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第31話 爆弾だぁ!!

 天鬼りあは生死の狭間を彷徨った。


 東京から長野の保養所まで帰る道中、高速道路で飛石を食らったPOPプロダクションのアルファードは危うく大事故を起こしかけながらも、路肩に停まる事で事なきを得る。ただ、壁高欄かべこうらんに激しく擦りつけられたアルファード(兼事務所)の側面は無惨な事に…


 あと…


「ううっ!うううっ」

「星熊っ!!」


 ハンドルを握ってたマネージャー、星熊さんが飛び石で負傷…


「どこ怪我しました!?」

「えっと…たくさん……ううっ!!」


 したらしいんだけど目立った怪我は見当たらない。


「私はもうダメです……」


 高速道路のど真ん中で力なく倒れ伏す星熊さん。その薄く開かれた双眸は私達を見つめてる。そして言ったんだ。


「私を置いて先に行ってください……」

「えぇっ!?なんで!?」

「意味わかんねぇよどこの主人公の相棒だよお前」

「救急車呼びますっ」


 私の腕に抱かれた星熊さんに琴音ちゃんはツッコミ、陽さんはスマホを取り出し、紗良さんはケラケラ笑ってた。

 ちなみに私の腕の中で息も絶え絶えな星熊さんの全身は綺麗なものだ。傷一つないや。


「あ、陽さん救急車はやめて……」

「え?でも……」

「とにかくやめてください。私のせいで救急車を本当に必要としてる人の元に届かなかったら…私は……」

「あなたは今必要じゃないんですか?」

「どちらかと言うと無用かと……」


 どちらかと言うと無用なんだって。


「どちらかと言うと無用ってなんだよ」


 朋花さんが居なくてもしっかりツッコミをこなす琴音ちゃんの姿が頼もしいや。


「ごふっ」


 星熊さんがなんかを吐く音を出したけど、なんも出てなかった。


「あの……皆さんの中で運転免許お持ちの方は?」


 もうダメだとか言う割に長いことハキハキ喋って質問までしてくる星熊さんに「とりあえず大丈夫なのか大丈夫じゃないのか教えて」って問い詰めても……無視された。


「持ってるけど」


 おぉ……大人の女性、紗良さん(20)が勇ましく手を挙げる。

 それを見た星熊さんは「良かっ……た……」って言って……


 目を閉じてなんか死んだ。


「星熊さん?大丈夫ですか!?」

「りりり、りあさんっ!星熊さんはっ!?まさかっ!?」

「な訳ねえだろ落ち着け」


 私と陽さんと琴音ちゃんがわちゃわちゃしてる間に紗良さんと万理華さんは淡々とアルファードに乗り込んでた。


「あちゃー、ガラスはダメだね。前は全部取り替えなきゃ」

「運転できそう?」

「問題ないよ。疾走の独眼竜って言えばこの黒沢紗良の事だからね」

「あなたのドライブテクじゃなくて車の状態を訊いたんだけど」

「星熊っちはどーする?」

「車壊した事社長に怒られたくないだけよ。私達が運転してた事にするつもりに決まってる。勝手に帰るだろうから、置いてっていい」

「あのマネージャーはドライブレコーダーってのを知らないのかな?」


 無情にも後ろでアルファードのエンジンがかかった。


「星熊さん……(え?ほんとに置いてくの?)」

「……すみません(いいのかな?大丈夫かな?なんかの罪に問われないかな?)」

「……(こいつ何がしたいんだ?)」


 そっと地面に寝かせた星熊さんが目を閉じたまま「行くのです……止ま…………」って私達に言った。死んだと思ったけど生きてたらしい。しぶとい。

 最後の「止ま」はオルガの真似しようとしたんだと思うけどやめたらしい。


 陽さんの泣け無しの情けでブランケットを被せられた星熊さんは事故現場に放置され、私達は現場を後にした…


「……陽さん」

「りあさん。大丈夫ですよ…多分」

「これ自損事故ですよね?警察呼ばないで現場から逃げちゃって大丈夫なんでしょうか?てか、傍から見たらこれ、私達事故現場に死体置き去りにして逃げてるように映りませんか?」

「大丈夫」


 陽さんは力強く言った。


「姉さんが言ってました。人殺し以下は罪じゃない、お茶目なイタズラだよって」

「NGワードゲームの時から疑問ですけど陽さんのお姉さんって大丈夫な人なんですか!?」


 *********************


 保養所まで帰り着いたのは日付が変わる頃。

 山道を慎重に進む紗良さんの運転は安心感があって私も琴音ちゃんも陽さんも後ろですっかり眠り込んでたんだけど…


「……誰?」


 助手席の万理華さんの声に瞼を開けた。


 車は保養所の目の前まで来てたんだけど、そこに見知らぬおじさんが立ってたんだ。スーツ姿でこんな時間に山登りなわけない。


 万理華さんが助手席から降りた。


「どちら様ですか!?」


 アルファードのヘッドライトに照らされて眩しそうに振り返るおじさんが、目の前に立つ万理華さんにギョッと驚いた。

 すぐに落ち着きを取り戻した様子のおじさんが万理華さんに近づく。


「気をつけろ!変質者だぁ!!」


 紗良さんが叫んだ。

 あまりの迫力だったからびっくりしたけど多分これは、紗良さんのジョーク。でも山の中で見知らぬ男と深夜に対峙なんて怖すぎるんだからやめてほしい。

 あと、琴音ちゃんと陽さんもびっくりして起きた。


「違います!私ヤマネコヤマトの者です」

「ヤマネコヤマト……?」


 配送業の?


「ヤマネコだったら山の中に居てもいいと思ってんのかぁ!!」


 クラクションを鳴らしまくる紗良さんの言動はヤンキーのそれだ。


「あの、ここ私有地なんで勝手に入らないでほしいんですけど…」

「違うんです。実は本日こちらにお荷物をお届けに伺ったはずなんですが……配送員が戻ってこなくてですね……」

「え?」

「連絡もつかないので様子を見に来たんですが麓の方にうちのトラックが停められたままでして…」


 ……なんかゾクッとした。


「失礼ですがあなたは?」

「この保養所の関係者の者ですが…」


 万理華さんも警戒の色を強めつつ保養所を見上げた。保養所は今無人のはず…


「中を確認したいんですが……」


 どうする?というふうにこっちに振り向く万理華さん。私も運転席の紗良さんを見る。


「騙されるな!!そう言って上がり込んで乱暴する気だ!!警察を呼べ!!」


 紗良さんは完全に深夜テンション。


「警察!?」


 寝ぼけた琴音ちゃんが110番始めた!!


「待って待って待って待って琴音ちゃんストップ」

「あ?もしもし?110番ですか?」


 繋がっちゃった!!


「琴音!!怪しいぞあいつ!今すぐ警察を呼ぶんだ!」

「紗良さん煽らないでください」

「あの、なんか変な人が居るんですけど…すぐ来てもらえますか?」


 車内のやり取りが聞こえてたのか、おじさんは涙目だったよ……




 おじさんは正真正銘ヤマネコヤマトの宅急便の営業所の所長さんだった。

 名刺を貰ってなお「偽物に違いない」って紗良さんは疑いの眼差しを捨てきれない様子。これふざけてるんじゃなくて本気で疑ってるのかな?


「ここに配送に来たのは間違いないんですか?」


 万理華さんは問う。おじさんも間違いないはず、今日届ける荷物があったと断言した。それにトラックも麓に停めたままだ。おじさんの発言に嘘はないはずだけど…


「今日一日誰も居なかったはずなんです」


 私達は紗良さんに会いに行って今帰って来たんだから、ここは無人だったはず。

 誰も居ない保養所に上がり込んで居座ってるというのか…?


「……事件の匂いがする」


 紗良さんのテンションが上がってきた。そんな紗良さんが琴音ちゃんにゲシゲシ蹴られてる。


「お前のせいで110番しちゃったじゃねーか!ふざけんな!!」

「でも変ですよね……もしかしたら中で倒れてたり…僕の姉さんも昔他人様の家に勝手に上がり込んで中で熱中症になって、家の人が帰宅してびっくりさせたって事が……」

「陽さんのお姉さんマジで何者なん!?」


 事件性……私も不穏な気配を感じる。怖くて誰も中に踏み込めない状況。


 そうこうしてるうちに警察が来ちゃった。

 明かりのない山中に不穏な赤色灯の光が乱反射する。お巡りさんの登場で少し緊張が解れて、私達は中に入る決意を固める。




「……ちなみにですけど、こちらのアルファード…ガラスが割れてるし擦ったような跡がありますけど…」


 ちなみにお巡りさんの鋭い指摘が事故ったアルファードに直撃。万理華さん動揺隠せず。


「いや!あの!最近ちょっとぶつけちゃって!!」

「え?でもこの車で今日は一日お出かけだったんですよね?」

「あ!暑いから!!ガラス割れてた方が風通しいいから直してないんです!!」

「いや、ダメです。整備不良です」

「…………それ、持ち主に言ってくれます?私ら借りただけなんで(汗)」


 茶番もそこそこに私達はいよいよ保養所内に踏み込む……


 山の木々が風に揺れる不気味な音の中、お巡りさんも雰囲気に呑まれて緊張気味。まるで爆弾トラップでも警戒してるみたいな身構え方で慎重に扉を開けた。

 扉はなんの抵抗もなく内側に押し込まれて開く。


 鍵が開いてる……?


 私達は顔を見合せ、これはいよいよただ事じゃないんじゃないかって緊張の色を顔に走らせた。お巡りさんもその気配を感じ取ったのか、腰のホルスターの拳銃に手をかける。


「物騒だなおい」


 こんな状況でも紗良さんの神経は図太かったよ。


 お巡りさんが先頭で、いよいよ中へ。

 保養所の玄関は電気が点ついてる。絶対消して出たはず。玄関先には見知らぬ段ボール。


「あ、うちの荷物で「爆弾だぁ!!」


 おじさんの言葉を無視して紗良さんが絶叫。深夜テンションそのままに床に倒れ込むように伏せた。ついでに琴音ちゃんをラリアットで巻き込みながらね。


「てめぇさっきから何のつもりだ!!(怒)」

「伏せろ!!爆発するぞ!!」

「痛ぇってば!!」


 大丈夫です。これはじゃれてるだけ。


 お巡りさんは玄関で更に何かを見つけた様子。お巡りさんの体越しに覗き見るとそれは服。


「うちの制服ですっ」


 おじさんの声が震えた。

 やっぱり中に人が居る。


「配達員というのは?一人ですか?」

「一人です、若い女性…です」


 お巡りさんの顔に緊張が走った。

 脱ぎ捨てられた衣類から色んな想像が膨らむ。


 お巡りさんはもう迷いない足取りで奥へ進んでいく。玄関ロビー以外の箇所も電気が灯ってる。私達も後に続く。


「離せって!!」

「爆発まで5秒だっ!!」


 ……じゃれ合ってる琴音ちゃんと紗良さんを除いて。




「んぐーーーっ!!!!」




 駆け出した私達の耳にくぐもった悲鳴が届いたのは突入からすぐの事。明らかに女性の声。


 山の中に潜んでた不審者が鍵をこじ開けて保養所に侵入。たまたまやって来た配達員のお姉さんを引き込んで……


 そんな想像が頭を駆け巡る。


 声がしたのは一階のリラックススペース!


 お巡りさんに続いて私達も飛び込んだ!



 ……そしてその先で…っ!!



「ぶちゅ〜〜〜」

「んぐぅぅっ!!!!」


 ズキュウウウン



 ……ソファの上で絡み合う二つの身体。

 そのうちの一人は私達の仲間、桜朋花その人だ。もう一人の見知らぬ女性は朋花さんの上に覆い被さるようにして…

 彼女の唇を奪ってた。


 私の目の前に不意打ち百合が広がってた。

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