第151話 お前、うち辞めろ
「というわけで、新曲のセンターは夏祭万理華と天鬼りあになったからな」
「なんで社長が居るんですか?」
大雪が溶けて…ていうか溶けても溶けなくても関係なく毎日あるレッスンの為にスタジオ(使用料タレント持ち)にやって来たら社長がなんか居た。
新曲『しゅきしゅきだいしゅきホールド』(私はこの曲名を今だに認めてない)の練習自体はとっくに始まってて、私、夏祭万理華と星羅がセンターでやってたんだけど、突然変更になったとの事で、この寝耳に水な発表にメンバーは……
「あーい」
「うーい」
「はーい」
「へーい」
……この子らにはもっとこう…向上心を持ってほしいわね。
センターが誰だなんだって話はアイドルユニットでは結構重要な問題のはずなんだけど…特にグループの子達の人間関係とかモチベーションとかにおいて…
少なくとも私の知るセンターポジションってのは競い合って奪い合うもの…のはず。
…前のユニットでもセンター争いで揉めたなぁ…
いい意味でも悪い意味でものほほんとしてるうちの子達を眺めながらリーダーは密かにため息を吐くのでした。
「そんな急に変えて大丈夫なの?」
「りあちゃん大丈夫って言ってた」
スタジオでタバコを吹かす不届き者こと星羅が呑気に答えた。
「作詞作曲の星羅ちゅわんがこの変更を希望したのよん。この曲は万理華ちゅわんとりあちゅわんの曲だからって…」
ダンスコーチのハナアナが鼻の穴膨らませて何度も頷く。気合いに満ちた顔をしてるのを見てちょっと心配しなるわ。
りあの実力でセンターか…
「……まぁ、それが決定なら…てか、なんで最初からりあを指名しなかったのよ?」
「だってコーチがぁー…」
「星羅ちゅわん。その話はもういいわ。あの曲を創ったのはあなた。そしてポジションを決めるのは事務所…あなた達がそうすべきだと思ったんならあたし達はその為に全力でサポートするわん。教えがいがありそうねぇん」
…まぁ、星羅とのダブルセンターなら流石に実力差があり過ぎるけど…私となら……
生まれ持った才能と華。尊敬と嫉妬の念を込めて不動じゃなくなったセンターを見つめると、向こうからおちょくるような表情が返ってきた。
自分からセンターを降りる。そんな潔いい事が出来るのは自分の実力を信じられる人だけね…
「ま、そういう事だから頑張って」
「社長禁煙です」
今までどこで何をしてたのかも分からない、禁煙の貸しテナント内で葉巻を吹かす社長の隣で星熊が白い目をしてたわ。
そんな星熊に最初から抱いてた疑問を投げかける。
「……で?そのセンターはどこよ?休み?」
「天鬼さんなら昨日何故か大気圏から飛び出しまして…行方不明です」
「分かるように説明してちょうだい」
「鼻から大量出血して「てぇてぇ」と叫びながら新宿から発射されたとか…」
「分かるように説明してちょうだい」
「鼻血の噴射による推進力で大気圏を飛び越えたものかと…」
「分かるように説明してちょうだい」
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なんですか?
大人達が大事な話し合いをするにはいささかチープなファストフード店で社長とパワーランチ炸裂中、星熊です。
で?なんですか?
「あの、スマイルってクーポン使えますか?」
何がしたいんですか?社長。
金がないとの事でシェイクだけ頼んでの侘しい昼食です。情けなくて項垂れます。その光景には吉良イ〇ルも思わず「面を上げろ」と言ってしまう事でしょう。心の孔に響きます。
で?なんですか?
「これは一体なんの真似ですか?社長」
「ふー」
「禁煙です」
「仕事の話」
「仕事?働いた事もないくせに?」
「お前私が雇用主って事忘れてない?」
「忘れるというのはその事実を記憶から呼び起こせない状態の事です。私の場合、そんな事実はない」
「私、社長」
「そんな事実はない」
「登記簿謄本持ってこよか?」
どう見ても中学生なちびっこ社長はシェイクをシェイクしながら断固としてパワーランチを断行。
「お前さ、このままでいいと思ってんの?」
「私は現状に満足した事など一度もありません」
「ならさ、先を見据えて次のステップ、踏むべきじゃね?」
「なんの話なのか見えませんね」
「現状我がPOPプロには所属タレントが『FOOLS』しかいない件」
「次回作のタイトルですか?」
「いいと思ってんの?」
良いも悪いもそれが現実なんですけど。
「新しいユニット作ろうぜ」
「やめてください」
「なんで」
「まだ『FOOLS』もデビューしたばかりじゃないですか」
「でも上手くいってるじゃん。3月になんかテレビ?にも出んだろ?メジャーデビューじゃん」
「疑問形?唯一のタレントの仕事把握してます?代表取締役社長さん」
「……私、今しかないと思ってる」
一体何を思ってるのでしょうか?理解したくもありませんが…そもそもこの類人猿にものを考える機能が備わっていると……?
「こんなポンポン拍子に上手くい事ないよ?躓く前に、次なる戦力を補給しよう」
「躓かないように今は『FOOLS』に集中すべきです。そもそも、誰が担当するんですかマネジメント」
「お前」
「……」
「お前しか居ないじゃん従業員」
「タレントよりまず社員確保しません?」
「給料払わないとじゃん」
「当たり前だろそれが会社なんだわ代表取締役社長」
「……てか今金あるし」
「ないです。オフィスすらないです」
「この前なんかマグロ売って儲けてたじゃん。あれ、私のところに一銭も入ってきてないけど、ずるくね?出せよ」
「あなたの懐じゃなくて会社の懐に入れてるんです。あれは『FOOLS』の活動資金なのでパチンコに使わないでください」
「……とにかく、オーディションでも何でもして活きのいい奴、連れて来てよ」
「アイドルグループ育てるのにどれだけ時間と金がかかると思ってるんですか?今調子がいいからこそ『FOOLS』に注力すべきです」
「だから金ならあんじゃん」
「だからそれは『FOOLS』の活動資金です(怒)てか経営考えたらあれでも足りないでしょうが(怒)会社の運営に口出さないで貰ってもいいですか?(怒)」
「私、社長っ!!」
このバカにはよく言い聞かせないとダメです。
「……社長。確かに『FOOLS』は今上り調子ですが、それはあの子らの純粋な実力とは言い難いところもあります。運を味方につけた話題性が『FOOLS』を今、押し上げてるんです。今、堅実に、実績を積み上げる時期なんです。POPプロダクションは『FOOLS』に集中すべきです」
「だからこそ、今『FOOLS』の勢いがあるうちに候補生募れば来てくれるでしょってば。考えろノータリン。『FOOLS』が飽きられてからじゃ遅いの」
「あの子達は客寄せパンダですか?」
「この世界明日はどうなるかわかんないでしょーが。ノッてる時はがめらんかい」
「分かんない人ですね(怒)」
「分かんない奴だな(怒)」
……
「……はぁー」
「ため息吐きたいのはこっちです。前から思ってましたけど…やっぱりあなたは社のトップとして相応しくないです」
「あんだと?」
思わず口をついて出た一言に言いすぎたと思った時にはもう遅く、全く迫力のない顔で社長が私を睨んできました。
空気が緊張でぴんと張り詰めます。
「…今更そんな事言うんか?」
「…そもそも経営も何も学んでない人が芸能界にしがみつきたいってだけでプロダクション運営になんて手を出すべきじゃなかったんです」
空気を変えなければ…そう思ってはいても言葉を考えるより先に出てきた言葉は、私達の空気を致命的に悪化させてしまいました…
が、そんな事もすぐにどうでも良くなってきます。
日々振り回される生活に私もストレスが溜まっていたのでしょうか……
「社長。もうあなたとはやって行けません」
「……お前本気で言ってんの?」
その一言は自制心を押しのけてあっさり口から零れました。
取り消さなければ…
そう思っていても、続く言葉は何も浮かびません。
「……本気で言ってんの?」
社長が繰り返します。
私はただ無言で視線を向けるのみでした。
私の眼差しをどう受け取ったのか…社長は手に握ってたシェイクを潰れんばかりに握り潰して、下唇を噛み締めたまま何も言いません。
社長のその表情を見た時に私はようやく自分の失言に対して冷静になりましたが……
「……分かった」
「いや、社長…」
もう遅かったようです。
「お前、うち辞めろ」




