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第15話 それ褒めてます?

「ほじくりマネージャー」

「星熊ですけど?(怒)」


 横切る影を呼び止めた私に振り向いた星熊マネージャーは大股でこっちにやって来た。彼女もお風呂上がりらしく首からバスタオルをぶら下げてた。


「あ…そのバスタオルのキャラ『腹ぺこメモリアル』の華麗かれいルウじゃないですか。星熊さん、ジェイソン・ステイサムみたいな見た目なのにバスタオル可愛いですね」

「天鬼さんそれ褒めてます?」

「じゃあヘルレイザーのピンヘッドみたいな顔なのに可愛いですね」

「え?褒め直してます?それ」


 なんでかハラハラした顔で私を見つめてる陽さんと私を交互に見つめて星熊さんが対面の長いソファに腰を下ろす。

 片手に持ってるコーヒー牛乳はどこで手に入るのかな?


「なにかご用ですか?」

「ちょっと訊きたい事があって」

「なんでしょう?」


 紗良さんの語った合宿の裏に隠された真実…

 あの会話の場に居なかった陽さんに話を共有する意味でも、事実を確認する意味でも一石二鳥なタイミング。


 陽さんも興味のある顔だ。

 私は勇気を持って切り出すよ。


「実はある人から聞いた話なんですけど…今回のユニットって7人組って言ってましたけど…本当は5人しかデビュー出来ないって本当ですか?」


 隣で聞いてた陽さんが驚きの声をあげる。


「えっ?どういう事?」

「ユニットは5人組…つまり二人は脱落する…そう聞いたんですけど…」

「え?そうなんですか?」


 意を決して踏み込んだ私に対してマネージャーから返ってきたのはとぼけてんのかなんなのか分かんない無表情から繰り出される一言。


 この人表情変わらないから嘘ついてるのか分からないよ…


 その反応に陽さんは「??」って感じ。


「それ、誰が言ってたんですか?」

「それは…」

「夏祭さんですか?」


 違うけどなんで真っ先に万理華さんの名前が出てきたのかな…?


 天鬼りあの頭が回転する。


「…その質問って万理華さんはそーいう話を知ってるって事で、今の話ほんとだって言う証明なのでは?」


 名探偵天鬼りあ、名推理が炸裂…


「違いますけど」


 しなかったよ。


「違うんですか…」


 いや、違うんならそれはそれで良かったんだけどさ…

 なんだか一気に肩の力が抜けたような気が…


「りあさん、それって誰が話してたの?」

「えっと…紗良さ「何人でデビューするかは正直決まってないです」


 被せてきた星熊さんの一言は場を一瞬沈黙させる。


「7人かもしれないし、5人かもしれないし…一人しか残らないかもしれない」


 それはよりバッドなニュースとして私と陽さんに降りかかった。


「え?え?あの…デビュー確約なんじゃ…」

「そんな事は言ってません」


 陽さんの一言を一刀両断。


「でも事務所と契約しましたよ?」

「契約したからと言ってデビューできますという話じゃないんですよ。というか今行ってるこの合宿も、皆さんと契約したアイドル業の一部なんです。この合宿で皆さんの面倒を見てる時点で契約は履行されてます」

「そんなバカな……」


 陽さん絶句。言い切る星熊さんの理屈に私も絶句。それはちょっと屁理屈が過ぎる気もするけど…そーいうものですって言われたら何も言えない。向こうは大人、私は子供。書類はママが読んだだけ…

 絶望。


「面倒を見てるって…僕達星熊さんに何もしてもらってないのに……」

「言いがかりはよしてください一さん。お弁当出したでしょ?」

「……麓のコンビニまで買いに行ったの僕ですけど…」

「……」

「そうだったんですか!?本当ですか!?星熊さん!!」

「……」

「なんとか言ってください!!星熊さん!!」


 私達の契約内容にコンビニ弁当の買い出しまで含まれてるというの!?


 ……まぁいいや。それは。


「……話を戻しますけど…あの…つまりこの合宿の目的とは……」

「あなた達を立派なアイドルにする為のレッスン期間です」

「でも…デビューできないかもしれないんですよね?」

「それはあなた達次第です」


 縋るような私の目に相変わらず無機質な星熊さんは淡々と説明する。


「やはり適正はありますから…途中で皆さんが嫌になって辞める可能性もある…それに関しては皆さんの自由…という事です。7人でデビュー出来るかもしれないし、色々あって7人残らないかもしれない…事務所としては一人しか残らなかったとしても、その一人をデビューさせるつもりですし、七人ついてこれれば7人組でデビューさせます…それくらいに考えてください」

「……実力の伴わない人を脱落させる、デスゲーム的なアレでは…?」

「……デスゲーム的なアレではないです。天鬼さんがどういう話を聞いたのかは知りませんが、一応5人くらいのメンバーでユニットを組ませよう、それくらいにしか考えてませんでしたので、夏祭さんには5人でやりますよと事前に説明していたのです。それだけです」

「……万理華さんはやっぱり知ってたんですねそういう話」

「一応以前から所属してるタレントなので……」


 じゃあ紗良さんの言ったような、ライバルを蹴落とすサバイバルバトルには……ならない?


 ほっと胸を撫で下ろしかけたその瞬間に「ただ」と言葉が続いた。


「……正直な話、私達も全員でデビューできるとは思ってません」

「……え?」

「どういう意味ですか?」


 陽さんの問いかけに星熊さんの目に影が差した。この人の初めて見せる人間らしき感情の欠片…でも彼女はそれを瞬きひとつで消し去った。


「この合宿が終わったからと言って即デビュー出来るとは限りません。下手をすれば数年単位の準備期間を経ることになるかも……そうなったら皆さんの方から諦めていく、なんて事も有り得るでしょう?」


 私達の胸に不穏な雨雲みたいな暗いものが広がっていく。

 適正…星熊さんのさっき語った説明が蘇る。同時に虎のマスクに顔を隠した少女の姿が浮かんだ。


「それに……色々あるんですよ」

「「色々?」」

「人気や実力が如実に結果として出る世界で女同士が足並みを揃えて…というのは難しいんです」


 彼女の言葉には想像の類にはない実態のある重さがあった。まるで過去に何度も見てきたみたいに…


 アイドルグループの不仲説なんて下世話なネットの書き込みが記憶の底から浮かんでくる。どこで見聞きしたかも思い出せない、ただ、確かにどこかで…いや、どこででも見聞きするようなそんな話題が…


「この合宿の本当の意味はですね……」


 この世界にまだつま先も踏み入ってないような私達は、語られる言葉だけでこの世界の泥のように汚い部分を突きつけられた気分。

 そんな私達に星熊さんは言った。


「これから7人一組でやっていく皆さんが芸能界を一丸となって歩き切れるか…そんな適正を見る為に社長が用意した合宿なんですよ」

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