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第34話 ごめん私酔うとこうなんだ…

「ねーなんでせんせーいないのー?」


 りんご見てばななって答えそうな頭の悪い顔で酒を飲みながら新入り、錦野星羅さんが紗良さんに問いかけてる。


「ばなな」


 星羅さんの持ってきた酒に脳をやられた紗良さんも落書きみたいな顔でばななって言ってた。


「そっかそっか。じゃあ仲直りしたんやな!?」

「うん」

「偉いやんけ!!」

「だろ」


 眠そうな琴音ちゃんをソファで抱きしめる朋花さんはド深夜にも関わらずプリングルスをなんと三枚も同時に口に入れて幸せそうな顔してた。


「……」


 万理華さんは分厚い紙束と睨めっこしながらパソコンをいじってる。


 …そんな一階のリラックススペース。


 星羅さんを迎えて、7人組となった私達の初日のレッスンが終わった余暇時間。

 星羅さんの歓迎も含めてみんなで露天風呂に入った後、思い思いの時間を過ごしてた。


 …星羅さんのおっぱい…良かったな。


 天鬼りあは決して女体に興奮する変態じゃないの。私が好きなのはてぇてぇ百合。てぇてぇを傍観者として眺めて尊死するのが、私の人生における至上命題なの。

 決して私がおっぱいを吸ったり生脚を舐めたりしたいんじゃないの。


「りあちゃんだっけー?」


 床に寝っ転がってスマホ(推しのVTuberの百合)を観てた私の目の前に星羅さんがやって来た。


「べろべろべろ…あ、星羅さん」

「ひゃーっ!?なんでスマホ舐めてるの!?」

「いや…尊くて…つい」


 推しのVTuberカップリングがてぇてぇコラボを繰り広げてたものだからつい…


「星羅さん…おっぱい…大きいですね」


 やべっ…つい心の声が…っ!


「そんなことよりさー」


 スルーされた…?


「今日の歌の練習聴いてたけど」

「星羅さんは本当に聴いてるだけでしたね」

「君の声きれーだねー」


 どうやらかなり酔っ払ってるらしい彼女の酒臭い息が間近に近寄ってくる。隣で仰向けに寝転がる星羅さんの双丘が重力に負けて柔らかく左右に広がった…


「君の歌、好きだよ」

「…あの。訊きたいんですけど…その胸に誰かを包み込むなら、誰がいいですか?」

「君、歌うの嫌いじゃないでしょー?」

「琴音ちゃんの事どう思います?」

「私も好きー」


「…あんたら会話が成立してないわよ」


 私達の間に入ってくる万理華さんは難しい顔をしたまま振り返って床に寝転がるトド二匹を見下ろしてた。

 チラリと見えたパソコンにはスケジュール表みたいなのが映ってるのを見逃さない。


「…レッスンのスケジュールですか?」


「そうよ」って、万理華さんは素っ気なく答えてから忙しないタイピングに戻る。

 そんな彼女の背中を見つめる星羅さんが無邪気に酒臭い息と共に質問を投げる。


「なんで君がそんな事してんのー?マネージャーの仕事じゃないのー?」

「うちのマネージャーは仕事をしない事で有名なの」

「そっかー。でも歌とダンスのせんせーも君がするのー?」

「お金がなくて講師を雇えないの」

「そっかー」


 この話を聞いてどう思ったんだろう…?


「…練習で使ってる曲、君の曲だよね?」


 起き上がった星羅さんがパソコンを睨んだままの万理華さんに背後から話しかける。

 酔ってるからかな…?パーソナルスペースが狭い人だ。


「そうよ」

「あの曲……イマイチだねぇ」


 瞬間室内の空気が凍りついて、ついでにひび割れた。パキって音がしたのが聞こえたよ今。


 万理華さんの指が止まった。


「……なんで?」


 万理華さんが肩越しに星羅さんを睨む。

 嗚呼…こんな時にみんなの潤滑油の陽さんが何故か不在。


「楽しそうに歌ってないもん」


 星羅さんの答えはこれだった。


「…あんた、楽しそうとか楽しくなさそうとか、よく言うとるけど…それどう言う意味なん!?」


 琴音ちゃんをこねくり回してる朋花さんが星羅さんに尋ね……いいな。いい。「ともこと」もいい。

 琴音ちゃんのポテンシャル高いな…誰とカップリングしてもいい…圧倒的愛らしさの成せる技か?


 いや今はそれどころじゃない。


 眠たげな瞼でとろんとした星羅さんは「んー」とタバコに火をつけながら…


「禁煙っ!!」

「あの曲を作った作詞家さんとか作曲家さんはさー…歌ってる方も聴いてる方も、思わず身体が踊りだしちゃうような楽しい気持ちを届けたかったんじゃないかな?」

「……」


 鋭い目をした万理華さんが黙った。


「私達の歌う歌は私達の作品じゃなくて、他の誰かが創ったものなんだよね。でも曲は歌って初めて魂が篭るものだから……私達の責任は重大なんだよ。君、あの曲楽しく歌ってないでしょ?」

「……っ」


 万理華さんの目が驚きに見開かれた。


「…アイドル活動、楽しくなかったの?」


 続く星羅さんの一言に万理華さんはいよいよ驚きの表情を向けたまま固まっちゃった。その顔が何を意味するのか…私達には分からないけど…

 万理華さんの奥深いところに刺さった一言なのかも…


 朋花さんがそんな二人を真剣な眼差しで見つめてた。

 そんな朋花さんに抱っこされながら寝落ちした琴音ちゃんの鼻に沙良さんが洗濯バサミ挟んでる。


「それでもやめられないんだ」

「……あ…あなたの言ってる事、よく分から」


 固まった表情を仏頂面に戻した万理華さんが口を開いたその瞬間!


「分かるよその気持ち」


 ズキュウウウン


 突然万理華さんの唇が奪われた。


「んぐぅ!?」

「んん…んっ…」

「んーーーっ!!!!」


 ご丁寧に逃げられないように万理華さんの後頭部をホールドしてる星羅さん。蠢く口元と隙間から覗いた紅い舌…それがただのキッスじゃないのは天鬼りあの目にも一目瞭然。

 ディープだった!


「さすが星羅!おれたちにできない事を平然とやってのけるッそこにシビれる!あこがれるゥ!」


 突然の蛮行を前に沙良さんのテンションは急上昇だった。

 でもそれは私も同じ事…


 この人…ダウナー系セクハラお姉さんだっっ!!


 ダウナー系セクハラお姉さんとは!

 普段無気力でやる気もだらしもないが顔は良くてしかも平然とセクハラを敢行してくるエッチなお姉さんの事なんだ!


 沙良さんに近いものを感じる…けど、全く新しいタイプっ!!


 全方位無差別百合爆弾…!?


「ふが…がっ!!ぶきゅっ!なんだこれふざけんなっ!!」


 洗濯バサミの寝苦しさに琴音ちゃんがブチ切れ起床してるけどそんな場合じゃないっ!!


「げほっ!?はっ!!はぁ!?」


 長い長いディープキスから解放された万理華さんはその髪の毛より顔を赤くして、口元からいやらしい透明な糸を引きながら目がイッてた。


「ごめん私酔うとこうなんだ…」


 朋花さんで前科ありの無差別エッチお姉さんもはぁはぁいいながら唇を舐めてる。


 バチ切れ寸前の万理華さんは目をカミソリより鋭くして歯を食いしばって、何かを必死に耐えてる。


 一方、鼻にイタズラされた琴音ちゃんは鼻水が出たみたいでティッシュで鼻をかんでた。


「ふざけんなよ…ちーんっ」


 琴音ちゃん特製のたっぷり聖水はなみずを吸った聖骸布ティッシュがゴミ箱に捨てられた……

 のを手に取ったのは万理華さん!


 ゴシゴシッ


「こいついったい何考えてんだッ!」


 沙良さんが絶叫。無理もない。なぜなら万理華さん…


「鼻チーンしたティッシュで口を拭いているぞッ!!こいつ頭おかしいんじゃねえか!?星羅にキスされたのがそんなにいやだったとしても、なんでお口クチュクチュモンダミンでなくってわざわざ鼻チーンティッシュで拭くんだ!?近くに新しいティッシュもあるのによ」

「おい!ごちゃごちゃ言ってんじゃねー!沙良お前か!?洗濯バサミお前か!?」


 気高き万理華さんの意志を感じ取った星羅さん、激昂。


「わざと鼻チーンティッシュで拭いて自分の意志を示すかッ!そんなのはつまらんプライドだァ!」


 ブチューーーーッ


「んぐぅ!?」

「私を受け入れて…///」にゅぱっちゅぱっ

「んぐぅぅぅぅぅぅ!!!!」


 …まぁこの人達がジョジョ大好きなのは分かった。



 狂気のディープキスは5分くらい続いて、星羅さんは5分間の無呼吸運動ができる疑惑が浮上。まさに最凶の名に恥じない暴れん坊っぷりを見せる。


 美少女の舌と唾液が混ざり合う音と万理華さんの悲鳴が響き渡るリラックススペースに、スリッパで床を擦る足音が新たに加わった頃、私はムラムラし始めてた。


「あっ、陽さんっ!おかえりっ!!」


 沙良さんに超高速往復ビンタをかましてた琴音ちゃんの声に呼吸が荒くなってた私の手は止められた。

 危なかったぜ…


「……え?なにこれ?」


 丸一日の外出を経て帰ってきた私達の良心、陽さんは合体する二人とビンタでピンボールみたいに弾け続ける沙良さんの顔にドン引きしてた。


 弾ける夜はまだ終わらない……

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