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百合や尊死  作者: 白米おしょう
どうしてこうなった編
3/12

第2話 あんたに可能性感じてん!!

「ちょっとあんた!」


 テレビ局からとぼとぼ出てくる私を後ろから追いかけてくる声があった。

 とぼとぼという一言で結果は察してほしい…


「は「ちょっとあんたぁ!!」


 その人は立ち止まった私をメロス並の健脚ですり抜けて行っちゃった…

 で、立ち止まった。ブレーキ性能が凄かった。んで戻ってくる。0から100の加速力も凄かった。


「あんたぁ!!」

「だから、はい」


 ……あ、かわいい。


 金髪を踊らせる快活なショートカットの美女でした。なぜか右目の下に日本の国旗が張り付いてるけど、サッカーとかやってたっけ今。


「あんたに話があんねん!!」


 元気の良すぎる声が鼓膜を貫通する。語尾の全てに!!が付いてそうだ。


「なんですか?」

「ちょっとそこで話さへんか!?立ち話もなんやしな!!奢るさかい!!」




 怪しいお姉さんに連れ込まれた喫茶店。隣の席のサラリーマン風の男性がやたら力強くエンターキーを叩いてるのが気になる店だった。覗いて見たらブログ書いてた。『秋刀魚日記』って名前らしい。


「それで…なんでしょう?」


 顔がいいとつい着いて行ってしまう軽率な私をじーっと見つめるお姉さんは「怪しいもんやない!!」って怪しい人の常套句と共に切り出した。


「あんたさっきオーディション番組出とったやろ?」

「テレビ局の人ですか?」


 もしかして……?


「ちゃう!!」

「チッ」

「今舌打ちした!?」

「してませんよぉ?」

「申し遅れてしもたな。ウチ、こういうもんやねん!!」


 百均で買ってきた画用紙みたいな名刺には次のように記されてた。


 吉原新喜劇よしわらしんきげき

 桜太夫さくらだゆう


「吉原新喜劇…お笑いの?」

「せやねん。うち、お笑い芸人なんやけど、実は今日ウチもあの番組の収録観に来ててん!!」

「……はぁ」


 話が見えなくて曖昧な返事を返す私に桜太夫は「やっぱりエロいわ!!」と反応しづらい一言。


「エロい?」

「その声や!!あんたエッロい声しとんなぁ!!」


 それは褒めてるんですか?


「……どうも?」

「まぁそれはええねんけど…今日あの番組の収録観に来たんは相方を探す為やねん!!」

「……相方って、お笑いの?」

「せやねん。実はちょっと前までコンビでやっとたっんやけど相方が田舎に帰るとか言い出して解散してもうてん!!」

「……まさか(汗)」

「今日のあんた見てビビーンときてん…ウチ、あんたに可能性感じたねん!!」

「……えぇ(汗)」

「ウチとお笑いやらへん!?」


 アイドルになる為に来たオーディション番組でお笑い芸人に勧誘されちゃった。これには笑うしかなかった。情けなさで。


「あはは」

「おもろいやろ?おもろいねん、ウチ!!せやけどあんたと一緒やったらもっとおもろい事出来ると思ってんねん!!」

「……いや、あの…私、アイドル志望なんですけど」

「せやけど自分、アイドルより芸人の方が向いてんで!?」

「……そうですか?」

「あんたのモノマネ、おもろかってん!!ウチはあんたに可能性感じてん!!」

「そー言われてもぉ…」

「いちいちエロい声出しよんなぁ自分!!」

「いや、あの…私のどこに芸人としての可能性を感じたんですか?」

「それや!!」


 一番安いコーヒーで舌を湿らせた桜太夫は手元のコーヒーよりも熱い口調で語り出す。彼女の熱量と声量にただただ圧倒される私はもう苦笑を浮かべるしかなかった。

 早く帰りたいなぁ……


「まずアイドル志望でオーディション受けに来てモノマネやるセンスと胆力や!!そんで、モノマネのクオリティ!!んで、その声や!!」

「……声」

「あんた、ちょっとなんかモノマネしてみてや!!せやな……エヴァンゲリオンの碇シンジ君やってや!!」


 ここで?


「……」

「ウチの見立てが正しかったらできるはずや!!はよ!!」


 有無を言わさない圧力を感じた。やらないと帰してくれなさそうだったし、隣の秋刀魚のブロガーの視線をチラチラと気にしつつ…

 まぁモノマネは得意だからな。


「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ…」

「おぉ……!!」

「父さん!僕はエヴァンゲリオン初号機パイロット、碇シンジです!!」

「……そしたら次は…ロロノア・ゾロやってや!!」


 まだ?


「……三刀流…」

「……(震)」

「ルフィ!!」

「……やっぱりや!!」


 興奮した桜太夫に頭叩かれた。そして気づいたけど、隣の秋刀魚ブロガーがこっち見てる。めっちゃこっち見てる。

 恥ずかしい……


「痛いです、何するんですか?」

「あんた色んな声出せるな!!その声、お笑いで活かせや!!」

「……や、歌とか……」

「オーディションで歌っとったん聴いたけど、あんた、歌はイマイチやん!?」


 この一言はグサリときた。


「音程もリズムもテキトーや!!ウチも芸能やっとるし歌手の知り合いとか居んねんけど全然ダメや!!歌の才能ないで?自分!!」

「やめてください傷つきます」

「カバー曲やったらええ感じに歌えるかもしれへんけど、アイドルなったらオリジナル曲も歌わなあかへんやろ?あれじゃ売れへん!!」

「……っぐっ…アっ…アイドルはグループでやりたいと思ってるんで別に……ワタシヒトリガヘタデモ…」

「アイドルはルックスとパフォーマンスが商品やで!?」


 メタメタにされちゃった……


「その点お笑いや!!」と素晴らしい提案かのように人差し指を立てて桜太夫が詰めてくる(物理的に)

 彼女曰く…


「お笑いの商品はおもろいネタや!!ウチにはネタを作る才能がある!!そこにあんたのモノマネが加わったら新しい可能性が開くねん!!これ、ホンマの話や!!」

「いや……私アイドルになりたいんであって、芸能ならなんでもって事じゃないし…ごめんなさいですけど…」

「その才能ここで潰してもええんか!?」

「何を言われても……」

「それにあんたはうちの事務所のコンセプトに合っとる!!」

「コンセプト……?」

「ウチら「花魁系芸人」って事でやってんねん!!せやからうちの芸人はみんな可愛ええ女の子ばっかりや!!」


 可愛い女の子……!?


「自分顔はめっちゃええからな!!ウチが芸名考えたるわ!!」

「……いや…あの……」


 騙されるな…可愛い女の子が居る所ならどこへでもホイホイ着いて行くとでも……


「めっちゃ可愛ええで!?」

「…………もうちょっと詳しく…聞いてみようかな……」


 *********************


「今度新ユニット立ち上げるからさぁ…オーディションやろうと思うんだけどさ、そこら辺からやって来る連中期待できないからお前もなんか良さそうな奴見つけて引っ張って来いよな」

「……はぁ」


 葉巻の煙を燻らせる社長からのその指令により私は休日を返上する羽目になりました。

 事務所の業績悪化を打開する為のテコ入れとして新しいアイドルグループを売り出そうという事になったらしいのですが…


 アイドルとはコスパが悪い商品です。

 楽曲制作の依頼にボイトレ、ダンスレッスン、衣装代…とにかく売り出すまでに金が掛かります。しかも金を掛けて育てても競合の多いこの業界で一定の成果を出せるのはひと握り…

 一年持たずに消えていくグループも大勢あります。


 うちの事務所に救世主となり得る程のグループを一から育てる予算があるのでしょうか…?

 しかもこの感じだと…私がそのまま担当になりそうな予感……


 とにかく一芸に秀でた奴を連れて来い。

 そう言われたので探しに行く羽目に…仕事が増えました。人材を探す手間を省く為のオーディションなのではないのかと愚痴りたくなりますがうちの社長は無能なので仕方ありませんでした。


 新しいものを売り出すより今居るタレントさんに力を入れた方がいい気がするなぁ……


 なんて思いながら人材ってどうやって探すんだ?と思い悩んだ末、私が選んだ方法は二つでした。


 ひとつは街頭のスカウトです。これは業者に委託しました。ちなみに見積を経理に持って行ったら「は?スカウトならおめーがやれよこんなん受理できるわけねーだろ?」って言われたので自腹で委託する羽目になりました。


 悲しい……


 もうひとつは他所のやってるオーディションから横取りしようという、狡いやり方です。

 ちょうど知り合いの局のプロデューサーが「オーディション番組やるよ(*^^*)」というので見学させて頂くことに…


 この番組は色んな芸能事務所主催で行われていて、その事務所の人達が輝く宝石の原石と成りうる逸材を求めてスタジオで目を光らせています。

 大手では『ヤッテ・ランネー・プロダクション』に『KKプロダクショングループ』の二大巨頭、その他『KYG』や『劇団ゴクドウ』『天竺芸能』など…名だたる事務所が金にものを言わせて人材を奪い合っています。

 我が弱小事務所の出る幕はありません…


 番組に出資もしてない分際なので当然、番組内で行われるドラフト会議に参加する事は出来ません。

 私が狙っているのはどこからもオファーの来なかった出演者…つまりドラフト脱落組です。


 番組は出演者が5分程度自己PRした後、その出演者をドラフト方式で審査員である芸能事務所のスカウトマン達が奪い合う、というものです。


「……こういう番組から逸材が生まれるって事、あるんですか?」

「あるよ、稀だけどね?でも確かにある。やってる事はオーディションを地上波に垂れ流してるだけだからね…まぁテレビに出たいだけの素人も大勢来るから、全体のレベルは下がるけど、そこら辺は一次選考で振るいにかけるから…」


 と、私の隣で収録を見守るプロデューサーが言います。


「どんな子が欲しいの?」

「アイドル志望で……一芸持ってる子が欲しいです」

「一芸ねぇ……」

「社長が言うには…マルチタレントとしてもやっていける即戦力がいいそうで…」

「まぁ、芸能界はもう全部マルチタレント化してるからね…アイドルなら尚更…歌って踊れて喋れて営業できなきゃねぇ」

「そして顔です」

「そんな贅沢言っちゃって…君んとこは番組参加しないんだからさ、残り物しか居ないよ?」

「……まぁ、ドラフトで選ばれても正式に契約する前なら横取りも出来るんじゃないですか?」


 そんな事は考えてませんが。

 芸能界は狭い世界です。うちみたいな弱小がこんな大手から人材を横取りなんてしたら事務所ごと消されてしまいます。


「……そんな事より今夜どう?」

「忙しいんです」


 馴れ馴れしいプロデューサーの手を払い除けながら収録を淡々と死んだ目で眺めていきます。

 正直期待はしてませんでした。



 収録も終盤に差し掛かった時でした。


 スタジオ中央に現れたのは猫のような少女です。

 白髪のミディアムヘアで、左側に小さな三つ編みを一束垂らした少女です。

 色素が薄くて、猫のような瞳をした少女の姿は白い子猫のように映ります。外国の血が入ってるように見えました。


 審査員達が目を光らせます。東洋人にはない可愛いらしさは今まで出てきた子達の中では抜きん出ていましたから。


「お名前をお願いします」

『……東京都在住…RAです』


 ……これは…


「エッロい声だなぁ……」


 感心したようにプロデューサーが呟きました。この人はそれしか頭にないようです。


 エロいうんぬはともかく…確かにいい声ですね。


 低めで落ち着きのある声。喋り方も柔らかくて、聴く人の心をふわふわの綿毛で包み込むような心地良さがありました。


「今回はご参加ありがとうございます」

『ありがとうございます』


 マイク越しに響く声はやはり心地いい。歌わせたら化けそうだと思いますが…志望はなんでしょうか?


「RAさんはどういった活動をしていきたいとお考えなんですか?」

『……アイドルを…』


 ……これは大手が持っていきそうだな。


 真剣な眼差しを向ける審査員達を横目に早々に諦めます。この子はきっと取られる。


「それでは何か一言お願いします」


 そう思っていたんですが……



『あの…おっぱいの話なんですけど……「尊い」のネットスラングの「てぇてぇ」ってマレー語で「おっぱい」を意味するらしくて……なんて言うか……いい…ですよね?』

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