第163話 私達アイドルなのにメジャー・デビューって言葉、間違った使い方してたの!?
……ずっと、テレビに出る事がメジャーデビューだと思ってた。
メジャー・デビューとは、音楽家が初めてメジャー・レコードから作品を発表すること(Wikipedia参照)
メジャーとデビューの間に・まで付いてやがる…あはは。
「……えー…3月のテレビ局主催のライブに出演出来る事に対して「メジャーデビューだ!メジャーデビューだ!」って言ってた気がします。でも私達はインディーズのままでした。誤用があった事、お詫び申し上げます」
「頭上げぇや!!天鬼!!誰に謝ってんねん!!」
「えっ!?私達!メジャーデビュー出来ないの!?」
「琴音ちゃん。メジャー・デビューだよ?」
「はーちゃん…っ!!私達アイドルなのにメジャー・デビューって言葉、間違った使い方してたの!?」
「うん」
「そんなぁ…はーちゃんっっ!!」
「恥ずかしいねぇ琴音ちゃん。一緒に穴に入ろうか?」
バーーーンッッ!!
「案ずるな二人共」
「星羅!?」「せいちゃん!」
「私の個人レーベル…『スタジオせいちゃん』が法人化する」
「(スタジオせいちゃん?)」「(いつの間にそんな名前に…)」
「つまり……会社になった。私は社長だ」
「「へぇ〜……」」
「私がこれからこの会社を…メジャーにしてみせるっっ!!」
「……星羅が会社作ったって事はいよいよ私らのメジャーレーベルとの契約は絶望的って事か」
「おい紗良。さらっと酷い事言うなや」
「はいはい!みんなくだらない事言ってないで練習するわよ!!」
「あっ。ダメダメなセンターさんだ」
2月14日。バレンタインデー。
百合で尊死したい女、天鬼りあが飛び込んだ永遠にメジャー・デビュー出来ないアイドルグループこと『FOOLS』は3月に控えたムジテレビ主催のアイドルイベント『新春!アイドル春祭』の準備に向けて邁進してた。
ひと月後に迫った本番を前にしても、私と万理華さんのコンビはグダグダだった。
万理華さんはやっぱり調子が出ないみたいで、私が寄っていくと離れ、思わせぶりな歌詞を歌うと詰まった。
原因が分からない。調子が悪いんだと思う。疲れてるのかもしれない。
万理華さんはリーダーとしてずっと、不甲斐ない事務所の代わりに私達を引っ張ってくれてるんだから、無理もないよね。
そんな万理華さんの為に今日は秘密兵器があるよ。
「万理華さん、チョコレートだよぉ」
休憩時間、一人狂ったように鏡の前で踊る万理華さんに後ろから不意打ちしかけたら、びっくりして尻もちついてた。
「ちょっと!お尻が割れたらどうすんのよ…!」
「元から割れてるよ。それよりほら、今日はバレンタインデーだから」
疲れた時は甘いものがいいって言うし、渾身の感謝の気持ちを込めたチョコレートを用意したんだぁ。
万理華さんは地べたに座ったまま、視線を私とチョコレートの間を何度も往復させた。
「ありがとう……」
「手作りじゃなくてごめんね?」
「いいのよ……その……ありがとう……」
嬉しそうだ。わざわざ専門店まで足を伸ばした甲斐があったみたいでよかった。
「……え?なにこれ?スッポン、マカ、高麗人参成分配合……?」
「最近ずっと調子悪そうだからこれ食べて元気だしてよ」
「……栄養ドリンク?」
「チョコレートだよ?」
「……美味しいの?」
「さぁ」
わちゃわちゃしてたらみんな寄ってきた。
「あ、チョコレートだ!」
「琴音ちゃんのもあるよ?」
「…………スッポン…………?あ、いや大丈夫です」
「あるよ?(圧)」
「……」
「ほら、はーちゃんもあげる」
「…………あ、ども…」
「紗良ちゃんとせいちゃんには特別に、ゴールドパッケージ版だよ」
「何が違うの?」「……美味そうだな」
「金運アップ効果があるらしいよ」
「……眉唾」「……美味そうだな」
みんなにチョコレートを配ってるのをぼんやり眺めてた万理華さんは、おもむろにチョコレートを口に運ぶ。
感想が気になところだけど……
「ぶひゃっ!?不味っっ!?!?」
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「りあちゃん、これ」
ミライちゃんが差し出してきたのは明らかに手作りの、大きなハート型のチョコレート。
両手に抱える程のサイズ感のそれを受け取って目を瞬かせる私に、ミライちゃんは照れくさそうに笑ってた。
「バレンタインだからね」
気合いの入ったチョコレートとミライちゃんの顔とを交互に見つめながら、チョコレートの重たさにそれ以上の何かを感じたけど…
ミライちゃんのはにかんだ顔が可愛くて素直に受け取る他なかった。
「ミライちゃんあのね…実は私もチョコレート…」
「えっ!ありがとうっ」
「用意しようと思ってたけど忘れたんだよね」
「がびーん」
分かりやすくショック受けるミライちゃんが可愛くて、私も笑った。
まぁこんな大っきなチョコレート貰いっぱなしなのも申し訳ないし…
「良かったら今から買いに行く?」
「え?いいの?」
「好きなの買っていいよぉ」
私がミライちゃんの分のチョコレートを用意しなかった理由。
それは言語化が難しいけど…多分、バレンタインデーっていうのを過剰に意識しすぎたんだと思う思う。
私の中で『FOOLS』のみんなや友達にチョコを渡すのと、ミライちゃんにチョコを渡すのは少し…意味合いが違ってくるような気がしてた。
その認識を振り払うおうとしたけど、それはミライちゃんと友達になってからより強く、頭にこびりついて離れない。
同じ事……のはずなんだけどな。
友達だけど、推しだから。
そういう事にしておく。いや、そういう事だ。
そんな照れくささを誤魔化すべく近所のコンビニっていう安易な選択に走ったんだけど、外に出て歩くミライちゃんの顔はとりあえずご機嫌。
「寒いね、大丈夫?ミライちゃん」
「大丈夫大丈夫。なんか羽織ってくるんだったね」
「ねー」
コンビニまで歩いて三分くらいとはいえ、まだ夜の寒さは厳しいものがあるなぁ。
「……そういえばミライちゃん、新しい家見つかった?」
「……あー…うん。今お父さんと色々見てるんだ。といっても、ほとんどお父さんが決めちゃってたけど…その中からどこにするかって話で…他にいい物件が出てこなければすぐ決まりそうだよ」
「そっかぁ…そうなったらお別れだねぇ」
なんとなしに口にした一言にミライちゃんも「そうだねぇ」って……
お父さんとの和解が済んで、ミライちゃんの芸能活動は安泰だ。
ただ住所バレした家は引っ越さなきゃいけなくて、今新しい家を探してる。
それまでは引き続きうちで居候、という事で話は纏まってた。ストーカー事件以来実害はないけど、住所バレした家に住むのも危ないだろうっていう、関係各所の判断とうちのパパの好意からだった。
でも新居が決まったらミライちゃんはうちから出て行っちゃうのか……
長かったようなあっという間だったような……
そんな話題を出したもんだからか、私達の間に無言の時間が生まれた。
何となく見上げた夜空にはびっくりするくらい星が綺麗に輝いてる。
「ね、見てりあちゃん。星がよく見えるよ」
「ほんとだねぇ」
「……ちょっと見ていこうか」
ミライちゃんは近くの公園に駆け足で入っていく。なんだか子供みたいに無邪気なミライちゃんが微笑ましくて、寒さを我慢しながら私も後に続いてた。
二人並んでベンチに腰掛けて、上を見上げる。
「綺麗だねぇ」
「冬の空気は澄んでるからよく見えるのかなぁ」
「それにしたって、こんなに綺麗に星が見えるの初めてだよぉ。私、産まれてからずっとこの町に住んでるけどさぁ」
「そっかぁ……」
星の名前なんて全然分かんないけど、二人で夜空を見上げる時間は心温まる時間だ。
寒さも忘れて、隣のミライちゃんの体温を感じる。
……私のこの気持ちは一体、なんなんだろう?
しばらく星の輝きを瞳に映しながら考えた。
「うぅ……寒い」
上を見上げてたら体に触れてくる体温を感じて視線を落とす。私に体を押し付けるミライちゃんが鼻の頭を赤くしながら「寒いね」って笑ってた。
ミライちゃんの体温が私に寒さを忘れさせてくれた。
それは……触れ合った体が体温を分け合ってるからなのか……それとも……
心臓の鼓動の音を聞きながら、これは一体なんなんだろうって……
私は答えを探すふりをしながら自分自身に問いかけてた。




