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第22話 ……で、おにぎりにヤモリ入れられて我慢の限界が来ちゃったんだ?

『ぽいずんちゃん』は二年前まで活動してた登録者58万人のY〇uTuberグループ『さいたまシスターズ』のメンバーだ。現役時代確か中学生って言ってた気がする。

 動画のジャンルは商品紹介とか、ゲーム実況とか、雑談とか……色々。時には過激なドッキリとかお金のかかった企画もやってたのを覚えてる。

 どこかの事務所に所属してたのかどうかはちょっと分からないけど…


 私、天鬼りあも当時同年代の女性Y〇uTuberグループという事もあって、目をガン開きにして動画を観てたのを覚えてる。


『ぽいずんちゃん』はその名前の通り毒舌ツッコミキャラで、メンバーへの辛辣な物言いが痛快だと、人気もあった。

 いじられキャラでもあって、ドッキリ企画ではターゲットにされがちで、過激なドッキリを仕掛けられてブチ切れる。可愛らしい容姿とのギャップが多くのファンを獲得する要因だった。


 ……『さいたまシスターズ』は二年半の活動期間を経て、ある日突然活動を休止した。

 そして現在に至る。



 私はスマホで開いた『さいたまシスターズ』のチャンネルを見つめてた。最後に投稿された動画のタイトルは『【お詫びとお知らせ】しばらくおやすみします』だ。


「本人の目の前で検索するなぁ!!」


 琴音ちゃんがキレ散らかしながらスマホを叩き落とした。


「あっ……ご、ごめんなさい…」

「大丈夫大丈夫」


 今のキレ方とか確かに…動画で観てたあの子そのものだなぁ…


「あなた達確かY〇uTube事務所に所属してたわよね?」


 万理華さんが確認する。


「うちの事務所と契約してアイドル業をやる事は、そっちの事務所には伝えてあるの?」

「……Y〇uTubeは二年前にきっちり引退した。事務所も退所済みだよ…リスナーには正式な報告してないけど……」


 二年前の活動休止のまま今後についての報告無しは事実上の引退だ。ファンも活動再開は諦めてるだろう。

 事実私もその一人だった。

 熱心なファンというわけでもなかったけど、百合目的で動画を血走った目で観てたから…


 4人組グループのみんな可愛らしくて……美味しそうでした。


「じゃあそこは問題ないわけか…」と万理華さんは安心した顔をしてから、本題だ。


「確かやめた理由は……ネットでの誹謗中傷、だったわよね?」


 触れない方がいい話題であろう事は明白。それでも万理華さんが確認するのは、そんな子がどうしてこの世界にやって来たのかを知らなきゃならないと思ったからだと思う。


 もしかしたら過去にネットで炎上した子がユニットに加わる事の影響を危惧したのかもしれないけど…万理華さんはそういう考え方をする人じゃないと今は信じたい。


「……きっかけはドッキリの企画」


 琴音ちゃんが話し始めた。


「爆弾おにぎりに生きたイモリを入れて食わせようって企画だったんだけど…」

「それはもういじめなんよ」


 りあ、ドン引き。

 そう…『さいたまシスターズ』の企画は過激なものが多いんだ。

 私が観た限りだと他に「バンジージャンプの命綱切ってみた」とか「クロロフォルムどれだけ嗅がせたら気絶するのか実証してみた」とか「時速350キロで走るフェラーリの前にぽいずんちゃん突き飛ばしてみた」とか…

 よく炎上しなかったよね……


「うちのチャンネルのドッキリはヤラセとかはなくて…ターゲットはマジで仕掛けられるんだけど…まぁ八割方私なんだけどさ……そのドッキリを食らった時に私、今まで積もりに積もったものが爆発しちゃって……」

「……それは、今まで仕掛けられてた過激なドッキリが、本当は嫌だったって事?」


 私の問いに琴音ちゃんは頷いた。


「……私、メンバーから嫌われてたんだ」


 嫌だなぁ聞きたくないなぁそういう話…


「多分……ウザかったんだと思う…仕方ないよね。私こんなだし……気が強くて口が悪くて…」

「そんな事ないよ!琴音ちゃん!」


 陽さんの言う通りだ。私達は今あなたのギャプに置いてけぼりにされかけてるというのに…

 琴音ちゃんは続ける。


「あのドッキリ企画も本当は嫌いな私への嫌がらせなんだよ。私の嫌がる事やって、動画だから私も強く言えなくて…そんな私を笑ってたんだよ」

「いつぞやの動画でメンバーに対して「お前らの家族バラして瓶詰めにしてついでに家燃やすぞ」って言ってなかったっけ?」

「万理華さん!しっ!!」


 それが琴音ちゃん…いや『ぽいずんちゃん』の持ち味なんですっ。


「……で、おにぎりにヤモリ入れられて我慢の限界が来ちゃったんだ?」


 陽さんの言葉に琴音ちゃんは頷く。


「その動画で私は炎上した」


 その動画は私も観た。

 動画後半、『ぽいずんちゃん』がヤモリを食わされて激昂する。メンバーも最初はリアクションかと思ってたけど『ぽいずんちゃん』の怒りは本物で、まさに紗良さんにしたように手を挙げたんだ。

 結果メンバーの一人が顔に怪我をする事になった。


 幸い両者の間で和解は成立したらしいけど、まぁ表向きだ。裏では弁護士とかが出てきて難しい話もしたんだろう。お金も払ったかもしれない。


 そして『ぽいずんちゃん』は炎上した。


 コメント欄はファンからの罵詈雑言に溢れSNSの公式アカウントも悪意あるリプライで埋め尽くされた。

 このインターネット社会においてそれは絶望的な事だ。

 炎上は加害者『ぽいずんちゃん』に集中したけど『さいたまシスターズ』の活動立て直しが絶望的な程の炎上は鎮火の兆しを見せず…

 彼女達がネット上から姿を消すまでとうとう世間からのバッシングは止まらなかった。


「……そんなあなたが今アイドルを目指してる」


 万理華さんが口を開いた。


「ネットで傷つけられたあなたが…もう一度人前に姿を現す事を決断した理由は?」

「……」

「自分を変えたいって、言ってたよね?」


 陽さんがそう問いかける。それは私も陽さんの口から聞かされた、琴音ちゃんがこの世界にやって来た理由だ。


「世間はあなたを受け入れてくれないかもしれないわ」


 万理華さんはあえて厳しい事を口にする。それは事実だと思う。『さいたまシスターズ』が姿を消して『ぽいずんちゃん』の事を忘れている世間も彼女が再び表舞台に出てくれば心ない言葉を投げつけてくるかもしれない。

 それは決して正義感とかじゃない。悪意に満ちた言葉だ。


「……私」


 琴音ちゃんは万理華さんへの返答を紡ぐ。


「……私、昔から気性が荒いんだ」


 出会ってから今日までの琴音ちゃんの姿の二面性に、それをどう捉えたものかと三人は顔を見合せる。


「すぐ手が出るし、口も悪いし、人の気持ち考えない……そんなだから友達も出来なかった…でも、ネットのみんなはそんな私の嫌いなところも個性だって認めてくれた……」

「……」「……」「……」

「……と思ってた。でもホントは違った。みんな私の本当の姿を知らなかっただけなんだって…自分の名前で検索に引っかかる悪口に思い知った…だから……」

「……」「……」「……」

「変わりたいんだ……そして…あの時応援してくれたみんなに、謝りたい……」


 それが、鏑木琴音がこの世界に入った理由……


「どうして、アイドルになったら変われると思ったの?」


 私は尋ねる。


「……何もかもが嫌になって引きこもってた時に、家にあいつが来た…星熊マネージャーは私が炎上したのは仲間に恵まれなかったに過ぎないって……最高の仲間を見つけてあげるからもう一度チャレンジしてみないかって誘われた」


 最高の仲間……重たい言葉と今日の現実が胸にのしかかった。


「私は人気者になりたいんだよ……きっと。自信がなくて、自分が嫌いで…でも周りから認められて気持ちよくなりたい自分勝手な奴なんだ。嫌いな自分を変えたいなんて方便だ。私は人気者だって勘違いしてた頃の幻想を捨てられてないだけなんだよ」

「……それは違う」


 琴音ちゃんの自虐を切って捨てるのは万理華さん。彼女は今までのレッスンの時と同じく、真剣な目で琴音ちゃんに向かい合ってる。


「ファンを裏切ったって自分を責めるあなたが自分勝手なんて事はないと思うわ…あなたは散々叩かれてもY〇uTuber時代のファンをまだ想ってる」

「……万理華……………………さん」

「……よし」


 呼び捨てを許さない女、夏祭万理華…


「それに、人気者になって気持ちよくなりたいって思うのは別に悪い事じゃない。私だって、周りからチヤホヤされたいからこの仕事をしてる」

「万理華………………」

「…………」

「あっ…………さん」

「よし」


 厳しい……


「琴音ちゃんはちゃんと頑張ってて偉いね」


 陽さんが優しく語りかけた。


「琴音ちゃんはちゃんと変わろうと頑張ってるよ。だって……あのマスクもその一環なんでしょ?」


 素顔を晒している琴音ちゃんはその言葉に恥ずかしげに頷いた。


「顔を隠してるとなんか…別人になり切れる気がして……普通になれるんだ」


 あれが普通なのかは個人の解釈による気がするけど……

 まぁ、琴音ちゃんが大きなコンプレックスを抱いてるのは分かった。


「……紗良に謝らないと」

「確かに殴る蹴るはやり過ぎだけど、あれは紗良さんも悪かったから……」


 私が擁護しても琴音ちゃんは違うと首を振った。


「あいつ私が『ぽいずんちゃん』だって知ってたんだよ、きっと……」

「え?」

「そうなの?琴音、あいつには話したの?」

「話してないけど……分かる」


 紗良さんが浴びせた罵詈雑言が蘇る。



 お前なんかがしゃしゃり出てきてんじゃねぇよ!!嫌われモンがっ!!



 ……確かに…気づいてたのかもしれない。


「……万理華」

「……あ?」

「…………さん(汗)」

「うん?なに?」

「私と紗良を、二人きりで話させてほしいんだ」

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