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第53話 なんか凄いえっちなASMR動画が……

 朋花ちゃんとの会話の翌日……

 いつも通りの時間に始まったレッスンの場で前に出てきた星熊マネージャーがみんなに告げた。


「えー……へくしょんっ!!…ぐすっ…あの……なんていうか……桜朋花さんがですね…まあ、へくしゅんっ!!卒業される事になり…ん?卒業?やめるそうです。はい」


 ケツアナ&ハナアナ先生の間に挟まれた星熊さんはその圧倒的アフロの質量に押しつぶされ、ついでに鼻の穴を刺激されたらしくてくしゃみが止まらない。

 実に締まらない報告だ。


「あらあん」「残念」


 締まらなくした当事者二人は極太眉毛を下げて悲しそうな顔をしたけど、他のメンバーの反応は淡白なものだった。


「了解」

「分かりました」

「はーい」

「さよなら」

「元気で」

「荷造り手伝うよ」

「なんでやねん!?ここまで一緒にやって来た仲間やんけ!?泣けや!!」


 逆にギャン泣きしそうな朋花ちゃんに対して万理華さんが「甘えないで、あなたが自分で決めた道よ?」ってよく分からない激励を送ってたけど……


「それでなんやけど……!!」


 って、前に出てきた朋花ちゃんが言いにくそうに切り出した。


「……ウチ金あらへんし、合宿終わるまではここ居ってもええ!?」

「出ていきなさい?」


 *********************


 さて。私達は焼肉屋に来てます。


「さ、遠慮しないで食べてね♡」

「今日は私達の奢りよ♡」


 ケツアナ&ハナアナ先生が朋花ちゃんの為にと奮発して焼肉を奢ってくれるんだって。

 わーい♡


「星熊の奢りではないんだね……」

「え?……なぜ私が奢るんですか?」


 万理華さんからの白い視線に対して早くもビールを呷ってる星熊さんは既に赤ら顔だった。


「じゃあ、朋花ちゃんなんか言って」

「えぇー……しゃあないな!!」


 紗良ちゃんから促されて立ち上がった朋花ちゃんがビールジョッキ片手に厳かに咳払いして音頭を取る。


「みんな……今まで足引っ張って、勝手に卒業決めてごめんな!?せやけど…ウチめっちゃ楽しかったねん!!」

「おひょーっ♡肉なんて久しぶりだぜ!!」

「星羅、その肉は私が育ててんだからね?」

「琴ちゃんどれ食べる?」

「ハラミ!」

「聞けや!!」

「早くしてよ。肉が焦げる」


 花より団子、友より肉なみんなはあんまり聞いてないけど……


「……みんなやったら絶対凄いアイドルになれるわ!!ウチ応援しとるから!!せやから……ウチの事忘れんでほしい…!!いつかまた会えたら!!!もう一度仲間と呼んでくれますか!!!?」

「……万理華ちゃん?それは琴ちゃんのハラミだよ?」

「早い者勝ちよ?」

「あらあら♡焦らなくてもお肉は逃げないわよ?」

「どんどん頼むから沢山食べるのよぉ?」

「もうええわ!!」







 じゅわーーーっ



 その言葉に偽りなし。ケツアナ&ハナアナ先生は気前よくお肉を食べさせてくれた。美味しい。


「ホントニヤメチャウンダネ」

「せやねん!てか琴音、焼肉屋でもマスク!?」


 あ、今日の琴音ちゃんのマスクはライオンさん。


「……えー?じゃあブロッコリーさんは星熊マネージャーのコーチだったんですかぁ?」


 酔いが回ってきた紗良ちゃんが先生から何かを聞き出したらしい。興味をそそられてそっちの話に入ってみる。


「なになに?」

「りあちゃん、星熊マネは元アイドルだったんだって!」


 話題の中心に登った星熊さんは「やめてください昔の話です」って面白くなさそうな顔でビール飲んでる。

 でもこんな話を聞かされて肉のお供にしないわけにはいかないよ。


「昔はうちの社長とユニットを組んでたのよ」


 ここで万理華さんから新情報。


「POPプロダクションの社長さんも元アイドルなんですね」

「そういえばまだ一度も会ったことないわ!!」


 はーちゃんが琴音ちゃんの食事を甲斐甲斐しく世話しながら相槌を打ち、主役のはずなのにあんまり話題の中心にならない朋花ちゃんがそういえばと口にする。


 以前POPプロダクションのホームページを見た事ある。

『THREEPIECE』とか他のアイドルグループの情報は出てきたけど、社長の詳細は名前くらいしかなかったな。


「どんなアイドルだったんですか?」


 興味本位で訊いてみた。けど本当にこの話題はしたくないのか星熊さんは顔をしかめてる。普段鉄仮面なのに珍しい。


「だから、やめましょう」

「あらなんでよー?」

「後輩ちゃんの為に現役時代のアドバイスとかしてあげたらいいのにぃ?」

「……アドバイス出来るほど大したアイドルじゃなかったのはよくご存知でしょう?そんな事よりお二人、アフロに脂が飛びまくってますよ?」

「どーしてアイドル事務所に就職したの?」


 せいちゃんはしつこくこの話題を引っ張る。そしてこの場の誰もが今はその話題に興味津々だ。

 どうやら終わりそうもないと感じたらしい星熊さんは嫌々って感じで答えてくれた。


「グループが解散したあと、しばらくフラフラした後社長が事務所を立ち上げて誘われたんです。他にやる事もなかったのでその誘いに乗りました」

「仲が良かったんですね」


 ビールのペースが上がってる星熊さん。はーちゃんの呑気な相槌に「仲が良かった?」っていつも以上に怖い表情で返してくる。


「仲良くないですよ。女だけのコミニティなんてギスギスして最悪です」

「あっ……そうですか……なんかごめんなさい。適当な事言って……」

「…………まぁそういう意味では『FOOLS』は安心かもしれませんね?だって女だ「こら星熊」


 万理華さんが何かを咎める。星熊さんはしまったという顔をして軽くなった口を塞ぐようにビールを一気に呷る。


「『FOOLS』ってなに?」


 ここでせいちゃんがキョトンしながら肉をもぐもぐ。やがてハッとした顔をして目を輝かせた。


「もしかして私らのグループ名!?」

「そういえばまだ教えてなかったわね」

「なんや!?決まっとったんかい!?」

「万理華ちゃん!?水虫臭いじゃん!?」

「水虫はないわよ!」


 キャッキャッと無邪気にはしゃぐせいちゃんはグループ名を気に入ったみたいだ。良かった。満場一致かな?


「あんた意味わかってる?『バカヤロウ共』みたいな意味よ?」


 いや、万理華さんだけは納得してない。でももう多数決で決定みたいなものなので。


「……まぁ私から言える事は…」


 とここで大先輩がこの話を締めようと口を開いた。


「みんな仲良くしてくださいって事くらいですね」


 POPプロダクションがそこに拘る理由…きっと自分達もそういうのを経験してきたからなんだと勝手に想像する。この合宿の目的も、私達がグループとして上手くやっていけるかを見る事に重きを置いてる。


「ウチがやめてもみんな仲良くやるんやで!?」

「何心配してんの?私と琴音は棊子麺くらいぶっとい赤い糸で繋がってんだから大丈夫だよ。ね?琴音」

「バカタレアツイニクヲオシツケテクルナ!!」


 紗良ちゃんと琴音ちゃんは今日も仲良し。この二人を見てると私達は大丈夫って思えてくる。





 ……さて、大人組の酔いもだいぶ…というかかなり回って、いい頃合になってきた頃…


『ちゅっ……ぱっ…ちゅ…くちゅ……♪』

「あっ、電話だ」


 私のスマホが鳴った。電話は高校の友人のHさんじゃないか。この夏休み中で初めて学校の人から電話きた。


「天鬼!?なんやその着信音!?なんの水音や!?キモっ!?」

「りあそれ…お風呂の紗良と星羅のキスの音じゃない!?キモっ!?」

「ごめんちょっと電話でてくるね?」

「「キモっ!?」」


 朋花ちゃんと琴音ちゃんがドン引きしてるなか席を立つ。「お会計のタイミングで逃げるやつだ…」って自分が一番やってそうなせいちゃんの声を背中に受けながら一旦店の外へ。


 なんだろう……?


「もしもし?」

『あ?もしもし?天鬼?』


 Hさんのボイスが耳元に。


『久しぶり、元気してる?合宿どう?』

「いい感じ」

『そかそか。元気そうなら良かった。私はねー…海行ったよ?』


 海か…いいなぁ……水着姿でイチャイチャしてるHさんとAさん見たかったよ……

 この二人のカップリングも仕上げなければ……


『それでね?…実はさY〇uTubeで見つけたんだけど……』


 なんか不穏な響きが聞こえた。


『『りあちゃんのえっちなASMR』ってチャンネル…』


 目の前が少し暗くなった。

 Hさんの声が周りを伺うみたいに低くなる。耳元で内緒話するみたいな声が鼓膜を通って脳に到達するけど、脳はその理解を拒んでる。


『あれ……天鬼?』

「リアチャンシラナイ」

『でもあの声天鬼……』

「シラナイヨ?」

『なんか凄いえっちなASMR動画が……』

「シラナイシラナイ」


 心配してるような悲しんでるようなそんな声音が……

 私の足は震えてた。


 まさか……まだ一本しか投稿してない。こんな早く身バレ……


『チャンネル登録者数5万人もいるけど……』

「ごまんにん!?」

『天鬼…アイドルなるんだよね?』


 天鬼りあ、えっちなASMRY〇uTuberとして身バレした。

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