第48話 ……ウチ、やっぱりやめようかと思うねん!!
「ふーるず?」
「そだよ琴ちゃん。私達『FOOLS』なんだって」
星熊さんが私達のグループ名を決めてた。
名前は『FOOLS』
キョトンとする琴音ちゃんにはーちゃんが「こう書くんだよ」って教えてあげてる。
「おいおい、幼稚園卒の琴音に英語は難しすぎるぜ」
「黙れ」
相変わらず琴音ちゃんへのいじりが止まらない紗良ちゃん。二人ともシャワーあがりでシャンプーのいい香りがした。この香りの芳香剤が欲しい。
さて、我らがグループ名がめでたく決定?したわけだけど、我らがリーダー万理華さんは納得いってない様子だ。
「かっこいいかも」
「琴音、FOOLの意味知ってる?」
万理華さんがブスっとしながら琴音ちゃんに問いかけるけど幼稚園卒の琴音ちゃんは首をコテンと傾けるだけだった。
「FOOLSはFOOLの複数形だ。琴音、複数形って分かるか?」
「さっきからバカにすんな。こちとら現役高校生だ」
「じゃあFOOLの意味は?」
「……」
「がははは。お前の事だ!」
「どゆこと?」
いじられてるのが分かってない琴音ちゃんに私が説明してあげる。
「FOOLって愚か者とかバカみたいな意味だよ」
「紗良ぁ!!」
琴音ちゃんの見た目より強力なローキックが疾る!けど幾度も食らってる紗良ちゃんはそれを華麗に躱すタイミングを身につけてた。
「貴様の技は見切った!がははっ!!」
「……当たれば骨ごと持ってかれるからね」
はーちゃん曰く琴音ちゃんの蹴りは骨をへし折る威力なんだって。そんなのをツッコミ代わりに食らってた紗良ちゃんは超合金製かな?
そんな事はいいんだけど。
「不満ですか?」
腕組みしてブスくれてる万理華さんに星熊さんが問いかける。命名者である彼女はいい名前でしょ?と言わんばかりの表情。一体何が不満だと言いたげに万理華さんを見てる。
「不満よ。私達がなんでバカ野郎共なのよ」
「だって、バカでしょ?」
「は?」
「じゃあ多数決しますか?」
星熊さんがこの場のメンバーに視線を巡らせてから…
「このグループ名でいいって人」
「僕はこれでもいいです」
「私もー」
はーちゃんと紗良ちゃんは満更でもなさそうだ。万理華さんが「正気!?グループ名でディスられてんのよ!?」って抗議してるけど…
「…私はみんながよければいいよ?」
琴音ちゃんも概ね肯定派。
「私も悪くないと思う」
かくいう私もなんか…しっくりきてた。
万理華さんは納得いかないって顔で歯を食いしばってた。
「まだよ……朋花と星羅の意見も聞かないと…」
という事で……
まずはせいちゃんの意見を聞こうという事で、私達は二階の自室の並ぶ廊下の前を歩いてた。
「そういえば最近星羅はなにしてんの?ずっと部屋に籠ってるけどさー」
紗良ちゃんの言う通り、ここ数日のせいちゃんはずっと部屋に籠って何かしてる。レッスン中もぼーっとしてるし少し心配だ。
「…ここに住むつもりで部屋をリフォームしてたりして」
なんてはーちゃんの戯言が冗談に聞こえないくらいにはせいちゃんへの信頼は薄い。星熊さんの顔色が変わった。
「まずいですよ。ここは社長のお父さんの会社の保養所ですよ!?」
「今更ですけど…別会社の保養所勝手に使っていいんですか?」
「天鬼さん。こんな何も無い田舎の山奥の保養所に来る社員さんは居ませんから。休暇を使ってこんな辺鄙な場所まで車を走らせて山登りまでして来るなんてもはや罰ゲームです」
「はぁ……」
「社長のお父様もこの施設は持て余してるようでして……」
「夏休みなのに管理人さんも居ませんもんね」
「近々取り壊し予定です」
衝撃の事実。「無くなっちゃうんですか!?僕らのスタート地点!」ってはーちゃんが地味にショックを受けてた。
確かに設備は充実してるからなぁ…ここの居心地の良さは永住したくなる気持ちも分かるレベルだ。露天風呂広いし……
なんて言ってたらせいちゃんの部屋の前。
早速ムエタイみたいな構えを見せる紗良ちゃんを「やめてください」って星熊さんが素早く制止。
行儀よくノックをしようとする琴音ちゃんが拳を固めた。
「シュッシュッ」
「琴音ちゃん?シャドウしないで」
「待った」
ノックをぶちかまそうとする琴音ちゃんを制したのは万理華さんだった。
ノックとは言えないくらいに腰の入ったストレートのシャドウを見て扉を案じた……訳じゃない。
万理華さんは扉に耳をくっ付けて中の様子を伺ってる。
「……ふぅーーーーーっ」
「あはんっ///」
……片耳がお留守だったから吐息、入れといたよ。
「何すんのよ!?りあ!!」
「いや、なんか…ASMR待ちかなって」
「今じゃないわよ!!」
「今じゃないのかー」
「万理華ちゃんどうしたの?」
はーちゃんが問いかける。琴音ちゃんは今にもストレートを発射しそうだった。
「朋花も居るみたい。声がする」
「耳いいね万理華ちゃん…でもそれが?」
「なんか話してる」
「まぁ二人で居るなら話くらいするんじゃない?」
「鈍いわね陽。なんか深刻そうなのよ」
深刻?
私は万理華さんに促されて扉に耳を押し当てる。残念設計で薄い扉は中の声を鼓膜まで貫通させてきた。
「ずっと考えてんねん!!」
……違うな。朋花ちゃんの声がでかいのか。
せいちゃんの声は聞こえない。朋花ちゃんの声だけを拾う。
「ウチやっぱ向いてないねん…!!」
……え?
万理華さんの言う通り。なんだか深刻な感じだ。とりあえず聞いて……
「ふぅーーっ」
「あっ///琴音ちゃん!?なにを!?」
「え?……ごめん…りあの真似」
琴音ちゃんの吐息……
「みんな、バレちゃうよ」
「はーちゃん……君も欲しいのかい?」
「寄らないで紗良ちゃん、違う」
琴音ちゃんを腕の中に抱え込んで盗聴を再開。せいちゃんのくぐもった声が聞こえてくる。ただ何を言ってるのかまでは聞こえてこなかった。
それに応じるように…
「なんでやねん!!」
朋花ちゃん声デカイなぁ……
「あいつ声デカすぎだろ」
琴音ちゃんもそう思うよね?
「やっぱりウチ……アイドルやのうて芸人になりたいんやと思う…!!」
これは……
琴音ちゃんと顔を見合せて続きに意識を傾ける。
……しかしこうして腕の中にすっぽり収まる琴音ちゃんを見下ろしてるとなんか……ホント可愛いなって。
小っちゃくて温かくて……可愛い♡
「すーーっはーーっ」
「匂い嗅ぐな!?」
「あなた達はいちいちボケないと気が済まないのですか?これはもう確認するまでもなくグループ名は『FOOLS』ですね」
「星熊、黙って」
気づいたらみんな扉に張り付いてた。後ろの紗良ちゃんの巨大な胸部装甲が背中に……柔らかい。え?すごい柔らかい。ブラ……付けてない……ゴクリ。
「レッスンにもついていけてんへんし…!!」
漏れ聞こえてくるのは朋花ちゃんの心の声。それは私達には明かさない朋花ちゃんの本音。
朋花ちゃんの胸の内に燻ってるものを垣間見て、胸の奥の方がキュッと締め付けられる。
そして決定的な一言が……
「……ウチ、やっぱりやめようかと思うねん!!」
それは私たちにとってあまりにも悲しい一言だった。




