第177話 どうしたらいいかな?私……の、友達
「なんだよ」
この日『TRY AGAIN』の荻窪はぁとと白石レオ、そして私、明石ミライが飯処日清館で一堂に会した。ちなみに昨日もスタジオで一堂に会したし、一昨日もバラエティの収録で一堂に会したしその前の日も……
「で、なんだよ」
はぁとちゃんの機嫌が悪い……まずは彼女に何があったかを訊いた方がこの後がスムーズだよね。
「はぁとちゃんどうしたの?機嫌が悪いけど」
「……別に」
「はぁとの奴昨日ガチャガチャで5万円スったんだよ」
レオちゃん曰く、ガチャガチャに『ふしぎの森シリーズ』ってのがあって、そのラインナップの森の妖精 るんじゃもんってのを狙って5万円ぶっ込んだんだって。
で、出なかったと…
「僕もその場に居たんだけど…最後の方は見てられなかったよね」
「どうして止めてあげなかったの?レオちゃん」
「止めたさ。でもはぁとが…」
「るんじゃもんを家に迎え入れるまで私は死ねない」
……るんじゃもんってのはよっぽど凄い奴らしい。ガチャガチャでスるって初めて聞いたよはぁとちゃん。
「しかもこいつ…5万円スったから終わりにしたんじゃなくて、在庫全部引いて出なかったから昨日は諦めたんだ。在庫があったら、もう5万円はいってたね。間違いなく」
「……止めなよ」
「だから止めたさ」
あとでメ〇カリで調べてみよう。るんじゃもん。
「で?ミライはどうしたの?急に呼び出してさ」
はぁとちゃんの不機嫌の理由が分かったところで、レオちゃんがこっちに要件を促した。
そのタイミングで注文してた料理が来たよ。
「へいお待ち。まーらーたんめん」
「うわぁ、まーらーたんめんだぁ」
「これが流行りのまーらーたんめんか…」
「美味しそうだね。まーらーたんめん」
何気に初めて食べる、まーらーたんめん。やっぱり芸能人たるもの流行りには敏感に乗っていかないとね。
この表面がヌメヌメした生魚みたいなのが緑色の冷たい液体に浸ってよく分からないトゲトゲした尻尾がはみ出した天ぷらみたいなのがトッピングされてるのがまーらーたんめんかぁ。
……
「……実は相談があって…」
誰もまーらーたんめんに箸を付けないまま、私は本題に入る。私の頭の中には昨夜の出来事が思い起こされてる。
「お父さんの事でまたなんかあったの?」
何故か冷たくて乾燥してる小籠包をハムハムしながらはぁとちゃんが問う。それに私は首を振る。
「そっちは問題なく。引越し先も無事に決まってさ」
「なら学校でいじめられたか?」
「ううん。私いじめられた事ないもん。今日なんて上履き汚れてるからって洗ってくれたんだよ?便器の水で」
「それをいじめって言うんだぞ?」
?でも綺麗になったし…
「その話はまた詳しく聞くとして…じゃあどうしたの?もしかして…キャンドルベリー関係かい?」
レオちゃんの顔が険しくなった。キャンドルベリーは今『TRY AGAIN』と絶賛揉め揉め中のアイドル事務所。レオちゃんの溢れ出るリーダーとしての自意識がその話題に対してだけ異様にピリピリさせてるみたい。
首を振って違うよと伝え、安心させてあげる。
「実は…個人的な相談なんだけど」
いよいよ本題を切り出そうとして、言葉が詰まる。こんな話をしたらどんな反応が返ってくるんだろう…ちょっと怖い。
『TRY AGAIN』の二人は家族以上の存在。どんな事だった言い合える関係だ。
でも、アイドルが恋愛相談なんてしたら…
長年染み付いた恋愛というものへの禁忌意識が躊躇させてる。
……でも、相手は女の子だから。
勇気を振り絞る。
「…これは私の友達の話なんだけど」
でも一応保険かける。
「つまりお前の話だろ」
「ミライ、僕らにはなんでも話しなよ」
……レオちゃん。
「……それでも友達の話なんだけど…」
「上履き便所で洗われる奴に友達なんて居るわけねーじゃん」
「はぁと、黙れ」
「実は…その……恋愛相談なんだけど……」
瞬間、テーブルの空気がピリついたのが分かる。
二人は一見、表情を変えずになんでもない風を装ってるけど…二人の纏う空気が一言で張り詰めたのが、全身の感覚で感じ取れた。
後の言葉が詰まる。
「……うん。それで?」
それでも百戦錬磨のビッチ、レオちゃんが優しく先を促した。
「恋愛相談なら得意だよ?なんせ僕は経験人数軽く千は超えてるからね」
……あ、そっか。
レオちゃんなんて不特定多数の人とワンナイトしてるんだった。この子の前でアイドルとしての貞操なんて真面目に考えるのは、全裸で焼肉のタレ頭から被ってライオンの群れのド真ん中でサンバ踊りながら「どうやって生きて帰ろうか」って考えるくらい馬鹿らしい事だ。
明石ミライは考えるのをやめた。
「実はその友達の好きな人は女の子なんだけど…」
「……うん」
「あ、その友達も女の子ね?」
「うん」
「元々その友達は…その人とはいいお友達で、一緒に暮らしたりもしてたりして」
「ミライ」
「なぁに?はぁとちゃん」
「それはつまりお前の「はぁと」
何か言いかけたはぁとちゃんの顔面にレオちゃんの水餃子肉汁攻撃が奔る。小籠包は冷たいのに、何故か熱々の水餃子の汁の一撃ははぁとちゃんを一時的に失明させた。
「あぎゃああっ!?」
「ミライ、続けて?」
「……あ、うん(汗)その人とはいい友達なんだけど「目がぁっ!!」好きになってしまって……いや、これが好きって事なのかも……「目がぁぁぁぁぁぁぅ!!」
いや、いい加減この気持ちに向い合うべきだと思う。
りあちゃんは友達で、推しだけど…だからこそこの感情は抱いてはいけないものなんだって考えてしまってた。
でも、握手会で初めて会いに来てくれた時私の記憶には初めて会ったりあちゃんの姿がしっかりと刻まれた。
きっとこれが一目惚れってやつなんだと思う。
「…まぁ、好きになっちゃって」
「…僕から言える事はひとつだ」
レオちゃんが人差し指をピシって立てて私の目を見て真剣に答えてくれる。
「恋に性別は関係ない」
「レオちゃん…」
「ベッドの上では男も女もないんだよ」
「あなたはそうかもしれないね」
「黙れレオ。ミライが相談したいのはそんな話じゃない」
目が復活したはぁとちゃんが言う。
「つまりミライ、お前が相談したいのはどうやったらその子と付き合えるのか、という事…」
「でね?」
「無視すんなミライ(怒)」
「今日相談したい事なんだけど」
「この恋愛マスター白石レオになんでも言ってごらんよ」
「セ〇クスマスターの間違いじゃねーの?性病罹って死んどけや」
「実は友達が好きになっちゃった人の別の友達がね?」
「友達が多すぎて分かんなくなってきた」
もうさっきから。はぁとちゃ…間違えた。クソガキは黙って?
「その人もその人の事、好きみたいなの」
「その人ってどの人?」
「はぁと、小籠包冷めるよ?早く黙って食べな?」
はぁとちゃんを冷めた小籠包で黙らせるレオちゃんの目がキラリって光った。間違いない。面白い事を見つけた時に光る好奇心の光だ。
「もしかしてその人とミライの友達も友達?」
「友達…という程ではないけど……知り合いではある」
「…禁断の三角関係!?」
そうなんだよはぁとちゃん、困ってるんです。
「で、なんか喧嘩売られちゃって」
「「喧嘩?」」
「うん…公園に呼び出されて…」
「ガチじゃん。殴られたんか?ミライ、顔だけは守れよ?アイドルだからな?」
「だからミライの友達の話ってことになってるだろ?本当に空気読めないなはぁとは。そんなんだからクソガキなんだよ?」
「んだとレオ!!てめぇ!!」
もう、話が進まないよ。
「聞いてね?キッズ達。喧嘩しないでね?」
「「一緒にすんな」」
「その人、私の友達に「りあは私がもら」…あ、間違えた今のなし。「その人は私が貰うから!!」的な事言ってきて…」
「……(今「りあ」って言った?)」
「……(こいつまさか!『FOOLSの天鬼さんに!?!?』)」
次の言葉を紡ぐ時、私の顔が羞恥心で赤くなる。自分でこんな事言うの、変だ。
昨日よく言えたな…
「……で、その……多分……なんだけど?」
「……」
「……」
「その問題の女の子はさ……私……の、友達の事が好きなんだよね。多分」
「「…………えぇっ!?」」
「どうしたらいいかな?私……の、友達」




