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第41話 あの子達もしかしたらとんでもないバカかもしれません

「私達騙されてたんですぅぅぅっ!!」


 錦野星羅20歳、渾身の号泣謝罪。

 浅野探偵に向かって濁流の如き涙を流してその場に崩れ落ちるせいちゃんの泣き脅しは迫真だったよ。

 でもどうしてかな……?なんだか妙に板についてるような気がする。この人の今までの人生、こういう瞬間が何度あったのかなって、ふと考えちゃった。


「違法だって知らなかったんですぅ」

「びぇぇぇぇんっ!!」


 便乗した紗良ちゃんの泣き声も重なってさながら不協和音のオーケストラ。


「日本でカジノが違法なのは常識だろ?お前ら遊んだよな?」


 でも美夜さんには通用しないみたい。


「カジノだって知らなかったんですぅっっ」

「びぇぇぇぇんっ!!」

「……錦野星羅…VIPカードで1億円分勝負してるが?」


 既にカジノのあらゆる顧客情報は探偵の手に握られてた。


「美夜、もういいじゃない」


 そこに救いの手を差し伸べてくれる詩音さんを抜け目のない二人がチラチラ観察する。探ってるんだ……この窮地を脱する方法を。


「悪気があったわけじゃないんですよね?」

「ぐすっ……仕方なかったんですぅ」

「どう仕方なかったのか説明してみろよ」

「実は私達アイドル……」


 事情を説明しようとしたせいちゃんの口を紗良ちゃんが塞いだ。そして……


「実は私達……7人姉妹なんです…」


 とんでもない事言い出した。


「え?でも苗字違うよ?」

「腹違いの7人姉妹なんです……父親がクズでして……」


 まるで息を吐くように出てきた嘘だった。私達はどんな顔をしてたらいいのかな…?


「私達のお父さんは子供が出来ては妻を捨ててを繰り返すド腐れ野郎なんですぅ。この目も父親にやられました」

「まぁ……」「なんて奴だ」


 信じちゃったよ。


「私達、父親に復讐しようの会の会員なんです」

「なんだそれ?」

「私達のお母さんを捨てて苦しめた父親を見つけ出してこの手でギッタンギッタンのメッタンメッタンにするって趣旨で活動してます、はい」

「……それとカジノとどう関係があるの?」

「父親は賭博好きだったから……」


 浅野探偵から同情の眼差しが降り注ぐ。そのうえ更に何か盛ろうとした紗良ちゃんを万理華さんが止めた。


「ちょっと!どういうつもり!?なんでそんな嘘を!?」


 小声で咎める万理華さんに紗良ちゃんは鈍いなーってヒソヒソ声で応じる。その理由は…


「私らはアイドルになるんだよ?デビュー前にスキャンダルなんて洒落にならんじゃんか。今ならただの一般人で通せる。バカ正直にアイドル候補生ですなんて言ってごらんよ?みんな琴音みたく泥が付くことになんだよ?」

「誰に泥が付いてるって?(怒)」


 ヒリヒリする応酬だけど今の紗良ちゃんと琴音ちゃんはこれくらい軽口で流せるくらい絆が深まってるんだ。


「それにこの人達…なんか揶揄いがいがあんじゃん」

「紗良……あんた……」


 さて、哀れなる7人姉妹の話を聞いた浅野探偵はと言うと……


「……話は分かったよ」


 なんか分かっちゃった。


「でも復讐なんてよくないよ…復讐は何も生まない…」

「綺麗事言うなっ!!私達のお母さんがどんな悲惨な人生を送ったか……っっ!!」


 紗良ちゃん……よくもまぁ作り話でそんな熱演を…


「お姉さんがそのお父さんを責任もって見つけるよ」

「え?」

「そして、正しい罰を受けさせる。それは決して復讐なんかじゃなくて…そのお父さんに相応しい償いを……ね?美夜」

「ね?って……」

「ね?」

「……(圧を感じる)」


 どうするんだろ…って紗良ちゃんをぼんやり眺めてたんだけど……


「……本当に……私達の怒りを……この怨念の炎をあんた達が消火してくれんの?」


 ロールプレイにどっぷりだったよ。


「してみせる。この消火器に懸けて」


 ああ、上手くかかってますね……


「ちなみにこの消火器はヤ〇トプロテック製だ」


 ああ、そうなんですね……


「……大丈夫。依頼料は格安にしておくからね?」


 …ああ、お金取るんですね……


 ********************


 探偵を名乗る二人組が我が事務所の未来を背負うアイドルの卵達を連れて帰って来た時には何事かと思いました。


 そして違法カジノで遊んでいたと聞いた時はこの事務所は終わりだと思いました。


 何故か私が黒沢さんの母親だと紹介された時はドン引きました。

 探偵さんから激しく同情され、いもしない旦那を必ず連れて来ると約束されました。


 最後に調査依頼の見積書なるものをそっと手渡された時は目眩がしました。





「…で?」


 とうとうネジが一つ外れ、今にも倒れそうなくらい傾いた椅子に腰掛けた社長が電子タバコを咥えて問いかけます。私の真意を。


「葉巻やめたんですね社長」

「体に悪いからね。今の時代はこれよ。で、星熊…」

「社長それ吸い方知ってます?」

「え?」


 電子タバコのスティックのみを咥えてスパスパ一生懸命吸い込んでますが……もしかして本体を買ってないのでしょうか?


「やはりプロの講師を雇うべきです」

「バカ言ってんじゃないよ。そんな金どこにあるのさ」

「昔の伝手を探せば講師くらい見つかると思います」

「おいおいおい……まさか星熊さんよ。私らが現役の時お世話になってたあの人達に頼むつもりじゃないでしょうね?」


 露骨に嫌な顔をしますね……


「私は今日確信したのです」

「なにを?」

「あの子達を野放しにしておくと確実に大変な事になると……」

「何か問題でも?黒沢って子と鏑木って子は仲直りして、最後の一人も合流して、万理華が面倒見てるんでしょ?」

「で、仲良く違法カジノに金稼ぎに行きました。講師代を稼ぐ為だそうです」

「……」

「……私が選んだ7人……私の目に狂いは無いものと自負してます……ただ一つ、間違っていたところがあるとすれば……」

「……」

「あの子達もしかしたらとんでもないバカかもしれません」

「……(汗)」

「お願いします、社長……あの人達を呼んでください」

「……」


 あの人達ならタダでやってくれるかもしれない。確かな腕もある。現役時代の私達をずっと支え続けてくれた、恩師…


「社長……」

「…………」

「カッポジーリ兄弟にレッスンの依頼をしてください」

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