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第30話 いや……あの…………パ…パパの遺言で…(汗)

 私達の仲間…黒沢紗良を乗せたアルファードもとい移動式事務所は保養所に向かって夜の街を駆けてた。

 ずっと山の中に籠ってたから街灯灯る近代的な景色は随分と新鮮に感じる。


 ママもう寝てるかな……


 我が家に一人で置いてきたママへ想いを馳せる天鬼りあ16歳…そんな私は今、行きよりも窮屈な車内で少女達の会話を聞いてた。


「結局紗良は続けるって事でいいのよね?」


 助手席の万理華さんが後部座席に呼びかける。私と肩をくっ付け合う紗良さんはどこでもない虚空を隻眼で見つめたまま返事がない。

 しばらくして窮屈な車内に「…どうかな」という曖昧な返答が溶け出した。

 万理華さんが振り返る。


「どうかなって何よそれ。はっきりしなさいよ」

「みんなはどうなの?正直な話さ……」

「は?」

「嫌いでしょ?私の事」


 私と、そして反対側でパンパンに詰まった琴音ちゃんと陽さんに視線を走らせて紗良さんは自嘲気味に笑った。


「みんなは私が居ると迷惑なんじゃないかな…それに…なんかもう……私アイドル目指す理由がどーでもよくなっちゃってさ…」

「じゃあ今すぐ降りろ」


 その発言を耳にして発火したのは琴音ちゃんだった。小さな身体をいっぱいに使って隣の紗良さんを足蹴にする。追い出そうとするみたいに自分の反対側に押し込められる紗良さん…とドアの間に居る私は甚大な被害を被った!


「痛い痛い痛い痛いっ!?」

「琴音ちゃん!?潰れる!!私潰れちゃう!!やめて!!」


 危うく紗良さんと後部ドアとの間でホワイト棊子麺になるところだったよ…


「私言ったでしょ?」


 マスクを脱ぎ捨て狂犬と化した琴音ちゃんが懲りずに紗良さんの側頭部をゲシゲシ蹴りながら唸ってる。


「お前が居ないと私はアイドルになれないんだ」

「……じゃあ二人でやめるか!」

「ふざけんじゃねぇお前の心中に巻き込むな!!」


 なんか仲良くなった気がする……


 互いの胸の内を吐き出し、ぶつけ合い、互いを確かめ合った二人。もう以前のような険悪さはなくて喧嘩友達のような微笑ましい関係になりつつあるね。

 私も陽さんもそんな二人を和やかに見守ってた。


 ただ、私のその微笑みは陽さんのホッとしたような微笑みとは少し違う。


 ……激しく嫌い合って傷つけ合った二人が喧嘩してこうして絆を深め……これはなんててぇてぇ百合エピソードなんだ。


 琴音ちゃんのカップリングは『ことはる』ばかりだと思ってた…

 でもここに来て濃厚に香り立つ『ことさら』カップリング…


 ヨダレが出ちゃうね。


「でゅふふふふっ」

「りあ…前から言おうと思ってたけどあんたその笑い方マジでやめた方がいいわよ?アイドルとして…どうよそれ」


 万理華さんからの辛辣なツッコミを受け流しつつ…琴音ちゃんに頭を永遠蹴られながらも満更でもない顔で笑ってる紗良さんの声に耳を傾ける。


「…じゃあ、琴音のお守りの為にもう少し続けてみようかなぁ」

「仮にも元ファンとしてさっきから言動が失礼すぎる!!」

「ファンなんて一言も言ってないけど?琴音ちゃんは自意識過剰でちゅね〜」

「ふざけんじゃねぇ!!」


 子猫ちゃん達のじゃれ合いで揺れる車内に星熊マネージャーが「暴れないでください、事故ります」と苦言を呈す。


 琴音ちゃんを脇に抱え込んで抑え込む紗良さんはふと真剣な顔になって私を見た。


「…みんなはそれでもいい?この先私とやっていける?」


 あんなに妖しくて、攻撃的で、鋭い目をしてた紗良さん。今は不安げな色を帯びながら私を見つめてた。


 …その答えはもう出てる。


「もちろん。だから迎えに来たんです」


 陽さんも頷いてる。


「琴音と喧嘩しないって誓えるならね」


 万理華さんは前を向いたまま言った。


 その言葉に紗良さんは安心したように目を細めた。桜柄の眼帯が指に触れる。かつて負った傷。それを確かめるように。確かめる事で今ある何かを確かめてるみたいに。


「…訊いてもいいですか?」


 ここで不意に星熊さんが口を開く。流れていく高速道路の灯りが前を向いたままの彼女の顔を規則正しく照らしてる。


「紗良さんはどうしてアイドルになろうと思ったんですか?」


 星熊さんの質問に紗良さんは一瞬口を真一文字に結ぶ。

 紗良さんはアイドルにならなきゃいけないという固い意思を口にしてた。結局その決意の理由は彼女の口から聞いてない。あえて尋ねるべきでもないとも思ってた。


「……いじめられててさ…ずっと無視もされてきたんだよ」


 そうして紗良さんがとつとつと語り出す内容は車内に重たく沈んでく…暗い車内の中に溶けていく以前も聞いた紗良さんの過去は私達の気分を一気に底の底まで引き落とした。


 誰よりも真剣にその言葉を聞いてたのは琴音ちゃんだった。


 誰も無視できない存在……アイドルになって誰よりも目立って、そして自分が今まで受けた仕打ちを暴露する。

 つまるところ復讐。

 自分を無視してきた人達…いや、違う。世間に対しての。


 紗良さんの琴音ちゃんに対する大きな感情の意味が、実態を伴って納得する形で胸に落ちた。



 全てを語り終えた紗良さんは最後に明るい声でこう言った。


「でももういいんだ」

「……いいって、復讐が?」


 陽さんの声に紗良さんは頷いて、隣の琴音ちゃんを見つめた。


「ここに私を見てくれる人達が居るみたいだからね……」


 雑に頭を撫でられる琴音ちゃんのイチョウ色の頭髪が乱れ「やめろ!」って琴音ちゃんが声を荒らげた。

 けど、なんだか楽しそうだ。



 ……良かったよ、とにかく。いい形に収まって…


 ……なんでホッとしたのも束の間にさ。


「……ちなみに陽とりあはなんでアイドルを?」


 万理華さんが凄くまずい話題の矛先をこっちに向けてきた!


「……僕のは姉の夢なんです。でも、姉はアイドルにはなれないから…」


 すぐにそれに返答を返した陽さんは私にした説明と同じような事を口にして微笑む。その儚げな顔と説明の内容から踏み込むべきではないと直感した万理華さんはその視線を私に向けた。


 私がアイドルになりたい理由?

 美少女達の百合を眺めたいからです。


 ……なんて言ったら明日から口利いてもらえないかもしれないよ。


 出来れば恋愛感情とか多分に含んだ濃厚なやつがいいですなんて言った日には、明日から目も合わせてくれなくなるよ。


「わ…たしは……スカウトされたから、ね?何となく……」

「でも私がスカウトする前にもオーデション番組出てましたよね?」


 星熊さんが私の逃げ道を塞いだ。


「この流れで薄っぺらな動機が飛び出す事はまさかあるまい」


 答えに窮した私に琴音ちゃんが追い打ちをかけてきた。


「ここまで来たらみんな、腹の中をさらけ出そーぜ」


 紗良さんが娯楽の匂いを嗅ぎつけて煽ってくる。この人反省とかしてるのかな?


 ど、どうしよう……


 期待の眼差し。星熊さんまで私の方をガン見してた。もうすごい見てた。運転中なのに前見てなかった。どんだけ気になるんだよ。


 冷や汗が頬を伝う……


「いや……あの…………パ…パパの遺言で…(汗)」


 絞り出したその一言に車内は静まり返っちゃった。


「……これって笑うとこ?」

「な訳ねぇだろお前の神経どうなってんだよ!」


 紗良さんがなんとも言えない顔でボケて琴音ちゃんがツッコむ。


「いや…6人中4人がなんか重たい動機って…もしかしてアイドルって半端な気持ちでなるもんじゃなかったりする?」


 ごめん紗良さん。


「お父さん亡くなってたんですね…ごめんなさい」


 ごめんなさい陽さん。


「絶対アイドルなろうね」


 ごめん琴音ちゃん!


「……大切な夢なのね。うん。大丈夫…絶対なれるわ、アイドル」


 ごめんなさい!!万理華さん!!


「なんかイマイチひねりがありませんね。ありきたり過ぎる」


 なんスか?星熊さんそのリアクション…


 今まで夜な夜なあなた達のカップリングを妄想してヨダレ垂らしてました!許して!でも今夜からも引き続き続けます!!


「……そういえば万理華さんは…」


 話題の矛先を私から外そうと陽さんが万理華さんに話を振った瞬間!



「ぎゃっ!?!?」


 運転席のフロントガラスが割れた。

 星熊さんの悲鳴。

 地面を激しく擦るタイヤ音。

 飛び散るガラス。

 急に揺れる車内。


「ごぶっ!?」


 遠心力で後部ドアのガラスに顔から逝く私。


「飛び石がぁっ!!」


 星熊さんの悲鳴と共に…制御を失ったアルファードは激しくスピンしながら夜の高速道路に消えてった……


 消えてっちゃった……

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