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第164話 バチギレてんもん!!

「万理華さんおはよぉ!!」

「……オハヨ」


 あれぇ?


「今日も頑張ろうねっ」

「……ソウネ」


 ……?


「……ライブ楽しみだねぇ」

「……ウン」


 ……??


「そういえば最近ASMRやってないけど、今日とかどう?」

「……りあ」

「……」

「さっさと準備して」



 天鬼りあ、激震。


 3月のライブで初披露する新曲『しゅきしゅきだいしゅきホールド』でダブルセンターを務める私と万理華さん。

 この曲はセンター二人の振り付けの絡みがすごくて、万理華さんなんだか恥ずかしいみたいでずっと上手くいってなかったんだけど…


 今まで私が抱きついたり、囁くように歌詞を歌ったりしたら逃げたり固まったりしてた万理華さんが……

 今日のレッスンではずっと素面と言いますか…


 普通だった。


 いや普通なのはいい事なんだけどね?


 ライブ本番1ヶ月を切って初めて通しでやり切れた。

 これには『FOOLS』一同安堵と達成感を……


「……」

「……」

「……」

「……むっつりーに」


 初めて上手くいったのに…私含めてみんなの顔色は優れない。

 いいパフォーマンスができた時はみんな(特に琴音ちゃん)分かりやすいくらい顔に出るのに…


 原因は明らかだ。


「……(ムスッ)」


 万理華さん……なんか機嫌悪い?


 我らがリーダー兼お母さんこと夏祭万理華さん、分かりやすいくらいの不機嫌面。


「いい感じねん…初めてセンター二人は噛み合ったじゃないん。ただし万理華ちゅわん。あなたそれでいいと思ってるん?」


 特大緑ブロッコリーことケツアナコーチが厳しい顔で腕組みしてた。対する万理華さんは「なによ?」みたいな反抗期真っ只中な顔してた。


「もっと楽しそうに踊れないのん?」


 特大青ブロッコリーことハナアナコーチの指摘は全員の抱いてた心象そのまま。


 ダンスは正確だし歌も完璧……なのに、全然気持ちが籠ってないというか…今日の万理華さんのそれはまるでAIにパフォーマンスさせたみたいな、無味乾燥なものだった。


 でも……


「いいじゃない。上手くいったんだし」


 万理華さんはどこ吹く風でさっさと帰り支度を初めてしまう。

 こんなの万理華さんじゃないよ……


「うえーん、よくないじゃんよー。万理華ちゃん全然可愛くなかったぞい?」


 なんか色々語尾が混ざってる紗良ちゃんが「もっかいやろーよー」って万理華さんの腰に纏わりついてた。

 はーちゃんと琴音ちゃんも心配そうだ。

 せいちゃんはムスッとしてた。


 明らかに万理華さんの機嫌が悪い。それがパフォーマンスに影響してるんだ。

 ……なんでそれで照れが消えたのかは謎だけど。

 万理華さんが不機嫌な原因……私には一つ心当たりがあった。


「万理華さん……もしかして昨日……」


 紗良ちゃんの体を床で削る万理華さんの行進がピタリと止まった。

 振り返らない万理華さんの反応にやっぱりって思う。


「バレンタイン……」

「……」


 万理華さんの顔が一瞬私を見た。


「……のチョコ、不味かった?」

「は?(怒)うん(怒)くそまずかった(憤怒)」







「うぅえぇん(涙)万理華さん怒らせちゃったよぉ(悲)」


 女の子は悲しい時、辛い時、試験前ピンチの時、仲間とファミレスで駄弁るんだって。

 はーちゃんと琴音ちゃんと紗良ちゃんとでテーブルを囲む私はどうしようって頭を抱えてた。


「まぁあのチョコは殺人級の不味さだったからね……うん。私もりあちゃんぶん殴ろうかと思ったもん」


 黒いマスクの上からフライドポテト食べようとする琴音ちゃんのマスクを顎までずらしてあげるはーちゃんも、琴音ちゃんの辛辣な意見に同意。


「不味かった。僕も嫌がらせかと思ったよ」

「おいチミ達。ポテトは3分につき一本だって言ってるだろ?このポテト一皿とドリンクバーであと二時間は粘るんだから」


 ……今日は紗良ちゃんの奢りなんだけど、随分みみっちい。「年長者だから奢るのは当然!」とか立派な事言ってたのは誰だろう?


「でも万理華さんも大人気ないよ。そんなんで歌とダンスに……ん?」

「でも今日上手くいってたよね?」

「……うん、いいんじゃね?」


 よくないよ琴音ちゃん!


「毎日あのチョコ食わせよーぜ、がはは」

「紗良ちゃんも食べてくれる?」

「……やだ」

「でも確かに…万理華さんらしくないよね」


 はーちゃんがストローでジュースぶくぶくさせながら頬杖をついて天井ら辺を見上げる。その顔はなにか思案してる顔。


「はーちゃんばっちいぞ?」ちゅぱちゅぱ

「紗良もばっちいだろ!ポテトしゃぶんな!!」

「勿体ない」ちゅぱちゅぱ

「芋に謝れ!!」


 紗良ちゃんと琴音ちゃんのいつものてぇてぇは一旦置いといて……


「はーちゃん…もしかして原因はチョコじゃないと思ってる?」

「女の勘だけどね」

「「「男だろ」」」

「万理華さん、なんか不機嫌っていうか……」

「……ていうか?」

「……なんだろ?ごめんやっぱり分かんないや。でもりあちゃんに対してなんかあった感じだよね?あの感じは」


 やっぱり私なのか……


「……二人きりで練習してる時とかにセクハラした?」

「酷いな琴音ちゃん。そういうのはせいちゃんのキャラ付けでしょ?」

「いや、お前も大概だから」

「そんな事より琴音ちゃん、はぁとちゃんとはあれからどうかな?(ハァハァ)」

「そんな事!?仲間のコンディション悪化より大事か!?それ!!」

「……コンディションは悪化してないんだよねー…むしろ今までで一番上手くいった」

「はーちゃんマジでそう思ってるんか?私は嫌だよ。あんなムッツリーニな万理華ちゃん。それだったら「きゃっ!恥ずかしいっ!!」ってやりながらモジモジ踊ってる時の方が私は好き」


 紗良ちゃんの言う事も分かる。

 なんというか……パフォーマンスは上手くいってるのにこれじゃないというか…


 万理華さんのテンションが低いのはなんか…やだ。寂しい。


「ねぇみんなどうしたらいいかなぁ?」


 でも、原因がチョコじゃないならもはやみんなに泣きつくしかできない。


「ま、万理華さん大人だし?明日には普段通りにケロッとしてんじゃないかな?」


 琴音ちゃんはそんなふうに言うけれどさ……






「……(怒)」

「……(汗)」


 翌日も。


「……(激怒)」

「……(震)」


 その翌日も。


「……(殺)」

「……(死)」


 ずっと機嫌悪いんですけどぉ!?


「ちょっとぉ!あんたいい加減にしないさいよぉん!?」


 それは思わずコーチから激しい注意が飛ぶレベルだった。


 完璧に刻まれるビート。精密機械のようなダンス。

 相反するは恋愛ソングにあるまじきその怒気!

 機嫌悪いってレベルじゃない!!

 間違いなく怒ってる!!

 キレてんもん!!

 バチギレてんもん!!


「アイドルは笑顔が命よん!!笑いなさい!!」

「……(激怒)」

「笑いなさいってばぁ!!」

「……(ニィィ)」


 鬼面毒笑!!

 ラスサビ!私の腰を抱き寄せながら至近距離で範〇勇次郎みたいな顔してるんだけど!!


「……万理華ちゅわん。この曲は……」

「自分の恋心を打ち明けられない子が勇気を出して一歩踏み出す心情を表した曲で、今のラスサビはその勇気の一歩を表してるのよね?」

「……なら相応しい顔してちょうだい」

「(クワッ!!!)」


 秘めた想いを好きな人に告げる一歩を踏み出す瞬間というより、長年狙い続けた獲物を捉えた捕食の瞬間なんだけど!!



 もはや確信してる。

 万理華さんは私にキレてる。そして原因はチョコじゃない。

 ……もしくはあのチョコがそんなに不味かったのか。


 …せいちゃんは美味い美味い言って食べてたのに…


「……万理華さん、どうかしたの?」

「なによ琴音?急に」

「いや急じゃないんだけど……」


 みんなと話してる時は……いつも通りだ。若干不機嫌そうには見えるけど、そんなにじゃない。

 でも……


「万理華さ……」

「(クワッ!!!)」


 ……い、威嚇?


「なに?(牙)」

「万理華さん……私、なんかしたかなぁ…(涙)」

「急になによ?(殺)どうしたのよ?(喰)」

「顔が怖いよぉ(震)」

「アイドルに失礼な事言ってんじゃないわよ?(殺)ね?琴音(惨)」

「いや怖ぇよ!?!?」

「万理華さぁん……謝らせてとりあえず!!」

「いやよ!!(絶)なんで訳も分からないまま謝られないといけないのよ!!(脅)」

「……うぅぅ…こんなの…やだよぉ…(涙)」




 どうしたらいいんだ…

 あんなに仲良しだったはずなのに…


 万理華さんは表面上はなんでもないみたいなこと言ってるけど……それとも、ほんとうに私じゃないの?


 一人スタジオで俯いて立ち尽くすしか無かった。

 こういう時どうしたらいいのか分からないのも、今までの人生経験における友人関係の少なさの弊害……?


 その時……一人ではどうしたらいいのか分からないまま絶望してた私の肩が……叩かれた。


「……(涙)」

「任せろ(嬉)」


 黒沢紗良の登場である。

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