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第37話 私が必ず増やすからっ!!信じてっ!!

※20歳未満の公営ギャンブルは禁止です。主人公達の中には未成年も居ますがこれはあくまでフィクションです

 会場は異様な熱気に包まれてた……

 一点に集中する何万という視線の束は様々な感情を孕んではいたけど…共通して言えるのはその視線達には沸騰する熱湯にも匹敵する情熱が孕んでるって事だ。


 握りしめる手の中に汗が滲む。


 その時を待ちわびる人々は和気あいあいとした空気感の中に静かなる期待と興奮を抱いて、ゆっくりとその瞬間まで歩を進める時の中を焦れったい気持ちで待ってた。



 そして……今日の主役達が私達の前に出揃った。

 いよいよその時が来るっ。







 一斉に開かれるゲート!そこから疾風と化して飛び出した18の足音はまるで地鳴りだ。

 会場が湧く。


 手にした希望へのチケットを握り締める私からも思わず声が出た。


『さぁ各馬一斉にスタート!先頭に躍り出たのは6番ケツアナフラッシュ!』


 天鬼りあ16歳……初めての競馬。

 今宵競馬場に集ったPOPプロダクション期待の新人ユニット7名。皆が馬券を握り締めて芝の上を疾走する馬達を目で追う。


『今シーズンも絶好調なケツアナフラッシュ。2着のサンダンバラッシュと既に4馬身以上の差をつけています!世紀の逃げ馬ケツアナフラッシュに追いつけるか!?このまま逃げ切りかケツアナフラッシュ!』


「……こいっ!こいっ!!」


 隣で目を血走らせるせいちゃんが念じるみたいにブツブツ言ってた。


「……ワタシタチノウマ、ドンケツジャン」


 カブトガニのマスクを被った琴音ちゃんの声に早くも失望の色が差した。けどせいちゃんはまだ勝負を投げてはない。

 そう、まだ序盤だ。


「ケツアナフラッシュは伝説の逃げ馬…トップから独走して逃げ切る逃げ足の速さは他の追随を許さないけど…まだ勝負は分からないっ!!」


 私達を励ますように語るせいちゃんの目には確信にも似た確固たる自信の気配。

 既に賭けている。後は信じるしかないんだ。


 レース終盤に差し掛かっても、2着以下での競り合いはヒートアップするも、首位を独走するケツアナフラッシュは依然ペースを落とさない。

 私達の中に焦りと落胆の色が滲む。


「来い……っ!来いっ!!」


 それでも諦めないせいちゃんの願いは……ついに実を結ぶ。


『おおっと!!』


 司会の声が色めきたつ。私達の目もそれを捉えた。


『ラスト直線200メートル!後方から凄まじい追い上げだ11番ヘガクサイヨ!!ダークホースヘガクサイヨ!!凄まじい直線一気っ!!』


 来たっ!!


 最後尾からぐんぐんと馬を抜いていく11番ヘガクサイヨ。私達の未来を一身に背負った希望の矢が駆け抜ける。

 そしてついに……先頭のケツアナフラッシュの背中を捉えた!


「うぉぉぉっ!!いけぇぇぇっ!!!!」


 せいちゃん絶叫。溜めに溜めた興奮をそのまま声援に変えた。


「いっけぇぇっ!!」

「頼むっ!!」

「気合い見せろや!!」

「ガンバレッ」

「あと少しだよっ!!」


 みんなの顔にも希望が宿った。これが後半からの追い込み…私の胸にも熱いものが去来した。


「いっけぇぇぇぇぇっ!!」


 思わず私も大声をあげてた。


 そしてついに……


『ヘガクサイヨ先頭に躍り出たぁぁ!!』


 今まで影も踏ませなかった世紀の逃げ馬、ケツアナフラッシュをヘガクサイヨが抜く。一気に先頭に躍り出た!


「やった!!」

「まだだっ!」


 はーちゃんが勝ちを確信する。けどせいちゃんがその油断に水を差す。

 そう、まだゴールしてない。

 そして最後の刺客は確実に距離を詰めてた。


『ここで!?ここで!?2位に転落したケツアナフラッシュを後ろから抜き去るのは4番ミズムシデンジャラス!!ミズムシデンジャラスがヘガクサイヨの後方に食らいつく!!』


 後ろから追い上げてたのはヘガクサイヨだけじゃなかったんだ。

 ぐんぐん前に出てくるミズムシデンジャラスがついにヘガクサイヨと並んだ!


『さぁ差し切れるかミズムシデンジャラス!このまま逃げ切れるかヘガクサイヨ!!おっと並んだ!!両馬並んだ!!どっちだ!?』


「頼むっ!!!!」


 それは神への祈りにも似てた。

 両手を合わせて目を瞑るせいちゃんと同じように自然と私も両手を合わせてた。馬券をクシャクシャにする程力を込めて…


 お願い……っ!!



 ……そして。


『ゴール!!これはっ!!これはっ!!』


 ヘガクサイヨとミズムシデンジャラスはほぼ同時に……というか全く隣同士に並んでゴールに滑り込んだ。





『写真判定に移ります』


 競馬場が異様な緊張に包まれた。

 皆がその結果を待つ。

 こんなに焦れったい時間は初めてだった。高校入試の結果発表の日、自分の受験番号を探したあの瞬間…あの瞬間なんて比にもならない緊張感。


 だって……この勝負にほぼ全財産を賭けたんだからっ!!


『1着は……ミズムシデンジャラス!』


「ぐはぁぁっ!!!!」


 瞬間……

 せいちゃんが悲鳴と共に吹き飛んだ。サイバイマンに爆破されたヤムチャみたいに…


 キワキワのところで踏みとどまっていたけどバランスを崩して一気に火口に転落していく…そんな気分だった。

 激しく波打ってた心臓は鉛の重りをぶら下げられたみたいにずしんって重くなって、体ごと暗闇に沈んでいく…


「……かはっ!!」


 気づいた時には私も、みんなも、その場に崩れ落ちてヤムチャになってたよ。



 ……なぜ私達が競馬で財産の大半をスってしまったのか…それは……


 *********************


 本日朝。相変わらずコンビニ各社珠玉のお弁当、惣菜が並ぶ食堂にて……


「万理華さんの負担を考えてやっぱりちゃんとしたコーチを雇うべきだと思います」


 私は最後の望みを賭けて星熊マネージャーに直談判したのだ。


 納豆を一心不乱にかき混ぜる星熊さんはそんな私の一言に…


「天鬼さん、これは以前も申し上げたと思いますが……」

「合宿まで組んでおいて、お金が無いからプロの指導を受けられないのはおかしいんじゃないですか?」

「せや!!お菓子ジャマイカ!!」


 だよね?朋花ちゃん。お菓子ジャマイカだよ。


 でも星熊さんの返答は無情なものだった…


「この保養所は社長のお父さんの会社の保養所でタダで使えるんです。今の事務所は1ヶ月分の皆さんの食事とここの光熱費を賄うだけでいっぱいいっぱいなんですよ」


 これだった。


「……なら、私達で雇います」


 私の宣言に星熊さんはじめ、万理華さんとせいちゃん除くメンバーも「はい?」みたいな顔した。

 そこでおもむろに立ち上がる我らが歌姫、錦野星羅…通称せいちゃん。


「みんな、万理華ちゃんの為にもここは一肌脱ごうじゃないか」


 ぬぎっ


「あ、脱がないで?やめて?せいちゃん今ご飯中」


 はぁはぁしちゃうでしょ?


「…それって僕達が自腹でコーチの人にレッスン依頼するって事?」


 はーちゃんがこれから自分の身に降りかかる災難を的確にまとめて言葉にした時、紗良ちゃんが「えーやだ、金ない」ってぐずり出した。


「いやお前が一番金持ちだろ多分」

「琴音ちゃん、私はね?一家離散の憂き目に遭って今の家ではお小遣いも与えられてない無職の20歳だよ?それを言うなら元Y〇uTuberの琴音ちゃんの方がお金溜め込んでんじゃないの?しこたま」

「私の稼ぎはその…お母さんに預けてるから…」

「そもそもいくらかかるんです……かかるの?」


 敬語が抜け切らないはーちゃんが挙手。答えたのは万理華さん。


「調べたけど月8回で4~5万くらいかしらね。一人」


 沈黙……


「え?無理…そんなお金ないよ…」

「慌てるな」


 目がうるうるし始めたはーちゃんを制して得意げな笑みを浮かべて朝っぱらから缶ビールをプシュッて開けるせいちゃんが、私達に一筋の光明を授けてくれるみたい。

 やったぁ。


「みんな…有り金全部私に預けて」

「さぁ練習始めよか!!」

「その前に歯磨きしよう」

「琴音ちゃ〜ん♡」

「気持ち悪い離れろ」


「待ってっ!!」っていう怒号が食堂を貫通した。

 そそくさと出ていこうとするみんなを前に、とてもふざけてるとは思えない真剣な眼差しで、朝から缶ビール片手にふざけてるとしか思えない立ち姿のせいちゃんがここに宣誓した。


「私が必ず増やすからっ!!信じてっ!!」







 ※20歳未満の公営ギャンブルは禁止です。主人公達の中には未成年も居ますがこれはあくまでフィクションです

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