第173話 万理華さん。恋してるのは…ホントなんだ?
こんにちは。天鬼りあです。
カオスな現場に立ち会ってしまった現役アイドルです。
万理華さんのマンションの前にパトカーが停まってる。警察に囲まれたその人は大きな帽子(値札付)で顔を隠しながら警察の取り調べを受けてた。
この前万理華さんの家に紗良ちゃんと行った時に、友人のAさんから誕生日プレゼントで貰った天然水晶製ルービックキューブ(全面透き通ってて色も付いてなくて面を揃える遊び方ができないやつ)を忘れてきた事を思い出したんだ。
万理華さんとはしばらく距離を置いた方がいいんじゃないかって思ってたけど、避けるのも嫌だし、定期的に万理華さんの匂い(ピーチ系)嗅がないと体調悪くなるし、ルービックキューブも40万円くらいする代物だから、取りに行こうと思って来たんだけど…
「ではこの人の事は知らないんですね?」
「知りません」
「あなたのお母さんだと、マネージャーさんには名乗ったようですが…」
「違います」
…なんか、万理華さんのマンションに不審者が出たらしい。
警察と不審者のやり取りを見守る私の隣にはせいちゃんが居た。
私は今、正直不審者どころじゃなかった。
とんでもない事を聞いてしまったんだ。
「あなたはどうしてこの人の母親だなどと名乗ったんですか?」
「……」
「答えてください」
「……」
「あなたはこの方とはどういうご関係ですか?」
「……私が、一方的に知っていました」
「どういうご関係ですか?」
「……あの、この人はアイドルやってて……」
「はい」
「……私は…ファンです」
「どうしてここに?」
「……」
「答えてください」
「……あの…SNSの投稿とかで…家がこの辺かなって思って…もしかしたら会えるかもって…それで…」
「この辺探し回ってたんだ?」
「はい……」
「どうして嘘ついたの?」
「……この人達が話してるの聞いて…もしかしたら知り合いかなって…それで、お母さんだって言ったら…部屋とか教えてくれるかもってカマかけました。すみません」
……なんてこって。
「……万理華ちゃんもストーカーが出てくるくらい人気者になっちゃったか…」
せいちゃん、そんな感慨深そうに頷いてる場合じゃないよ。
「一体何事?」「ストーカーですって」「まぁ…」「605号室の夏祭ちゃん、なんかアイドル?やってるみたいで」「うそぉ」「アイドルゥ?」「じゃあ悪質なファンって事?」
ご近所さんも大混乱だよぉ。
不審者さんは警察に連れていかれた。なんか、近隣のゴミ置き場漁りまくってた余罪があるらしい。
で、現場には私達だけが取り残された。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
……とりあえず、確認しなきゃね♡
「……万理華さん」
「……なによ」
「せいちゃんと付き合ってるんだ」
万理華さんの首が強風に吹かれる草木みたいに激しく横に揺れてる。
「照れなくても……いいんだよ」
この時、天鬼りあは興奮していた。
無理もない。
私がアイドルになったのは…美少女達のてぇてぇ…すなわち「百合」を堪能する為なんだ。
万理華さんもせいちゃんも紛うことなき美少女。
まりせいです。
てぇてぇです。
これにハァハァしない理由がありますか?
ないです。
「違うからっっ!!」
万理華さんの怒声が空気を弾けさせる。ご近所さんも思わず振り替える声量だった。
でも私、万理華さんが照れ屋さんなの知ってるもん。
「……てぇてぇ」
「違うっっ!!!!」
「てぇてぇぇぇぇっっ!!!!」
私に隠れてあんな事やこんな事してたんでしょ!?
「星熊っ!説明しなさいっっ!!」
万理華さんの圧にビビってるマネージャー、星熊さんが説明する。
「……朝帰りです」
「黙りなさい」
「ゆうべはお楽しみでしたね、です」
……っっ!!
「……どっ!……どこまで進んで……っ!!」
戦慄する私にせいちゃんの頬が赤くなって…いや元から赤かった。酔ってる。つまり平常運転だ。
「昨日は激しくて……お隣さんに壁ドンされちゃった…///」
「星羅っっ!!」
万理華さんの張り手がせいちゃんを張り倒した。そんな光景もてぇてぇ。
まさかこの二人が……
その意外性もてぇてぇ……
「てぇてぇぇぇぇっっ!!」
「りあ、黙りなさい?で、星熊と朋花は私のマンションの前でなにしてんの?説明なさいっ」
そうだ……この二人がここで何をしてたのか…
その質問に答えたのは朋花ちゃんだ。
曰く……
「……万理華がな?恋してるって言うてん!!」
「朋花ぁっ!!(怒)」
「せやからウチら……探り入れようと思うて…!!」
女子高生みたいな事してる……興味津々か?
「そしたら万理華の家から星羅出てきてん…!!」
そうだったのか。だから朝帰り……
「お泊まりだったんだ?せいちゃん」
「……うん///」
「ゆうべはお楽しみでしたねだったんだぁ?せいちゃん」
「……うん///」
「……前に二人で万理華さんの家にお泊まりしたよね?あの時も実は……?」
「……うんっ!!///」
万理華さんのドロップキックがせいちゃんの後頭部に直撃した。頭取れるかと思ったよ。
万理華さんの顔は真っ赤だった。
「星羅っ!!星羅っっ!!あんた…っ!!」
「痛い痛い。病院行く」
「これ以上ふざけ倒すんならあんたが逝くのは三途の川よっ!!」
照れ隠しが大爆発してる万理華さんに星熊さんがまぁまぁって近寄った。そんな星熊さんを裏拳が襲う。星熊さんの顔がア○パンマンの古い顔みたいに飛んでった。
「星熊さぁんっ!!アカンっ!!新しい顔持ってこなっ!!」
「あんたらふざけんじゃないわよ(怒)」
「違うんです説明させてください」
朋花ちゃんの脇に抱えられた星熊さんの頭が何やら弁明を始めたよ。
「最近夏祭さんの様子がおかしかったんです」
うん。そうだね。
「そこで緊急役員会議を開きまして……」
役員?POPプロの役員って誰?
「そこで夏祭さんが「様子がおかしいのは恋で悩んでるから」だと……」
……っっ!!
「万理華さん…そうだったんだ……」
「黙っててくれる?てか、りあは今すぐこの場から消えてくれる?」
万理華さんの眼差しがまるで氷みたいに冷たいよぉ。
「で、探りを入れる為に万理華さんの家に来たら二人が……」
「お楽しみやったんやっ!!」
これは言い逃れできませんよ万理華さん。
「ふざけんじゃないわよ!こいつがうちに来るなんて別に何も特別な事じゃないんだから…っ!!そうよね!?星羅っ!!」
「……///」
「否定しろよ(怒)」
朋花ちゃんが星熊さんの頭を胴体にくっ付けてる。星熊さんの体はレゴブロックなのかな?
そんな光景を眺めながら、よっこいしょって立ち上がったせいちゃんが「まぁ冗談はさておき…」って素面を装った顔で切り出した。
「冗談もこの辺にしておこうか。実は私と万理華ちゃんはただならぬ関係……ではない」
「え?」
「ただならぬ関係ではない」
「付き合ってないの?」
「ない」
その瞬間私の両膝から力が抜けてアスファルトに崩れ落ちた。今まで信頼してた地面がまるで絹ごし豆腐だったかのような頼りなさを帯びて、足下が暗黒空間に吸い込まれていく。
私のさっきまでの胸の高鳴りは……
「うそ……だ……」
「なんでそんなにショック受けてんのよ」
「万理華さん……うそ……だよね?」
「親友の戦死報告を聞くみたいな顔しないで」
「だって……」
こんなのって……あんまりだよ……
「じゃあ、朝帰りは?」
「……ただ夜通し話してただけよ」
「……っっ」
嘘だ。
「嘘だァァっ!!」
ベチィンッ!!
痛い。ビンタされた。万理華さん酷い。自分の非を棚に上げてそんな……
「……え?違うんですか?本当に?」
「ウチらに嘘つかんでええ!!ホントの事言えやっ!!」
マネージャー陣が詰め寄るけどせいちゃんはただ一言。
「万理華ちゃんはタイプじゃない」
「それはそれでムカつくわね。しばくわよ?」
今度はマネージャー陣が崩れ落ちた。
「そんな……朝5時起きだったのに…」
「じゃあ誰なんや!!おどれが恋しとる相手っちゅうのはっ!!」
朋花ちゃんの叫びに対して万理華さんは……
「余計な詮索しないでくれる?(怒)ほっといてってばっ!!もうっ!!」
……
「万理華さん。恋してるのは…ホントなんだ?」
「ねぇこれなんの公開処刑なの!?」




