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第52話 真っピンクやんけっ!!

 朋花ちゃんとの露天風呂はその後、出会った頃の思い出話なんかに花を咲かせて終わった。

 といってもまだ出会って数ヶ月…積もるほど話もないけど…


 脱衣所で髪を乾かす私の後ろで寝巻きに袖を通す朋花ちゃんがドライヤーの騒音に負けない声量で不意に問いかけてくる。


「そーいや、なんで星羅に相談しとったか分かるか!?」

「え?」

「やめるって話や!!」

「なんでって…デキてるからでしょ?」

「いてまうぞこら!!なんでそうなんねん!?」

「初めて会った時からもうキスしてたじゃぁん」

「……なんかさ…天鬼……お前…!!」

「え?」

「なんでもないわ!!」


 でも真面目に考えてみたら…

 せいちゃんという人はダメダメ社会人で少しも尊敬できるところがなくて、顔が良くなかったら刺されてそうな人間性の人だから、相談事をするにあたってその対象者として真っ先に除外されてもおかしくない気がする。

 ここには万理華さんとかはーちゃんも居るわけだしね……


「……確かに…なんでよりにもよってあんな人に……」

「言い過ぎや!!」

「やっぱりデキてるんだ……」


 ともせいてぇてぇか?


「……この話は終わりや!!」

「うそうそ!ごめんなさい!もうふざけないでちゃんと聞くから!」


 冷たい視線を受けながら平謝りしたら朋花ちゃんは口を開いてくれた。語られるのはせいちゃんとの濃密な蜜月……


「ウチと同じ悩み抱えてる思うたからや!!」


 じゃない。

 またしても暗雲立ち込める。


「え?それって……まさかせいちゃんも…」

「ちゃうちゃう。まぁあいつとウチのちゃうところは、あいつはちゃんと本気でアイドルなりたいっちゅうところやろな…!!」


 ガシガシって乱暴に頭掻き回しながらドライヤーをかける朋花ちゃんの後ろに回って、ドライヤーを奪い取る。

 ツヤツヤの金髪に手ぐしを通しながら温風を当ててあげると朋花ちゃんは身を委ねてくれた。


「同じ悩みって?」

「結果が出らへんっちゅう話や…!!」


 鏡の中の自分と向き合いながら朋花ちゃんは口元に手を当てて、周りを警戒する素振りを見せる。他に誰も居ないのに……


「ここだけの話やけどな…あいつ今曲作ってんねん!!」

「知ってる」

「なんで!?」

「せいちゃんが自分で言ってた」

「なんやて!?「みんなには内緒だよー」って汚いウインクしとったんやで!?」


 汚いウインク……


「結果が出ないって……もしかして楽曲の事?」

「悩んどる。上手くできへんって……!!」

「でも……まだ作り始めたばっかりでしょ?それに、そんなホイホイ作れたら苦労しないよ」

「せやろ?そう思うんや…けどあいつにとってはそうやないんやろな…!!」

「……?」

「なんて言うか…………多分……出来へん自分を責めとんねん!!」


 せいちゃんの顔が頭に浮かぶ。抜きん出たルックスでいつも砕けた顔で笑って酔ってるあのせいちゃんが、一人机に向かって苦悩する姿はちょっと想像できない。


 私達の事を考えながら作ってたらどんどん浮かんでくる……せいちゃんそんな事言ってたのに…


「自分じゃそないな事言わへんけどな?ウチも苦しかったからちょっと分かんねん…!!」


 湿り気のなくなった朋花ちゃんの髪の毛。ドライヤーを切ったら温風で持ち上がって広がってた髪の毛がふわって朋花ちゃんの体に下りてきた。

 自分の髪の毛に指を通しながらちょっと寂しそうな顔をする朋花ちゃんを鏡越しに見つめる。


 今一瞬、本当の気持ちが見え隠れした気がしたけど、それは想像に過ぎないし、陽気に振る舞う朋花ちゃんに失礼だから見なかった事にする。


「……そっか」


 ただそれだけ返した。


 朋花ちゃんは振り返って丸い目で私を見た。


「せやから天鬼……これから星羅の事、よう見たっとってや!!あいつが潰れてしまわんように…!!」

「……うん」


 せいちゃんも万理華さんみたいに責任を感じて抱え込もうとしてるのかも…

 楽曲制作の目処が立たない現状を何とかしようって……


「せいちゃん、無理に抱え込む事ないのにね…お金さえあればなぁ…プロの人に頼めるんだけど……」


 頭の中にASMRの単語が浮かんだ。やはりあれしかないのか……!?


「……それはちゃうやろ!!」

「え?」

「あいつは自分の意思で曲作っとんねん!!」


 断言する朋花ちゃん。その目には確信しかない。


「音楽が好きやから自分の意思で曲作っとんねん。そこにみんなの為とか責任感とかは…多分あらへん。そんだけ音楽が好きやからこそ、苦しんどるんやと思うわ!!」

「朋花ちゃん……」



 音楽をもっと好きになる為に



 紗良ちゃんとの会話が頭の中に蘇った。

 錦野星羅……誰よりも音楽の才能がある女の子。そんな領域に居る人にしか共感できない痛みもある。

 あの人の事はまだよく分からない。


 ただ、正反対の立場から見えるものもあるのかもしれない。


「朋花ちゃん」

「なんやねん!?」

「……やっぱり朋花ちゃんって…せいちゃんの事好きだよね?」

「だからなんでやねん!?」

「理解が深い」

「だからちゃう!!」

「あの時とディープキスに…舌だけじゃなくて心まで絡め取られちゃったんだぁ…」

「お前の頭ん中ってホンマに花畑やな!?真っピンクやんけっ!!」

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