第46話 私のえっちなASMR聴いて、寝る前にえっちな妄想するの?
「私はみんなで楽しくやれればいいかなって思ってるから…」
「ふざけんな」
愛してるゲームを圧勝でフィニッシュした私には具体的なアイドル像ってやつがなかったんだ。
結局酒池肉林のミーティングは何も生み出さず私達のアイドルとしての方向性は「その時の雰囲気で」って結論に落ち着いた。
それを見てた星熊マネージャーはなんとも言えない顔してた。
「そーいえばさー」
ようやく快楽の坩堝から帰還した紗良ちゃんが今だにビクンビクンしてる琴音ちゃんを抱っこしながらなんとも言えない顔してる星熊さんに質問。
「私達の楽曲ってどうなってんですかー?」
「がっきょく?」
ナニソレオイシイノ?みたいな顔が返ってくる。
「講師さんから言われたんですけどー、私らの楽曲作ってもらえるあてがあるんですか?」
「……アルヨ?」
「ないんですか?」
「……ナイアルヨ?」
「どっちなんだ。あるのかないのか」
「ないないあるよ」
……
「アイヤ〜ないあるないあるないあるない〜」
壊れた。ないアルの修羅みたいになっちゃった…
直後飛んだ紗良ちゃんの張り手で「ぶ」て言いながら星熊さんは弾け飛んで、彼女の持ってた催告書って書かれた封筒が床に落ちた。それを見て紗良ちゃんは一言「あれか…」って呟く。
まぁつまりあれが答えなんだって。
「まずは私達が借金返さないとね……」
全てを諦めた顔の万理華さんがため息と共に呟くけど、その為の楽曲が必要という話なのでは?
「……そんな事はあなた達が心配する事じゃないんです」
手遅れ感満載だけど大人ぶった言い方と共に立ち上がる星熊さんがハエでも払うように「さっさと寝なさい」って私達を追い払う。
こうして今晩の酒池肉林の宴は幕を閉じ……
「……りあ、後で部屋に行ってもいい?」
……え?
「……星熊さぁん」
「なんですか錦野さん、シバキ回しますよ?」
「ちょっとお話いいー?」
ないアルみたいだ。
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ドキドキ…
部屋の扉の前で正座して待ってたら、ほどなくしてノックが三回鳴った。返事を待たずに扉が開かれた先にノックの意義を置き去りにした万理華さんが寝巻き姿で立ってた。
薄い生地の肌が透けて見えるセクシーなネグリジェ。
…え?この前は可愛いパジャマだったのに…
「ごめんねこんな時間に…ちょっと…話があるの」
何故か頬を朱に染めてモジモジしながら万理華さんは深夜の来訪を詫びつつ、私の部屋に侵入する。
椅子じゃなくてベッドに腰を下ろす彼女の姿に私の心臓は限界を超えた心拍数を記録。こんなにドキドキしたのは神の花嫁と称される大ハリウッド女優、エレナ・アッシュクロフトを生で見た時以来かもしれない。
同時に予感があった…
それは中学時代に経験したあの予感…
百合という聖域に私自身が踏み込むあの予感…
もしかして万理華さん……
「その…話って……?」
意を決して口火を切る私に彼女の取った行動は無言で自分の隣を手で叩く、というもの。
隣に座れの意味だと受け取った私は覚悟を固めるしかなかった。
肩の触れる距離に並んで座る私達。座るのはベッド。扇情的な万理華さんの姿に私はただひたすらに思う。
…どうして私なのっ!!
私は百合をしたいんじゃなくて見たいんだよぉぉ…
神よ…お赦しください。今宵勇気を振り絞ってここに来た彼女の想いに応えられない私を。
そして願わくばこの至高のひと時が私じゃない誰かに捧げられますよう。
…さらに願わくばそれを影でこっそりと眺めさせていただければええ、もう。
……覚悟は決めた。
「うん、実はね……」
「ごめん万理華さんっ!!」
先走っちゃった。
ぽかんとする万理華さんの顔を直視できなくて私は目を固く閉じたまま、私の答えを口にする。
「気持ちは嬉しいけど、万理華さんの想いには応えられないんだ…っ!!」
「……え?……は?」
「私は確かに女の子は好きだ…」
「え!?」
「でもそれは私とどうこうじゃなくて!可愛い女の子同士でどうこうしてるのを見たいって気持ちで…っ!!だからごめんっ!!」
「……」
「万理華さんの事は好きだけど抱けないんだ」
「……」
「……代わりに…せいちゃんとかどうかな?」
「さっきの楽曲の話なんだけど…」
真夏の夜に凍りつく寝室。あまりにも深刻な沈黙が部屋に降りてきて私は文字通り言葉を失い、ただ呆然と万理華さんを眺めてた。
万理華さんは呆れとも軽蔑とも取れる眼差しで私を見つめてる…
「……そ、そんなエロい格好で?」
「これは今日暑いからっ!!なに想像してんの!?バカ!!」
「どう見ても誘ってるのに?」
「あんた誘ってどーすんのよ!!」
……
「……今の話忘れてくれるかなぁ?」
「忘れるわ。忘却の彼方へ。ただあんたが危ない思想の持ち主だって事だけは記憶の隅に留めとく」
それは忘れたとは言わない……
途端になんか…どーでもよくなった私はベッドに全身を投げ出して「あぁ、それで?」って気のない返事を返すしかできなかったよ。
「なに露骨にガッカリしてんのよ…」
「してないってば。言ったでしょ?私はね、女の子とイチャイチャしたいんじゃなくて、イチャイチャを見たいの」
「その話はもういいわ…で、楽曲の話」
あーはいはい。ガッキョクガッキョク。
「りあ…あなたさ…ASMRやる気ない?」
「楽曲とASMRとどう繋がるのかな?」
ふざけてるのだろうか?こんな深夜に?生憎ここにはツッコミ役の琴音ちゃんも朋花ちゃんも居ないよ?
順を追って説明するって言って万理華さんはとっちらかった提案をまとめ始めた。
「さっき話した通り…うちの事務所の財政状況だとプロに楽曲制作を依頼するのは困難」
「だね」
「星熊もうちの社長もあてにならないから自分達で何とかするしかないわ」
「まさか…またカジノ?」
「違うわよ。合法よ合法」
万理華さんは自分のスマホを指さして「これ」って言う。
「今の時代お金を稼ぐ方法は会社で働くとか、賭けで稼ぐとかだけじゃないでしょ?」
「…ネット?」
然りって頷く万理華さんがプランを説明する。
「これからアイドルとしてやっていくうえで、ネットでの活動は避けて通れない…私達が知名度を上げていくにあたって、その道筋を開拓する意味でも、ネットでの宣伝活動は有意義。合宿での日常を記録してるのもそういう意図がある。なら、これを利用してお金を稼げばいいのよ。私達で」
「お金も稼げて宣伝にもなって一石二鳥?」
「そう」
「…で?ASMRとは?」
「Y〇uTubeでASMR動画を投稿する」
…ああ、さっきの愛してるゲームがまだ尾を引いてるんだね。
「その収益で楽曲制作を依頼する」
我天啓を得たりとでも言わんばかりのしたり顔でどう?ってリアクションを求めてくる彼女に対して、私はASMRとアイドル活動の宣伝がどーしても結びつかなかった。
「…普通に私達のレッスン風景とか、Vlogとか、雑談動画とかじゃだめなの?」
「無名のアイドル候補生のそんな動画、再生数望めないじゃない。時代はASMRよ。流行りに乗っていかないとネット社会では生き残れないんだから」
との事です。
「…どうしてASMRなの?」
「だから…流行りだから」
「本当は?」
私には見えてるんだよ万理華さん。あなたの本音が。
じっと見つめられた万理華さんはしばらくは平静を保ってたけど、やがて決壊して、ここに来た時と同様にもじもじしながら頬を赤らめる。
「…あなたの声が……イイから……///」
んで私のボイスに脳を破壊されたメスの顔をして言ったの。
「……」
「お願い!私達の未来の為にASMRやって!!」
「……なんか不純な動機が見え隠れしてるような」
「してない」
「万理華さんも聴くの?」
「そりゃ…チェックしないとね!!私があなたのマネージャーやったげる!!」
「……万理華さん」
「……」
「ASMR好きなの?」
プルプルと震え出した万理華さんが歯を食いしばり拳を握る。
私としてはマイクに向かって囁いたってなんにも面白くないし私達が目指してるのは配信者じゃなくてアイドルだしで乗り気じゃないんだけど…
冷たい視線を浴びせる事数十秒。割とあっさり万理華さんは折れた。
「…………好き」
絵面だけだったら告白されてるみたいだった。
「毎晩寝る前に聴いてる……」
「どんなやつを?」
「それは……」
「えっちなやつとか?」
「……///」
おかしいと思ったんだ。あの堅物万理華さんがグループの方針をゲームで決めようとか、しかもよりにもよって愛してるゲームとか……
「りあ……私はあなたの声が……好きなのよ///」
すごく限定的な告白でした。
「しっ……下心もある!それは認めるけど…これは私達にとって必要な事だからっ!!収益にならなかったらやめていい!!うんっ!!今の私達には時間が無いって説明したでしょ!?こんな弱小事務所でデビューの目処も立たない状況下、手段を選んでる暇はないの!!」
「……その為に私だけが損な役回りを?」
「あなたノリノリだったじゃないっ!!」
「悶絶するみんなを見て楽しんでたんだよ。動画じゃリアルな反応見れないじゃん?」
「…………」
「万理華さんも聴くんだよね?」
「…………」
「私のえっちなASMR聴いて、寝る前にえっちな妄想するの?」
「いや別にえっちなASMRじゃなくていいし」
「本当は?」
「……いや!えっちなのはダメ!アイドルとしてのイメージに関わるでしょ!?」
「……えっちじゃなくていいの?」
「……///」
「私のASMR聴いて、はぁはぁしてるとこ見せてくれる?」
「あんた……どこまで性癖歪んでんの…」
「見せてくれる?」
「………………っっっ」
見せてくれるそうです。




