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第147話 日替わりしゃぶしゃぶ

「……見せてやるぜっ!働く車の力を!!」


 大型除雪車のガチャガチャした運転席でハンドルを操る我らが『FOOLS』のセンター、錦野星羅。

 助手席でその類い稀なるテクを堪能する私、天鬼りあ。

 今日、関東地方は記録的豪雪に見舞われ、首都圏の交通機関は完全に麻痺、路上の積雪は1メートルに迫るという首都圏としては前代未聞の状況だった。


 ……そんな中、てぇてぇの為にせいちゃんが駆り出して来てくれたのが、除雪車《これ》だった。


「いやバカヤロウがっっっ!!!!」


 除雪車は二人乗りだから運転席の屋根の上で剥き出しで体育座りしてる琴音ちゃんがブチ切れてる。

 さぞ寒かろう……

 外気の冷たさと走行による風と…なんかニョキって生えてる煙突みたいなのから勢いよく噴き出してる雪とで、冷凍人間待ったなし。

 過酷なデート珍道中。野晒し二人組の片割れ、荻窪はぁとちゃんが鼻水垂らしながら琴音ちゃんと身を寄せ合ってる。


 ……てぇてぇ。



 荻窪はぁとちゃんの熱烈な希望により実現した此度の、ことはぁデート。


 ……なんかはぁとちゃんの方は「なにそれ聞いてない」って顔してたけど、てぇてぇの予感しかしないこのイベントを亡き者にする事は許されない。


 多忙を極める『TRY AGAIN』。いつ都合が合うかも分からない。

 はぁとちゃんが我が家にやって来たこの機会を逃すわけにはいかなかった。


「だからってこんな天気に出かけるやつがあるかっっっ!!」


 さっきから琴音ちゃんのブチ切れが止まらない。


「せめて4人乗りの車持ってこいよ!!」

「しょーがないでしょー?こんな雪の中じゃ普通の車じゃ走れないんだから……楽しいでしょ?」

「楽しいわけあるか!!!!」


 楽しんでるのは多分せいちゃんだけだと思う。なんかガチャガチャガチャガチャ楽しそうだ…


「……せいちゃんすごいね。こんな難しそうな車運転できるなんてぇ」

「えへへ。褒めて。もっと」

「すぎょい」

「えへへ」

「免許持ってたんだぁ」

「……りあちゃん、私の前職運送屋」

「免許持ってて偉い」

「えへへへ」

「マグロも捕れちゃうもんね?」

「うん」

「なんでも出来ちゃうもんね?」

「次はエヴ〇ンゲリオンで来るね」


 ……せいちゃん、今日は突然車出してって頼んだら即OKしてくれたけど…お酒飲んでなかったのかなぁ?

 紗良ちゃん曰く朝起きたらまずビールらしいんだけど……


「ひっく」

「……」


 大丈夫……だよね?



「あの……これ……げん、じつ…?」

「……ごめんね?なんか巻き込んじゃったね」


 頭上からてぇてぇな会話が…


「あの……琴音様…」

「様やめてね?」

「今日は……なんか…じ、自分なんかと遊んでくださるという事で……?ありがとうございます…スンマセン……こんな日に……」

「多分謝るのこっちだから。ごめんね?」

「いっ!!いやいやいや……!!琴音様がお会いしてくださるなんて……ハリケーンの日でも全然オッケイですっ!!」

「ハリケーンの日はやだね。私が」

「でも……ほんとにいいんですか…?私なんかが……琴音様のファンにもし見つかったら…」

「それ心配するの私の方だね。荻窪はぁとのファンに見られたらぶち殺されるかもね」

「有り得ません。私のファンは即ち琴音様のファンなので(キリッ)」

「……あ、そう?」

「でも…………なんか……恥ずかしいっス」

「じゃあこれ貸してあげる」

「……え?これって…っ!?」

「ビックフットのマスク。これ被ってたら恥ずかしくないよ?」

「琴音様の……私物マスク……っっ!!」



 二人の会話を盗み聞きながら私は一人物思いに耽ってた。

 新宿に向かう道中の、白く染まった東京の街を眺めながらひとりごつ。


「……私、どうしたらいいんだろ」

「なにか悩み事かい?私は相談に乗れないよ」


 仲間とは思えない程酷薄なせいちゃん…


「琴音ちゃんはあらゆる方面と矢印が繋がってるんだよ」

「ん?」

「ことさらでしょ?はーことでしょ?ことはぁでしょ?」

「なにそれ?なんの呪文?」

「琴音ちゃんのカップリング…誰が相応しいんだろう……」


 紗良ちゃんとの漫才カップリング、王道のことさら。

 はーちゃんとの姉妹のようなやり取り、はーこと……いや、はーちゃん男の娘だった。くそぅ。

 で、はぁとちゃんとの新境地が今開拓されつつあるでしょ?


 私の求める至高の百合カプは一体どれなんだ…


「……紗良ちゃんと言えばせいちゃんともフラグが立ってるんだよねぇ…私の中で」

「なんの?」

「私は一体どうしたら……」


 悩ましい……

 至高の美少女に囲まれる環境故の苦悩。この猛吹雪の中のように、私の百合で尊死も今、白い吹雪に阻まれて先が見えないよ。


 ……いっそ百合ハーレムとかどっすか?


「……せいちゃんは一夫多妻制についてどー思う?」

「日替わりしゃぶしゃぶ」


 *********************


 新宿、歌舞伎町。


「じゃ、二人とも楽しんでねぇ」

「私ら帰るから」

「いや寒っ!!」


 喚き散らす琴音ちゃんを置いて除雪車に乗り込む私とせいちゃんにはぁとちゃんはいつまでも頭を下げて見送ってくれた。


「……いい子だなぁ」


 その光景にせいちゃんはしみじみと何度も頷きながら除雪車を駆る。


「りあちゃん焼肉行こー。りあちゃんの奢りで」

「なに言ってるの?車停めて後追うよ?」

「へ?」


 何の為に来たと思ってんの?


「二人のてぇてぇ見なきゃでしょっ!?」

「……えぇ…」

「早く追いかけるよ」

「……いや、りあちゃん」

「なに?」

「大型除雪車停められるトコ、ない」



 除雪車はそこら辺に路駐してきた。


 天鬼りあプレゼンツ!ことはぁてぇてぇデートプラン!!

 完璧なリサーチによりプロデュースしたプランはご飯食べて映画とカラオケ、で、最後にホテルです。


 変装の為にヅラを脱ぎ捨てた私とせいちゃんが二人に追いついた時、二人は予定通りにしゃぶしゃぶ屋さんに向かってた。

 頭はビックフットだった。


「琴音様、これ、いいっスね」

「でしょ?」


「せいちゃん、個室しゃぶしゃぶだよ」

「私も個室でしゃぶしゃぶしたい」

「あのビルの屋上からなら個室を監視できるんだ」

「……監視?」




 本日休業


 店の前を華麗にスルーしていく二人をオペラグラスで監視する私、悶絶。


「うぅぅぅぅぅっ!!年中無休の店なのにっ!!」

「死人が出るレベルの雪だしね」

「琴音ちゃんどこ行くんだ…?」


 結局無難なハンバーガー屋さんに辿り着いた二人はガラガラの店内でハンバーガーをむしゃむしゃ。

 ビックフット頭の二人に店員ドン引きしてた。


『…じゃあレオが言い出したんですか?今日の事』

『そだよ。はーちゃん呼び出してね』

『あいつ一体どーいうつもりで…』

『きっとはぁとちゃんへのサプライズだよ』

『…いや、サプライズで琴音様にご迷惑を…』

『ほんとだよ』


 当たり障りのない会話だ。


「寒いよぉりあちゃん…私らも中入ろうよぉ」

「ガラガラの店内入ったらバレちゃうじゃん」

「いいじゃん。バレて一緒に雪中行軍したら」

「……私が居たらダメなの。私は居ないの。壁なの」

「(壁?)…で?なに聞いてんの」

「琴音ちゃんに仕掛けた盗聴器」

「…やっばぁ」

「ガチャガチャで出たんだぁ」


 監視できないなら盗聴するしかないからね。


『ポテト食べる?』

『あ、琴音様』

『様やめてね?』

『これシャカシャカするやつです。粉入れてシャカシャカするんです』

『じゃあシャカシャカしていいよ』

『ありがとうございますっ!!!!』


 シャカシャカ


『しゃかしゃか…』

『ふふふっ。口でしゃかしゃか言ってる…』

『え?』

『かわいい…』

『……っっ///』


 ……っってぇてぇっ!!


「あああのののさささあああ」


 ……いい感じで二人の緊張が解けてきた時、鼻から氷柱垂らしたせいちゃんが震えながら声をかけてくる。

 でも今てぇてぇ中だから無視。


「しししんんんきょきょきょくくくのののここことととなななんんんだだだけけけどどど…」

「え?なんて?」


 …カイロあげよ。


 パキンッ(鼻の氷柱折る音)「……新曲の『しゅきしゅきだいしゅきホールド』ね?」

「うん(てぇてぇ…)」

「……フォーメーションなんだけど…」

「うん(お口拭いてあげてる…てぇてぇ……)」

「センターさ。万理華ちゃんとりあちゃんに変更しよっかなって思ってて……」

「(ああっ!指に付いた粉まで……てぇて…)え?」


 センター?


「……え?どゆこと?」

「万理華ちゃんとりあちゃんのダブルセンター」

「……でも、センターはせいちゃんと万理華さんでしょ?ずっとそれで練習してるし……」

「でも、私のとこ、できるでしょ?りあちゃん」


 ……唐突に一体どうしたの?

 私がセンター?


 だってセンターってのはユニットの顔で…一番歌もダンスも上手い人が……


「……なんで急に?うちのセンターはせいちゃんと万理華さんだよ?」

「この曲の時はりあちゃんにやってほしいんだよねー」

「……」

「……私はね?曲によってセンター変えたいと思ってんの…この曲はこの子が一番相応しいって…そう思いながら創ってるから。『私をアイドルにしてください』も紗良にセンター立ってもらったじゃん?」

「……どうして私なの?」


 私がセンター。

 その意味が現実味を帯びない。

 だって私はみんなと比べてへたっぴだし、今度のライブはメジャーデビューの大事なライブだし…


「なに?いやなん?」


 珍しくせいちゃんの声に圧を感じて顔を見た。せいちゃん真剣な顔してた。


「……確かに。星熊ちゃんもコーチも言った。りあちゃんにセンターはまだ早いって」

「……」

「でもさ…これは万理華ちゃんとりあちゃんの曲なんよ。私がそう創ったから」


 私と万理華さんの……?


「りあちゃんにセンターやってもらわんと私の曲、完成しないんだ」


 普段ふざけ倒してるせいちゃんが唯一真面目になるのは、音楽の時だけだ。

 音楽に真剣なせいちゃんをメンバーみんな信頼してるし、その思いを無下にはできない。



 せいちゃんがこう言ってるんだ…きっと、私がセンターの方がいいものになるんだ。


「……分かった。いいよ」


 口に出した途端体が寒さを忘れて熱くなる。

 センター、天鬼りあ。その響きに興奮が遅れて付いてきた。


 百合が見たかったりアイドルが楽しかったり…

 私の心は忙しない。


「やったー。じゃあついでにメインMCも任せるね」

「えっ?」

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