第157話 話聞いてました?
ほぇ〜〜…………
「……という感じで、社長が会社を作って私は巻き込まれたのです」
「「ほぇ〜〜」」
「うちはみんな仲良くがモットーでやらせてもらってます。説明したかとも思いますが、夏の合宿もその為の企画でした」
「いや喧嘩しとるやんけ!!」
芸人を夢見る女の子、桜朋子のツッコミが炸裂する横で、私はシェイクの残りが少なくなってるのが気になった。
そんな、先輩のありがたい話を拝聴するのは『FOOLS』アイドル、天鬼りあです。
「で?なんで芸能事務所作ったんですか?」
「天鬼さん話聞いてました?」
「二人が出会った経緯は聞きましたけど…なんかそこら辺ばっかり長くて、質問したどうして芸能事務所を?のことろが凄く雑と言いますか…」
「……話聞いてました?」
二回訊かれちゃった。
「みんな仲良くなアイドルグループ作る為やろ!?」
「どっかの芸能事務所に入社してマネージャーやろうとは思わなかったんですか?」
「思わなかったんですか?」
星熊さんが社長に投げた。
「……え?いや…社長って呼ばれたかったし…」
凄くしょうもない理由でこの経営の素人はモンスターを作り出してしまったらしい…
「……お二人はまたアイドルをやり直そうとかは思わなかったんですか?」
「思わなかったんですか?」
また星熊さんが社長に投げた。
「……まぁ、歳、食ってたし…」
年齢。それは超えられない壁にして非情な現実。
「20超えたらもう……ほら…ね?特に私らの時代はさ」
隣の20超えニート芸人もどきを見た。危機感ない朋花ちゃんは「?」って顔してた。
……うちにも今年21が二人も…
「……で、辞めるんですか?」
まぁ現実は一旦置いといて、私は星熊さんに尋ねる。
二人の間に固い絆があるようなないような感じなのは分かった。だからこそ思う。
きっと星熊さんも社長もPOPプロダクションに賭ける思いは特別なんだ。
だからこそこんな形で二人の想いが無駄になっちゃいけない…
「……天鬼、カッコつけんでええ!!」
「え?なにが?」
「「こないドラマがあった末に立ち上げた会社をこない形で辞めたらアカン!!」とか思おうとしとるんやろうけど…本心は「星熊さん辞めたらうちの事務所終わる!!」やろ!?」
「……」
うん。
「私がマネージャーもやるもん。できるもん」
やる気だけある無能こと社長が宣言。
「いやです」
「いやってなんだ天鬼(怒)」
「まずはやっぱり社員さん増やした方がいいと思うんですけど…」
切実。せいちゃんのレーベルだって大変だし。
「元々二人だけやったん!?」
「……いいえ、昔は4、5人居たと思いますけど…みんな辞めました」
「なんで辞め……やっぱええわ!!」
朋花ちゃんはなんともいえない顔して質問を引っ込める。
「給料が払えなかったからです」
それでも星熊さんはキッパリ言った。退職を決意してもはや自社への誇りも何もないらしいよ。
…万理華ちゃん、よくこんな事務所で4年間もアイドル頑張ったね。
「……せやけど、今はちゃうんやろ!?ほら、天鬼達仕事沢山あるんやろ!?」
朋花ちゃんが何かに縋るような顔つきで星熊さんに尋ねてる。社長に尋ねないのは、社長に何を訊いても無駄だってみんな知ってるからだ。
「沢山というほどではありませんが」
「金まだないんか!?なんや色々活動しとるやん!!何するにも先立つもんは必要なはずや!!」
どうしたの?朋花ちゃん。なんか必死に…
「マグロ売って今700万くらいあるよ」
社長が私の残り少ないシェイクで葉巻消火しながら言った。私達が腐りかけのマグロによって、炎上リスクと引替えに手に入れたお金だ。
「なんや、金あるんやん!!」
「全然足りません」
「せやけどこれから増えるやん!!『FOOLS』が頑張んねんやろ!?」
朋花ちゃんどうしたの?そんな必死な眼差しをこっちに向けてきて…怖いよ。
「……桜さん、何が望みなんですか?」
目敏い星熊さんの眼光が光る。敏腕マネージャーが朋花ちゃんの質問の裏に企みを見た。
「いや…ウチ、バイトクビになってん!!」
「らしいですね」
「もう18回目やねん!!」
「社会人辞めたらどうですか?向いてないですよ?」
「働かな金、ないねん!!」
まさか…朋花ちゃん?
ありったけの勇気を振り絞って、朋花ちゃんは腕組みしながら言った。
「あんたらの所で働いたってもかまへんで!!」
「大丈夫です」
「大丈夫ってなんやねん!!」
ちょっと待ってよ!?
「朋花ちゃん芸人は!?あんなに熱いお別れして、みんなで送り出したのに!?」
「天鬼…諦めとらん!!」
「もう諦めたらどうですか?」
「せやけどな…もう家賃も払われへんのやっ!!」
「……(愕然)」
「働かなあかん!!」
切実……
「ならお前うちでアイドルやらない?」
「まだ言ってるんですか社長」
「アイドルはあかん!!今必要なんは安定したお賃金やっ!!」
朋花ちゃんの決意は固い。
「話聞いてました?うちはお給料出ません」
そんな会社聞いたことないよ星熊さん…
「え?給料払ったら働いてくれんの?」
払えないくせに私達のギャラでパチンコ打ってたらしい社長が食いついてる。
「天鬼、ウチがあんたら、プロデュースしたるわ!!」
「朋花ちゃん。事情は分かったけど…ここはやめといた方がいいよ。星熊さんなんてもう一年給料未払いらしいよぉ?」
「ウチにはもう就職先選らんどる余裕はあらへん!!」
堂々言う事じゃないねぇ。
「じゃあお前、次作るグループのマネージャーね?」
「社会まだ言いますか?」
「給料は働き次第で考えるわ」
*********************
「というわけで桜さんが入社しました」
「夜露死苦!!」
スタジオでみんなポカン。
あと社長は帰った。なんかパチンコ打ってくるって言って…
「えー?朋花ちゃん夢に破れてノコノコ帰ってきちゃったんだ」
「星羅ちゃう!!芸人になるまでの限定や!!」
「わぁ…なんか嬉しいな」
「せやろ陽!!嬉しいやんな!?」
「…仕事できんの?」
「琴音…お局みたいな事言うたらあかん!誰にでも初めてはあるんや!!」
「できないって言ってるようなもんだね」
「ウチ可能性の塊やから!!」
「アイドル以外のね。がはは!!」
「いじわる言わんといてや紗良!!」
「まぁそういう事で」って星熊さんが締めた。決まっちゃったらしい。世の中何が起こるか分からないものだなぁ…
万理華さんは黙ってた。でもちょっと嬉しそう。
「うちで働くにあたって重要事項をお伝えしなくてはいけません」
そう言って星熊さんがはーちゃんと朋花ちゃんを連れてった。多分股間開帳の儀が始まる。
見送りながら「あれ?星熊さんの退職ってどうなったんだ?」って思う。
「なにがどうしてこうなったのよ…」
「あ、万理華さんそれがね?星熊さんが辞めるんだって」
一同再びポカン。
「えっ!?じゃあPOPプロ終わっちゃうの!?」
そうだねぇ琴音ちゃん。実質終わりだね。
「…ヤッテ・ランネーに移籍するか」
「紗良、切り替え早すぎ」
「星羅、ヤッテ・ランネーのタレント、何歳から契約できるか調べといて」
「あっそっか!!乳幼児不可だったら琴音ちゃんがっ!!」
「琴音ちゃんがっ!!じゃねーよ!!(怒)」
せいちゃんと紗良ちゃんが琴音ちゃんに蹴り飛ばされてる横で冷静な万理華さんが大丈夫よって言ってた。
「星熊が辞めるなんて言い出すの何回目だと思ってんのよ」
「え?そーなの?」
いやそうか…給料一年未払いだもんね。
なのにずっと働いてるなんて…どういう事なんだろ?病気なのかな?頭が。
「星熊ちゅわんは居なくならないわん」
「この事務所と心中する覚悟だからねん」
あ、過去編にも出てきたケツアナ&ハナアナコーチだ。
「さ、そんな事より練習よん練習!!」
「りあちゅわんは今回センターよん。気合入れなさいねん!!」




