第171話 激昂したマージャン
「万理華ちゃん、ばなな」
「私はバナナじゃありません」
こいつ毎回毎回何しに来てんのよ。
帰宅した私より先に何故か部屋に居て、何故か冷蔵庫のバナナで何故か背中をかいてる我らがスター、錦野星羅の目の前の姿に私、夏祭万理華は他に言うべき事があったはず。
家のセキュリティの脆弱さと他人の家だというのに無断で上がりこむ仲間の常識のなさに危機感を覚えながらも、私はもう何も言うまいと諦めの境地。
「万理華ちゃん、ばななしぇいく」
「あー、はいはい。酒が切れたのね?残念だけどうちにアルコールは無いから、これで買ってきなさい。そして家に帰りなさい」
「うわぁ。せんえんさつだぁ」
目が黒ごまみたいになってる変態は1,000円拾ってヨタヨタと我が家から立ち去った…
「ただいま」
と思ったら10分もしないうちに帰ってきたわ。
ここでようやく何か用事でもあるのかもしれないと思い至る。
「どうやってうちの鍵を開けたのかは訊かないでおいたげる。なんの用?」
「おぬし、何かあったか?」
アルコールで正気を取り戻した星羅が私と向かい合う形で床に腰を下ろした。この感じ…あと3時間は居座るつもりね。
「別に何もないわよ?」
「なら私の曲を侮辱するのはやめてもらおう」
星羅の声にはまたいつになく真剣な響きが…でも口の端からはストロ○グゼロが垂れてるわ。
「してないわよ」
「私の創った曲をなあなあで歌うのは侮辱に他ならない」
人の金で酒を飲んでる女が偉そうだったわ。
視線を逸らす私…その隙にタバコに火をつけたクソ女が吐き出した紫煙を目で追いながら問う。
「…つまみは?」
「図々しい(怒)」
「りあちゃんと何があったの?」
「…別に話す事なんてなんもないわよ」
「……嘘だね」
「何が不満なわけ?星羅。今までよりちゃんと歌えてるじゃない。パフォーマンスが向上して、何が不満なわけ?」
「上手に歌ってほしいわけじゃない。分かるはずだ」
「私は上手に歌いたいの」
「私の曲はああいう歌い方をする曲じゃない」
「どう歌うかは歌い手の勝手よ?」
星羅が立ち上がった。その剣呑な雰囲気に思わず息を呑む。売り言葉に買い言葉でつい強く出ちゃったけど、曲作りになによりも信念を込めてる星羅に対してこの言い方はまずかったか……
「星羅ごめ……」
「う○ち」
……
「部屋出て左」
こいつ私の部屋にう○ちしに来てる?
ブリリリッブチッ!!
「なぁ、何があったん?話してみーや」ブリュ
「…何もないってば」
「バレンタインの日に…りあちゃんと何かあったんじゃないのかい?」ブリュリュリュ
「ないわよ」
「嘘をつくんならもっと上手につくんだね」プリュ
「嘘じゃないもん」
いつの間にか目の前に立ってる星羅が既に赤ら顔で私を見下ろしてる…
え?いつ出たの?
「いやさ…私もちょっと責任感じてるんだよ」
「あんた流した?」
「私が煽ったからもしかしたら万理華ちゃんとりあちゃんとの間になんかあったんかなって…」
「手洗った?」
「だからさ…愚痴くらいは聞いてやろうかと思って今日ここに来たんよ」
「水の音聞こえなかったけど!?」
ちゃぷんっ
「まぁ飲みなよ。遠慮するな」
「…私のお金で買った酒でしょ?」
「分かった分かった。もういい。何も聞かないよ」
目の前にドカッと倒れるように座り込んだ星羅が更にストゼロを押し付けてくる。こぼれそうになるそれを反射で受け取っちゃったら、星羅はすかさず二本目のプルトップを開けてた。
いや飲みかけじゃなくてそっち寄越しなさいよ。
「とりあえず飲め?酒は心の薬や」
「いや私まだお酒飲める歳じゃないし…」
「朕は国家なりやで?」
「意味が分からないわ」
「…そうやってずっと肩肘張って、色々自分の中で溜め込んで…万理華ちゃんはさ、そんなに私らに素を見せるの嫌なんだ?」
「そんな事は…」
「二人きりじゃん」
星羅はふにゃって笑ったわ。その顔を見てたらなんだか、目の前の背徳の液体を拒絶するのも申し訳なくなってきて…
この子なりに私の事心配して、様子見に来てくれたのよね…
トイレ流してないし、手洗ってないけど…
初めてのお酒は変な味だったわ。
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「あびぇぇんっ!!裏切られたぁんっ!!」
万理華ちゃんを泣かせた罪な女、錦野星羅です。
どうも。
缶チューハイ半分くらいでベロベロになった万理華ちゃんは理性が吹き飛んでタガが外れたらしく、部屋中を震わせる泣き声を深夜に轟かせる。その姿はまるでティガレ〇クスだった。
……モンハンのモバイル版の新作が出るらしいんだけど、私スマホ質に入れちゃったんだよなぁ…
「聞きなさいよぉっ!!」
「うん、聞いてる聞いてる」
まぁこの際だ。心の洗濯という事で心ゆくまで愚痴らせてやろうじゃないか。愚痴もこぼす相手がいる方が気持ちも晴れるってもんでしょ。
「りあがぁ!!あいつデキてたんだァ!!」
「え?誰と?」
「あの居候よっ!!明石ミライっっ!!あの泥棒猫!!りあの家に転がり込んで手篭めにしやがったのよっ!!しかもりあの奴も満更でもなさそうでぇ!!」
「それ、ソースは?」
「カゴメ!!」
「じゃなくて、どこ情報?」
「みぃたもん!!」
「メタモン?」
「公園で二人でくっ付いてベンチ座ってたぁ!!」
……なんだそんな事かよ。
「万理華ちゃんよ。たったそれだけの事で、ちょっと深読みしすぎじゃないの?」
「私知ってるもんっっ!!」
「なにを?」
「あいつらがなんか……ずっといい感じの雰囲気なの知ってるもんっっ!!」
……これどうしよう。
万理華ちゃん酒飲ませちゃダメなタイプの人らしいわ。どんどんボルテージが上がってるよ。
やだなぁめんどくせぇなぁ。私、酔っぱらいって奴がこの世で一番嫌いなんだよね。てか、酒飲む奴なんてろくな奴いない。あとタバコな?
「絶対相思相愛だよ!!ばぁかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「……あー…もしかして告る前に玉砕しちゃった感じ?でも、話聞く限りじゃまだ、万理華ちゃんにも可能性あると思うよ?私が思うにそれ、万理華ちゃんの勘違いの可能性大」
「りあ言ってたもんっっ!!」
「なにを?」
「私は恋愛には興味がないって!!」
……おぉ。
「私は自分が女の子と恋愛したいんじゃなくて、女の子同士が恋愛してるのを見たいんだって!!」
……へ?
「りあちゃんにそんな願望が…」
「その為にアイドルなったってあいつ言ってたくせに……っっ!!」
「その為に!?」
「嘘つきじゃんっ!!自分、恋してんじゃん!!うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
残りの缶チューハイを一気に飲み干して絶叫するその姿はさながら激昂したラ〇ジャン。怒れる獅子はその悲恋を涙と咆哮に変えて自室で暴れ回っていた……
「ウボァァァァァァァッッ!!!!」
「うるせぇぞ!!」ドンッ!!
隣の壁ドンも意に介さずだ。
「落ち着けって。ブレス出てるって」
「でも別にいいもん…私、アイドルだし。きっぱり諦められたらなんか色々吹っ切れて、変な意識とかしなくなったし、ちゃんと歌って踊れるようになったし(スンッ)」
「……いや、吹っ切れてないよね?未練タラタラだよね?」
「もうりあの事そんなふうに見たりしないもん。だから私、あの恥ずかしい曲だってやり切れるわ(スンッ)」
「……いや嘘だね?ずっと様子変じゃん。今も変じゃん」
「私はもうりあの事はきっぱり諦めたのよぉぉぉォォォォアァァァァァァァァアアアアアアァァァァァァァァアアアッッッ!!!!」
情緒が分かんねぇ……
まぁ……なんだ?事情は分かったよ?
万理華ちゃんは多分あれだ。こうと思い込んだら周り見えないところあるでしょ。
万理華ちゃんが何を見たのかは知らないけど…どうやらまだはっきりと玉砕したってわけでもなさそうだし……
全然吹っ切れてないし。なんかこのままモヤモヤさせ続けてるのも心に毒だよな。
「ギュァァァアアアアアアアッッ!!」
なんか謎の光放ち始めたし。
このままじゃ酒飲む度に激昂したマージャンになっちゃうし…
「万理華ちゃん。もう一度勇気を出してみたらどうだい?」
「コォォォォ」キュィィィン…
「口からエネルギー弾吐こうとするのやめてね?万理華ちゃんはまだ恋のスタートラインにすら立ってねぇんだ」
「……?」キュィィィン…
「恋のファーストステージにも立ってねぇんだよ」
「言い換えなくてもいいから(スンッ)」
「考えてみなよ?もし明石ミライとデキてんなら、あのりあちゃんが万理華ちゃんにそんな大事な事秘密にしてると思うかい?」
「……いや、だって……」
「「私、ミライちゃんと恋人になっちゃったんだぁ」って……きっと真っ先に万理華ちゃんに報告すると思うけど?」
「……そう?」
「うん」
「あんた、りあへの解像度が足りてないわね。素人は黙っててくれる?」
なんなんだよこいつムカつくな。酔っぱらいのくせに呂律がしっかりしてるトコが特にムカつくぜ。
「……今現在どうであれ、りあはあいつの事を……」
「……万理華ちゃんよぉ」
私も酒を呷って、そのついでに万理華ちゃんを煽る。
「自分以外を好きな女を口説いちゃいけないルールなんて、ないんだぜ?」
「……」
「……恋にルールは、ないんだぜ?」
「言い直さなくていいから」
「戦う前から逃げんなよ、万理華ちゃん」
「……でも、そんなの…負けるのが分かりきった戦いだし…」
「戦う前から逃げんなよ。他の女に惚れてる女を口説いちゃいけないルールなんてないんだぜ?」
「……ルール違反よ、そんなの。横取りなんて恋のルール違反」
だからルールないっつってんだろ?分かんねぇ奴だな。
「りあちゃんだって嘘つきなんだから、万理華ちゃんがルール違反でも、いいんだぜ」
「……」
「モヤモヤイジイジしてるくらいならさ…いっちょ行こうぜ…恋のスローガンは一億玉砕☆」
「なんで死んでんのよ(怒)」




