第178話 お前の友達の好きな人の友達がお前の友達に対して……
「どうしたらって……告ればいいじゃん」
はぁとちゃんはそうアドバイスした。
「好きなんやろ?その子もお前……の友達の事。両想いやん?躊躇する理由ある?」
はぁとちゃんの言い分はもっともだった。
「はぁとちゃん、話聞いてた?「多分」だからね?」
「……うん。聞いてた」
「……ホントに?青椒肉絲に夢中じゃなかった?」
「どんだけキッズなんだよ私は(怒)」
「はぁと。ピーマンも食べな」
「……ピーマンはいらない。レオ、あげる」
いつの間にか頼まれてた青椒肉絲のピーマンを器用に避けながら、はぁとちゃんはため息混じりに繰り返す。
「多分好き同士なんだろ?じゃあ告れよ」
「……違ったらどうするのよ」
「うるせぇなぁ!?いいか!?リスクのない恋なんてない!!予定調和のラブコメなんか誰が喜ぶんだよ!!」
「はぁとちゃん!?私の友達の恋、真剣に考えてくれてるのかなぁ!?」
あろう事かこのキッズは私の恋をラブコメだと思ってるらしい。
「分かる?はぁとちゃん(怒)告白しちゃったら何もかもが変わっちゃうんだよ?」
「でもさ?ミライ。勇気を出して踏み出さなきゃ得られるものも得られないよ?」
私を優しく諭すように押し付けられたピーマンを食べるレオちゃんが言った。
その一言が正論のナイフとなって深々突き刺さる。
明石ミライ、何を臆病風に吹かれてるんだって…
「……うん。でもね?レオちゃん。仮に好き同士だったとしても…それでも告白していいものかどうか…悩んでるんだ。私の友達がね?」
「付き合いたいって話じゃないのかい?」
「さっき話したでしょ?その人の友達もその人の事が好きだって……私の…友達が仮にその人と恋人になったら……その人とその友達との間の関係が、さ……?」
「友達が多すぎて訳分かんねぇ」
理解力3のクソガキが口を開けたその瞬間、今まで押し付けられた全てのピーマンがその口に放り込まれた。
レオちゃんもピーマンは嫌いらしい。
「っ!?!?」
「それはミライ……の友達が気にする事じゃないさ」
「気にするよ……私…………の友達!とその人の友達との関係がギクシャクするのは仕方ないとしても……それに……その人と友達は仕事仲間でもあるからさ……」
「!?(『FOOLS』のメンバーという事か…)」
「おい、レオ……(むしゃむしゃ)」
「……(天鬼りあに好意を抱きそうな子)」
「……ピーマン、美味いぞ?(むしゃむしゃ)」
「……(誰だ?)」
「お前ピーマンも食えないのか?お前の方がクソガキじゃん!おい!レオ!!」
「……黙れ。青椒肉絲のソースがあって細切りにされてなきゃ食べれないくせに」
「やーいやーい、ピーマン食えないなんてお子ちゃま!!」
やかましいなぁ……
「それでも、ミライ…………の友達はその子と付き合いたいんでしょ?」
「…………」
「違うのかい?」
付き合う。
明石ミライと天鬼りあが、恋人になる。
その言葉の意味する具体的なイメージが湧き上がってこない。
アイドルとして生きてきて、身も心もアイドル足れと、今まで意識してきたつもり。そんな青春がもたらした「恋愛」という現象に対する免疫の低さは、私から歳頃の娘としての感覚まで奪い去ってた。
付き合うってどういう事なんだろう……
「……どうしたらいいのか、はっきりしてないんだ」
「……えっちしたくないって事かい?」
「レオちゃんの頭の中はそれしかないの?」
「……他に何が?」
……レオちゃん(汗)
「別に付き合いたくねーなら付き合わなきゃいいじゃん。一体何を悩んでんだよ(もぐもぐ)」
ピーマン食べれて偉いはぁとちゃんが問う。
「……好きだから悩んでるんだよ」
「好きなのに、付き合いたくないの?(もぐもぐ)」
一度気に入ったらそればっかり食べちゃう子供みたいなはぁとちゃんが再度問う。
「というか……」
「……(もぐもぐ)」
「私の…………友達は、仕事的に……恋とかしちゃいけないような……人で……」
「……(もうお前やん)」
「……(言っちゃってるようなもんやん)」
「レオちゃん…女の子はセーフかなぁ?」
「……その“友達”の仕事によるんじゃないかい?何してる人?」
「………………世間の皆様に対して歌って踊って偶像を売る商売?」
「……(お前やん)」
「……(もう誤魔化す気ないやん)」
ピーマン(だけ)完食して乾いた小籠包にも手を伸ばしたはぁとちゃんが「ウジウジめんどくせぇなぁ」ってチクチク言葉で刺してきた。
そして気づいた。はぁとちゃん以外誰もろくに料理に箸をつけて無いことに。
「結局何をどうしたいんだお前は」
「何をどうしたらいいのかを私“の友達”が悩んでるんだよ」
「ふわふわしてんなぁ!何を相談したいかくらいは決めてから相談してこいや!!」
うるさい。元々ベイビーなはぁとちゃんに恋愛相談なんて期待してないもん!
……かと言って爛れた恋愛しかしてなさそうなレオちゃんも…
あれ?もしかして相談する相手間違えた?
「仕事的に恋愛NGなら諦めた方がいいと思う」
そのレオちゃんはビシッと迷いなき言葉で切って落とした。
その一言に心臓がキュってなる。
……やっぱり、そうだよね。
「ただ…その恋愛禁止が異性との交際を想定してのルールなら、グレーゾーンだと思う。そこは職場の人に相談するのがいいだろう」
「レオちゃん…」
「もっと大事なのは……ミライ…………の友達の気持ちだよ。仕事的に禁止かもしれない。けど、ミライ…………の友達「その友達ってのメンドイからもうやめね?」の気持ちが仕事より大切なら、そっちを優先するべきだよ」
「……レオちゃん」
「無責任な回答かもしれないけど、「恋愛禁止の仕事してて友達の女の子の事を好きになっちゃった上に好きになっちゃった女の子の友達と三角関係になっちゃって」どうしたらいいのか分からないというのなら、自分が一番そうしたいって事をすればいい」
レオちゃんの言葉は力強くて、背中をぐっと押された気がした。
「……私の…あ、間違えた。私の友達のしたいように…」
「……(もう誤魔化せてないって)」
「……(それで通用してると思ってるのかい)」
ミライと呼ぶ声がした。
顔を上げるとレオちゃんが私の手を取って微笑んでた。
「誰かとベッド・インするのは恥ずかしい事じゃない」
「お前は恥ずかしいから少しはリーダーとしての自覚持て?」
人として恥ずかしいレオちゃんが自分の不祥事を棚に上げてはぁとちゃんにツッコまれてる。
「恋に正解はない…十人十色。10人分のえっちがあっていいんだ」
「えっちから離れない?」
「どうするべきかは僕達は答えを出してあげられない……けど、ミライの友達にこれだけは伝えて欲しい」
「……?」
「どんな選択をしても、僕とはぁとは味方だよって」
脳内メーカーやったら頭の中「セ〇クス」しかないはずのレオちゃんの言葉に、思わず涙腺が緩みかけた。
屈辱を噛み締めて、敗北の涙が零れないように上を向いて耐える。
でもありがとう。
「……ありがとう、二人共」
「お前じゃなくてお前の友達の味方だから」
はぁとちゃんが辛辣な事言って……あっそっか。うん。そうだね。私の友達の話だからね。
「おいミライ」
「ぐすっ…なに?クソガキ」
「え?今の展開から流れるようなクソガキ呼び?お前空気読む能力ないんか?」
「どうしたの?おかわりはダメって言ってるでしょ?またリバウンドするよ?」
「……レオがふわふわしててなんの参考にもならないと思って「なんだと?クソガキ」私が実のあるアドバイスしてやろうと思ったのに…」
「しょうがないな……ご飯小だけだよ?」
「だからおかわりじゃねぇ(怒)」
レオちゃん、いい事言ってふわふわしたまま終わらせようとしてるのかな?って思ってたから、ありがとう。
一応聞こうか?
「お前の友達の好きな人の友達がお前の友達に対して……」
「友達多いな」
「誰の事言ってるのか分かんない。説明下手か」
「私が貰うから的な事言ったんだろ?(怒)だったらさ、そいつが告るまで様子を見るってのも一つの手だと思うけど?」
「え?なんで?待てって事?」
「そいつがそれでフラれたんなら…それはそいつの恋が実らなかったってだけで、別にお前……の友達が気に病む事もないだろ?玉砕して、それから満を持して告白するならすればいいし祭壇作って崇め奉るんなら奉ればいいし…」
「……(崇め奉る?)」
「……(はぁとの奴もしかして鏑木琴音の祭壇とか作ってんのか?)」
脳内えっちが意見する。
「玉砕しなかったら取られちゃうじゃん」
「お前の……友達の事が好きなんだろ?じゃあ大丈夫じゃん。それにもしそっちとくっ付いたなら、お前……の友達。くそめんどくせぇ!!友達は告らなくても相手の気持ちが分かるわけで、告ってフラれて関係が変にギクシャクする事もないし?」
……万理華さんが動いて結果次第で決めろって事?
なんだか卑怯な気もするけど……
でも、いいアイディアなのかもしれない。
万理華さんは言ってた。告白するって。
先手を譲る……譲るって言うのも変な感じだけど、私自身の気持ちを整理する時間も出来る。
私は……どうしたいのか。
「……はぁとちゃん」
「ん?」
「……それ、採用」




