第162話 嘘つき
ミライちゃんの芸能活動をお父さんが許してくれたのを見届けて、パパがニューヨークに帰った。
私も一安心。これからも明石ミライ推しとして安心して応援していける。
そして…私達もまた3月のライブに向けてレッスンを続けていた。
これはそんな私、天鬼りあの身に…いや『FOOLS』に降りかかった新たなるトラブルの物語なのであるっ!
「3月の『新春!アイドル春祭』の演者が発表されてるで!!」
学校帰りにスタジオにやった来た私に新人マネージャー、朋花ちゃんの剛腕から叩きつけられるのは公式から発表された3月のライブに出演するアイドルグループの一覧。
ホームページを印刷したそれをみんなで回し読む。
『TRY AGAIN』はいない。代わりに目玉として同じくヤッテ・ランネー・プロダクションから大人気男性アイドルグループ『4代目エル☆サレム』が出演するらしい。
その他聞いた事あるようなないような面々の中に『FOOLS』の名前もあった。
「はーちゃん!私らの名前があるよ!」
「当たり前だよ琴音ちゃん」
「私達の名前がテレビ番組の公式サイトに載ってるよ!!」
「すごいねぇ琴音ちゃん」
無邪気に喜ぶ傍らで紗良ちゃんがなんか神妙な顔して一覧を見つめてる。多分、顔だけで何も考えてないんだと思う。
「りあちゅわん」
何故か片足けんけんで紗良ちゃんが寄ってくる。
「これ見た?」
「どれどれ?」
紗良ちゃんの指差すところには『初恋日和』っていう女性アイドルグループの名前がある。所属はキャンドルベリー。
三人組のユニットで、何故か三人共同じ顔してた。
「かわいいね」
「誰が誰か見分けつく?」
「つかなぁい」
「三つ子アイドルだって」
「かわいいねぇ」
「じゃなくて、これ。所属事務所キャンドルベリー」
うん。
「……『TRY AGAIN』と揉めてる事務所だよ」
「……へえ」
「きな臭いと思わん?」
「なにがぁ?」
「『TRY AGAIN』を追い出して、こいつらの枠取ったんじゃない?」
へぇ……
「興味無いやん」
「私達が気を揉む事じゃないよぉ」
ミライちゃん達は大丈夫だよきっと。それより今は自分の心配しないと。
「そういう事よ。とっとと練習始めるわよ」
後ろから割り込んでくる万理華さんに紗良ちゃんが「あ、今回ダメダメのセンターさんだ」って辛辣な一言を飛ばした。
眼帯のゴムびよーんって伸ばされてパチンッ!て顔に叩きつけられた紗良ちゃんが梅干し三個口に入れた時みたいな顔してる横で、私は万理華さんに引っ張られる。
「今日こそ完璧に仕上げるわよ!気張りなさい!」
「うん、万理華さんがね」
*********************
ダメダメな日がしばらく続いた…
どうしてもりあを意識して上手く踊れない日々は、本番が近づくにつれて夏祭万理華の心を焦燥感で焼いていくのであった…
「錦野星羅、談」
「ねぇ相談なんだけど」
私の家のベッドにタバコの灰を散らかすクソ女に机に向かった私は視線を送らず提案したわ。
「人と話す時は目を見て喋れよ」
「ごめん今バイト中なの」
「なんの?」
「官能小説の下読みバイト」
「それ時給いくら?」
「時給じゃないわよ。一冊3,000円くらい」
「……ふーーん…」
「じゃなくて、相談なんだけど」
「なに?言っとくけど、タバコはやめないよ?」
「それは相談じゃなくて命令ね?センターの話なんだけど…やっぱり私より星羅がいいと思うの」
半分死んでた星羅の目がギラリと鋭い光を放った。
「……いいんだ?私がりあちゃんとイチャイチャ踊っても」
「……別にいいわよ。ダンスなんだから」
「じゃ、チューしちゃおっかな?」
「……好きにすれば?」
「……」
「……なによ?」
「…………おっぱい…揉んじゃおっかな?」
「ふざけてないで真面目に聞きなさいよ」
私自身不甲斐ない。
リーダーとして『FOOLS』を引っ張っていかないといけない立場にありながら、過去には過酷なレッスンスケジュールをみんなに課しておきながら自分が上手く踊れないのでセンター降りたいですなんて…
でも……
「……まぁ、りあちゃん意識しちゃってドキがムネムネで歌もダンスもそれどころじゃないもんねー?」
「……」
「今日なんて「近すぎよバカっ!!」なんて言って突き飛ばしてたもんねー?」
「……そうよ」
どうしても恥ずかしさが拭えない。
みんなが見てる中でりあと密着したり身体に触れたり囁き合うように歌ったり……てか、あの振り付けなんか接触が多すぎるんですけど。
「……万理華ちゃんさぁ…もう告っちゃいなよ」
「は?バカじゃないの?私は別にりあと付き合いたいとかそういうのはないって言ってるじゃん」
「んじゃなによ?ずーっとこうやって「いやんりあちゃん!あたし恥ずかしいっっ」ってモジモジしてるつもり?」
「……」
「万理華ちゃぁん……君は恋してる」
「うるさい」
「恋には決着を着けなければいけない!!」
叫んだ星羅の口から唾とタバコが飛んできて、官能小説に着地。出火。
「ふざけんな死ね!!」
「エロ本読んでる場合じゃねーんだよ!!」
人が必死に消火してる横で我が物顔でベッドを占領するバカが説く恋愛観。
「成就させるか潔く玉砕するか…別に付き合いたいとかじゃねーしとか、そんな恋はない!!恋とはぁっっ!!」
「ビクッ」
「エンタメなんだぁっ!!煮え切らないままダラダラ続く恋を見せられる私の気持ちになれぇ!!」
「私はあんたの暇潰しの為に恋してんじゃないのよ!!」
「私のひつまぶし?」
「暇潰し!!」
「……飛沫節?」
「ひ・ま・つ・ぶ・し!!(怒)オッケーグルグル。暇潰しとは」
『暇潰しとは時間的余裕が生じた際などに、本来要求されていない行為、作業などを実施することによって時間を消費する代替行為の一つ(Wikipedia参照)』
……で?なんだっけ?(怒)
「……大体さ…私とりあは同じアイドルグループのメンバーなのよ?そんな…恋愛なんて…」
「いいじゃん。女の子同士なんだから…」
「……え」
「アイドルの恋愛でご法度なのは…不純異性交友だよ」
「……いや、だからって私は別に…」
「自分の気持ちにはっきり決着、つけた方がいいって。万理華ちゃん。恋は恥ずかしい事じゃないから」
「……いやだから」
「告白するなら今しかない」
「話聞きなさいよ」
「これを見ろ」
星羅は壁掛けカレンダーを指差した…けど、うちのカレンダーは横着して去年のやつから変えてない。私の部屋は去年の11月で止まってたわ。
星羅がなんとも言えない顔をしながらスマホのカレンダーを見せつける。
江〇島平八が描かれたネイルの細さに職人芸を感じつつ、その爪の先が示す日付は……
「……2月14日?」
「バレンタインデー・キッス♡」
国生さゆりのあれね。
「この期を逃していつ想いを告げるんだい?」
「だから私は……」
「うるせぇぇぇっっ!!いつまでもドキがムネムネしてまともに歌えない踊れないなんて言うくらいなら!ドカンとぶつかって綺麗に散れ!!」
「……なんで散る前提…」
私は興味ないの。女の子と恋愛したいんじゃなくて、女の子が恋愛とかしてるのを見たいの
……いや、もう散ってるんだけどさ…
*********************
別に星羅の言う事に流されてるわけじゃない。
でも……まぁ……バレンタインに友達にチョコ贈るのは別に……変じゃないし……
りあは私達が百合をやってるのが見たいんであって、自分が女の子と恋愛したいわけじゃない。
深すぎる業を拗らせてアイドルにまでなってしまったバカに恋した業の深い私。
チョコレートを湯煎で溶かしながら、もし…なんてちょっとでも考える自分を自嘲する。
「……バカみたいね」
2月14日。
前例がないくらいの酷寒を超えた2月。少しずつ冬の気配が消えていくなか、しぶとく肌寒さを残した夜。
赤と黒のチェック柄の可愛い紙袋に手作りのチョコレートを入れて、厚手のコートに顔半分を埋めながらりあの家に向かう道中…
寒さとは関係なく頬が紅潮してた。
バレンタインにチョコ渡すなんて初めてかも…
昼間にりあからチョコ貰ったな…みんなと同じ、明らかな友チョコだったけど…
こんな気合いの入ったチョコ渡したら引かれる…かもしれないけど……もし、喜んでくれたら……
気持ちばかりが早って足が前に前に進むなかで…
天鬼宅への道中にある小さな公園が視界の端に入ってきた。
日も暮れて人気のない寂しい公園のベンチに並んで座った二つのシルエットを私は見逃さなかった。
寒さから逃れるように身を寄せ合って……というか、半分抱き合いながら並んで座るその後ろ姿はどう見ても……
りあ……と、明石ミライ…
その瞬間に私の足は止まったわ。
ああ、そうだった、って思い出す。
あの二人の距離感は露骨だった。自分がりあとダブルセンターになって浮ついててすっかり忘れてたけど…
この寒さのなかでの二人の薄着具合は明らかに家からそのまま出てきたって感じだった。
明石ミライは親とのトラブルを解消したって聞いてたけど…なのにこいつ、まだりあの家に住んでるんだ……
親しげを通り越した二人の後ろ姿を見た時に、私の中で何かが割れた気がした。
何が自分は興味無いよ……
嘘つき。




