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第165話 嘘だ。万理華さんがムッツリなのは知ってるんだから

「…話ってなによ」


 万理華さんの家に久しぶりに上がったな。お泊りもしたっけ。そんな感慨も万理華さんの仏頂面に吹き飛ばされ、清潔で女の子らしい室内に静かな雷雨が降り注ぐ。

 緊張の天鬼りあ…その傍らに座るのは頼もしい仲間だった。


「まぁそう邪険にしなさんな」


 六本木の独眼竜(六本木でバイトしてるんだって)黒沢紗良だ。


「別に邪険にはしてないけど…」


 万理華さんが私達にミルクティーを出してくれた。

 温かい甘さに緊張が解けていくのを感じながら、改めて万理華さんを見る。


「チラッ」

「プイッ」

「チラッ」

「プイッ」


 目が合わない…


「で?なによ?」


 私とは目を合わせてくれないまま、紗良ちゃんに問いかける。

 やっぱり私、万理華さんを怒らせちゃったみたいだ…

 万理華さんからの冷たい態度に、心に大穴が空いたみたいな喪失感を感じる。このままじゃいけないっていう焦燥感が募る。


 そんな私の焦りを見抜いてか、紗良ちゃんが私の太ももにそっと手を添えた。


「まぁ用って程の事じゃないんだけどぉ(モミモミ)」

「……(怒)なら帰って?」


 なんか機嫌が悪化したっ!?


「万理華ちゃん、私達は仲間だ」


 紗良ちゃんがいやらしい手つきのまま真剣な顔で切り出す。

 反対に万理華さんの顔面はどんどん悪鬼の如く変形していく…


「なんか悩みがあるんだったら言うべきだ」

「そうね…目の前の光景が不愉快って事が目下の悩み(殺)」


 私が視界に入るだけで!?


「私がアイドル辞めようとした時、みんなで追いかけて来てくれたね(モミモミスリスリ)」

「(殺)」

「あの時誓ったんだ。仲間の誰かが苦しんでたら、今度は私が助ける番だって(サワサワ)」

「ちょっと紗良ちゃん…っ///あっ///」


 なんていやらしい触り方を……あっ。そこは…///


「紗良ちゃんダメだよぉ///あはんっ///」

「ハァハァ///(殺)」

「何でも話してごらんよ、万理華ちゃん(ニュプニュプ)」

「はぁんっ///」


 万理華さんから熱々のミルクティー投げつけられた。









「万理華さんやっぱり私に怒ってるよね?」ビショビショ

「怒ってないわよ」

「じゃあなんでレッスンの時ずっと不機嫌なの?」

「違うわよ」

「嘘だ」

「嘘じゃない」

「今だって私と目合わせないし…」

「そんな事ない」

「チョコレート?やっぱり不味かった?」

「不味かったけどそんな事で怒らないわよ」

「まぁまぁご両人」ビショビショ


 詰める私と暖簾に腕押し状態の万理華さんのやり取りにビショビショ独眼竜が割って入る。

 彼女は提案した。


「万理華はんあんた疲れてはるやろ?」

「いや別に?」

「とりあえずうつ伏せになりーや」

「なんでよ」

「実は最近メンズエステのバイト始めてんねん。マッサージしたる」

「あんたそれ…いかがわしい店じゃないわよね?」

「万理華ちゃんはAVの観すぎ」

「観てないわっ!!」


 嘘だ。万理華さんがムッツリなのは知ってるんだから。


「体のコリは心の疲れ。物質界に生きる私達の肉体と魂は一つに繋がってるんだから。体の疲労が取れれば心も少しは軽くなるんじゃない?楽な気持ちになってから、もう一度話そう」

「物質界とかはよく分かんないけど私は疲れてな…」


 紗良ちゃんがうだうだやかましい万理華さんの服を引き裂いた!

 弾けるおっぺぇ!!


「ぎゃぁぁぁぁっ!?」

「はい施術するんでパン一になってくださいねー」

「やっぱりいかがわしい店でしょっ!?」

「失礼な。健全なメンエスですぅ」





 麻布のゴッド・ハンド(バイト先が麻布らしい)こと黒沢紗良による施術が始まった。


 ベッドにパン一でうつ伏せになる万理華さんはプリケツを晒しながらも油断なき眼で私達を睨んでる。リラクゼーションを求めてる顔ではない。


「へんなトコに触ったらもう片方の目ともお別れよ?紗良」

「じゃ始めま~す」


 部屋の照明が絞られ、なんかいい感じに落ち着く音楽を流し始めた紗良ちゃんが手に謎のぬるぬるを垂らしてる…


「それ、ローション?」

「がはは!オイル。ほれ、嗅いでみ?」


 紗良ちゃんの手からなんかいい匂いがした。


「じゃあ…背中のコリをほぐしていくねん」


 紗良ちゃんの技術は本物だった。その証拠に警戒してた万理華さんの顔は開始一分でほにゃほにゃに蕩けてきたから…


「……はぁぁぁ~」

「あ~お客さん凝ってんね~」

「なんか…眠くなってきたわ……」

「リンパも……もっみもみしちゃおっかなぁ?」

「うん…してして……」


 ……


「…万理華さん気持ちいい?」

「……うん」


 もう半分寝てる?


「……ASMRしてあげよっか?」

「…………うん」


 ……よし。


「ふぅぅぅぅぅ……」

「あひゃっ!?」


 落ちかけてた瞼が持ち上がったね。


「万理華さん…す……き……ふぅぅ……」

「ちょっ……///」


 その時紗良ちゃんが動く!!


「じゃ、お尻の方を……」

「お尻っ!?あんた!!変なトコ触るなって…!!」

「別に変じゃないよぉ?(ニヤニヤ)」


 もみもみ…


「こらっ!!紗良っ!!」

「れろ…っ」

「あっ///」

「れろれろれろ…ふぅぅ……」

「り…あっ///」

「太ももの付け根も…」

「やめ…」

「あーここも凝ってますねぇお客さん(ニヤニヤ)よ~くほぐしておきますねぇ」


 すりすりさわさわ


「あっ///」

「あ~万理華さん…気持ちよくなっちゃってんだぁ…」

「~~~///(ガクガク)」

「お客さぁん?どうしたんですかぁ?(ニヤニヤ)健全なマッサージですよぉ?」

「万理華さんの…えっ…ち」

「あぁうぅぅぅ///」

「…ふ~~~~…ちゅっ」

「あふぅっ///」

「れろれろ」

「さわさわ」

「くぁwせdrftgyふじこlp///あぁぁぁっぁぁぁぁぁぁんんっ!!///」
















 ……ぶん殴られたのは、万理華さんがエクスタシーに達した後の事でした。


「……万理華さん、どうだった?」

「身も心もすっきりしたでしょ?」

「お前たちに話す事は何もない(怒)///」


 どういう事だよ紗良ちゃん。まったく効果ないじゃんか。


「頑なだなぁ…何にそんな怒ってんのさ万理華ちゃん」

「自分の胸に手を当てて考えなさい(怒)あと紗良、そのティッシュ寄越しなさい」

「……どうすんのさ」

「捨てんのよ(怒)」

「……でもこれ、万理華ちゃんの聖水…」

「捨てんのよ(怒)」

「……ファンクラブで売ろーぜ?」

「捨てんのよ(殺)」


 態度は頑なだけど身と心がほぐれたのは間違いないと思うから、改めて攻める。


「万理華さん」

「もう帰ってくれる?(怒)」

「万理華さんが私に怒ってるの、少なくとも私のASMRの腕が落ちたからじゃないってのは確信した」

「そうね(怒)」

「なにが悪いのか教えて。私…万理華さんがそんな風に怒ってるのやだよ…」


 未だ興奮冷めやらぬ万理華さんは紅潮した顔のまましばらく私を睨みつけた後、苦しそうに顔を背けた。


「…別にりあに怒ってるわけじゃない。これはホント」


 目は見てくれなかったけど、久しぶりに万理華さんと言葉を交わせた気がする。

 万理華さんの言葉を信じる事にするよ。


「態度が悪いのはごめんなさい…これは私の個人的な問題であって、りあやみんなには関係ない事なの」

「…関係なくてもいいよ。どうしたの?」

「……言えない」


 万理華さんの心の殻は完全に閉じてしまった…アイドルに賭ける目的まで語り合った仲なのに…今の万理華さんはすごく遠い。

 それはすごく悲しい。


「万理華さ…」


 それでも踏み込もうとする私を制したのは紗良ちゃんだ。私の肩に手を置いて無言で首を振る。


「今は時間が必要なんだよね?」


 紗良ちゃんの、お姉さん(実際お姉さん)みたいな優しい声に万理華さんが頷いた。


「気持ちを整理する時間が欲しいの…ちょっと今は…余裕なくて……」


 あの万理華さんがこんなに追い詰められるなんて…

 お母さんとの事?お金?人間関係?

 色々邪推しちゃうけどそれらは口に出す事なく、とにかく今は見守るしかないのかって…


「ごめんなさいね」


 私に向けられた笑顔は久しぶりに見た万理華さんの笑顔だったけど、無理して作ってるその顔を見てもちっとも安心できなかった。


「……ASMRが必要な時はいつでも言って」

「しばらく要らないわ(怒)」

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