だ!!もう間に合わないっ!!星羅の事は諦めるんだ!!」

「なにバカ言ってんのよ紗良!!あんたも少しは慌てなさいっ!!あんたのせいでしょーが!?」

「いや琴音の言い方が悪い」

「ふざけんなお前の耳が悪いんだよ耳鼻科行ってこい!!」


 事情を理解した星熊さんが至極冷静に現場責任者みたいな人に近寄って「すみません中にまだ人居るみたいです」って…まるでお客様センターに問い合わせるみたいな冷静さだった。


「ええっ!?」


 ヘルメットのおじさんもこれには腰抜かしてた。

 けど時すでにお寿司……


 ガガガガガガッ!!ドガァァッ!!


 ……て、盛大な破壊音と一緒に重機の一撃がトドメを食らわせて、私達のスタート地点が土煙と一緒に倒壊してた。


 *********************


 ピーポーピーポー



「え?中に人が居たのに建物ごと取り壊しちゃったんですか?」


 現着した救急隊も警察もこれにはドン引き。

 そして責任者として引っ張り出された星熊さんとヘルメットおじさんの醜い責任の擦り付け合いが勃発だ。


「そもそも建物の取り壊しってあんな雑な感じでやるものなんですか?いきなり重機入れてぶっ壊すなんてどうかしてます」

「うちはぶっ壊しのプロだよ?素人にとやかく言われる筋合いはないね!大体、中に人は居ないってあんた言ったじゃないか!」

「だからって確認もせずに取り壊すんですか?」

「あんた責任者でしょ!?」

「あなたも現場の責任者でしょ?」

「星熊さん…でしたか?それで…あなたは中に居た全員に外に出るように連絡したんですよね?」

「私はしてません。この人が」


 警察の前に突き出された私。ありえない。マネージャーが自社タレントに責任の全てを押し付けようとしてる。


「私は伝えたつもりなんですが…途中から伝言ゲームになって事実が曲解して伝わったらしくて……」

「どういう事ですか?」

「なんか鍋やるから食堂に来いと本人には伝わってたらしく」

「どうしてそうなるんですか?」

「私知りません。この人に訊いてください」


 私は全ての責任を紗良ちゃんに擦り付けた。


「私はそう聞いたからそう伝えただけです」


 ここまでのやり取りは瓦礫に埋まってるだろうせいちゃんの救助をガン無視して進行してた。


「あのっ!?そんな事よりせいちゃん助けてくれませんか!?」


 我らが良心はーちゃんの悲痛な訴えに警察の人は「残念ですがこの状況での生存は絶望的かと」とかなんとかふざけた事を吐かしてたよ。


「星羅ぁぁぁぁっ!!」

「琴音…もう無理よ……」


 ただ一人瓦礫の山を掘り返してる琴音ちゃんの声が胸を掻きむしる。万理華さんの絶望に染まった表情がその悲壮感を更に更に掻き立ててた。


 救急隊の人達が「これ、どうします?」って困ってる。とりあえず瓦礫の撤去の為にシャベル持ってきたらしいけど、何トンにもなろうという瓦礫に対してあまりにも無力だ。無責任にも程がある。


「…で、『FOOLS』の今後についてですが……」

「この状況でその話するんですか?星熊さん」


 私のツッコミなんて意に介さずもう全て終わったと言わんばかりの星熊さんは淡々と…


「桜さんと錦野さんの脱退を受けて、『FOOLS』は5人組ユニットとして活動する事になります」

「脱退じゃなくて死んだ疑惑なんですけど…」

「ご愁傷さまです」

「いやご愁傷さまですじゃなくて…そもそもなんで取り壊されるの知らなかったんですか?これって星熊さんの責任では?」

「何を言いますか。私も知らなかったんですよ。突然の事で…私のM〇cBookだって瓦礫の下敷きになったんですよ?」

「知りませんよそんなの……」

「全部社長のせいです」


 とりあえず雑にPOPプロダクションの社長のせいって事になったけど……



「おい!見つけたぞ!!」


 せいちゃんを捜索してた救急隊の人が声を張り上げて私は思わず目を逸らしちゃった。

 見たくなかった。仲間の無惨な死体なんて……


 愚直にシャベル一本で瓦礫の山と格闘してくれた誠実なる隊員さんの元に琴音ちゃんや救急隊の人が集まる。

 私も恐る恐るそっちを見る。




 ……漫画だったら集中線が描かれてそうなくらい堂々と、瓦礫の山から足だけ垂直に突き出したせいちゃんがそこには居た。

 要するに瓦礫の山に逆さで突き刺さるみたいに埋まってた。

 堂々たる犬神家スタイルだった。


 みんな思った。死んでるって……


 救急隊の人が足を持って引っ張りあげる。


「……おいっ!息してるぞ!!」


 その声に私も思わず駆け出してた。

 引き揚げられたせいちゃんは逆さのまま穏やかな顔をして目を閉じてる。

「きれいな顔してるだろ。ウソみたいだろ。死んでるんだぜ。それで…」って思わず口走りそうになったけど、黙っとく。


「…………ふがっ」


 だって生きてるもん。

 イビキかいたもん。


「嘘だろ…」「なんで生きてんだ…」「かすり傷ひとつないぜ?」


 これには全員ドン引きだった。


「……なんで?超合金で出来てんの?あの子」


 万理華さんもドン引きだった。





 即座に救急搬送されたせいちゃんに対する医師の所見は「お手本のような健康体。健康診断でもオールAでしょう」だった……




 てな事があって…こうして、天鬼りあの夏は終わった……

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