第39話 そこまでだてめぇらっ!!
天鬼りあ、初めてのギャンブル…
負けました。
軍資金で貰った50万円分のチップはものの30分で溶けて消えちゃった…
「うえぇぇん」
「びぇぇぇん」
私と琴音ちゃんはカジノど真ん中で滝のような涙を垂れ流してた。このお金…どうしたらいいんだろ?ルールも知らないのにブラックジャックなんてやるんじゃなかった……
「リア…ドウシヨウ……」
「大丈夫だよ琴音ちゃん。私達が負けたとしてもみんなが居る」
……さて、みんなはどうだろう?
私達はスロットマシンの前に座ってたはーちゃんを発見した。
「ふぇぇぇん(涙)」
はーちゃんも泣いてた。
「ハーチャン……ナカナイデ…」
「お姉ちゃんに教わったのに(涙)」
「はーちゃんのお姉さんに一度会いたかったよ…」
7人中三人が軍資金を飴のように溶かしたらしい。はーちゃんは顔を真っ青にしながら震えてた。
「このお金…借りたお金なんだよね…どどどどうしよう……」
「借りたんじゃない、くれたんだよ」
「でも、勝って返せばいいからって言ってたじゃん…」
「大丈夫だよ」
「ゴジュウマン……」
「大丈夫だよ!まだ万理華さんと朋花ちゃんと紗良ちゃんとせいちゃんが居……」
「えぇぇん(涙)」
「ほんぎゃあああああ(涙)」
「ぎゃああああああっ(涙)」
私達は床の上に転がって泣き叫んでる三人…万理華さんと朋花ちゃんと紗良ちゃんを見つけちゃった…みすぼらしいボロ雑巾と化した三人の姿は見るに耐えない。
どうやら負けたらしい。
「おかしいわよっ!!一回も勝てないなんてっ!!私の計算では3分の1の確率で勝てるはずの勝負だった!!」
「イカサマや!!勝たせる気ないんや!!」
負け犬の常套句みたいな事叫ぶ万理華さんと朋花ちゃん。こんな二人の姿を見たくはなかった。
「お金増やしに来たのに借金まで作っちゃった…」
はーちゃんがどんどん不安な方向に思考を走らせる。そんな呟きがみんなの不安を更に駆り立てるけど、ただ一人紗良ちゃんは…
「せいちゃんがさっき爆勝ちしてるの見たぞ」
私達の間に一縷の希望が…
「なんか1000万くらい勝ってた」
「1000万!?」
「どんな懸け方してるのよあいつ!?」
「ソレダケアレバコーチヤトエル!!」
私達の積み上げた借金を帳消しにしつつ講師を雇えるだけの大金が…っ!流石にギャンブル経験者!自堕落で頼りがいのないダメ大人の代表みたいなせいちゃんが途端に菩薩様に思えてくる額だよ。
私達は顔を輝かせながらせいちゃんの元へ…
せいちゃんはバカでかいスロットマシンの前に居た。周りには人集りが出来てる。そしてせいちゃんの足下には大量のドル箱が…
『せいちゃーーーんっ!!』
文字通り涙を流し歓声をあげる私達にせいちゃんは頼もしすぎる笑顔を返してくれた。
「すごいやんけ!!これいくら分やねん!?」
「まーざっと1億は稼いだかなー(ドヤ)」
「いちおく!?ホンマかいな!?」
「やった!すぐに換金しましょう!!これだけあれば事務所の負債も返せるわよ!!」
勇んでドル箱を運び出そうとする万理華さんをせいちゃんは「待った」って制止する。途端に顔色が険しくなる万理華さんには彼女の意図が分かってるみたい。
「ここで降りるわけにはいかない」
「何言ってるの。これ以上の勝ちは要らないわ」
「今勝ってる。キてる」
「引き際を知らないの!?」
「勝ってるうちは降りない」
「房州さんみたいな事言ってないで帰るわよ!?」
この後調子に乗って大負けする未来が万理華さんには見えてるんだ…
それでも降りない。それがギャンブラー…
「たった1億…一生働かないで遊んで暮らせる額じゃない……」
「いや、あなたはアイドルになるのよ?働くのよ?バカ言ってないで戻って!!」
「嫌だっっっ!!」
「星羅っ!!」
「働きたくないっっ!!」
…合宿遅刻したりバイトバックれたりこの人は何を考えてるんだろ…
「お客様」
「何よ今忙しんだから」
二人が言い争ってるその時、私達を連れてきた胡散臭いお兄さんがせいちゃんに近寄ってきた。
その手には一枚のカードが……黒光りする怪しいカード。それが悪魔の囁きである事を本能的に察した。
せいちゃん、説明も聞かずにそれをぶん取る。
「星羅ぁ!!」
「お客様それはVIPカードになります。最大10億円分までそのカードで勝負頂けます」
『じゅうおく!?』
「どうでしょう?ここはいけるところまで…」
お兄さんが言い終わるより早くせいちゃん、マシンにカードを挿入しちゃった…
「星羅やめなさいっ!!」
「万理華ちゃん…私を信じて。今の私なら目押しでイケる…っ」
「やめなさいっっ!!このまま勝ち続けるなんてそんな都合のいい展開があるはずないでしょ!?」
なかった。
カードを使った途端図柄は全く揃わなくなって…みるみる限度額までお金が溶けていく…そして勝ち分1億までぶっ込んだせいちゃん。
発狂する万理華さんを他所に、負け分を取り返そうと躍起になったせいちゃんは…
都合11億の負債を爆誕させて、散った。
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別室に連れて来られた私達はただ震えてた。もはやギャンもピエンも出ない恐怖と絶望が場を支配してる。
「お客様、お楽しみ頂けましたか?」
お兄さんがニッコニコで笑いかけてくる。怖い。
「それでは、お貸しした軍資金の返済をお願いします…おや?お客様。もしやゲームに負けられましたか?おやおや」
その芝居やめて。もう早く断罪して。お願い。
「お客様方の負け分は占めて…11億と300万になります」
じゅうちおくってどれくらいのおもさなんだろぉ…ふぁーーーー。
「お客様は貸付分のみでお遊び頂いたので…全額ご返済お願いします」
「…VIPカードも…借りた扱いなんスか?」
「ええ」
せいちゃんの顔が赤くなったり青くなったり忙しない。この天文学的借金額の元凶たるせいちゃん、お前が責任を取れという無言の圧力が仲間達から浴びせられる…
「…………お金ないッス」
せいちゃんが絞り出した答えはこれだった。
ぴえん。
「おやおや…」
せいちゃんの一言を皮切りに部屋の中にゴツくて怖いお兄さん達が入ってきたよ。どー見てもヤの付く人達だよ。怖いよぉ。ママァっ!!
「ご安心くださいお客様」
でもお兄さんは優しい微笑みを浮かべてた。地獄の只中にあってその微笑みはまるで暗闇に落ちてくる仏様のご慈悲の如く輝いてる。
もしかして…免除……
「ご入会時のご契約に則り、当賭博場での特別ゲームに参加して頂けましたら、返済は免除とさせて頂きます」
いや、これはご慈悲ではなく悪意の塊…
「…聞いてないです、なんですか?その特別ゲームって……」
万理華さんが震えながら問いかける。お兄さんはただニコニコしたまま「簡単なゲームにご参加頂きます」とだけ…
やっぱりあの英語だらけの入会書類は悪魔の契約書だったんだぁ……
そして今に至る。
私達はVIPルームなる場所でバニーガール姿にさせられたうえ、ガラス張りの檻に閉じ込められて、手足を壁に拘束されてた。
「ナニガハジマルノォ……コンナノマチガッテルヨォ……」
「琴ちゃん…姉さんが言ってたんだけど……」
「今あなたのお姉さんの話なんて聞きたくない」
カブトガニマスクの下から濁流のように涙を流して震える琴音ちゃん。また何か不穏な事言おうとしてるはーちゃん。もはや全てを諦めた顔の万理華さん。
…琴音ちゃんは一度見たけど…はーちゃんぺったんこだ……
こんな時なのにセクシーなバニーガール姿になったはーちゃんの胸元を凝視しながら思う私。
「……地下アイドルデビューってか?」
「地下過ぎるやろ!?」
この状況でガハハって笑う紗良ちゃんとキレ散らかしてる朋花ちゃん。
「……これがラストゲーム」
こんな時なのにまだ勝負師の目をしてるせいちゃん。
講師代を稼ぐために闇カジノに踏み込んで爆負けして…
今宵観客の前で磔にされた私達を端的に表す一言は「バカヤロウ」以外にないよね。
はい、私達が世紀のバカヤロウです。
『レディースアンドジェントルメーンっ!!』
司会者みたいな人の声にガラス張りの檻の前に集まったジェントルメン達が熱狂してる。みんな仮装パーティーみたいなマスクつけてて、変態臭が凄かった。
そしてゲームの説明が始まる。
『今宵この命懸けのゲームに参加するのは見た目麗しい7人の美女達!さぁ!最後まで生き残るのは誰なのか…皆様お楽しみくださいっ』
嗚呼…やっぱりデスゲーム……
「私は私に11億賭ける!!」
「バカヤロウ星羅!!もうおどれは勝負師としては終わってんねん!!ウチらが賭けの材料にされてんねん!!」
ゲーム開始の合図と共に私達の正面、檻の中に7人の巨漢が現れた。
ポケモンバトルかな?って思ったけど、肥満体でなんか薄汚れた体のうえ裸の変態さん達の手には弓矢が握られてて…
構えられた矢の先端はまぁ私達の方にばっちし向いてて……
「そういう事!?そういう事!?」
全てを察した万理華さんが顔面蒼白で喚いてるけど、全て遅し……
一斉に放たれた矢は私達の顔とか脇の下とかお股の真下とか…体を掠めるぎりぎりの距離に着弾していく。
矢が際どい場所に当たる度に変態諸君から歓声があがって、賭博は最高の盛り上がりを……
ってバカ!このままじゃ殺されちゃうよ!!
「びぇぇぇぇんっ!!死にたくなぁい!!」
「琴音ちゃん!大丈夫だよ!!大丈夫!!姉さん言ってたもん!!簡単に殺したら面白くないって!!」
「いずれは殺されるやつだろそれ!!最悪!!誰よこんな場所で遊ぼうって言い出したの!!」
「誘いに乗ったんはおどれやろ万理華ぁ!!」
「がはははっ!!」
「うわーんこんな死に方嫌だァァ!!」
阿鼻叫喚…地獄絵図。
左耳ぎりぎりを矢が掠めたあたりから私はもう諦めの境地になってた。
ママ…バカな娘でごめんなさい……
パパ…最期に会いたかったよ……
私は先に逝きます……
親不孝な娘を許してください……
ああ、せめて最期にてぇてぇ百合を……
「みんなっ!!」
「っ!?」
「りあ……?」
「なんやねん!!あっ!!危ないっ!!」
「タスケテ…」
「……?」
「脇の下が痒いよ……」
「あの…こんな時だけど…こんな時だからこそなんだけど……私の目の前でチューしてくれない?」
最期に百合をっ!!!!
「ふざけてんの!?」
「がははっ!!琴音ぇぇ。ちゅーしよ♡」
「リアガコワレタ(涙)」
「おどれが死ね!!一番に死ねっ!!」
「私今ちょっと…キンチョーで…口が乾いててちょっと臭いかもだから……」
「りあちゃん!?諦めないで!!」
『さぁ余興はここまでです!!』
司会者の声で一斉に構えられる矢が狙い澄ます。今までと違う雰囲気と鼻息荒く一層興奮する観客達の視線…
いよいよ当てられる……
多分ここからジリジリと…死ぬまで…
いよいよ死までのカウントダウン……っ!
最期に私がしたのは…首を左右に振ること。
せめてみんなのバニーガール姿をこの目に……っ!!
その時……
熱気に包まれた怪しい部屋の扉が突然乱暴に開かれた。
薄暗い部屋の中に差し込んできた外の光は、澱んだ悪の空気を切り裂く光の剣みたいだった。
「浅野探偵事務所です!!」
「そこまでだてめぇらっ!!」




