第27話 禁煙や!!
「帰ったでーー!!」
熱中症でぶち倒れて病院運ばれとってん。せやけどこうして元気になって帰って来たんやけど…
「あれ!?誰も居らへんの!?おーいっ!!」
保養所の中は真っ暗で全力で声張り上げてもだぁれの返事も帰って来おへんのや。
桜太夫、いや…桜朋花。明かりも消えた保養所でひとりぼっち……
なんやこれ?
まさかウチが入院しとる間に合宿終わってもうたんかいな!?
「いやいや…1ヶ月言うとったやんけ…そないなわけあるかい…せやけどみんなどこ行ってん?」
電気もついてへんしエアコンも切られとるし…てか!なんでエアコン切ってっとんねん!?
暑い…熱中症で倒れて入院しとったのにまた倒れそうや…デコから吹き出す汗を二の腕で拭うそばから、顎の先伝って汗の雫が落ちよった…
「…走り込みで出かけとってもエアコンまで切ってくんは変やし…マネさんも居らんみたいやし……」
…なんか、不安なってきたわ。
「ホンマに誰も居らんのかぁーー!?ウチ置いてみんなどこ行ってんねんっ!!」
「こんちくわー」
「うぎゃあ!?」
その時や、突然後ろから声が聞こえてびっくりして振り向いたらなんやそこに段ボール抱えた姉ちゃんが立っとった。
帽子を目深に被った、長いポニーテールの姉ちゃんや。帽子の影で顔は見えへんけど…なんや覇気があらへん顔しとる。
「なんやねんおどれ!?」
「宅配便でーす。サインもらえますか?」
「え?…ああ、えっと…ウチのでええんかいな!?」
「え?ここの人ですよね?」
「まぁ……せやけど…ウチが頼んどんのとちゃうねんな!!」
「えー…困りましたねぇー…」
「誰宛の荷物になっとんねん!?」
「…………難しい漢字で読めませんねぇ」
「アホなんちゃうんか!?」
どれや?
「…………アカンわ、ウチも読めへん。ウチやない事だけは確かや……まぁええか!場所はここで間違いあらへんのやろ!?せやったらウチが受け取っ「あーそーいう訳にもいかないからなー。これ、受け取り人指定の荷物なんですよねー。あーあー、なんかもう仕事やんなっちゃったなー」
なんやねんこいつ…
「暑い中山登って来たのになーー」
「……知らんがな!はよ置いて帰れや!!大体なに図々しく上がり込んで来てん自分!!」
「もうやめた。このバイト、疲れるし給料安いし、もうやーめーたっ!!」
「やめたって…この荷物どないすんねん!?」
「だって受け取ってくれる人がいないんだもん。私、知らない」
「そないバカな話あるかいな!?」
「喉乾いた…何か飲み物あります?」
ふざけとんのか…?ふざけとんのやな?
「……警察呼ぶで?それか、ウチのボインッもろて荷物置いて帰るかや……どっちがええか……」
「うぅっ」
「えっ!?」
なんか…急に倒れよった。
「どっ…どないしてん!?」
「あ…暑い…」
「暑い!?もしかして熱中症なってもうたんか!?あかんで水分補給こまめにせな!!」
「苦しい…たすけて…水……冷たいポカリ……あと……汗で気持ち悪い…シャワーも……食欲は無いけど……そうめんなら……」
「えらい図々しい急病人やで!?」
「うぅぅっ!!死ぬっ!!」
…どうやらウチに選択肢はあらへんみたいやっ!!
なんでやねんっ!!
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配達員の制服一式綺麗に脱ぎ捨てて、ついでに職務も放棄してしもうた姉ちゃんは悪びれもせんとシャワールームを占領や。
おかげでウチはエアコンの効いてへんキッチンでそうめん茹でる羽目に……
なんでやねんっ!!
「おいこら!シャワー長いねん!!はよ帰ってや!!」
玄関先に放置された荷物が泣いとるで?
…そうめん茹であがってパサパサになるくらいたっぷりシャワー使っとった図々しい配達員は待ちきれんで一人でそうめん啜り始めたウチの前にようやく現れたんやけど……
「ふぃー、すっきりした」
多分脱衣所に置いてあった誰かのシャツを勝手に身に纏った姉ちゃん。その姿にウチは目を見開いとった。
目深に被った帽子で隠れとったその顔はとんでもないべっぴんさんや。
真っ白な肌はこの猛暑の容赦ない陽射しにケンカ売っとるみたいに真っ白で、シミひとつない玉のような肌やった。
シャワーで湿ったえらい長い髪の毛は癖のないストレートで、指を通したらなんも抵抗なくするする抜けてくんやろなって分かる。触れてへんでもツルツルキューティクルなんを感じさせる深い藍色の煌めくロングヘア。
切れ長の瞳は理知的でかつどっか挑発的な悩ましげな眼…
真っ白のTシャツ一枚の立ち姿はなんや…あれ、どっかの国の凄い彫刻みたいやねん。女性らしい起伏のある身体はまだ湿っとんのやろ。シャツが張り付いて悩ましい感じや。
手脚も長い……
目の前のそうめんの味も忘れてまうくらいのべっぴんさん。そんなべっぴんさんが…
「やっぱり夏はそうめんだよな…」
麺つゆ撒き散らしながらそうめん吸い込んどった。
椅子の上で胡座かいて。
シャツ一枚しか着てへんから、真っ裸な下半身が危険領域や。
「……てか、何してん。ホンマ早よ帰ってや!!」
「……実は実家からの仕送りを打ち切られちゃってさ」
「聞けや、誰やねんあんた!!」
「しばらくは牛乳でふやかした乾パンで食い繋いでたんだけどね…」
「乾パンは固いまま食うもんや!ふやかすんは邪道や!アホちゃうんか!!」
「とうとう乾パンに飽きちゃって…泣け無しの682円でスーパーに別の食べ物買いに行ったんだけど牛乳の消費期限が切れててさ…出先で腹痛くなっちゃってトイレ借りる為に飛び込んだの。営業所に」
「どこの!?」
「さっきまで働いてた宅配業者の」
「まだ働いてんやろ!あんたの仕事終わってへんで!?玄関に放ったらかしやで!?」
「で、そのままの流れでバイトする事になって…まぁ私もこのままじゃ餓死するしかないし…めんどくせーけど働くかぁって……でもさ?」
「うん!!」
「やんなっちゃって……今ので」
「今のでて…いや……ウチをそないな顔で見んとって!?ウチは荷物来るとかなんも聞いてへんかってん!!」
「……辞めたんだ」
「まだ辞めれてへんで自分!!」
「バイト辞めたら家賃払えないし食うもんもないし……しばらくここに泊めてもらっても、いいかな?」
存在するんか……?現代社会で……こないな人間が、ホンマにっ!!
「いいでしょ?」
「いや帰ってや!!そもそもここ、ウチの家でもなんでもないし、ウチに訊かれても困んねん!!」
「じゃあ君に訊いても仕方ないから家の人が帰ってくるまで待たせてもらうよ」
「なんやねんこいつっっ!!??」
足の裏ボリボリ掻きむしりながらそうめん啜る姉ちゃんが食堂を見回しながらほぇーって間抜けな声出しとった。
んで、タバコ咥えた。
「禁煙や!!」
「それにしてもでっかい家だよね。しかもこんな山の中に建ててさ。金持ちって何考えてんのか分かんねー」
「火ぃ付けんな!!」
「ふーーっ……てか、君家の人じゃないなら何?もしかして……泥棒?」
「ここが民家に見えんのかい!!ここはうちの会社の保養所や!!」
「え?社長さんなの?晩御飯はヒレステーキで」
「いやウチの会社ちゃう。ウチが所属しとる…会社の保養所や!!」
「なんの会社?」
「まぁそれは……」
「……」
「……アイドル事務所やけど!?」
どや!!
……いや、バラして良かったんか?これ…まぁまだデビュー前やし…
「……へぇーーーー…ぷはぁ」
「げほっ!?煙こっちに吐くなや!!」
「じゃあ君は……事務員さんかなんかなんだ」
「いやなんでやねん!!所属しとんねん!!タレントやねん!!アイドル見えへんってか!?」
「なんで一人なの?」
そんなんこっちが訊きたいねん…
「もうええやろ、早よ帰ってや!!」
「私ここに住むし」
「警察呼ぶで!?」
「呼んだら?私ただ配達来ただけって言うもん」
「配達員がシャワー浴びてそうめん食っとるわけあらへんやん!?」
「君が用意したんだよ」
「おどれが用意させてん!!」
ウチの渾身のツッコミも何処吹く風やった…
全く出ていく気配のあらへんこの姉ちゃん、そうめん平らげてそのまま床に寝転がりおった。信じられへんけど、ホンマにここに住み着くつもりらしいわ。
考えられへん……どないしたらええんや……
「社長はいつ来んのー?」
なんでか知らんけど廊下で仰向けになって寝タバコかましとる姉ちゃんが訊いてきた。
「ここにはマネージャーとウチの仲間しか居らへんけど……なんかウチが戻ったらみんな居らんくなっとんねん!!いつ帰ってくるんか知らんねん!!」
「…………捨てられたわけか」
「いてまうぞこら!!」
「じゃあ戻ってくるまで一緒に居てあげ「帰れて!!」
帰ってきたらひとりぼっちやし変なのに上がり込まれるし……
みんなどこ行ってんねん!?




